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西田宗千佳の
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「2倍録れる」ハイビジョン録画テレビ
 HDD内蔵TV「WOOO HR9000」の秘密とは?


 地上デジタル放送やBSデジタルのハイビジョン(HD)映像の録画は、珍しい機能とはいえなくなってきた。しかし、使い勝手の面ではまだまだ問題も多いの確かである。

「WoooでREC」をキーワードにプラズマ/液晶テレビでHDD録画を積極展開

 なかでも、HDDを湯水のように消費するのはいかんともしがたい。2時間録画する場合、BSデジタルのフルレートで22GB程度、ビットレートの低い地デジでも14GB程度必要となる。仮に400GBのHDDを使ったレコーダを、すべてHD映像の録画に回したとしても、BSデジタルでは36時間程度。サッカーの試合でいえば、たかだか18試合しか録れない。

 ワールドカップは全64試合。日本代表の試合と決勝トーナメントだけを録画したとしても、4試合+16試合。残念ながら、2試合分足りない。

 延長やPK戦があったらさらにきつくなるし、そもそも、サッカー以外は録画しない、なんてこともありえないだろうから、HDDはさらに足りない。標準(SD)画質のアナログ放送を録画する分には、400GBもあれば「DVDにするのが面倒」になってくるくらい十分だが、HD映像となるとまったく足りないわけだ。

 そんなところに登場したのが、「ハイビジョンでも2倍録れる」ことをウリにした録画機能搭載テレビ。日立の「WOOO」最新モデル「HR9000シリーズ」だ。32型液晶採用の「W32L」、ALIS1080方式・プラズマディスプレイ採用の37型モデル「W37P」、同42型の「W42P」の3モデルをラインナップするが、基本的な録画機能などは3機種とも共通である。今回は録画機能のテストということで、「W32L-HR9000」を試用している。

W32L-HR9000 37型プラズマテレビW37P-HR9000


■ TSのままビットレートを半分に。ドラマなどでは画質に不満無し

ハイビジョンテレビ「WOOO」の商品企画を手がける、日立製作所 ユビキタスプラットフォームグループ マーケティング事業部 マーケティング本部 FPDマーケティング部 尾関考介 担当部長

 ご存じのように、地デジやBSデジタルの映像を録画する場合には、放送波で伝送されてきたデータそのものを、ダイレクトにHDDへ記録する。アナログ放送のような「エンコード」は行なわれない。だからこそ、ハードウエアに過大な負荷を強いることなく、HD映像を美しいまま残せるわけだが、その代償として、記録には膨大な容量を必要とする。

 HR9000で採られた方策は、簡単に言えば、ダイレクトに残すのではなく、録画時に映像を再圧縮することでデータ容量を削減するものである。しかし、単にエンコードしているわけではない。

 WOOOの商品企画を担当する、日立製作所 ユビキタスプラットフォームグループの尾関考介担当部長は、「HR9000のコンセプトは、TSのまま圧縮すること」と話す。

 尾関氏のいう「TS」とは、放送に使われる「MPEG-2 TS(トランスポートストリーム)」のこと。放送に使われる形式を逸脱せず、ビットレートを下げることができれば、テレビ側のデコーダをそのまま使って再生できて、コスト削減になる。TSにこだわるにはもう一つの理由があるのだが、それは後述する。

HR9000の録画設定画面。「TS」はダイレクト記録、XP以下のものはSD解像度での記録となる。注目の「TSEモード」は、TSE1とTSE2の2種類が用意されている

 HD映像の圧縮録画モードは、「TSEモード」と名付けられている。HR9000には、ビットレートを10.8Mbpsに落とす「TSE1」と、8Mbpsに落とす「TSE2」の2つが用意されている。このように設定されている理由は、「BSデジタルでも、地デジでも“2倍録れる”設定を用意するため」。ざっくり半分にまで落としているわけで、確かにそれなら、計算上2倍の時間録画できるのは当然のことだ。

 さぞかし画質が落ちているのだろう……と思う人も多いだろう。実際私もそう思った。

 だが、劣化は意外と気にならない。確かに劣化しているのだが、ビットレートが半分になったほどの印象ではない。特に、ドラマやニュースといった、動きの激しくない映像ではかなり効果的だ。なにも言わずに見せれば、「なんとなーくノイズが多いな」くらいにしか思われないのではないだろうか。ただ、シーン切り換えの際、時々強めのノイズが感じられ、気になる時がある。

 では動きの激しい映像、たとえばサッカーは? この点に関しては、やはりビットレートの低さは隠しようがない。芝のディテールがつぶれ、選手の周りにはモスキートノイズがはっきりと見えてしまう。そもそも、サッカーはMPEG-2にとって苦手な要素ばかりの、ある意味いやがらせのようなソースだから特に厳しいのだが、それはTSEモードでも例外ではない。ワールドカップ録画だけを目的にHR9000を選ぶのは、ちょっとオススメできない。動きの激しいスポーツより、どちらかといえば、ドラマやバラエティ好き向きの機能という印象だ。

