~ AVアンプの音質補正機能を比較 ~ |
「ヘッドホン出力」設定画面 |
AVアンプの音質補正機能をチェックする前に、第244回の記事で、ビクターのalneo XA-C109についての記事で誤りがったので、詫びして訂正する。記事の中で、「alneoだけが音量が小さ目だった。大音量派にはちょっと物足りなく感じるかもしれない」と紹介したが、設定を変更することが可能だった。
サウンド設定の中に「ヘッドホン出力」という項目があり、デフォルトでは「標準」になっているのだが、これを「高」に変更することで、出力を大きくできる。具体的には「標準」だと音量が0~30の設定であるのに対し、「高」にすると0~40の設定が可能となり、より大きい音が出せる。
そこで、改めて「高」に設定した上で、UA-1000を経由して録音して試してみたところ、サイン波での周波数特性および無音再生時で見るノイズの大きさは少し改善された。これはUA-1000のプリアンプのレベルを下げたことが、ひとつの要因となっているのだろう。しかし、それ以外の実験では、以前行った結果とほとんど違いは出なかった。もちろん、「CCコンバーター」の効き具合については、前回の実験との差はなかった。
出力を「高」にすると、サイン波での周波数特性および無音再生時で見るノイズの大きさは少し改善された |
DSP-N600 | VSX-516 |
DSP-N600とVSX-516に共通しているのが、フロントにUSB端子を搭載しており、USBマスストレージに対応したデバイスを接続すると、そこに入っているMP3ファイルなどを再生できる機能だ。実際使ってみたところ、やはりディスプレイやユーザーインターフェイスの問題もあり、ポータブルプレーヤーと比較して使いやすいとはいえないが、確かにMP3ファイルを再生することができた。また、これらのアンプにヘッドホンを接続して、各音質補正機能をオンにしてみると、音が変化することは実感できる。
DSP-N600(左)、VSX-516(右)はいずれもフロントにUSB端子を搭載し、マスストレージ対応機器内のMP3ファイルなどを再生可能 |
これまでと同様の方法でチェックしていくのだが、最初は今回はアンプなのでポータブルプレーヤーのようにヘッドホン端子ではなく、LINE OUTの信号を取り込んで試してみたところ、ヘッドホンでは確認できた「ミュージックエンハンサー」の効果がまったくない。
アンプに接続したスピーカーからの音も変化するが、LINE OUTにはミュージックエンハンサーの効果が反映されないようなのだ。できれば、S/PDIFの出力をデジタルでしっかり捕らえてチェックしてみようと思っていたが、それもダメなようだった。
仕方ないので、これまでのポータブルプレーヤーでの実験と同様、ヘッドホン出力を使用した。まず、DSP-N60のミュージックエンハンサーをオフの状態でのサイン波を見てみよう。WaveSpectraの表示では81.65dBとなっており、さすがAVアンプだけあって、ヘッドホン端子であってもきれいな信号が出ている。では、無音再生時のノイズはというと、-90dB程度と優秀だが、ポータブルプレーヤーのものと比較して、大きくは変わりはない。逆にいえば、最近のポータブルプレーヤーはなかなか優秀ということなのかもしれない。ちなみに、LINE OUTでの計測結果も、このヘッドホン出力と大差はないものだった。
DSP-N600で「ミュージックエンハンサー」オフ時のサイン波 | 無音再生時のノイズは-90dB程度 |
一方、パイオニアのVSX-516でも、DSP-N600と同様にLINE OUTでは、サウンドレトリバーのオン/オフでまったく差が出なかった。そのため、こちらもヘッドホン出力を使った。
VSX-516のサイン波での結果は、75.10dB、ノイズレベルは-85dB程度。大きな違いではないかもしれないが、先ほどのDSP-N600での結果と比較するとやや劣る数値となった。
VSX-516のサイン波は、75.10dB | ノイズレベルは-85dB程度 |
「ミュージックエンハンサー」設定時 | ミュージックエンハンサーはHIGHとLOWの2モードを用意 | 「サウンドレトリバー」設定時 |
まずは、サイン波にそれぞれの音質補正機能をかけた。これを見ると、双方の機種での違いがハッキリと出る。VSX-516のサウンドレトリバーでは、オフの場合とほとんど差が出ないのに対し、DSP-N600のミュージックエンハンサーはLOWでもHIGHでも高調波が出ているのがよく見える。そのためS/Nの数値を見ても、43.50dB、45.89dBとオフの場合に比較するとだいぶ崩れている。ただし、HIGHとLOWとの差はほとんどないようである。
「ミュージックエンハンサー」オン時のサイン波。左がLOW、右がHIGH | 「サウンドレトリバー」オン時のサイン波 |
続いて、矩形波について、どう変わるかを見てみよう。ミュージックエンハンサーについて、オフの場合、LOWの場合、HIGHの場合の結果を並べてみると違いがよくわかる。オフの場合は、明らかに16kHz以上が欠けているのに対し、ミュージックエンハンサーをオンにすると、そこが補正されている。また、これは単に高域を満遍なく持ち上げているのではなく、ケンウッドのSupremeのように、しっかりと演算して結果を出しているようだ。これを見る限り、HIGHの設定のほうが、原音に近い結果となっている。
「ミュージックエンハンサー」オフ時は、16kHz以上が明らかに欠けている | 「ミュージックエンハンサー」オン時(LOW)の矩形波 | 「ミュージックエンハンサー」オン時(HIGH)の矩形波 |
一方、サウンドレトリバーのオン/オフを見てみると、ここには大きな差がない。オフでもアナログ回路のせいか多少高調波が見られるが、オンにしてもそこが持ち上げられるはしないのだ。もしかして、ヘッドホン端子でも、LINE OUTと同様にサウンドレトリバーの効果が反映されないのでは……という不安もよぎったが、その後実験を続けると、確かに変化はあったので、この結果で間違いはなさそうだ。
