■ まだ衝動買いは難しい次世代DVD
反面、Blu-ray DiscビデオとHD DVDビデオは、映画の場合4,980円がほとんど。ワーナーの作品が1,000円安くて3,980円といった状況。「少し前のDVDビデオと同じ」と言えばその通りで、価格に見合う画質/音質が入っているのはわかっているが、DVDと比べると、まだまだ「衝動買いできるレベル」とは言い難いだろう。 そうなると、ハズレを引くのが怖くなり、ついつい守り入った購入をしてしまう。既にDVDなどで内容を知っていて、自分が好きな、気に入っている作品のBD/HD DVD版ばかり買ってしまいがちだ。そんな気持ちを反映してか、各メーカーが発表するBD/HD DVDタイトルも旧作が多い。確かに安心感があって良いのだが、やはり最高の画質/音質で、見たことのない映画に胸を躍らせたいものだ。 そういう意味でも、新作映画のBD/HD DVD化がアナウンスされると嬉しい。今回取り上げる「16ブロック」も、日本では2006年10月に公開されたばかりの新作だ。BDビデオ版の価格は4,980円。 映画館で見ていない作品だが、購入を決めたのは個人的に好きな俳優である、ブルース・ウイリスが出ていること。ダイ・ハードシリーズを皮切りに、彼の出演しているアクション映画は大抵DVDでフォローしており、「ティアーズ・オブ・ザ・サン」のBDビデオ版も購入済みだ。 美形というわけでもないが、どこか憎めないキャラクターが特徴の俳優だ。彼の演技で気に入っているのは銃の撃ち方。日常の演技が上手な俳優でも、銃撃戦をやらせると腰が引けている人がいるが、ブルースの撃ち方は生っぽくて痺れる。敵が行く手を阻むと、「またかよ」という、ちょっとめんどくさそうな顔をしながら銃を構えるところが良い。それでいて、打つ瞬間はグッと脇をしめて、素早くダブルタップ(2連射)をキメる。あんまり命中しないところもお気に入りだ。 ダイ・ハードシリーズのイメージが強いため、「昔は凄腕だったが、今は落ちぶれた刑事」とか、「昔は軍の特殊部隊にいたが、今は飲んだくれのタクシー運転手」みたいな役が多い。“ウダウダ言いながらも、やる時はやる”といった感じで、個人的には“銃の撃ち方でよく役柄を表している”と評価している。
発売日は2月2日。休日の4日に新宿のヨドバシカメラに出かけたところ、BDビデオコーナーには陳列が無し。「おかしいな」と思いながらレジの近くの新作コーナーに行くと、特設コーナーが設けられ、DVD版が大量展示されている片隅にBD版も置かれていた。新作の場合はBDビデオコーナーに無い場合、DVD売り場もチェックしたほうが良さそうだ。
■ 16ブロックってどのくらい? 主人公のジャック・モーズリーはニューヨーク市警の刑事。年老いて腹の出た、しょぼくれた男で、酒浸りの日々。朝から酒の臭いをプンプンさせて、出勤しても廊下ですれ違う刑事達に鼻をつままれるしまつ。おまけに足も悪い。ある日、夜勤明けの彼は、急な仕事を頼まれる。それは16ブロック(区画)先の裁判所に、事件の証人であり、仮釈放中の囚人・エディを送り届けるというものだった。 16ブロックは車ですぐの、目と鼻の先。簡単な任務のはずだった。だが、ジャックとエディは移動中、突然銃を持った男達に襲撃される。なんとかピンチを脱し、ジャックの元相棒のフランク刑事達が応援に駆けつける。事なきを得たと思われたが、ジャックはフランク達の行動に不審感を抱く。実は、襲撃の黒幕はフランクであり、証人のエディが目撃したのは、刑事が捜査を逸脱し、暴力的な行為におよぶ現場だったのだ。 証言もろともエディを抹殺しようとするフランク達。法廷での証言開始まで、残された時間は118分。2人は裁判所に辿り着けるのか? ニューヨーク市警を敵にまわした刑事と囚人の、壮絶なサバイバル・バトルが幕を開ける。 なんというか、いろいろな映画の設定を組み合わせたようなストーリーだ。ジャック・モーズリーの設定はブルース・ウィリスが演じるキャラクターによくあるものだし、「実は警察の偉い人が黒幕だったのだ!!」というシナリオもありがちだ。鑑賞直後から「ラストはブルースが頑張って裁判所まで送り届けてハッピーエンドなんだろ」と先が予測できてしまうのだが、嬉しいことにこの予測は綺麗に外れる。 もちろん本筋は「囚人を護送できるのか?」であり、期待通りのカーチェイスあり、銃撃戦ありのアクションが展開する。だが、映画の中心にあるのは「人生は長すぎる」と語る夢も希望もない刑事と、夢だけはデッカイ、明るい囚人が織りなすヒューマンドラマだ。 ブルース自身がダイ・ハードの時より老いたというのもあるが、彼が演じるジャックという刑事は見ていて気の毒になるほどしょぼくれている。対して、囚人のエディは口先だけで世の中を渡って来たような男で、二日酔いのジャックに「こんな話を知ってるか?」とか「このゴタゴタが終わったら妹のところに行ってケーキ屋をやるんだ」など、ベラベラとまくしたてる。うるさい男なのだが、根が素直なので憎めない、独特のキャラクターだ。 2人の性格の対比が強烈。そして、逃亡劇の中、互いに影響を与え、変化していくところが面白い。そしてラストのどんでん返しで圧倒されているところに、静かな感動がわき上がってくる。