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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第289回:放送とネットをさりげなく融合するTiVo
~必要なサービスをソフトウェアだけで実現~


■ レイトマジョリティのために何をすべきか

 日本では映像機器のハイビジョン化というのは、まさに波である。大きな波が来ているうちに、はやくいろんなものを乗っけてしまおうとする戦略が昨年から加速しつつある。

 もちろん一部の富裕層に対して最高の製品を提供するというのも一つのあり方だが、ハイビジョンが必須だと考えていないユーザーもまた非常に多いのも事実だ。特にネットとの親和性を考えると、ハイビジョンのような高解像度データは無理がある。

 スペックではなく、テレビとネットでどうやって遊べるか。米国で高いシェアを持つTiVoのサービスは、参考になる部分が多い。今回はLVCC ミーティングルームに出展している、TiVoの新しいサービスをご紹介しよう。


■ TiVo久々のオリジナル新モデルが発売開始

 昨年のCESレポートでもお伝えしていたが、TiVoの新しいハードウェア「TiVo Series 3」が昨年9月から販売が開始された。米国独自のCATVの受信カード「ケーブルカード」スロットを2つ備え、ハイビジョンコンテンツも録画できる。チューナはATSC 2系統、NTSC 2系統でダブル録画も可能。当然出力はHDMIも装備だ。

昨年9月から販売開始されたTiVo Series 3。下は背面パネル TiVoオリジナルの別売新型リモコン「TiVo Glo」。暗い場所でボタンが光る 同じくオリジナルのUSB無線LANユニット

 TiVoはハードウェアと番組情報サービスが別になっているが、Series 3のハードウェア単体は799ドル。米国の感覚からすると高価で、かなりハイスペックなマシンだ。だがTiVoのサービスはあまりハードウェアに依存しないため、これが3年~5年ぐらいモデルチェンジなしで売られ続けることを考えれば、妥当なスペックかもしれない。

メキシコ版TiVoの画面。文章がスペイン語になっている

 サービスエリアはもちろん全米だが、それ以外ではカナダ、イギリス、台湾でも事業をスタートしている。さらに中国でもサービス開始を発表、メキシコでも一部のケーブルテレビと契約をまとめたところだという。

 また米国大手のケーブルテレビ会社「ComCast」のSTBにTiVoのソフトウェアをインストールして、TiVoのサービスを行なうテストをデンバーで行なっているという。現在ComCastの契約世帯数は230万件もあるので、とてもすべてのハードウェアを変更できない。そこでインターネットを使ったソフトウェアアップデートという形で、モトローラ製のSTBにTiVoソフトウェアをインストールするという。リモコンは別途郵送するという形をとっている。

「TiVo to Go」も新たにMac対応となった

 外部機器への対応ということでは、TiVoで録画したコンテンツを持ち出す「TiVo to Go」が新たにMac対応となった。Mac上で録画番組をフルスクリーン再生したり、iPodやPSPに転送して視聴することができる。またRoxioのメディアライティングソフト、「Toast 8 Titanium」 を使って、DVDやBlu-rayへの保存も可能になる。


■ テレビへのフィルタリング

 子供を持つ親に対する新しいサービスとして、「Kids Zone」は興味深い。TiVoマシンは操作が簡単なため、子供でも簡単に使うことができる。子供が居る世帯で困るのが、子供に見せたくない番組もTiVo内に存在することだ。そんなの録画しなければいいと思われるかもしれないが、TiVoは人間が録画予約をするのではなく、ユーザーの好みに合わせて勝手に番組を録画し続けるため、子供向けではない番組も録画してしまう。

Kids Zone動作中の画面。子供向け番組にしかアクセスできない

 Kids Zoneというサービスは、TiVoを4時間以上使わないと通常のGUIからログアウトして、子供向けの制限付きGUI、つまりKids Zone画面に変わる。この時は番組のレーティングにより、子供が見てもいい番組だけしかアクセスできない。

 米国では暴力や喫煙、セックスシーンを含む番組は放送時間の制限が厳しいわけだが、TiVoのようなタイムシフトマシンでは、このような制限が意味を持たなくなる。すでにテレビはリアルタイムで見るものではないという感覚が強くなければ、なかなか出てこない発想である。

 しかし中にはレーティングがないチャンネルや、あるいは子供向けとされていても特定の政治・宗教色が強かったり、暴力的なので見せたくないという番組も存在する。そういうケースのために、全米にある親同士が作るネットワークや、コミュニティのような非営利グループが提供する番組リストをWEBからダウンロードして、それのみを録画、あるいは再生するようなフィルタリング機能も搭載している。インターネットの有害サイト遮断フィルタの、テレビ版のようなものだ。

 ここで重要なのは、政府や企業がリストを作るのではなく、複数の非営利グループがボランティアで提供するリストを、親が自分で選べるということである。特定の政治色や宗教、コマーシャリズムに迎合しないグループを自分で選択することで、子供の番組視聴をコントロールするというのは、米国人の考え方を象徴していると言えるだろう。

