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PLAYSTATION 3発売直前。BD再生機能からPSP連携まで
-SCE川西泉本部長が語る「PS3の能力」


PLAYSTATION 3

 PLAYSTATION 3(PS3)がいよいよ明日、11月11日に発売される。

 徐々にではあるが、ずいぶんと情報も公開されてきた。しかし、多彩なAV機能を備えた製品だけに、いまだ機能や技術面で様々な「疑問」があるのも事実。そこで今回は、PS3およびPSPのプラットフォーム開発を統括する、同社ソフトウェア・プラットフォーム開発本部の川西泉本部長に、PS3に関する様々な疑問をぶつけた。

 なお、今回インタビュー中に試用したのは、明日より発売される製品版のハードウエア(60GB版)に、当日公開予定のファームウエアを搭載したバージョンだ。今後の新機能も含め、どうやらPS3は「つながってナンボ」といえそうなので、運良く(?)購入できた方は、ぜひまずネットワークにつないでアップデートすることをお勧めする。



■ ずばり消費電力は?
  ファンが本格的に回るのは「ゲーム」の時

SCE コーポレート・エグゼクティブ ソフトウェア・プラットフォーム開発本部本部長 兼 ネットワークシステム開発部部長 川西泉氏

 PS3に関してまず気になるのは、やはり「消費電力」。SCEの公式サイト上では「最大380W」と公表されているが、平均的な利用時の消費電力は未知数。CellやRSXがかなり大規模なチップであることから、ネット上などでは「相当大食らいなのでは」との不安が広がっていた。

 「消費電力は場合によって異なるので、『平均このくらい』とはなかなかいえません。でも、製品の規模から見れば、常識的な範囲に収まっていると思います」と川西氏は言う。

 実際、それは製品をさわってみると納得できる。意外なほど静かなのだ。PS2の初期モデル(SCPH-10000)どころか、電源がACアダプタとなった現行の薄型PS2とも大差ない。特に、XMBで映像やウェブを見ている時には、ほぼ無音といっていい。

 「XMBやウェブ閲覧くらいならば、負荷が低いのでほとんどファンは回らないと思います。やはり、しっかり回るのはゲームの時ですね」(川西氏)。

 では、気になるBlu-ray Disc再生時はどうだろう? こちらは、さすがにXMBと同レベル、とはいかないようだ。デコードはすべてCellで処理しているため、その負荷による発熱を冷却するために、ファンが回り始める。

 「でも、さほど負荷はかからないです。1ストリームの処理ですし、特に初期のタイトルはMPEG-2が多いので、かなり処理も軽いはずです」。

 画質や音質面といった点でも、PS2の時は専用プレーヤーと比較すると、劣る部分がかなり見受けられた。しかし、今回見た限りでは、PS3に関してはむしろ逆だ。厳密な画質評価は今後に譲るが、かなりレベルの高い画質が達成できているようだ。

 映像・音声のクオリティアップに、Cellは使われているのだろうか? 残念ながら、現時点ではあまり特殊なことは行なわれていないらしい。

 「現時点では、基本的にストレートに出力しています。とはいえ、様々な研究開発の成果で、かなり画質は向上しています。Cellの能力で画質・音質を上げていくという使い方は、技術的なテーマの一つなので、これからも継続的に取り組んでいきたいと思います」。

 ちなみに、音声出力はTrueHDに対応しているが、リニアPCMに変換してのHDMI出力となっている。

 ただ、少し残念なのは、DVDのアップスケーリングに対応していないことだ。HDMI出力を搭載したDVDプレーヤーやレコーダでは、HDMI接続時に限り、DVDの映像を1080iや1080pまでアップスケーリング可能な製品が多い。だがPS3は、現時点ではアップスケーリングには対応しない。「ニーズを見て対応を検討します」とのことなので、今後に期待したい部分ではある。

