■LEDでも水銀系ランプでもない、全く新しい光源ランプ「LIFI」が登場 松下ブース内には、同社の最新映像技術を体感できるデモコーナーがあり、そこに地味ながら凄い展示があった。それが、新しい光源ランプ技術「LIFI」。LIGHT FIDELITYを語源とする造語で“ライファイ”と発音し、似た発音の「ハイファイ」から、高品位光源の意味も込めている。 このランプは2007年度の松下のリアプロジェクション製品の全ラインナップに採用され、実質的に従来の光源ランプであった超高圧水銀系ランプから置き換わる形を取るそうだ。 LIFIは基本特許を抑えているLUXIMと、プロジェクタ用光源ランプへの実用化を考える松下との共同開発によって開発された。実用化は松下が第1号となるが、LUXIM自体は今後、他メーカーにもLIFIランプを供給すると見られている。ただ、水銀系ランプから置き換えればすむものではなく、「駆動やチューニングについて松下に一日の長がある」(松下担当者)とのことで、ここしばらくは松下製品にのみ採用されることになるだろう。
LIFIが優れている点の1つは、LED並に高速に起動できるということ。超高圧水銀系ランプの場合、発光が安定するまで30秒近くかかるの普通で、プロジェクタ機器は起動が遅いというイメージがつきまとっていた。LIFIの起動時間はわずか1~2秒。ほとんどLEDなどと同じ感覚だ。
2点目は劇的に長寿命であるという点。水銀系ランプの寿命は数千時間であるが、LIFIはLED並に長寿命で、基本的にランプの交換を不要としている。公式な寿命は25,000時間とするが、これは定格輝度の80%減退期であり、基本的には液晶テレビやプラズマテレビと同等の寿命があるとしている。プロジェクタ製品として採用された場合は「交換ランプをユーザーに交換させる」という概念がない。実際、2007年度に発売される松下製LIFI採用リアプロにはランプのユーザー交換概念が排除されている。
3点目は発光色の色特性が優れているという点。光スペクトラム的には赤と青についてはLEDを超えるパワーがあり、緑についてはLEDには及ばないが、水銀系は超える伸びがある。トータルで見ると表現色域はsRGBの144%を有すると言うから驚きだ。 こうした特長を聞くと、動作原理が気になるところ。LIFIはやはりバルブランプの形状をしているので取り扱い自体は水銀系ランプと変わらない。バルブ内部には希ガスと金属ハロゲン化合物が封入されており、まず内部で電界を生成することで内部の希ガスを電離させ、プラズマを作り出す。プラズマ化した希ガスはハロゲン加工物を気化。これが互いに完全に融合し、その際に白色光を発生する。
特徴的なのは発光のための励起に、電極から電子を打ち出すのではなく、電界を生成させると言うところ。水銀系ランプのようなHIDランプはランプ内に電極がむき出しとなるため、ここがどうしても内部の化学反応や熱によって劣化する。電極が溶解してガス化し、ランプ内部に付着することもあり、電極が劣化すれば打ち出せる電子の量も減る。経年により出力光が理想状態から遠ざかってしまうのだ。LIFIでは、こうしたデメリットがない。
ただし、消費電力と得られる光量の関係、発熱の問題など、課題も残されているようで、特にフロントプロジェクタ用光源ランプに用いるためには乗り越えるべき課題があるとのこと。 とはいえ、松下の「PT-50/56/61LCZ70」型番のLIFIベースのリアプロTVでは350~450cd/m2の輝度性能を実現しており、いわゆる液晶やプラズマと比較しても全く遜色がない明るさを達成している。今後は是非ともTH-AEシリーズのプロジェクタにもこのLIFIランプを使用してもらいたいものだ。 LIFIランプのコストだが、民生映像機器に応用されたのは世界で初めてであるため価格がこなれている水銀系ランプと比較すると安くはないとのこと。ただ、リアプロ製品は「コストパフォーマンスが高い大画面製品」として認知されており、このイメージは維持していかなければ商売が成り立たないとのことで、商品価格としては同画面サイズの従来製品から据え置く方針を取るという。 ということで、LIFIベースのリアプロTVであるPT-50/56/61LCZ70の価格は未定としながらも従来と同じとし、発売時期については2007年春を予定している。
