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第283回:CDをDSD変換し高音質化するVAIOの再生ソフト
〜 CPUフルパワーを再生に投入「DSD Direct Player」 〜



 5月17日からVAIOの2007年夏モデルが順次発売されているが、その中の高機能機種には、「DSD Direct Player」というソフトが搭載されている。

 これは、単なるCDプレーヤーソフトではあるのだが、音を出す過程で一旦DSDに変換しているのが最大の特徴となっている。しかし、Intel Core2 Duo 2GHzのCPUを搭載したマシンで、CDだけを再生するのにフルパワーを要するという。多くの人から見ればナンセンスにも見える、DSD Direct Playerを実際にどんなものなのかを試した。


■ DSD Direct 2.0での変換は実時間以下に

 これまでDSDについていろいろと見てきたが、その音質の良さはSACDを聴いてみればよく分かるはずだ。しかし、現状SACDのタイトル数はまだまだ少なく、それ以外のDSDのデータなど、自分で録音したものを除けば、皆無に近いというのが実情だろう。しかし、DSDでレコーディングしたデータだけでなく、PCMのソースをDSDに変換したものでも、結構楽しめる。

DSD Direct

 CDなどのPCMをうまくDSD変換させることで、CDを直接再生するよりも音質を向上させられる。といってもPCMをDSDへ変換するのは画一的なものではない。どう変換するかによって、その音質は大きく変わってくるのだが、そもそもそうしたツールとしては、ソニーのDSD DirectとKORGのAudioGateくらいしか存在しない。とくにその音質面に力を入れているのがDSD Directだ。

 以前、ソニーに話を聞いた際、「DSD DirectではPCMの信号を30,000タップのFIRフィルタで高精度演算し、そのままDSD信号にすることにより、情報の欠落を極小におさえています。これにより、もともとPCMの持つ表現力が最大限に発揮された状態でDSDファイルに変換されます」という答えが返ってきた。通常、CDなどのPCMを再生する場合は、DACの補間フィルタを通すため、どうしても音質が落ちてしまうが、そのDACを通さずCPUの演算によって極力音質の劣化を防ぐことができるのだ。

 もっとも従来のDSD Directは、変換時間がCDの実時間の3〜5倍程度もかかっていたため、敬遠されがちだった。しかし、ソニーはそれを改善させるアプローチをいくつか打ち出した。

 まず、一つ目は変換速度の高速化だ。今年1月30日以降に登場したWindows Vista搭載モデルのすべての機種にはDSD Directの新バージョン「DSD Direct Version 2.0」が搭載されている(春モデルのみダウンロードで提供)。この新バージョンでは、変換結果を以前のバージョンとまったく同じに保ちながら、アルゴリズムなどを見直したことで、実時間以下で変換できるようになったのだ。もちろん、CPUの高速化も大きな要素だが、やはり実時間以下となれば、変換のためのストレスもだいぶ軽減される。またDSD Direct自体にCDのリッピング機能やGracenote CDDBからの曲情報取得機能も搭載されている。

 試しに、手元にあるCore2 Duo T7200(2GHz)を搭載し、メモリ1GBのVAIOノート Type Aで試してみたところ、実時間の約90%の時間で変換することができた。ちなみに、CDから変換する場合、自動的にまずWAVファイルでリッピングされ、その後、リッピング作業と並行する形で、リッピングされたものから順にDSD変換されるようだった。

 また、初期バージョンにはなかった機能として、このDSD Directで直接DSDディスクのライティングも可能になった。以前にも紹介したとおり、DSDディスクは、SoundReality搭載のVAIOシリーズのほか、PLAYSTATION 3でも再生が可能で、今後まだ対応機種は増えていく模様。一度このDSDディスクに焼いてしまえば、もうDSD変換の必要はないので、CPU負荷を気にすることなく高音質再生が可能になるというわけだ。

メモリ1GBのVAIOノート Type Aでは実時間の約90%で変換できた CDから変換する場合、まずWAVでリッピングされ、並行で順にDSDへ変換されるようだ DSDディスクのライティングも可能に



■ UIは高級オーディオをイメージ。CPUには高負荷

DSD Direct Player

 さて、DSD Directで実時間以下のPCM-DSD変換が可能になると、当然アイディアとして思い浮かべるのは、CDのDSDを経由したリアルタイム再生。それを実現したのが、先日登場した、VAIOの2007年夏モデルに搭載されたDSD Direct Playerだ。冒頭でも触れたとおり、これはCPUに対して非常に負荷がかかることもあって、VAIO全機種にプリインストールされているわけではない。

 具体的には、店頭販売モデルとして「VGC-LA83DB」および、VAIO オーナーメードモデルでCPUにIntel Core 2 Duo 2GHz以上を選択した「VGC-RM92US/S」、「VGC-LA93S」、の2種類に限られる。