「サウンドレトリバー」オフ時の矩形波 | 「サウンドレトリバー」オン時の矩形波 |
では、いよいよ音楽素材での実験。これまでと同様、リズム&ベース素材とTINGARAのJUPITERという曲の2曲で試した。まずはリズム&ベース素材の結果だ。
ミュージックエンハンサーをオンにしてみると、16kHz~22.05kHzにかけての高域が持ち上がる。明らかに16kHzのところに境があり、オリジナルと同様のレベルまで持ち上がっているわけではないが、ハイハットの音などを聞くとある程度改善されている。ただい、LOWの場合でもHIGHの場合でも、それほど大きな違いはないようだ。
リズム&ベース素材 | ||
「ミュージックエンハンサー」オフ 【音声サンプル】(3.02MB) | 「ミュージックエンハンサー」オン(LOW)【音声サンプル】(3.02MB) | 「ミュージックエンハンサー」オン(HIGH)【音声サンプル】(3.02MB) |
それに対し、サウンドレトリバーの結果は、矩形波の結果からも予感はしたが、まったくといっていいほど周波数分析結果に違いがない。ただし、周波数分析とは別に明らかな違いがあった。それは、ケンウッドのSupremeのときと同様に、音量が大きくなって、クリップしてしまうのだ。そのため、このリズム&ベース素材も、次のJUPITERでも入力レベルを約3dBほど絞って録音している。これでほぼ元の音と同じレベルとなるので、かなりレベルアップしていたわけだ。
リズム&ベース素材 | |
「サウンドレトリバー」オフ時 【音声サンプル】(2.01MB) |
「サウンドレトリバー」オン時 【音声サンプル】(2.01MB) |
JUPITERでの結果も、周波数分析上は、リズム&ベース素材とほぼ同じものとなった。見た目以上はミュージックエンハンサーのLOWとHIGHで、ちょっとしか差がないが、実際に聞いてみると、その差はもう少し感じられる。確かに、波形上はHIGHのほうがより原音に近い感じではあるが、聞いた感じでは、結構強い味付けをしているという印象なのだ。逆に、LOWのほうが極端でない分、なんとなく自然に感じる。この辺は好みの問題ではあるが、HIGHとLOWのモードが用意されていて、ユーザーが選択できるというのはうれしい機能だ。
楽曲(Jupiter) | ||
「ミュージックエンハンサー」オフ 【音声サンプル】(15.1MB) | 「ミュージックエンハンサー」オン(LOW)【音声サンプル】(15.1MB) | 「ミュージックエンハンサー」オン(HIGH)【音声サンプル】(15.1MB) |
「サウンドレトリバー」オフ 【音声サンプル】(15.1MB) |
「サウンドレトリバー」オン 【音声サンプル】(15.1MB) |
楽曲データ提供:TINGARA |
それに対して、VSX-516のサウンドレトリバーはやはり周波数分析結果上の違いはほとんど見られない。聞いてみると、音量が大きくなってパワフルに感じるとともに、若干低域と高域が強くなっているため、プレーヤーのEQ設定でロックなどを指定した雰囲気に似ている。それほど極端なEQ設定ではないが、サウンドレトリバーはそうした類なのかもしれない。もっとも、ここに収録したデータは、音量調整をしてしまっているため、実際にサウンドレトリバーをオンにしたときほどのインパクトがなくなってしまっているのも事実ではあるが……。
マニュアルを見てみると「MP3などの圧縮音声は圧縮処理される際、削除されてしまう部分が発生します。サウンドレトリバー機能では、DSP処理によってその削除されてしまった部分を補い、音の密度感、抑揚感を向上させます」とある。「高域を補う」といった直接的な表現ではないが、この文面からは単なるイコライザ処理ではないと思うのだが、結果的にはそれとあまり差ながいものになっているようだ。
一番気になる、「音質補正機能で原音に戻せるか」という疑問についていえば、今のところどの技術も原音には戻せていない。音楽を構成している楽器の音色に着目して聞き比べると、圧縮によって変化してしまった音色は、元に戻せてはいない。ただ、ハイハットやシンバルなどの金属音は、高域を補うことで多少、雰囲気はよくなるようだ。また、曲全体で微妙に感じる圧縮音での不自然さが補正されるのも事実ではある。
ただ、利用するヘッドホンによって効果の違いがよくつかめるものと、あまり差を感じないものがあるのもある。一連の実験ではSONYのモニター用ヘッドホンMDR-CD900STを使っていたこともあって、ある程度違いがつかめたが、ポータブルプレーヤーに付属のヘッドホンではそれほどわからないものが多かった。また東芝のH2Cなど、オンにすると電力消費が大きくなり、結果としてバッテリ持続時間が半分程度になってしまうものもある。そのため、音とバッテリー持続時間とどちらを選ぶかというのも、人によって分かれるところだろう。
ポータブルプレーヤーの基本的な音質が向上した今、圧縮オーディオに対する音質補正機能は、今後各社とも強化していくところだろう。今度どんな製品が出てくるのか楽しみなところではあるが、あまり過大な期待はせずに、楽しみながら音質補正機能と付き合っていけたらと思う。
□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□パイオニアのホームページ
http://www.pioneer.co.jp/
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(2006年8月7日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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