 逆に、他のBDレコーダやプレーヤーに対して優位であるのは、動作がとにかく速いこと。ディスクを入れてからの再生速度や、メニューの動きなどもキビキビとしている。少なくとも私が触れたことのある、東芝、ソニー、松下、Samsungの次世代DVDプレーヤーおよびレコーダの中では、群を抜いて動作が速い。

 「コンテンツホルダーの方々にも見ていただいていますが、『BD-Javaの動作は最速』と言っていただいています」とのこと。この辺は、「エンターテインメント・コンピュータ」の面目躍如、といったところだろうか。



■ 一般的な音声・映像フォーマットにはすべて対応
   マスストレージ内のデータも自由に再生可能

HDDに取り込んだMPEG-2ファイルを再生可能

 PS3では、PSX/PSPからの伝統を引き継ぎ、個人が持っている音楽や映像の再生機能に力が入れられている。そこで気になるのが対応フォーマット。すでに大まかなものは公開されているが、実際に使うことを考えると詳細が気になる。例えば映像の場合、対応解像度やビットレートはどうなっているのだろう?

 「特に制限は加えていません。一般的なものであれば、そのまま再生できるはずです。実はPSPでも、すこしづつ制約は緩和しているのですが……。やはりみなさん色々な形式のデータをお持ちですから」


【PS3の対応ファイル形式】
動画音楽静止画
MPEG-2(PS、TS)
MPEG-1
H.264/MPEG-4 AVC
MPEG-4 SP
ATRAC
(.oma .mas .aa3)
AAC
(.3gp .mp4)
MP3(.mp3)
WAV(.wav)
JPEG
GIF
PNG
TIFF
BMP

メモリースティックのフォルダ構造をツリー表示し、PS3のHDDに取り込める

 そういった使い方をする場合、問題になるのはどこのデータをどうやって表示するかということ。PS3では各種メモリーカードやUSB接続のHDDに対応しているため、こちらから直接見るか、本体のHDDにコピーして見るか、という選択となる。

 ここで、PS3のXMBが持つ特性が生かされる。通常XMBでは、PS3から使えるデータがサムネイルとして一覧表示される。だが、△ボタンを押して設定を切り替えると、ストレージ内のフォルダ構造をそのまま表示するモードに切り替わる。これで、見たいファイルが入っているフォルダにアクセスし、再生したり本体内のHDDにコピーしたり、といった処理を行なう。

 「XMBの表示というのは、実は内部でデータベース構造を採っています。ですから、表示を切り替えて見せることもできます。一度認識したものならリスト表示されますから、普段使う時には通常の表示形式の方がいいと思いますが、コピー時などには切り替えた方がわかりやすいでしょう。PCでいうエクスプローラ表示のようなものです」(川西氏)。

 PSPの場合、映像や音楽は特定の名称のフォルダに入れておかねばならず、初心者にとってつまずきの元となっていたが、PS3ではよりPC的なアプローチも取り入れることで、自由度を高めている。

 音楽については、インターネットを介した楽曲情報の取得が可能となっており、PCのようにリッピングしてライブラリ化することができる。対応フォーマットはMP3/AAC/ATRAC3で、ロスレス系がないのが残念だが、「課題と思っている。要望によっては検討したい」という。

 ポータブル音楽プレーヤーとの連携については、現状特別な機能は入っていない。PSPのように単純なUSBマスストレージ対応の製品ならば、コピーして再生はできるが、iPodやウォークマンのような、独自の転送方式の機器とは連携できない。

 「仕様が公開されれば、対応を検討します。すでにウォークマンの部隊とは、共同で開発に取り組んでいます」(川西氏)、とのことなので、HDD/フラッシュメモリタイプのウォークマンに関しては、遠くない将来に対応する可能性が高そうだ。



■ RSXのクロックは「未公表」
  互換はEE+GSで実現

 今回、PS3は初回出荷分がかなり少ない。理由はご存じの通り、PS3用のBDドライブに使われる半導体レーザーが製造上のトラブルに見舞われ、量産開始が遅れたためである。