■エプソン、新世代フルHD液晶パネル採用機をデモ ~LIFI光源採用機をアピール ルネッサンスホテルに設置されたエプソン・プライベートブースでは、2006年11月に発表されたばかりの0.7型TNタイプ/有機配向膜、1,920×1,080ドット解像度の新液晶パネル「L3D07U-81G00」採用機のデモンストレーションを行なっていた。
0.7型1080p新パネルは、EMP-TW1000をはじめとした2006年度のフルHD液晶プロジェクタに採用された0.74型VAタイプ/無機配向膜液晶パネルとは別のもの。ネイティブコントラストよりは最大輝度を優先したパネルで、こなれたTNタイプ液晶を用いて有機配向膜で制御するので製造コストも安い。つまり、0.7型1080p新パネルはコストが重視されるデータプロジェクタやリアプロTVに採用されることを想定して作られている。 ブースで展示されていたのは松下のPT-56LCZ70。前段で解説したLIFI光源採用機だ。LIFIの効果もあって画質はリアプロTVとしてはかなり優秀。色域が広いのが感動的で、特に青に伸びがあり、赤の発色も水銀系とはかなり違う鮮烈な赤色。LEDバックライトと見間違うほどの色表現の素性の良さが感じられる。平均的な液晶やプラズマよりも、かなり高画質だ。
ノーマリーブラックのVA型無機配向膜液晶のC2FINE液晶とは異なり、0.7型1080p新パネルはノーマリーホワイトであるため、黒浮きが強くなるはずなのだが、目立った浮き上がりはなく概ね良好であった。
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■DLP方式プロジェクタにLED光源が使われるわけ プロジェクタやリアプロTVのような投写型映像機器の新光源技術はLIFIだけではない。液晶パネルのバックライトとして採用され始めたLEDを、フロントプロジェクタやリアプロジェクタに応用しようとする動きが活発化している。 特に力を入れているのがDLP方式のフロントプロジェクタやリアプロTV。LEDを映像光源の一般的な利点は、RGB各色LEDの出力光の色純度が高く、色域が広く取れることだ。もちろんプロジェクタやリアプロTVでもこのメリットは大きいのだが、最大の理由は別のところにある。 民生向けのDLPプロジェクタでは、基本的に映像パネルのDMDチップを1枚しか用いない単板式が主流であり、3原色のRGB分の映像プレーンを時分割で表示することで時間積分的なフルカラー表現を実現している。光源からの白色光を、回転するカラーホイールを通してRGB各色の光に分光し、そのタイミングに合わせてDMDチップ側で各色プレーンの映像を表示している。 この方式で問題となるのは、階調表現の分解能がカラーホイールのスピードに完全に依存すること。カラーホイールのスピードが速くなければ微妙な色の違いが表現できず、視線を動かすと正しく脳内に時間積分が行なわれず、色割れやカラーブレーキングを感じてしまう。 そのため、単板式DLPの画質向上は「カラーホイールの高速回転」の技術向上とシンクロしていたところがある。回転速度は最新世代では6倍速までの実用化に漕ぎ着けているが、疑似輪郭や色割れを完全になくすことはできていない。そこでLEDなのだ。
RGBの各色のLEDからの光を順番に明滅させてDMDチップへ照射すれば良いので、カラーホイールは不要となる。問題はLEDの明滅速度だが、LEDの発光応答速度は数十ナノ秒と非常に高速。Texus Instrumentsの担当者によれば「カラーホイール換算で48倍速以上」とのことなので、プラズマパネルのサブフィールド法に迫る精度で色表現が出来ることになる。
