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第236回:HD品質で描かれる「不思議の国・日本」
「ワイルドスピードX3 TOKYO DRIFT」

 「買っとけ! DVD」として連載を続けてきた本コーナーですが、HD DVDやBlu-rayタイトルのリリースが開始されたこともあり、今後は、紹介するタイトルをDVDだけではなく、HD DVDやBlu-rayタイトルにも広げます。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! HD DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 コーナーのコンセプトは従来から変更なく、編集スタッフ各自が実際に購入したソフトを、思い入れたっぷりに紹介します。「Blu-ray/HD DVD発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 人気シリーズ最新作は「日本でドリフト」

ワイルドスピードX3 TOKYO DRIFT

価格:4,980円
発売日:2007年2月15日
品番:UNSH-43267
収録時間:約104分(本編)
画面サイズ:シネマスコープサイズ
映像フォーマット:VC-1/1080p
音声:英語(ドルビーデジタル・プラス 5.1ch)
     日本語(ドルビーデジタル・プラス 5.1ch)
字幕:日本語/英語
発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン

 2007年に入り発売された「キング・コング」以降、HD DVDの新作リリースも若干ペースが落ち気味。そんな中、2月15日に発売された大注目タイトルが「ワイルドスピードX3 TOKYO DRIFT」だ。

 「ワイルド・スピード」は、米国の若者達に支持されているストリート・カーレースを題材としたシリーズ。様々なチューンナップや改造をほどこしたカスタム・カーが登場。ニトロによる加速で時速300kmに近いスピードで疾走するなど、迫力のある映像/音声が特徴。

 第3作目となる「TOKYO DRIFT」は舞台を東京に移し、渋谷駅前の交差点などで派手なカーレースを展開。日本では撮影が不可能なシーンは、ロサンゼルスにセットを組み、CGなども活用して渋谷の街を再現するなど、日本在住者としては、シリーズの中でも最注目作品といえる。

 といいながら、個人的には一度もシリーズ旧作を見ていないのだが、昨夏にTOKYO DRIFTの予告編を見てからその日本描写のユニークさに是非とも見たいと思っていた。また、音質、画質はもとより、新たなインタラクティブ機能を搭載していることから、北米や日本のHD DVD関連イベントでも、デモディスクとして利用されており、その機能にも注目していた。

 特にUniversal製タイトル独自のインタラクティブ機能「U-CONTROL」は、キング・コングの日本版では省かれてたが、TOKYO DRIFTではきちんと収録されている。機能面でも要チェックのタイトルといえるだろう。

 価格は4,980円とHD DVDタイトルとしては標準的。なお、北米版では片面DVDと片面HD DVDのコンボディスクとなっているが、日本版はHD DVD層のみとなっている。コンボディスクの場合レーベル印刷はできないが、DVDとHD DVDが1枚のディスクで見られると言う点は個人的には大きなメリットと感じる。日本でもコンボディスクを投入して欲しいのだが……。


■ 「不思議の国・日本」が描かれるドリフト映画

 ハイスクールに通うショーン(ルーカス・ブラック)は、普段はおとなしいものの車に乗ると手の付けられない暴走少年。少年院送りを逃れるため、軍人の父が住む東京に移住を決める。

 日本に溶け込み、“普通”の高校生活を送ろうとするショーン。しかし、留学生のトゥインキー(BOWWOW)に連れられて行ったパーティが、ショーンの暴走癖を呼び覚ましてしまう。パーティは、パラパラとヒップ・ホップが爆音で鳴り響き、やたらとカラフルな若者が、おのおののチューンした車を持ち寄り、騒ぎ回る。その中にはショーンが恋心を寄せる同級生ニーナ(ナタリー・ケリー)もいた。

 パーティのハイライトはカスタムカーによるレース。タイヤのグリップを失いながら、スライドしてターンする、いわゆるドリフト走行に暴走少年ショーンの血はたぎる。かくして、そんなパーティのさなか、ニーナとの楽しいひとときを阻んだのが、パーティの顔役でヤクザの息子でもあるドリフト・キングこと「D.K」(ブライアン・ティー)だった……。

 “ソトモノ”のショーンに挑発され、ドリフト・レースを受けるD.K。当然のごとくコテンパンにたたきのめされるショーンだが、同時にドリフトの奥深さに根っからのレース好きの血が疼き出す。

 と、ストーリーだけ追うと、求道的なレース映画かと思われるかもしれない。もちろん、ド派手な音響と映像美は大きな見所ではあるが、日本の風景、文化の描かれ方も注目したい。特に日本に暮らす多くの人にとっては、「外国人の視点」が楽しめる映画といえるかもしれない。