 「すでに、問題なく生産は進んでいます。開始が遅れてしまった、というのが問題ではありましたが」(川西氏)。少なくとも現時点では、広報発表通り年内に国内で100万台の出荷を達成できるという見通しに変わりはないという。

 気になるのは、いまだいくつかのスペックに関し、公表されていない数字があることである。例えばRSXについては、当初「クロックは550MHz」と公表されていたものの、現在は未公開となっている。

 「RSXのクロックについては、公表しないことと決定しました。ただ、能力的には当初の予定と遜色ないレベルを実現していますので、問題はないものと考えます」と川西氏はいう。数字が公開されないということは、ある程度変更があったものと考えられるが、能力面で問題がないのであれば、そこにこだわる必要性もない。あとは、それをソフトで証明してもらいたいところである。

 PS1、PS2との互換機能についても、より詳細な情報が得られた。PS1については基本的にソフトウエアで行ない、PS2については内蔵のPS2用CPUおよびGPUである「EE+GS」で行なう。問題はその先だ。PS2の時には、PS1タイトルを動作させる場合、テクスチャのゆがみを補完するなどの「おまけ」があった。PS3ではどうだろう?

 川西氏によれば、「PS3での互換については、基本的にPS1、PS2そのままです」という。ユーザー側からは、PS1、PS2向けタイトルの解像度を上げる機能への要求も多いが、「単に解像度を上げても、それほどきれいにはならないんですよ」とのこと。現状では機能搭載の予定はないようだ。

 そもそも、PS3ではPS1およびPS2の互換機能をソフトウエアによるエミュレーションで実装する予定だった。実際、製品版でもPS1に関してはすべてエミュレーションで処理されている。だがPS2用については、開発が難航したたため、発売当初からエミュレータを搭載することは見送られた。そのかわりに登場したのが、薄型PS2で使われているEE+GSをそのまま搭載する、という策である。

 PS2でPS1互換を実現する際にも、SCEは互換性を維持するために、PS1のチップを「PS2用I/Oプロセッサ」として搭載している。しかし今回の場合、EE+GSは互換のためだけに使われ、他の用途には基本的に利用されない。

 「PS3でPS2のソフトウエア・エミュレーションを実現する技術は、おおむね完成しています。しかし、性能を出し切るため、開発者の方々が、まるでPS2の秘孔を突くようにプログラミングしてきたものもある。そういったところも再現するには、まだ時間がかかると判断しました」と言う。

 逆に言えば、すでに技術的な問題はほぼ解決しており、一つ一つの問題をつぶしていく「時間」が足りない、ということであるようだ。問題が解決され次第、コスト削減のためにEE+GSは取り除かれる予定だ。

 高価なPS3にとって、低コスト化は大きな課題だ。日本でこそ値下げが行なわれたが、米国ではまだ当初の価格のまま。日本以上にコスト意識に厳しい消費者を抱える米国市場で順調に数をのばすには、ドラスティックなコスト削減は必須といえる。2007年には登場するといわれる、65nmプロセス版Cellの導入と、EE+GSの削除は、コスト削減策の中でもかなり有望なものといえるだろう。

 ただ、気になるのは、「どのくらいの互換が実現されているか」ということ。今後のソフトウエア・エミュレーションはもちろん、EE+GSによる互換であっても、ハードウエアが同じではない以上、100%にはなりづらい。

 残念ながら今回の取材では、どのくらいのソフトが動くか、ということについての情報は得られなかった。発売日以降、問題のあるソフトについての情報が公開されることになるという。



■ 60GB版の違いは「リモートプレイ」
  PSPとPS3で「宅内ロケーションフリー」に

 もうひとつ、PS3の仕様で気になるのが、20GB版と60GB版の差。5月の発表当時は、HDMIの有無という大きな差があったが、東京ゲームショウでの「サプライズ」発表により、HDMIはすべてのPS3に搭載されることとなった。

