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第244回:携帯プレーヤーの音質補正機能を検証 その2
~ 「リ.マスター」と「CCコンバーター」で高域に異なる変化 ~



 前回、各社からポータブルオーディオプレーヤー用に搭載されている音質補正機能のチェック方法について検証してみた。また検証に用いるMP3素材を掲載するとともに、その実験方法についても考えてみたが、今回と次回でその実験を実際に行なう。

 実験に用いたのは、パナソニック D-snap Audioシリーズの「リ.マスター」、ビクター alneoシリーズの「CCコンバーター」、東芝 gigabeatシリーズの「H2Cテクノロジー」 、ケンウッド Media KEGの「Supreme」の4機種。今回はこれら4つのうち「リ.マスター」および「CCコンバーター」についてチェックした。



■ オフ時でも出力レベルなどに違い

 今回の実験で使った機材はパナソニックのD-snap Audio「SV-SD750V-S」と、ビクターのalneo「XA-C109-S」の2機種。D-snap AudioがSDカードを使ったメモリープレイヤーであるのに対し、alneoは1GBのフラッシュメモリ内蔵型。ちなみに次回検証する予定のgigabeatとMedia KEGがHDD内蔵型となっている。

SV-SD750V XA-C109

 まずは、D-snap Audioとalneoの基本性能をチェックした。両機種に各MP3ファイルをWindows Media Playerを用いて転送の上、EDIROLのUA-1000を経由してオーディオ信号を取り込んでいくのだが、基本性能を見るためには、音質補正機能はオフにする。

 念のためチェックしてみると、D-snap Audioはデフォルトの設定でリ.マスターがオフとなっているのに対し、alneoはCCコンバーターがオンと設定されている。さらに「クリアで迫力のある重低音を楽しめる」という「デジタルAHB」もオンに設定されていた。聞き心地をよくするために、これらをあらかじめオンに設定しているのだろうが、ここではCCコンバーターだけでなくデジタルAHBのほうもオフにして測定した。

 まずはサイン波を基準信号に使ってレベル調整を行なうのだが、ここで気になったのがalneoの出力レベル。D-snap Audioに比較してかなり小さいのだ。すでにgigabeat、Media KEGもチェックしているのだが、これに比べても明らかに小さい。実際、ヘッドフォンをつなぎ、最大ボリュームで音を聞いてみたが、alneoだけが音量が小さ目だった。大音量派にはちょっと物足りなく感じるかもしれない。

 そのため、UA-1000の入力SENSでほかとレベルが合うように-7dBに上げている。ここでの増幅があることを頭に入れておいてほしい。

 さっそくそのサイン波をスペクトラム分析してみてみよう。まあ16bit/44.1kHzのWAVのサイン波をMP3に変換したところで、歪みも出てくるが、そのMP3ファイルを分析すると、1kHzを頂点に小さな山ができている。それに対し、D-snap Audio、alneoの結果はちょっと違う。

16bit/44.1kHzのWAVのサイン波をMP3変換 D-snap Audioで「リ.マスター」オフ時 alneoで「CCコンバーター」オフ時

 どっちがいいともいえないが、D-snap Audioは2kHz、3kHz、4kHzと倍音成分が出ているのがはっきりと見える。一方のalneoのほうは13kHzあたりに小さな山ができているのがちょっと気になるところだ。S/Nを見る限りではalneoのほうが69.35dBと、少しいい結果になっている。

 では、ノイズレベルを見るとどうだろうか? 無音のMP3を再生したときのノイズを取り込み、SoundForgeで拡大表示させてみた。24bitで録音しているため、小さなノイズまでしっかり捕らえているのだが、パッと見ると、大して違わないようにも見えるかもしれない。しかし、目盛りを見ればわかるとおり、alneoのほうはかなりノイズレベルが高い。反対にD-snap Audioはかなりの高音質といっていいだろう。もっとも前述のとおり、このノイズはUA-1000のアンプ部による可能性も高いので、あくまでも参考程度としていただきたい。。

D-snap Audioのノイズレベル alneoのノイズレベル



■ 16kHz以上をわずかに復元?

 次に本題の音質補正機能をオンに設定してみた。この状態で、先ほどのサイン波を再生させると、どんな変化がおきたのか結果を見てほしい。

「リ.マスター」設定画面 「CCコンバーター」設定画面

「リ.マスター」オン時のサイン波 「CCコンバーター」オン時のサイン波

 D-snap Audioのリ.マスターのほうは、ほとんど何も変化していないのに対し、alneoのCCコンバーターのほうは、ずいぶん妙な効果が出ている。1kHzを頂点とする山の裾野が大きく広がっているのだ。あくまでもテスト信号であって音楽ではないので、これの原音再現などはあまり必要ではないが、ここだけを見ると、リ.マスターによって、かえって原音からは離れているという結果になっている。