 Kids Zoneから通常機能に移行する場合は、リモコンを使ってパスワードを入力し、制限解除を行なう。


■ WEBからTiVoへ

CNETの生放送風景。機材の規模としてはテレビ放送並みだ

 この特定のグループが作成するリストをダウンロードする機能は、「Guru Guide」と呼ばれている。Kids Zoneでは制限のためにこの機能を用いたが、もっと積極的な使い方もできる。例えば有名人や雑誌が提供するリストをダウンロードして、録画させることも可能だ。iTunes Storeにある、「セレブリティ プレイリスト」や「iMix」のようなイメージである。リストが更新されれば自動的にダウンロードされて、またそれが録画されるというサイクルになっている。

 WEBコンテンツに対する新しい取り組みとして、「TiVo Cast」という機能が登場した。米国ではWEBの大手ニュースサイトが、数多くのブロードバンドコンテンツを提供している。たまたまLVCCのサウスホール入り口で、CNETの生放送というか公開ライブ ストリーミングが行なわれていたが、セットや撮影機材を見ると、もはやテレビ放送と遜色ない規模だ。これだけちゃんと番組として作っていれば、テレビ並みのビュー数が確保できるだろう。

ブロードバンドコンテンツをTiVo上でダウンロードできる「TiVo Cast」

 このようなコンテンツをPCで見るのではなく、TiVoを使ってコンテンツの検索や一括ダウンロードができる。 例えばCNETのコンテンツ視聴をセットしておけば、新しくアップされたコンテンツは自動でダウンロードされていく。また過去のタイトルをブラウジングしながらダウンロードすることもできる。

 これはテレビでなんでもやってしまおうというコンセプトであるとも言えるが、ブロードバンドコンテンツもテレビ視聴に耐えられる規模になってきたということでもある。またこれらのコンテンツが非同期ダウンロードされてローカルで再生できるという結果を考えれば、ナローバンド対策としても有効だろう。

 また昨年TiVoは、「One True Media」という会社を買収した。これは個人のビデオをWEBにアップロードして、WEB上でビデオ編集を可能にするというサービスを展開してきた会社である。これまでは編集したビデオを、特定の家族や友人にWEB上でシェアできるという機能があったが、今回はそれを家族、友人のTiVoにダウンロードさせることができる。

「One True Media」を使ったパーソナルな映像配信 写真のスライドショーや動画を組み合わせた編集コンテンツが配信できる

 新しいビデオを作ったら、それもまた自動でダウンロードされるため、個人ビデオのRSSみたいな感じである。日本の編集ソリューションというと、子供を撮影してDVDにして、おじいちゃんおばあちゃんに送ろう、ということになるわけだが、このソリューションを使えばネットワークだけで自動配信が可能になる。もっともこれは、それだけTiVoという特定機器のシェアがあるから可能になるソリューションではあるのだが、使い方によってはテレビベースのPodCastのようなこともできるだろう。


■ 使えるものを使うという発想

 これらの機能によって、映像コンテンツの視聴はテレビとPCそれぞれ別に見るのではなく、家に帰れば全部テレビの前だけで済むようになる。つまり入手経路に関係なく、全部ビデオコンテンツはテレビで見るプラットフォームとして、TiVoがあるという考え方である。

 そしてこれらの機能は、数年前から発売されているTiVo Series2という古いハードウェアでも使用可能だ。要するにハードは全然変わっておらず、ネットソリューションとソフトウェアアップデートだけでここまで展開してきたのである。そしてこれだけ遊ぶためには、ハイビジョンも必要ないし、ましてやデジタル放送も必須ではないという考え方が底辺にある。

 今テレビとネットの融合ということでは、テレビ用のネットワークサービスのような、「わざわざそれを作る」ような発想で動いている。だがTiVoとネットの関係のような、今ある枯れた技術で面白そうなことをすぐやるという、ある意味「任天堂Wii的」な発想は、日本でも検討の余地はある。

 日本人の立場でTiVoのサービスを考えてみると、こういった遊びや楽しみ、さらに言えばコンテンツ視聴機会促進を阻害しているのが、政府の執拗なデジタル化推進アナログ撤廃政策であり、放送局のコピーワンスに対する執着であるということになる。この後ろ向きな現実を、もう一度きちんと議論する必要はあるだろう。


□2007 International CESのホームページ(英文)
http://www.cesweb.org/
□TiVoのホームページ(英文)
http://www.tivo.com/
□関連記事
【2007 International CESレポートリンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/2007ces.htm
【2006年1月10日】【EZ】拡張を続ける米国のデジタル放送サービス
~ TiVo、XMの最新動向を探る
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060110/zooma238.htm

(2007年1月11日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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