ソニーのジュークボックスソフトといえば、言わずと知れた「SonicStage」。先月も、その最新版である「SonicStage CP」が公開されたところだ。
だが、過去1年、ソニーのソフトウェア開発が一枚板ではなかったのも、周知の事実である。昨年9月に発表された「ウォークマンA」で採用されたのは、新ソフトである「CONNECT Player」であった。ウォークマンAは、ソニーがiPod追撃を狙って投入した戦略商品であり、その中核を担うのが「CONNECT Player」だったのだ。 だが現在、鳴り物入りで登場したCONNECT Playerの存在感はなくなっている。 ソニーのジュークボックスソフト戦略はどうなるのか? SonicStageの製品企画担当者に、現状と今後を聞いた。 ■ 今後は「SonicStage」に一本化 「今後は、SonicStageをメインに開発を継続します。CONNECT Playerの大規模アップデートは現時点では予定していません」
ソニー コネクト事業部門の井上康行プロダクトプロデューサーは、現時点でのジュークボックスソフト戦略が、「SonicStageベース」であると話す。これは、全世界共通の戦略である。 すでに述べたように、CONNECT PlayerはウォークマンAの登場にあわせて開発されたソフトだ。元々井上氏はCONNECT Playerの担当部署にいたこともあり、当時の状況をよく知る人物の一人でもある。 「CONNECT Playerの目的は、主にデバイスとジュークボックスアプリの結合を密にする野心的な機能を実現することにあった」と井上氏は語る。ウォークマンAは「インテリジェント性」を追求したポータブルプレイヤーだ。どんな曲をどのくらい聴いたのか、どんな曲が好みなのかといった情報をプレイヤーからPC内の音楽ライブラリーへ反映し、いままでにない選曲による楽しみを発見してもらいたい、ということが狙いであった。 それを象徴するのが「アーティストリンク」。音楽ライブラリから、再生中の曲に近いジャンルのアーティストをピックアップし、リンクをたどるように聴いていけるようにしよう……というものだ。 「当時は、それらインテリジェント性の高い機能を実現するためには、新しいソフトでないと難しい、という判断だった」ことから、CONNECT Playerは生まれたのだ。 理由はもうひとつある。SonicStageは、'99年末に登場した初代メモリースティック・ウォークマン付属の「OpenMG Jukebox」から発展させてきたソフトである。そのため、64MBや128MBといった容量の小さなメディアへ音楽を「転送」するという使い方がベースになっており、「PC内のライブラリをポータブルプレイヤーと『Sync』(同期)する」という使い方には向いていなかった。
インテリジェントな機能はSyncをベースに実装されるため、新たなソフトを用意しよう、と考えたわけだ。計画を主導する米国スタッフに、日本スタッフのチームが合流、開発が行なわれていた。 だがその結果は、「動作が重い」、「起動がたいへん」、「なにが裏で動いているがよくわからない」、「転送が終わらない」といった、トラブル報告が相次ぎ、この4月まで、4回のアップデートを繰り返して、ようやく速度面でも一定の評価ができるソフトになった。 ■ 「枯れた」SonicStageは大切な財産。棲み分けから主力へ返り咲き 一方、ユーザーの評価が高まっていたのがSonicStageだ。SonicStageも元々、速度の面ではお世辞にも評判がいいソフトではなかった。だが、2005年7月に登場した「SonicStage Ver. 3.2」から評価は一変する。 「不要なドライバを読み込まないようにしたり、起動後にバックグラウンドで読み込むようにして、体感速度が上がるようにチューニングを行なった結果」だというが、著作権保護の方針が変わり、暗号化の仕組みがより軽いものに変更されたことも少なからず影響している。 要は、6年近くに渡って熟成を続け、SonicStageはいい具合に「枯れてきた」時期にあったわけだ。ちなみに、SonicStageは日本のスタッフを中心に開発が続けられてきたものである。 「誤解されがちなのですが、CONNECT Playerが出たからといって、SonicStageの役目が終わった、ということではなく、それぞれが住み分けるものと考えていました。一本化しようと考えていたわけではなかったんです」と井上さんは語る。SonicStageは、前出のように「Sync」を前提としないシンプルなデバイス向けのソフトと位置づけられていたのだ。 「我々も、Webの書き込みなどから見える、お客様の声は重視しているんです。そういった所から聞こえてくる、SonicStageに対する高い評価は財産ですから、やはり大切にしたいと考えています」と井上さん。問題とされたSyncに関する機能も、すでにきちんと搭載されている。
ならば、SonicStageをベースに、CONNECT Playerでチャレンジしたインテリジェント性を追加しよう、というのが、「SonicStage CP」登場の理由だ。 「インテリジェント系機能の開発も進み、SonicStageへの搭載のめどが立ちました。CONNECT Playerで確立した技術を追加するとおもしろそうだ、と考えたわけです。それに、CONNECT Playerと違い、SonicStageはWindows 98/Meにも対応しています。少なく見積もっても7、8%のユーザーがまだ98/Meを使っており、それらのユーザーをカバーできることも大きな理由です」 今回のSonicStageに「CP」とついたのは、もちろん「CONNECT Player」の略。ソフトのブランド名はあくまで「SonicStage」だが、「CP」は、今回のバージョン(Ver. 4.0)を表す記号となる。「OSにおける、『Windows』と『XP』の関係のようなもの」なのだとか。 このような経緯を見ると、CONNECT PlayerチームとSonicStageチームの間には確執があったのでは……と邪推したくなる。だが、井上さんはその点をはっきりと否定する。 「当時はCONNECTチームの一員でしたが、もっとも熱心なユーザーは、SonicStageチームの人間でしたよ。みんな本当にウォークマンが好きな人間なので、自腹でウォークマンAを買って使い、様々な提案をしてくれました。彼らの助言には、本当に感謝しています」