■LG電子、世界最高輝度のLED光源採用の単板式DLPプロジェクタ 非常に注目度の高いLED光源式の単板式DLPプロジェクションシステムだが、単なる技術展示のステップを超えて、2007年度からは各社から徐々に製品が出始める見通し。フロントプロジェクタはまだ、モバイル用途向けのものが中心で、据え置き型のホームシアター向け製品は皆無。 モバイル向けフロントプロジェクタで最も完成度が高かったのは、LG電子が製作し、実際に発売を予定している超小型プロジェクタ「HS101」。片手で持ち運びでき、ポケットに入るほど小さく、重さは750g。輝度性能は100ルーメン。「LEDベースDLPプロジェクタとしては世界最高輝度」をうたっている。 投射距離1.1mで40インチ(4:3)程度の投射が可能。輝度的な問題もあり、よほど暗室にしないとこれ以上の画面サイズは実用上難しい。採用DMDチップは0.55型800×600ドットパネル。 LEDなので電源オンとほぼ同時に映像が投射される。LED光源の寿命は2万時間程度。消費電力は70Wで、底面部に別売りのバッテリーユニットを装着することで3時間のバッテリ駆動が可能だ。アナログRGB(D-sub 15ピン)やHDMI端子も備え、変換ケーブルを用いてコンポーネントにも対応。モノラルスピーカも内蔵する。発売時期は2007年4月を予定。価格は未定としながらも1,000ドルを下回る予定だという。
■LED光源の単板式DLPリアプロ、サムスンが他社に先駆けて製品化
サムスンのLED光源採用リアプロTVは、小型化を重視しすることで輝度に妥協があったフロントプロジェクタとは違い、筐体サイズがきく取れることから、LED光源ブロックを大きく取っており、高輝度を達成しているのが最大の特徴。公称輝度性能は非公開としていたが、他の液晶テレビなどと比較して見た感じでは300~400cd/m2程度は出ているようだ。 画面サイズは50V/56V/61V型を用意、それぞれ型番はHL-T5087S、 HL-T5687S、HL-T6187S。解像度は全モデル、フルHDの1,920×1,080ドットパネルを採用。LED光源により、NTSC色域の140%をカバーする。なお、光源ランプの交換は不要という判断から、ユーザー交換には対応しない。HDMI入力端子を3系統装備、PC入力にも対応する。
画質はかなり優秀。特に色ダイナミックレンジの広さが素晴らしい。LED光源を使った際に陥りやすい、ただどぎついだけの発色にはなっておらず、色域マップの最適化が進んでいる印象を受ける。カラーグラデーションも美しく、疑似輪郭はほとんど感じない。
48倍速カラーホイール相当という時分割フルカラー表現も、これまでのメカニカルなカラーホイール表現とは一線を画しており、よほど目まぐるしく視線を画面内に巡らさなければカラーブレーキングは感じられない。単板式DLP映像の階調表現としては1つのゴールに達したという印象がある。
LED光源の輝度制御はかなり高速かつ細かく行なえることから、動的コントラストの制御幅が向上。公称コントラストとして10,000:1を達成したとしている。ネイティブコントラストは非公開。価格は未定だが、発売時期は2007年4月を予定している。
■ビクター、壁掛け設置が可能な超薄型D-ILAリアプロTV ビクターは、D-ILAリアプロTVの新シリーズ、「HD-58S998」(58V型)、「HD-65S998」(65V型)を発表した。「Ultra Slim Design」と称される新デザインでは凹面ミラーレンズを採用し、本体後面の斜面部ではなく、垂直面で映像を投射する構造を実用化。これによりリアプロTVとしては世界最薄級の27cm(58V型)、29cm(65V型)を達成した。 映像コア部は、従来世代のD-ILAパネルを採用。階調生成はパルス駆動式。オーバードライブ駆動を駆使してさらに応答性を高め、階調処理は一貫した10ビット処理を採用する。アルミフレームを採用して約10mmという業界最高レベルの徹底した狭額縁デザインを実現している。 発売時期と価格は58V型が2007年1月で3,299ドル、65V型が2007年3月で4,199ドルを予定。
□2007 International CESのホームページ(英文) (2007年1月12日) [Reported by トライゼット西川善司]
AV Watch編集部 |
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