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西田宗千佳の
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「Vistaで次世代光ディスク」はどうなった?
-今春の新モデルから見る「Vista」の価値


 1月30日に発売されたWindows Vistaには、XP発売以降に登場した、新しいハードウエアを生かすための「基盤整備」といった趣がある。

 現在、対応が待たれる新しいハードウエアといえば、やはりBlu-ray/HD DVDなどの「次世代光ディスク」。結局、Vistaでの対応はどうなったのだろうか? そして、音楽などのプレミアムコンテンツはどうなるのか? 各社が発売した製品と、その技術から予測してみたい。


■ 実はXPと変わりなし?
  まだ見えぬ「Vistaならでは」のメリット

 Vistaを搭載した、各社PCの今春モデルには、BDやHD DVDを搭載したモデルが目につく。コストの問題から、さすがにまだまだハイエンドモデルに限られているが、昨年夏あたりの「ドライブ搭載」だけで差別化ができる、というレベルでなくなったのは間違いない。

 では、「Vista」が次世代DVD採用を後押しした部分があるのだろうか? 残念ながら、そういうわけではないらしいことが、各社製品から見えてくる。

 前回の記事で述べたように、今春モデルでは、各社がテレビ機能/10フィートUIとして、Windows Vista Home Premium以上に組みこまれている「Windows Media Center」(WMC)を採用するのが一般的となった。WMCにはDVDビデオ再生機能があるため、ディスク系コンテンツの再生もWMCで……となりそうなところなのだが、どうもそうではなさそうだ。現状の製品では、WMCにBD再生を組みこんだ製品は存在しないからだ。

VAIO「VGC-RM71DL4」 VALUESTAR「VW990/HG」

VAIOなどではWinDVD BDをWMCに組み込んでいる

 Blu-ray Discドライブを搭載したソニー、NEC、富士通の製品では、BDビデオの再生に「WinDVD BD」を使っている。このソフトは、ご存じWinDVDのBD対応版であり、BD再生ソフトとしてはもっともメジャーな存在である。WMCを使っているソニーやNECは、WMC内からWinDVD BDを呼び出す形を採っている。WMCを重視していない富士通の場合には、もちろん単独で利用する。

 さらに重要なのは、このソフトが「Vista専用」ではなく、「Vista対応」ソフトである、ということだ。

 以前の記事でも解説したが、Vistaではコンテンツの著作権保護のため、「Protected Media Path」(PMP)という機能が備わっている。これは、一言でいえば映像や音声の「横取り」を防ぐためのの機能。PCのメインメモリーからビデオカードや音声デバイスに至る流れを、暗号化された「パイプ」で包み、データをその中に流すことで、生のデジタルデータが再生時にコピーされることがないようにするための仕組みである。

 PMPの存在は、本来、マイクロソフトが「Vistaが次世代光ディスク対応である」と主張する根拠の一つなのだが、現在は、ほとんど使われていないようだ。

 今回の記事にあわせ、DVD関連製品を開発しているメーカーに、Vistaへの対応とPMP採用の有無を確認したが、現時点では、明確に「Vista対応でPMP採用」と回答した企業はなかった。現状では、WinDVDなどほとんどのソフトがWindows XPと共用であり、PMPを活用するには至っていないようだ。

 この事は、マイクロソフト自身も認めている。マイクロソフトで次世代DVD戦略を担当する、Windowsクライアントビジネス開発事業部 技術部 マネージャーの土田圭介氏は、「現時点では、まだVistaのインストールベースが少ないため、XP向けのソリューションが多い。PMPを使ったVista向けアプリケーションが主流となるには、まだ少し時間がかかりそうだ」と話す。

 だが、現在PMPの利用が進んでいないのは、Vistaが出たばかりだから、という理由だけではないようだ。あるPCメーカーの製品企画担当者は、PMPについて「現時点では、暗号化にかかる負荷が大きい。ビデオカードなどの準備が進まないと、本格的に使われるようにはならないのでは」と語る。

 PMPでは、各デバイス間の通信をAES方式で暗号化する。本来ならば、ビデオカード内にAES暗号化のハードウエアを装備し、負荷をかけることなく処理するのが理想なのだが、現在のビデオカードにはその仕組みがない。そのため、ドライバ側でソフトウエア処理を行なう。つまり、CPUで暗号化を代替するのだ。

 こうなると、システム全体にかかる負荷は高まることになる。BDやHD DVDの再生にかなりのCPUパワーが必要な現状では、さらに負荷をかけるのは望ましくない。特に、低価格製品が望まれるメーカー製PCではありがたくない、というところではないだろうか。

 これらのような理由から、現時点で次世代光ディスクを利用する場合、XPとVistaでの差はほとんどない、といって良さそうだ。


■ 重要になる「PMP」でのセキュリティ保護
  ネットコンテンツ発掘はVistaで「再出発」

 だが問題は、「このままでいいのか」ということである。もちろん、XP用だからといって、各社の再生ソフトがセキュアでない、というわけではない。だが、様々な事情を考えれば、よりしっかりした基盤が必要となっているのも事実である。

 昨年末以来、Blu-ray/HD DVDで使われているAACSのクラックに関する話題が出始めている。一部タイトルで使われている暗号鍵が流出した、という状態だが、それでも、業界に与えたインパクトは小さくなかった。あるPC用プレーヤーを解析した結果であるようだが、この点を考えると、コンテンツホルダーから、PC用ソリューションの開発元に関し、さらに厳格な管理が求められるのは間違いない。

 ただ、「プロテクトが強固になる」ことはユーザーの利益に直結しない。XPでもできていることをVistaで置き換えていくのは、そうたやすいことではないだろう。

 では、ユーザー側への「インセンティブ」はなにになるのだろうか?