■ 「もう快適さは失わない」が合い言葉。小手先の改良は考えない では、今後のSonicStageは、どういう方向に向かうのだろうか? 「まだ次のバージョンについて、明確に語れるものはない」としながらも、井上さんはこれからのSonicStageに必要なものを、次のように語る。 「なにより、今の快適さを失ってはいけないと思っています。それは最低条件。Ver. 3.4からCPへのアップデートでも、第一に考えたことです。環境により多少の差はあるかも知れませんが、速度は変わっていないはずです」 社内で行なっている起動速度や、デバイスへの転送、削除、スクロールといった各動作の速度テストにおいては前バージョンとほぼ同等、もしくは高速化という結果を得ているという。 だが、快適さの面で、まだ課題が残っていることも認識している、という。その一つが、CD1,000枚を超えるような、巨大なライブラリを構築した際の速度や安定性だ。 「今は、ほとんどのユーザーが数百曲クラスのライブラリを管理していると認識しています。そういったユーザーにあわせたチューニングをしているための措置」と理由を説明するが、改善に向けた努力は行なわれているという。また、「データのバックアップが大変、という不満を持つ方もいます。ここも、なんとかしたい点の一つ」と話す。 アーティストリンクなどの追加についても、まずは速度の維持が前提条件だった。「機能を確実に実装する事と、Ver.3.4で評価されているパフォーマンスを維持する事」に注力したという。「機能が増えました、だから、遅くなりましたでは、SonicStageを愛用してくださっているお客様に対して申し訳ないので……」。
そのアーティストリンクも、CONNECT Playerのものがそのまま搭載されたわけではない。CONNECT Playerでの問題点は、Gracenoteのデータベースへのアクセスが見えづらく、ユーザー側には、なにをやっているかわからなかったことだ。SonicStage CPでは明示的に動作するよう変更され、ユーザーが望まないなら、データベースにアクセスしないよう設定することもできる。また、「本当ならつながるはずのアーティスト・楽曲同士がつながってくれない」という不満には、手動でリンクをつなぐ機能を用意し、解決を図った。 「本当は、もっとプレイリストで遊んで欲しいんです。インテリジェント系の機能にこだわるのもそのため。今は、まだ『アルバム』ベースで曲を転送している人が多く、浸透しているとはいえませんが、プレイリストに関する機能は、今後強化していきたいポイント」と話す。 役割をSonicStageに引き継いだCONNECT Playerだが、「評価いただけたところもあったと思う」と井上さんは言う。例えば、その画面デザインだ。良く「iTunesに似ている」と言われるが、「狙ったのは、WindowsのエクスプローラやOutlookを再現すること」。 つまり、Windowsのアプリケーションとして標準的な、左にコンテンツアセットを現すツリー、その右側に詳細を表示するレイアウトを実現する事で、「画面を3つに分け、左から右へと操作していく流れを構築したかった」と真意を説明する。 「SonicStageよりも、CONNECT Playerの方が、画面レイアウト的にはわかりやすい、との声もあり、なんとか取り入れられないものか検討中」というものの、「手を入れねばならない部分があまりにも多く、すぐに実現できるとは考えにくい」とも言う。 もう一つ、SonicStageが弱いと言われるのが、映像やPodcastといった、「iTunesやWindows Media Playerでサポートされている新メディア」への対応だ。 この点について、井上さんは「現時点で明確なコメントはできない」と語る。 「単に対応するだけなら、すぐにでもできます。でも『再生できます』『転送できます』だけではソニーらしい製品とはいえない。機能をホイっとつけて終わりにはしたくないんですよ。なんらかの新しい価値を実現できないと、組み込む意味がない。現在は、それを検討している最中」なのだとか。もちろんそれは、ハードである「新ウォークマン」とセットで検討されている事項だ。 今後強化を考えているのは、ネットワークサービスとの連携だ。現在のバージョンでは、「Mora」などの音楽配信への対応の他、ソニーの音楽SNS「PLAYLOG」にプレイリストを公開する機能などを持っている。「まだ足りないと考えています。プレイリストで遊んでもらうためにも、なにか新しい機能を考えていきたい」と話す。 SonicStageにはライバルが多い。iTunesはもちろんだが、Windows Medea Playerも、最新の「11」は操作性の面で大幅な改善が図られており、それらを押しのけて使ってもらうには、相当の魅力がないと厳しいのは間違いない。 「できる限り、乗り換えの障壁をなくしたい。SonicStage CPからAACに対応したのもその一環。そもそもリッピング時の音質に関しては絶対的なこだわりと自信があるので、そういった部分からも、ウォークマンを差別化するポイントとしていければ」と基本方針を語る。 そんな中で「快適さはもう失わない」と宣言する姿勢は、CONNECT Playerの失敗から学んだ大切な教訓だ。過ちを改めるに憚る事なかれ。 「ジュークボックスソフトはノウハウの固まり。一朝一夕にできるものではない」というコメントは、まさに偽らざる心境、というところではないだろうか。 □ソニーのホームページ (2006年6月22日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
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