 ショーンの父の家がやたらとノスタルジックな日本家屋というのをはじめ、煌びやかな渋谷や新宿の町並みが繰り返し登場。なんというか、中国を訪れたことがない日本人が、「中国って自転車だらけなんでしょ? 」とかコメントするがごとく、ステレオタイプな日本像が描かれる。

 ヤクザの描写も謎の東洋人といった趣きで、思わず笑みがこぼれるようなばかばかしさにあふれている。DKの片腕で、やり手のハン(サン・カン)に金の取り立てを命令されたショーンが銭湯に乗り込むシーンでは、たどたどしい日本語で全身に入れ墨を入れた小錦に声をかけ、そのまま叩き出されるなど、正直わけがわからないのだが、妙におかしい。

 さらに、高校への初登校時に、先生役の柴田理恵に「上履き履きなさい。ウワバキ」と日本語で説教され、「ウ・ワ・バ・キ」と繰り返すショーンの姿には爆笑してしまった。

 パーティの模様もヒップホップやパラパラあり、ロック系、パンク系とごった煮で、その中心に車があるという訳がわからない状態。基本的に同じスタイルを指向する人が集まるからパーティが成り立つのだと思うが、渋谷と原宿と、新宿のユニークな人々を抽出して、まとめあげて「東京のパーティはこれ」という形で提示しているような描写だ。日本人としては全くリアリティが無いのだが、見ているうちにそれが妙に面白くなってくる。

 また、レイコ役の北川景子など日本人キャストもいるが、主要な俳優陣はアジア系でも日本語は話せない。そのため、日本が舞台とはいえ、出演者の日本語はかなりおぼつかない。「日本語のことわざ、“出る杭は打たれる”」と字幕はなっているのだが、何度も繰り返し聞かないと正直わからない。

 「外国人の視点」で日本が描かれているため、このあたりを楽しめるか、それとも不愉快に感じるか、は人それぞれだろう。楽しめる人にとっては、非常に見所の多く、笑える作品で、個人的には非常に楽しめた。

 こうした勘違いがある一方、スピード違反を取り締まるパトカーに対し、兄貴役のハンが「彼らは180km以上は追えない。だから追ってこない」と語ると、ショーンは「この国が好きになった……」と応えるなど、鋭い批評/皮肉が入り交じっているところが侮れない。

 監督のコメンタリや特典映像でもかなり楽しめるので、「変な日本描写好き」には画質も、描写も最高レベルのディスクとして推薦できる。そもそも、ショーンが全く高校生には見えない、という点も最初につっこんでおきたいところだが……。

 なお、予告編では、「GO!」と勇ましくスタートコールする妻夫木聡の映像が流れているが、基本的にはスタートだけの完全カメオ出演。つまり、妻夫木ファンは基本的に予告編だけ見ておけばOKだ。また、ドリキンこと土屋圭市が釣りのおじさんという超ちょい役でカメオ出演しているのも見所だ。


■ 画質/音質に満足。ユニークなインタラクティブ機能も

 最新のハイビジョンディスクとあって、画質については全く文句なし。オープニング部などフィルム収録の部分は、グレインが確認できるが、ソースに起因しないノイズや歪みは全く感じない。カーレースのシーンの多くでCGが使われているのだが、状況的にどう考えてもCGながら、CGと実写の区別はほとんどできず、ネオンや看板を反射した車体の艶や煌めきが映像に鮮鋭な印象を残す。

 渋谷の町並みや、けばけばしいネオンサイン、暗闇に光るテールランプなど、とにかく印象的かつ圧縮の難しそうな光源が多数あるのだが、画質面でどうこういうようなことがない。高クオリティなディスクだ。

 音声はドルビーデジタル・プラスを5.1chで収録。TrueHDなどのロスレスコーデックは採用していないが、分厚い迫力ある音声が体験できる。聞き所はやはりレースシーン。オープニングのクラッシュや、D.Kとの最初のレース、ドリフトの練習、ハンとD.Kのバトルなど激しい移動感が楽しめるシーンが多い。誇張を効かせた音場が「ドリフト」という本作の題材にしっかりマッチする。サブウーファもかなりのレベルで低音が出るので、深夜の視聴には気をつけたい。

 本編ディスク1枚組ながら、特典も盛りだくさん。まとまったメイキングはないが、ジャスティン・リン監督による本編音声解説が収録されている。本編に沿いながら詳細な解説を聞けるのだが、もう少しまとめたコンテンツも見たいところ。

 また、Universal製ディスク特有のインタラクティブ機能「U-CONTROL」も備えている。リモコンの4つのキーを利用して、PinP(2画面表示)が行なえ、ストーリーボード、GPS、プロダクション・フォトギャラリーなどを子画面で確認できる。