 残る大きな違いは、HDD容量と無線LAN機能、そしてメモリーカードスロットの有無である。このうち、HDD容量については、実は決定的な差ではない。というのも、市販の2.5インチのシリアルATA HDDを差し替え、増設することが可能だからだ。

 「OSやファームウエアなどは、本体内のフラッシュメモリに書き込まれています。HDDはデータ保存用ですから、入れ替えても問題はありません」と川西氏は説明する。

 また、USBで外部HDDなどのストレージを接続できることを考えれば、メモリーカードスロットも、さほど大きな問題とはならないだろう。

 となると、残された差異は「無線LAN」となる。PS3の無線LAN機能は、無線LANルータなどを使い、PS3自身を無線でLAN接続するためにも使われる。しかし川西氏は、「PS3は有線でネットワークに接続することをオススメしたい」と話す。

 理由は、2つある。1つは、ネットワークサービスからダウンロードするデータが大きい、ということ。11日に公開されるファームウエア・アップデートを行なうと、ゲームの体験版などがダウンロード可能となるが、そのサイズは数100MB。ダウンロード速度的に無線LANでは厳しいかもしれない。

 そしてもう一つは、今後の可能性のためだ。

リモートプレイでは、PS3の画面を無線LAN経由でPSPに出力する

 PS3には、PSPと連携する「リモートプレイ」という機能がある。この機能は、60GB版に搭載されている無線LAN機能を使い、PS3の画面をPSPで映し出すというもの。パソコンのリモートデスクトップやVNCに近いもので、即応性が高いのが特徴だ。ソニーの「ロケーションフリーTV」にも似ているが、単に映像を受信するだけでなく、XMBやファイル操作/表示、ブラウザの操作などの双方向性を備えているのが大きな違いといえる。

 具体的には以下のような仕組みで動く。XMBから「リモートプレイ」を選ぶと、PS3の画面は自動的に480pの解像度に変更される。そして、PS3が自身の映像出力をMPEG-4 Simple Profile(ビットレートは1Mbps程度)に変換し、ストリームとしてPSPに出力する。同時に、PS3のコントローラによる操作系も、すべてPSPに移管される。PSPのコントローラを操作すると、それがPS3に送られ、操作に使われる。

 感覚としては、PSPがPS3のコントローラになり、画面表示もテレビからPSPに移る、というイメージになる。写真は、実際にリモートプレイを行なっているPSPだ。一見PSPのXMBのように見えるが、実はPS3のXMBが表示されているのだ。画面比も同じ16:9であり、転送ビットレートも高いためか、クオリティは驚くほど高い。短時間しか試すことは出来なかったが、反応の遅れも感じられなかった。


PLAYSTATION 3のリモートプレイを選択すると、PS3のディスプレイ表示が480pに切り替わる PS3のフォト機能をストリーミングで再生

 現時点で、リモートプレイの対象となるのは、ウェブ閲覧やユーザーが準備した映像/音楽の再生など。BDビデオやDVDビデオソフトなど、著作権保護の施されたコンテンツは、PSPで見ることはできない。

ウェブブラウザも利用可能

 リモートプレイは、11月11日の時点では利用できないが、11月下旬公開予定のPSP用ファームウエアで対応予定。60GB版の無線LAN機能は、実質的にこの機能のためにある、といっても過言ではない。

 では、なぜそれが「PS3は有線で接続してほしい」という言葉につながるのか? それは、SCEがさらに広い構想を持っているからだ。川西氏は次のように説明する。

 「まずは家庭内からですが、リモートプレイはもっとグローバルなものに広げていきたいんです。自宅内にあるPS3に、LANでインターネット経由で出先のPSPにアクセスする、という姿を実現したい。もちろん、帯域やレイテンシーの問題があるので、技術的に簡単ではないのですが。BDについては規格上許されていないのでリモートプレイの対象にはできませんが、ゲームについては近いうちに対応します」