 だが、「サッカー目的なら意味なし」というわけでもない。TSEモードのビットレートは、DVDにSD映像を記録する際のそれと同等である。同じ容量で解像度を落とさずに記録している、と見ることもできるわけだ。引いた映像の多いサッカーでは、SD映像より、解像度の高いHD映像の方が臨場感が高い。これまでは否応なくSD映像に落とされていたものが、HD映像のまま録画することも可能になるわけだ。ノイズと解像度のどちらを採るか、ユーザーが選べるのはありがたい。

 本当なら、ここでTSEモードのサンプル映像を、といいたいところなのだが、残念ながら、今回は用意することがかなわなかった。TSEモードへの変換は放送の録画だけが対象で、外部入力には働かない。それは、i.LINK端子から入力したHDVの映像も例外ではない。気になる方は、店頭に足を運んでチェックしてみてもらいたい。


■ 秘密は「データカット」と「解像度変換」。ViXSの「XCode HD」を採用

 ビットレートを半分にしたのに、ドラマならぱっと見差がわからないくらいの劣化で収まっている、というのは、驚くべきことだ。もちろん、その裏には秘密がある。

 まず第1の秘密は、デジタル放送のすべてが記録されるわけではない、ということだ。TSモードでは、「放送波に乗った情報すべて」が、そのまま記録される。映像はもちろん、データ放送や、マルチチャンネルの音声も含まれている。

 TSEモードでは、これをばっさり切り捨てる。データ放送はすべて削除され、マルチチャンネルの音声も、1つをのぞいて削除される。5.1chの主音声は残るが、別チャンネルで流される2ch音声は消えるといった具合だ。

 実際問題、これらのデータは多くの人にとって、下手をすれば存在すら忘れているような情報。音声データが削られるのは痛い気もするが、トレードオフとしては納得できる範囲である。

 第2の秘密は、「横解像度」を落としていることだ。ご存じのように、HD映像の最高解像度は1,920×1,080ドットである。しかし放送では、必ずしもこの解像度を利用しているとは限らない。特に横解像度については、機材の関係から、多くの放送が1,440ドットで流されている。民生用規格のHDVも1,440×1,080ドットである。人間は縦の解像度に比べ、横解像度の変化には鈍い。だから、1,920ドットと1,440ドットの差は、数字からうけるものよりも小さく感じる。HR9000のTSEモードでは、1,920ドットでの放送も1,440ドットに落とし、ビットレート削減に使っている。

 このため、WOWOWやBS-hiでの高画質をウリとした番組では、HD映像のままとはいえ、解像度劣化がみられる。1,440ドットの番組がほとんどである地上デジタルの場合、そういう劣化は感じない。

 「色々評価したが、1,920ドットのままビットレートを下げるより、解像度を下げて圧縮ノイズを減らした方が、画質面で有利だった」と尾関氏は語る。私の実感としても、それは正しい判断だったと思う。

XCode 2111

 そして第3の秘密は、エンコードに使っているチップだ。HR9000で使われているのは、ViXS社の「XCode 2111」という、HD映像用のエンコーダチップである。XCodeといえば、ソニーのVAIOやアイ・オー・データのテレビキャプチャカードで、リアルタイムエンコーダとして採用されていたもの。SD映像向けとしては、エンコード速度が速く、低ビットレートでも画像の破綻が小さく、画質が維持されることで評価されている。

 「エンコードチップの選定と開発は、こちらでの商品企画と、ViXSでの製品開発がほぼ同時に、平行して進んでいた」と尾関さんは話す。ViXSの開発チームはカナダで、日立のチームは日本で開発を続けてきた。両者の間に「エクスクルーシブ(排他的)な契約があるわけではない」とのことで、今後他社製品でも採用が進むと見られるが、日本のデジタルテレビ規格へのすりあわせには日立側から提供された情報が使われており、両社の関係はきわめて綿密だったという。そのためか、HR9000には、HD映像対応XCodeのブランドである「XCodeHD」のロゴが刷り込まれている。



■ テレビならではの「コスト意識」がXCode採用を後押し

 HD映像のビットレートを下げて記録する機能は、今後ビデオレコーダに続々と搭載されていくことだろう。画質劣化もそこそこ目立つが、「倍録れる」ことには強い魅力がある。

 そこで気になることが一つ。日立は、なぜレコーダでなく、「ハイビジョンテレビの録画機能」から搭載したのだろう?

