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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第254回:NAB2006レポート
~ HD当たり前の時代へ向けての猛ダッシュ ~



■ NAB2006開幕

 先日お伝えしたとおり、NABレポートを2回に渡りお送りする。主催者側の予測どおり、やはり今年は例年以上の人出で、初日の会場はどこも大変な賑わいを見せた。特に新製品、あるいはNABで初お目見えの製品の周りは大変な人だかりで、満足に写真も撮れない状態である。

 コンベンション初日を終えた今回は、速報性の高いニュースを中心にお送りする。



■ 細かな大変化? 転換期を迎えたソニーのHD戦略


巨大すぎて全景が撮れないソニーブース

 NABの目玉と言えば、毎年ソニーとパナソニックの賑わいは外せない。中でもNAB出展者中最大規模のブース面積を誇るソニーでは、既存のソリューションから新たな展開を迎えた製品が数多く見られた。

 まずカメラでは、デジタルシネマ用カムコーダ「HDW-F900」の後継機となる「HDW-F900R」を発表した。基本的にはリファインモデルという感じだが、前後に長かったF900のボディを、すでに発売されているHDW-750相当のボディへと小型化し、従来までオプションであったHD-SDI出力を2系統内蔵した。


F900のリファインモデル、「HDW-F900R」

 また新CCDの搭載により、さらなる低スミアと高感度を実現。さらに24Pなどプログレッシブ用途だけでなく、通常の放送用としても利用できるよう、1080/60i、50iにも対応した。今年7月の発売予定で、価格は850万円(レンズ別)。

 報道用カメラシステムとして開発されたXDCAMは、HDになってから若干方向性が変わり、報道だけでなく幅広いコンテンツ制作にも活用できるよう変化してきている。

 「PDW-F350L」は、60iだけでなく24P、25P、30Pなどのプログレッシブモードでの撮影を可能にした、XDCAM HDカムコーダの最上位モデル。F900まではちょっと、というときに、リーズナブルにシネマスタイルで使えるカムコーダとなっている。


XDCAM HDでプログレッシブ撮影対応の「PDW-F350L」

 レンズマウントは1/2インチだが、コンバータを使って2/3インチのレンズ資産が使えるのも特徴。さらにプログレッシブモードでは、従来フィルムが得意としていた、撮影時と再生時のフレームレートを別に設定できる「スロー&クイックモーション」という機能を備えた。例えば60iで撮影したものを24Pで再生することで、約2.5倍のスローモーションとして出力できる。撮影フレームレートは、毎秒4フレームから60フレームまで、バリアブルに可変可能。

 廉価ながらも特殊撮影までカバーできるHDカメラとして、注目されることだろう。今年の4月から発売で、価格は258万円(レンズ別)

 一方カムコーダの不在が長らく続いたHDCAM SRだが、今回ポータブルVTRをカムコーダ化したモデルが参考出品された。詳細なスペックは未定だが、見た限りレンズ込みの重量で12kgぐらいにはなりそうだ。ただこれまでは完全にカメラ部とプロセッサ・VTR部を別に用意しなければならなかったため、かなりきちんとスタジオで撮る現場でなければ使われなかったHDCAM SRが、多少はフィールドに進出してくるかもしれない。価格・発売時期などは未定。

 編集ソリューションでは、同社のXPRIを完全ソフトウェア化した「XPRI NS」を発表した。これまでハードウェア込みの製品であったノンリニア製品のXPRIだが、レスポンスが遅い、安定性が悪いなど、あまり評価されてこなかった。だが完全にソフトウェア化することで、これまでのハードウェア上の問題として抱え込んでいた部分をクリアし、快適な操作性と安定性の実現を目指すという。


かなり無理矢理感漂うHDCAM SRのカムコーダ(参考出品) 完全ソフトウェアベースで動作する「XPRI NS」


 価格は未定だが、発売時期は2007年1月を目指す。当初はWindows XP SP2のみの対応で、Windows Vista対応は安定性などを見ながら投入時期を検討するという。なおXPRI NSの投入を機に、従来のハードウェア型XPRIは生産完了となる。


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【1月19日】ソニー、スロー/クイックモーション撮影可能な「XDCAM HD」
-早回し/遅回しでのHD撮影が可能に
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060119/sony1.htm


■ グラスバレー、マルチストレージ対応カメラ「infinity」を出展

 すでにInterBEEではモックアップによる展示を行なっていた「infinity」だが、ソニーブースの隣、Thomson GrassValleyブースでは、実働モデルが展示されている。

 infinityの特徴としては、リムーバブルHDDやCFカード、USBメモリなど、いろんなメディアに対して録画が可能なところ。また録画コーデックとしてJPEG2000を採用するなど、新しい取り組みが目立つビデオカメラである。

 リムーバブルHDDは、アイオメガの「REV」という製品をプロ用に改良した「REV Pro」というもの。通常のREVメディアも使用できるが、当面日本では、グラスバレージャパンがREV Proメディアを販売する。


「infinity」の実働モデルを展示したThomson GrassValleyブース 様々なメディアに対応する「infinity」 REV Proのポータブルエディタ。右にあるのがREV Proメディア

 レンズマウントは1/2インチ。JVCのProHDシリーズ、ソニーXDCAM HDシリーズなど、1/2マウントのカメラも増えてきたため、フジノン、キヤノンが1/2インチレンズのラインナップを拡充し始めており、昨年までフジノンのズームレンズが1本あるだけという厳しい状況からはずいぶん変わってきている。


Thomsonブランドの看板を掲げるカノープスブース

 またThomsonは昨年12月に、カノープスを買収して、日本のPCユーザーを驚かせたのは記憶に新しい。今回のNAB2006では、カノープスとして独立したブースを構えるものの、随所にThomson GrassValleyのロゴが配置され、プロフェッショナルブランドとしての新たなスタートを切った様子が見て取れる。