 安定して外部から接続するには、有線接続が望ましい、というのがSCEの考え方なのである。



■ PSP用PS1タイトルはUSBケーブルで転送、20GB版でも利用可能

 PS3とPSPの連携には、もうひとつ重要な機能がある。それは、PSPでPS1のソフトウエアを動かす機能だ。PS1用ソフトは、SCEが運営するネットワークサービス「PLAYSTATION Network」(PS Net)からダウンロード購入するのだが、当初このサービスには、PS3からしかアクセスできない。PSP用のPS1タイトルを遊ぶ場合には、まずPS3でゲームをダウンロードし、それからPSPへ転送する、という手順を踏む。このときに使われるのはUSBケーブルであり、無線LANがない、20GB版のPS3でも問題なく利用できる。

 「PSP向けタイトルのダウンロードにPS3を使うのは、まずそこから始めよう、ということに過ぎません。今後は、パソコンからの直接ダウンロードも検討していきます。しかし、PSPで無線LANを使ってダウンロードするのは難しいでしょう。11bで、数100MBのデータを転送すると、かなり時間がかかってしまいますから」と川西氏は説明する。

 そして、PS Netからのダウンロード販売には、もう一つ重要な端末がある。それは、店頭に置かれるPS3のデモ端末「PLAYSTATION TV」だ。スタート時期は未定だが、PSP用ダウンロード・タイトルなどの販売を、PLAYSTATION TV経由で行なうことが検討されている。その時の転送方法は、メモリーカード経由やUSBケーブル経由が検討されているものの、最終的な方法は未定という。

 すでに述べたように、PS Netには、基本的にPS3内蔵のウェブブラウザを使ってアクセスする。「ブラウザは自社開発したもので、Flash7に対応しています。Ajax対応サイトの閲覧も重視していますが、なにしろ規格で決まっているものではないので、実際に動かしながら対応していくことになると思います」と川西氏は言う。

 PS3のブラウザはなかなか快適で、文字などのレンダリング品質も上々、という印象だ。タブブラウザになっており、6つのタブを同時に開ける。6ページに限定されている理由は、「メモリーです。PCでも高解像度でレンダリングすると1ページで数10MBのメモリーを消費します。フルHDのクオリティでページをレンダリングし、速度重視でオンメモリに配置するとなると、現状では6枚という制限になります」と説明する。

PLAYSTATION Storeではゲームのほか、ビデオコンテンツの配信も予定(写真はテスト版のため、実際のサービスとは異なる場合があります)

 なお、PS3ではゲーム実行中にも、XMBやブラウザを含めたOS部がメインメモリをいくらか占有する構造になっておる。現状では、占有量は「64MB程度」とのことだ。無駄なように思う人もいるだろうが、共通コンポーネントをメモリ上に配置することで、ゲーム内からブラウザやインスタント・メッセンジャーなどをシームレスに呼び出し可能となり、操作性の面でも、開発工程の単純化の面でも、プラスに働く。

 現在、PS Netはゲームに関するコンテンツ提供が主体だが、今後は映像配信などの機能も盛り込んでいく可能性があるという。また、現在PC用のウェブで展開されている各種音楽配信サービスなども、「事業者との協力ができれば、利用環境を実装することも可能だろう」と話す。



■ Linuxは「デュアルブート」。将来的には開発環境の提供も

 ここまで見てきておわかりのように、PS3には予想以上に「ゲーム以外」の機能が盛り込まれている。同社がPS3を「エンターテインメント・コンピュータ」と位置づけるのも頷ける内容だ。