起動すると、他アプリケーションを落とすようにメッセージが出る

 起動すると、まずDSD Direct Playerが高負荷なので、他のアプリケーションを終了するようにとのメッセージが表示される。その後、全画面表示されるのだが、これがまたマニアックなユーザーインターフェイスなのだ。ソニーのデザイナーが高級オーディオ機器をイメージしてデザインしたというが、その細部にこだわりが見られる。液晶風表示部分の左側に光が当たっているような演出をしていたり、何よりもボリューム部分が凝っている。これは実際に触ってみないとなかなか分かりにくいが、重めのボリュームツマミであることをうまく演出しているのだ。

 ただし、機能そのものは、あまりにもシンプル。表示はトラック番号と経過時間のみで、PCのミュージックプレーヤーでは常識となっているCD情報取得機能も曲名表示機能も一切ない。当然、イコライザやエフェクトの設定もなにもなく、TREBLE、BASSといったパラメータもない、とてもさっぱりしたプレーヤーなのだ。ただし、リモコン対応機種の場合、リモコンでの操作も可能となっている。

 なお、このDSD Direct Playerで再生できるのはCDだけでなく、WAVファイルも可能。WAVファイルは16bit/44.1kHzおよび24bit/44.1kHzのデータに対応しているとのことだが、当然MP3やATRAC、AAC、WMAなどの圧縮データには対応していない。ただ今回試した限りでは、なぜかWindows Media Player11でWAVリッピングしたデータを再生することができなかった。とくにDRMが効いているわけではないし、SonicStageなどでは問題なく再生できたのだが……。

 実際、CDを使って再生してみると、DSD Direct Playerだけ再生していれば問題ないが、他のアプリケーションを起動するなど、別の負荷がかかると、すぐに音が途切れてしまう。試しに、タスクマネジャーでCPU負荷を確認してみると常に94〜97%の負荷がかかっている。

Windows Media Player11でWAVリッピングしたデータが再生できなかった タスクマネジャーでCPU負荷を見ると90%以上に



■ 他ソフトに比べ音質の変化は明らか

内蔵スピーカー

 では、肝心の音はというと、これが結構面白い。当初VAIOノートType Aの内蔵スピーカーで鳴らしていたので、こんなもので違いは分かるまいと思っていたのだが、Windows Media Player11やSonicStageでCDを再生するのと明らかに音が違う。こんなちっぽけなスピーカーなのに、解像度がよくなり、音像がクッキリとするのだ。

 とはいえ、DSD本来の音の良さが発揮できないのは確か。そこで、VAIOノートTypeAに搭載されているステレオミニジャックを利用して外部スピーカーへ接続してみた。10W+10Wという小さいアクティブスピーカーだが、手元にあったEDIROLのMA-10Dで鳴らしてみたところ、結構いい音で鳴る。

 試しにS/PDIFのオプティカル出力をMA-10Dに接続して、DSD Direct Playerを鳴らしてみたが、当然のことながら、音は出なかった。そこで、今度はWindowsの標準オーディオ出力先をS/PDIFに切り替えた上で、Windows Media Player11で再生して、MA-10Dを鳴らしてみた。これと先ほどのDSD Direct Playerでのアナログ出力を比較すると、微妙に音は違うが、ニュアンスの問題で甲乙つけがたいといったところ。アナログ出力がもう少ししっかりしたものを使っていたら、DSD Direct Playerの音が勝ったかもしれない。

ステレオミニで外部スピーカーへ接続 EDIROLのMA-10Dで再生

 せっかく、これだけのプレーヤーを搭載するのなら、オーディオ出力部分をもう少し改善してくれると、まさに高級オーディオ機器として使えるかもしれない。現在のところ、DSD Direct PlayerとRCAピンジャック出力の両方を搭載した機種が残念なことに存在しないので、今後の展開に期待したいところだ。

 今回は、VAIOの新モデルに搭載されているDSD DirectおよびDSD Direct Playerに絞って紹介してたが、特にDSD Direct Playerなど人によっては存在する意味が理解できないかもしれないソフトだが、ソニーらしい、VAIOらしいこだわった面白いソフトとして個人的にはとても好感が持てた。機会があったら、ぜひ音の違いを試して欲しい。


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース(VAIO 2007年夏モデル)
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200705/07-0517/
□製品情報
http://www.vaio.sony.co.jp/Products/Solution/DSDdirect/
□関連記事
【5月17日】ソニー、VAIO「type R」に「DSD Direct Player」を搭載
−音楽CDをリアルタイムDSD再生。夏モデル情報も
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070517/sony.htm

(2007年5月28日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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