女性がほとんど登場しない渋い映画だが、ヒューマンドラマとしても十分通用する良い作品だ。ちなみに、エディを演じているモス・デフは、もともとヒップホップのミュージシャンとして成功した人物。言葉遊びはお手の物というわけだ。 内容的には申し分ない映画だが、いくつか気になる点もある。それはタイトルにもある「16ブロック」の具体的な距離感が、いまいちつかみずらいということ。ニューヨークではアベニューとストリートに囲まれたエリアを「ブロック」と呼ぶそうだが、1ブロックは約80~100mで、16ブロックでは約1.3~1.6km程度の距離だという。東京で例えると、東京駅から新橋、編集部がある市ヶ谷から水道橋くらいだろうか。 いずれにしても、「裁判所まであと少し!」と言われてもニューヨークに住んでいないとピンとこず、ドキドキ感に拍車がかからない。ドラマ「24」の時刻表示のように、シーンの切り替わりに「今ここです」と言うような地図が表示されたり、BDビデオ版ならばインタラクティブ機能で現在の主人公達がいる場所のミニマップが画面に表示されるなどの工夫があってもよかっただろう。
■ リニアPCMが聴きどころ ディスクは片面1層。映像フォーマットはMPEG-2で、1080p収録。ビットレートは20Mbpsを中心に、下は18Mbps程度、上は25Mbps程度で推移する。素早く画面が切り替わるアクションシーンや、カメラが激しくぶれるシーンでも、像が崩れたりブロックノイズが出ることはない。群衆の中を逃げるようなシーンの多い作品だが、街中の1人1人の顔までクッキリ判別できるフルHD解像度の威力を改めて見せつけられる。 フィルムグレインは控えめで、暗いシーンでないとザラつきを感じることもない。個性的なのは色調で、全体的に色が抜けたような派手さを抑えた色作り。若干青味が強く、ジャック刑事の顔色が、よけいに青白く見える。 色調は解像感の向上に一役買っており、ブルースの無精髭の1本1本まで見えそうだ。だが、結果としてコントラストが低く感じられる場面もあるので、気になる場合はプロジェクタ/テレビ側で「シネマモード」などを選び、色味に派手さと、コントラストの強調を行なうことで対処できるだろう。 音声は英語をドルビーデジタル5.1chとリニアPCM 5.1chの2種類、日本語はドルビーデジタル5.1chで収めている。ビットレートは英語のドルビーデジタル5.1chが48kHzで448kbps、日本語が48kHzの640kbpsで、日本語の方がビットレートが高いのが面白い。英語のリニアPCMは48kHzで4.6Mbpsだ。 ドルビーデジタルからリニアPCMに切り替えた時の劇的な音質の変化は、このソフトにも当てはまる。日常の会話シーンも、部屋に響く残響音の情報量の差が大きく、映像への没入感に違いが出る。リニアPCMで聴く銃撃戦は別次元で、銃の発射音の細かさ、怒号やアップテンポなBGMの音圧もPCMが圧勝。リニアPCM 5.1chを受けられるAVアンプが無くとも、この音質ならば2chでもドルビーデジタル5.1chと十分勝負できる。 特典は「インタビュー集」と「もうひとつのエンディング」、「予告編」の3つとシンプル。インタビュー集はブルース・ウィリスやリチャード・ドナー監督らが作品やキャラクターについて語るものだが、こちらもシンプルな内容。「脚本のねらいは?」、「演じる役柄について」などの質問に、各スタッフが1分程度答える映像がまとめられている。必要十分ではあるのだが、メイキング映像も盛り込むなど、もう少し豪華さが欲しいところだ。 また、気になったのは準主役とも言っていいエディ役、モス・デフのインタビューが無いこと。ほかの共演者はインタビューで「彼はまさに詩人だよ、口を開けば言葉があふれ出して、一緒にいると楽しい」とか、ブルースに至っては「モスに僕が電話をして一緒に仕事をしたいと言ったんだ。彼は予想すらしていなかったようで驚いていたよ」と、彼の事を色々話しているのだが、肝心の本人がまったく登場しない。何かインタビューできなかった理由でもあるのだろうか? 彼の演技は非常に特徴的だったので、その裏側が知りたいと思ったのだが、残念だ。
■ 価格にバリエーションが欲しい ダイ・ハードのようなド派手なアクションを期待して購入すると肩透かしを食らうかもしれないが、ヒューマンドラマとして奥深さもあるので、鑑賞後の満足感は高い。「山椒は小粒でピリリと辛い」的な、渋い大人のためのエンターテイメントだ。
そのため、CGを多用した大作映画と同列の4,980円という価格には若干の割高感を覚える。もう少し価格を抑えて、多くの人に気軽に観て欲しい作品だ。また、シンプルな特典にも不満を感じたので、低価格な通常版と、特典満載の特別版といった2タイプでの発売をして欲しかった。次世代DVDでもDVDと同様に、価格にバリエーションが出て欲しいところだ。
□SPEのホームページ
(2007年2月13日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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