 だが、「コンピュータ」を名乗るなら、必要な機能はもう一つある。それが、自由なアプリケーション開発だ。5月のE3の段階で、久夛良木社長は「PS3にはLinuxを搭載し、自由なアプリケーション開発環境を提供する」とコメントしていた。だが現在のところ、その計画を具体的に示すものは公表されていない。東京ゲームショウ後の本連載で触れたように、PCのようなオープン・プラットフォームとして公開するには様々な準備が必要になるが、現在はまだ道半ば、というところのようだ。

 とはいうものの、SCE開発陣が「PCとは違うエンターテインメント・コンピュータ」の夢をあきらめたわけではない。「個人的な思いとして、ソフトウエアの開発環境は、ぜひ公開したいと考えています。それは、PS3だけでなくPSPについても」と川西氏は言う。

 その第1弾ともいえるのが、Linuxの提供だ。すでに、米Terra Softが「Fedora Core 5」ベースのLinuxデスクトップ環境のを提供を発表しているが、これはSCEから公式なライセンスを受けて実現したものだ。ではどう動かすのか? 実はLinuxの場合、ゲームとは違った流れで動作することになる。PS3は、通常「Cell OS」とでもいうべきオリジナルのOSで動作している。普段我々が触れるのは、その上で動作するUIであるXMBと、ゲームタイトルということになる。

他システムのインストールでLinuxなどをセットアップ

 XMBのシステムメニュー内には、「他システムのインストール」という項目が設けられており、前出のLinuxは、ここからセットアップして動かすことになる。「実際には、PS3の領域とは別にLinux用のパーティションが作られます。セットアップすると、PS3起動時に、通常のメニューを呼び出すか、Linuxを起動するかを選ぶ形になるんです。通常はPS3のメニューが現れますが、Linuxを自動起動するようにもできます」

 要は、PCでいうところのデュアルブートのような状態になるのだ。公式なライセンスを受けて開発されたものとはいえ、Linuxに関しSCE側が公式なサポートをすることはない。PS3というハードウエアを利用したい企業に対し、同社が情報を公開した、という形式になっている。だから、「LinuxがPS3の公式OSになった」わけでも、「PS3をパソコンとして販売することになった」わけでもないことに留意しておきたい。開発情報も、あくまでLinux提供側から供給されることになる。

 川西氏のいう「開発環境」とは、このLinuxのことを指すわけではない。Cell OSの上で、一般のゲームと同じように動作するアプリケーションやコンテンツの開発環境を提供したい、という願いがあるのだ。

 それが簡単でない理由は、高度なセキュリティを担保する必要があるためだ。現在PSPでは、様々な「非公式アプリケーション」が動作している。アプリケーションが公開されていることそのものは、川西氏たちにとっても喜ばしいことなのだが、それがOSの穴を突く形で実装され、ソフトの違法コピーなどに使われるのは不幸なことである。またPS2の時代には、ゲームの内部プロセスにアクセスし、セーブデータなどを改ざんするアプリケーションが存在したことが、ゲームメーカー側では問題となっていた。

 これらを防止するため、PS3では当面、「電子署名」がなされたアプリケーション以外は動作しないようになっている。SCEの考える「ユーザー向けの開発環境」も、これと矛盾しない形で実現することが必須となる。

 開発環境の提供については、現時点でSCE側より公式に発表できる情報がある段階ではなく、技術陣の「構想」という状態だ。だが、PS3やPSPというハードは、PC以上に魅力的な部分も少なくない。「構想」から「計画」へと進展していくことを期待したい。

□ソニー・コンピュータエンタテインメントのホームページ
http://www.scei.co.jp/
□PlayStationオフィシャルサイト
http://www.jp.playstation.com/
□関連記事
【11月9日】PLAYSTATION 3、発売日にアップデート
-ネットワーク機能の更新。PSPは11月下旬アップデート
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061109/sce.htm
【PLAYSTATION 3 リンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/ps3.htm

(2006年11月10日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、「ウルトラONE」(宝島社)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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