 「別に、レコーダー部門と意見が合わないわけではない。むしろ、綿密な連携を保ってビジネスが行なわれている。テレビの録画機能にこそ、必要だった」と尾関氏はいう。

 その必要性とは「コスト」だ。

 ハイビジョンテレビは、現在猛烈な販売競争のまっただ中にある。差別化要因として録画機能を載せるのはOKでも、製品価格を押し上げるわけにはいかない。

 HR9000に搭載されているHDDは250GB。HD映像用としては、満足できる容量とはいえない。しかし、ここで400GBや500GBのHDDを搭載すると、製品価格はかなり上がってしまい、買ってもらえるスイートスポットから外れてしまう。ならば「同じ容量のHDDで倍録れるようにしてしまえ」、これこそが、HR9000にエンコーダを搭載した理由なのだ。

 では、さらに根本的な問題。テレビに録画機能は必要なのだろうか? 「レコーダはライブラリ志向。テレビの録画機能は、もっとシンプルで簡単な、“見て消し”のもの」と尾関さんはいう。

リモコン左下の「録画」ボタンを押せば、録画開始。表示もとてもシンプルだ

 「AVマニアには当たり前でも、多くの人には難しいことがある。テレビを外部入力に切り換え、レコーダで録画設定をすることが複雑だ、と考える人も多い。でも、テレビに録画機能を組み込めば、“録画”ボタンを押すだけだ」

 だから、HR9000の録画機能はとにかくシンプルだ。見ている番組を録画するときは、「録画」ボタンを押すだけ。録画予約はEPGから番組を選び、録画モードを選ぶだけ。録画番組の呼び出しも、サムネイルから呼びだすだけだ。TSEモードのビットレート設定も、「TSの2分の1」というわかりやすい値に、完全に決めうち。目新しい機能はなく、レコーダーとしてはシンプルすぎるくらいだが、それだけに、おそらくほとんどの人が、マニュアルなしで使えるだろう。ビデオレコーダ的なニーズにこだわると、少々ビットレートを落としすぎな印象であり、「自分で設定して、最適値に追い込んでみたい」とも感じてしまうのだが、それはこの商品のアピールしたい層からは、明らかに外れている、ということのようだ。

 「もう、ハイビジョンテレビはアーリアダプター層のものではなく、完全な普及期。特別な機能が求められているわけではない」という分析のもとに、レコーダ機能が作られたのだ。


EPGからの録画予約は、DVDレコーダと変わるところはない。画質設定の中に、HR9000ならではのTSEモードがある点くらいだ 録画番組の呼び出しは、リモコンの「録画番組ボタン」で。サムネイルは動画になっており、カーソルをあわせるとサムネイルのまま、映像・音声ともに再生が始まる。録画後、初めて番組リストを呼び出す時には、サムネイル作成が行われるためか、少々時間がかかる


■ ムーブを考えて「TS」にこだわる。将来的にはBDへのムーブも?

 だが、そんな「普通の機能」であっても、あえてこだわった部分がある。それは、最初に触れた「TSのままにする」ということだ。

 TSEモードで録画した映像は、i.LINK端子経由で、同社の「WOOO」ブランドのDVDレコーダや、いくつかのD-VHSデッキ、そしてアイ・オーデータのRec-POTなどにムーブが可能となっている。TSフォーマットと構造が同じであるため、ムーブした映像は、特別なことをしなくとも、そのまま再生が可能である。テレビ内のレコーダを「映像のタコツボ」にしないためのアイデアが、TSへのこだわりだったのだ。

 現時点では商品化されていないが、もし次世代DVD(日立の場合はBlu-ray Disc陣営なので、おそらくBDレコーダということになるだろうが)レコーダが登場した場合、TSEモードで蓄積した映像を、さらにディスクへムーブしてライブラリ化ということも可能になる。同社でも「将来的な製品計画は未定だが」という前提付きではあるが、「このような構造にしたからには、継続性を考えねばならない」とコメントしている。

 ビットレートを下げつつ画質を維持するには、本来無理矢理MPEG-2にこだわるのではなく、H.264/AVCやVC-1などでエンコードするのが理想。だが、それらのコーデックで、HD映像をリアルタイムエンコードできるチップなど、まだ家電に搭載できるレベルにはない。ハイエンド機器をのぞくと、当面はHR9000の採った「MPEG-2 TSのビットレート変更」が現実的というところだろう。

 HR9000は、「今冬~来年のレコーダーのトレンド」を先取りした製品、ともいえるのではないだろうか。

□日立製作所のホームページ
http://www.hitachi.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2006/04/0404b.html
□製品情報
http://av.hitachi.co.jp/tv/l_lcd/index.html
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-積極投資でPDPシェア拡大。レコーダはトップシェア維持
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060404/hitachi1.htm
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060404/hitachi3.htm
【4月6日】ViXS、HD映像の再変換が可能なMPEG-2エンコードチップ
-実時間程度の速度でトランスコードが可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060406/vixs.htm

(2006年6月8日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、「ウルトラONE」(宝島社)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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