 一つは「機能」。例えば、WMCとの統合といった、現状ではできていないことをVista版に組みこんでいくことで、よりセキュアな環境へと移行させていくことができるだろう。

 HDiやBD-Javaなどの新機能はあるが、PC上での次世代DVD再生には、ネットワーク機能への対応やマネージドコピーの実装など、いまだ様々な「機能実装」が必要とされている。XPのまま行くか、Vistaへ切り替えるかは、そういった新機能実装のタイミングにあわせて移り変わっていく、という可能性が高い。

 もう一つは「利便性」だ。

 現在、音楽を中心としたオンライン配信の問題は、配信時に使われたDRMに、利用者側が縛られてしまうという点にある。Windows DRMで配信されたものはWindows DRM対応のプレーヤーでしか見聞きできないし、「Fair Play」というDRMで保護されたiTunes Storeで販売された楽曲は、iPodでしか利用できない。ビジネスモデル上の選択、という意味合いも強いが、「PC内でセキュアにDRMを変換できない」という、技術的な難点も大きな理由である。

 PMPのように、ユーザーや不正なアプリケーションからはアクセスできない領域を作って変換するならば、こういった問題も解決可能となる。実際昨年のCEATECでは、米MUISC Giantからダウンロードしたロスレス形式の高音質な楽曲を、PMP経由で携帯電話へ変換/転送するデモも行なわれている。

WMCのメディアオンライン

 マイクロソフト・デジタルエンターテイメントパートナー統括本部担当執行役常務である堺和夫氏は、「次世代ディスクで、マイクロソフトと対立しているメーカーもあるが、これはこれ、それはそれ。パソコンだけでどうこう、ということではなく、様々な形で協力して、新しいソリューションを作っていきたい」と話す。

 その基点の一つとなるのが、WMCの「メディアオンライン」だ。Vista発売にあわせ、「第二日本テレビ」などの新映像コンテンツが準備された。

「実は、コンテンツの数自身は(XP時代の)12から8へと減ったのだが、より一般性の高いものをそろえられた」と堺氏は話す。実際のところ、ウェブブラウザ経由で利用可能なものに比べ、メディアオンラインのコンテンツはまだ貧弱だ。日本においては、WMC自身が、ほぼVistaから「再出発」するようなもの。これはあくまで出発点である。



■ 価値最大化には「新ハード」が必須
  パソコンOSも組みこまれた「製品」で評価する時代に

 結局OSはあくまで「基盤」であり、OSだけでなにかが大きく変わるものではない。サービスや機能、コンテンツが揃うには、まだVistaは産まれたばかりでありすぎる。

 では、それらの中で、なにがVistaの普及をひっぱることになるのだろうか? おそらく、それはやはり「ハード」だ。

SideShow搭載のリモコン試作機

 例えば、「SideShow」と呼ばれるVistaの新機能は、AV向けPCにも様々な利点を生み出す。右の写真はSideShow機能を組みこんだ、WMC用リモコンの試作品だ。このリモコンは、PCとの間でBluetoothを使って通信を行ない、EPGや再生する音楽のジャケット・曲名など、様々な情報を表示しつつ、操作が可能となる。昨年のWinHECでもデモが行なわれていたが、今回のCESでは、より製品に近く、実際にWMCと連携して動作するものが展示されていた。

 こういった細かなハードウエアのサポートにより、XPの時代とは違ったパソコンが実現される可能性が高まることが、Vistaの最大のメリット、といえる。

 とするならば、すでにXPで動いているPCにとって、Vistaの価値は微妙、といえるかも知れない。前出のように、現時点では、次世代ディスクを再生する場合であっても、XP搭載機とVista搭載機の差は微妙なものとなっている。

 PCユーザーにとっては、「新OSに乗り換えるか否か」は頭の痛い問題だ。しかし、パソコンにおいても、既にOSは「ハードに組みこまれて買う」ものであり、単体で入れ替えても価値を100%発揮しえない。新OSに乗り換えるか否かで迷う必要はない時代になった。Vistaの姿は、そんな現状をあらわしているといえそうだ。


□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
□Windows Vistaのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/windowsvista/
□関連記事
【1月26日】Vistaで大激変! 「日本のテレビパソコン」
-各社WMC採用も、ソニーやNECなど作り込みに違い
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070126/rt025.htm
【2006年10月20日】【RT】マイクロソフトに聞く「Vistaの次世代DVD対応」
-XPとの違いはPMP対応。Xbox用HD DVDのPC転用不可?
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061020/rt014.htm

(2007年2月1日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、「ウルトラONE」(宝島社)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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