 次に矩形波の実験。それぞれの音質補正機能をオフにした状態とオンにした状態で測定しているが、まずオフの状態で横軸をリニアにしたときのスペクトラムを見てもらいたい。D-snap Audioもalneoもよく似た結果であり、ともにオリジナルのMP3には見られない16kHz以上の高調波を微弱ながら含んでいる。また、横軸を対数にしてみても、やはり似た感じになっている。

「リ.マスター」オフ時の矩形波 「CCコンバーター」オフ時の矩形波

「リ.マスター」オン時の矩形波 「CCコンバーター」オン時の矩形波

 次にリ.マスター、CCコンバーターをオンにした結果をご覧いただきたい。これを見るとリ.マスターとCCコンバーターの違いがハッキリと見えてきそうだ。

「リ.マスター」オン時 「CCコンバーター」オン時

 リ.マスターは16kHz以上を滑らかな形で音を発生させているのに対し、CCコンバーターはなんらかの形で予測計算をしているのか、アナログ的に発生した高周波成分をひっぱりあげているのか、リ.マスターとは異なるアプローチをしている。結果として、矩形波だけに限れば、CCコンバーターは原音に少し近くなっているようだ。なお、低域に関してはとくに変化はなかった。

「リ.マスター」(左)、「CCコンバーター」(右)いずれも低域では変化がなかった



■ 高域で「つなげる」と「予測」する動き

 では、肝心の音楽でどう変化するか。素材は前回触れたとおり、以前の実験で筆者が簡単に作ったリズム&ベース、そしてTingaraのJUPITER。まったく異なる素材だが、それぞれどうなるか、まずはリズム&ベースの使用前、使用後を波形でご覧いただきたい。

リズム&ベース素材
「リ.マスター」オフ
【音声サンプル】
(2.01MB)
「CCコンバーター」オフ
【音声サンプル】
(2.02MB)
「リ.マスター」オン
【音声サンプル】
(2.01MB)
「CCコンバーター」オン
【音声サンプル】
(2.02MB)

 このグラフを見ると、D-snap Audioもalneoも音質補正効果をオフにしている状態では大きな違いはない。しかしオンにしたとき、リ.マスターではオフでは欠けていた16kHz以上が比較的滑らかにつながっているのに対し、CCコンバーターは16kHzを持ち上げていることはわかるが、つながるところまではきていない、という状況だ。

 実際に聞いてみてどうだろうか。実はこの実験では24bit/44.1kHzで録音しているが、このデータだと再生環境を選ぶので、16bit/44.1kHzのWAVに変換しておいたので、聞き比べていただきたい。それほどハッキリした違いはないと思うが、ハイハットの音に着目すると、MP3での劣化が見えてくるだろう。

 それがどう補正されているかだが、個人的な感想としては、D-snapでは対して変わらないのに対し、alneoのほうがややオリジナルに近い感じがする。ほかの音色についても聞き比べてみると面白いかもしれない。

 ではTingaraのJupiterのほうはどうだろうか? 音質補正効果オフの場合は、先ほどと同様、大きく変わらないが、オンにすると結果は違ってきている。

楽曲(Jupiter)
D-snapで「リ.マスター」オフ時
【音声サンプル】
(10.0MB)
alneoで「CCコンバーター」オフ時
【音声サンプル】
(10.0MB)
D-snapで「リ.マスター」オン時
【音声サンプル】
(10.0MB)
alneoで「CCコンバーター」オン時
【音声サンプル】
(10.0MB)
楽曲データ提供:TINGARA

 このとまったグラフだとわかりにくいが、演奏しながらリアルタイムに見ていると、面白いことに気づく。どうも、リ.マスターのほうは16kHzあたりのレベルをチェックし、そこからより高域にかけてレベルを下げながらつなぐという動きをしているのに対し、CCコンバーターはそれとはだいぶ違う動きをして高域を予測しているように感じる。ただし、思い切りが足りないのか、不整合な結合を避けるためなのか、作り出した高域のレベルは控えめだ。

 実際に聞いてみると、どちらも、オフの状態より多少心地いい気はする。ただ、微妙に変化した音色を元に戻せているかというと、どちらもYESとはいえない感じだ。音色によっては多少CCコンバーターで改善しているものもあるような気がするが、オリジナルに戻ったとは絶対にいえない。

 ぜひ、みなさんもこれらの音を聞き比べて、音質補正効果の実力を確認してほしい。


□松下電器のホームページ
http://panasonic.co.jp/
□ビクターのホームページ
http://www.victor.co.jp/
□関連記事
【7月10日】【DAL】第243回:携帯プレーヤーの音質補正機能を検証 その1
~ 検証用の3種類の素材を公開 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060710/dal243.htm
【2005年10月18日】松下、薄型筐体採用の「D-snap Audio」
-FMチューナ/ボイス録音対応モデルも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051018/pana2.htm
【5月31日】ビクター、定額制音楽配信対応のプレーヤー
-カラー液晶/CCコンバータ内蔵。1GB/512MB
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060531/victor.htm

(2006年7月24日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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