 実際の製品でも、すでにEDIUSシリーズはGrassValleyのビデオサーバと連携するなど、本格的プロ用編集ツールとしての道を歩み始めた。


本物のプロ用ツールの道を歩み始めたEDIUS

 コンシューマユーザーは、これまでどおりEdiusシリーズがコンシューマ用として継続されるのか気になるところだが、カノープス代表取締役会長の山田広司氏は、コンシューマ市場でもこれまでどおりの製品開発・市場投入を行なうと語った。

 HDの本格的編集ツールとしては破格の安さを誇るEdiusシリーズだったが、今後はGrassValleyのビデオサーバやカメラとのコンビネーションで、いよいよプロ業界でもApple、Avidといった強豪達と対等に戦っていく土壌ができたことになる。


□関連記事
【2005年12月5日】Thomson、総額128億円でカノープスを買収
-プロビデオ市場を開拓。ブランドは継続
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051205/thomson.htm



■ 熱狂で迎えられたキヤノン「XL H1」


「レンズメーカー」だけではなくなってきたキヤノンブース

 昨年11月、日本のInterBEEでデビューした、キヤノンのHDVカメラ「XL H1」。米国ではすでに1月のCES2006でお目見えしているが、コンシューマ市場において一式100万円也のカメラはほとんど注目されず、ブースも閑散としたものだった。

 だが元々日本よりも先に、海外のプロユーザーが飛びついたXLシリーズ、さらにそれのHD版ということで、CES2006と展示内容はほとんど変わりないのだが、NAB来場者の間では大変な熱狂で迎えられている。昨年のNAB2005では、Victorがプロ用HDVブランド「ProHD」を立ち上げて大盛況だったが、今年はその熱狂がキヤノンブースに伝染したような恰好だ。

 また今年の秋頃投入すると言われていたXL H1用ワイドズームレンズだが、35mm換算で焦点距離24.5mm~147mmという仕様が明らかになった。これまでは標準レンズの38.9mmがワイドの限界であったわけだが、リーズナブルに広角のハイビジョン映像が撮れるカメラとして人気を呼びそうだ。レンズの展示はまだモックアップだが、発売時期は今年11月となっている。


「XL H1」のデモが大盛況 今年11月に発売予定のXL H1用ワイド系ズームレンズ


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【2月8日】【EZ】HDVカメラの最高峰、キヤノン「XL H1」
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■ 上手い具合に隙間を埋めるローランドの製品群

 放送局をHD対応させるための設備投資は、民放地方局1局で20~30億円前後と言われている。現在撮影から編集、送出までトータルソリューションを提案できる大手メーカーは、まずこの案件を取ろうということで大変な営業攻勢をかけているが、番組/VP/PV制作といったプロダクションユースという面で見れば、いろんなフォーマットの素材が混在してしまう状況となっている。


大手メーカーの隙間を埋めるローランドブース

 円滑に制作を進めるためには、各フォーマットをうまく繋いでやる必要があるわけだが、この部分でうまくやっているのが、ローランドだ。ローランドと言えば楽器メーカー、あるいはビデオであってもEDIROLブランドのようなVJ関連製品というイメージがあるが、昨年からローランドの業務用機器を開発する会社として、「ローランド システムズグループ」を立ち上げた。

 「PR-1000HD」は1080i、720p、DV、静止画、パソコン画面といったバラバラのフォーマットの映像ファイルを記録し、すべて1080iにリアルタイムで変換しながら出力できるという、マルチフォーマット・プレゼンターと称する製品。言わばビデオサーバーに出力が付いて、瞬時に映像が出せるような製品である。

 インターフェースは専用GUIをマウスで操作する恰好だが、出力段にカラーコレクタを装備するなど、ライブでプロジェクタ上映するなどの用途を見込んでいる。出力はDVI端子となっている。


マルチフォーマット素材をリアルタイムで1080iに変換出力する「PR-1000HD」(写真下) クリックしたサムネイルの動画がすぐ出力される


HDV、アナログ、HD SDIを双方向に変換する「VC-300HD」(一番上)

 また「VC-300HD」は、HDVとアナログコンポーネント、HDVとHD SDIを相互に変換可能なメディアコンバータ。普通フォーマットコンバータといえば、使用箇所が限られるため、どちらか一方向に変換するだけのものだが、1台で双方向に変換するというのは珍しい。

 以上はEDIROLブランドに属する製品群だが、業務用オーディオブランドとして、これも昨年から「RSS」というブランドを立ち上げている。


マルチチャンネルデジタルオーディオをEthernetケーブルで長距離伝送する「S-4000」シリーズ

 「S-4000」シリーズは、アナログやAES/EBUで入力された24bit/96kHzのデジタルオーディオ32chを、1本のカテゴリ5のEthernetケーブルで伝送するという製品。

 マルチチャンネルの分岐も普通のEthernet用スイッチングHUBでできるなど、最高品質のデジタルオーディオとIT技術を上手く組み合わせた製品だ。

 デジタル音声をEthernetに変換する製品は他にもあるが、S-4000は圧倒的にレイテンシーが少ないのがメリット。また長距離伝送でも周波数特性が落ちず、ノイズにも強いため、ライブイベントと収録を同時に行なうような時に重宝するだろう。


□NAB 2006のホームページ
http://www.nabshow.com/
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【2005年4月27日】【EZ】NAB2005レポート 後編
~ HDが作る新たな潮流 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050427/zooma203.htm
【2005年4月20日】【EZ】NAB2005レポート
~ ようやく走り出したHDソリューション ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050420/zooma202.htm

(2006年4月26日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


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