 PinPはU-CONTROLをONにしておけばいつでも呼び出し可能。子画面のサイズ変更は行なえない。GPSはシーンにあわせてその移動地点の地図をPinPで表示してくれる。ストーリーボードは、シーンのベースとなる絵コンテをPinPで確認できるというもので、なかなか面白い。

 また、新しい車が登場するとそのスペックが確認できるほか、クラッシュシーンでも修理代の見積もりが確認できるなど、非常にユニークなコンテンツ。新しい世代のメディアを使っている、という印象を強く残す。

 これらは、特定のシーンまで来ると画面右脇に表示されるU-CONTROL画面で通知され、視聴できる。ただし、特典が入っているシーンを直接呼び出すことはできず、特典収録シーンでU-CONTROLで通知されるまで、どんな特典がどこに入っているのか確認できないので、見ている間中、U-CONTROLの動きを注視していなければ行けないのが、ちょっと面倒だ。

 なお、北米版で備えていたブックマーク機能は省かれている。重宝する機能なので、省略されたのは残念だ。また、U-CONTROLの説明書などは入っておらず、特典のメニューから説明ムービーが呼び出せるが、「リモコンのAボタンを押す」以外の説明が無く、操作方法を理解するまで時間がかかった。

 「カスタムメイド・ドリフター」は、本編の1シーンでハンが運転する車のカラーやホイールデザインなどを変更して、楽しめる。カラーが3色、ホイールが2タイプ、デザインが2タイプとバリエーションは少ないが、本編とは違うカラー/デザインの車が、本編と全く同じシーンで動く様子を楽しめる。CG制作技術の進歩を感じさせるコンテンツだ。

 そのほか、「ドリフトの世界」、「未公開シーン」、「本物のドリフト・キング」、「ドリフトの練習」、「日本での撮影」、「オフショット」、「ミュージック・ビデオ」、「撮影の裏側:ハンの最期」などの特典を収録。ただし、これはSDかつアスペクト比4:3で収録されており、ワイドテレビで見ると本編はシネスコのため上下に黒帯が付いているほか、テレビの左右にも帯が付いてしまう。できれば、特典もHDで収録して欲しいところだ。

 「ドリフトの世界」ではドリフトの誕生などの歴史を紹介。また、「本物のドリフト・キング」では、土屋圭市をフィーチャー。スタッフらがオリジネーターとしての土屋を褒め称える。実際の撮影にも参加しているのだが、「初心者という設定なので、もっとへたくそに、とにかく下手にしてくれ」などと指示されていて、少々かわいそうな気も……。

 ドリフトの練習では、グリーンスクリーンを前に車の運転を行なうショーンらが登場。基本的に渋谷でのレースなど、多くのシーンではCGを積極的に利用しているのだが、本編で実写とCGの差を感じることはほとんどない。CGのため、いかに運転している風に見せられるかに苦心しているが、使われたCG技術についての解説が少ないのが寂しい。

 また、未公開シーンでは、カットされたシーンが監督により解説される。面白かったのは、車の給油シーン。曰く「BOWWOW演じるトゥインクはバイリンガルという設定なので、(本編に)入れたかった。彼は非常に日本語の飲み込みが良かった。先生も驚いていたよ」と語る。しかし、そのシーンを見ると「おい、炭酸どうしたんだよ? 飲めよ!」とう台詞らしいが、英語字幕を見なければ何を言っているか全くわからなかった。監督の意図としては、外して正解とも思うが、妙におかしくて個人的にはお気に入りの特典だ。


■ HD DVDのリファレンスディスクとして買い

 画質や音質はもちろんだが、内容的にも楽しめる人には十二分に楽しめる映画だ。個人的にはとても面白かったし、外国人からみたステレオタイプな日本像は非常に新鮮。日本人から見ても異国情緒たっぷりなユニークな街が描かれている。

 ただ、人によっては「日本がバカにされている」と感じてしまうかもしれないので、その辺りで本作の評価が正反対に分かれそうだ。価格は4,980円とHD DVDディスクとしては標準的。できれば3,000円台で購入したいところだが、画質/音質のクオリティは高く、特典や新機能も盛りだくさん。最新のHD DVDのリファレンスディスクの1枚ともいえる作品だ。HD DVDプレーヤーを持っていれば文句なしに買いのディスクといえる。

●このHD DVDビデオについて
 購入済み
 買いたくなった
 買う気はない

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総投票数406票
購入済み
86票
31%
買いたくなった
201票
49%
買う気はない
119票
29%

□ユニバーサルのホームページ
http://www.universalpictures.jp/
□製品情報
http://www.universalpictures.jp/wildspeed3/catalog_item_sell.html?#2822
□関連記事
【1月24日】ユニバーサル、HD DVD「ワイルド・スピード」3作品の発売日決定
-2月15日発売。PinPなどインタラクティブ機能を活用
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070124/upj.htm

(2007年2月27日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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