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第284回:音質にこだわったデジタルミキサー「ヤマハ nシリーズ」
~ Cubase AI 4をバンドル。入門機「MWシリーズ」も ~



 5月29日、東京・渋谷でYAMAHAの記者発表会が行なわれ、USBおよびFireWireでPCと接続してレコーディングするための機材が発表された。初心者向けのUSBミキシングスタジオ「MWシリーズ」4モデルと、ハイエンドユーザ向けのデジタルミキシングスタジオ「nシリーズ」2モデルの計6モデル。

 ともに発売は6月25日なので、実際の使用感などは、実機が入手でき次第紹介するが、今回はそれぞれの概要と、マーケティング担当者に開発コンセプトなどを伺ったので、その内容を紹介しよう。


■ USBインターフェイスなどを追加したエントリーモデル「MWシリーズ」

 まずは、USBミキシングスタジオ、「MWシリーズ」から見ていこう。これは、以前にも紹介した「MW12」および「MW10」の後継機で、「MW12CX」、「MW12C」、「MW8CX」、「MW10C」の4モデル。いずれもオープンプライスだが、実売価格はMW12CXが40,000円前後、MW12Cが34,000円前後、MW8CXが29,000円前後、MW10Cが23,000円前後と非常に安価。型番の数字がアナログの入力チャンネル数を表している。

 すぐに気づいた人もいると思うが、4モデルの形状は、それぞれYAMAHAのアナログミキサー「MG124CX」、「MG124C」、「MG82CX」、「MG10C」とまったく同じで色違いとなっている。


MW12CX(左)、MW8CX(右) MW12C MW10C

 基本的な考え方は前モデルを踏襲しており、アナログミキサー「MGシリーズ」にUSB 1.1のオーディオインターフェイス機能を追加したものだ。ただし、前モデルと比較すると、さまざまな点で強化が図られている。

 まずはエフェクト機能。4モデルすべてにCの文字が入っているが、これはコンプレッサを表しており、すべてにコンプレッサが搭載されている。なかなか賢いコンプレッサで、1ノブだけでコントロールが可能となっているため、初心者でも難なく使いこなすことができる。

 一方、Xの文字はSPXから来ているようで、マルチエフェクトを意味している。具体的には「MG124CX」および「MG82CX」にマルチエフェクトが搭載されており、SPX系のエフェクト16種類が利用できるようになっている。これらエフェクト機能は、MGシリーズのアナログミキサーのものをそのまま引き継いでいる。

 一方、前モデルにも、MGシリーズにもないのがRECボタン。これをオンに設定したチャンネルのみがステレオミックスされて、PCへと流れていく。録音不要な入力を簡単に切り離すことができるので、なかなか便利に使える。


バンドルソフトは「Cubase AI 4」に変更

 バンドルソフトウェアが「Cubase LE」から、「Cubase AI 4」に切り替わったのも大きなポイント。Cubase AI 4はMOTIF XSにもバンドルされた「Cubase 4」をベースにしたDAWソフト。ユーザーインターフェイスの向上はもちろんのこと、オーディオエンジンもCubase 4と同じ高性能なものになっているので音質的にも大きく向上している。ただし、MWシリーズが44.1kHzもしくは48kHzでの動作に限定されるため、ハイサンプリングレートでのレコーディングはできない。


■ 音質やCubase連携を強化したハイエンドモデル「nシリーズ」

 前述のUSBミキシングスタジオがエントリーユーザー向けの製品となっているのに対して、ハイエンドユーザー向けに登場したのがデジタルミキシングスタジオ「nシリーズ」の、「n12」と「n8」の2モデル。こちらはFireWire接続のデジタルミキサ兼オーディオインターフェイス兼フィジカルコントローラだ。


デジタルミキシングスタジオ「n12」

 YAMAHAがnシリーズにおいて、もっとも売りにしているのがその音質。とくにアナログの入力段にあるヘッドアンプに、高級オーディオ機器で使用されるインバーテッドダーリントン回路を採用したディスクリート方式のClass-Aアンプを搭載している。さらに、電源部にnシリーズ専用の電解コンデンサを特注で開発し搭載するといった力の入れようだ。


デジタルミキシングスタジオ「n8」 電源部のコンデンサは特注品

 ミキサーとしては完全なデジタルミキサーだが、シンクロなど複雑な操作が必要になるデジタル入力はあえて搭載せず、すべて外部入力はアナログとなっている。n12では1~8ch入力にXLR端子を、n8でも1~4ch入力にXLR端子を採用している。

 ヘッドアンプ以降はすべてデジタル処理されているが、まず最初に通るのがコンプレッサ。これはYAMAHA社内の開発チーム、K's LABが開発した音楽性の高いコンプレッサ回路と、新コンセプトのSweet Spot Morphing技術というものを組み合わせたSweet Spot Morphing Compressorが採用されている。A~Eの計5つの典型的なコンプレッサの設定、「Sweet Spot」をモーフィングによって連続的につないでいくというもの。

 コンプレッサ特有のThreshold、Ratioといったパラメータはなく、MorphノブとDriveノブの2つだけで操作するようになっており、感覚的にコンプレッサの設定ができるようになっている。

 さらに同じK's Labが開発したイコライザ、プロ用のリバーブとして評価の高いRev-Xも搭載されており、高品位な音作りが可能となっている。

 出力側にはAUXバスがあるが、これをコントロールルームからスタジオへ信号を送るモニター用などとしても使える。スタジオからのトークバック用の入力も用意されるなど、かなりレコーディング現場を意識した設計になっている。

 このn12およびn8にもCubase AI 4が搭載されているのだが、こちらは単にバンドルされているというのではなく、より密接な結びつきを持っている。その証拠ともいえるのが「Cubase Ready」ランプ。Cubase AI 4に限らず、Cubase 4、Cubase Studio4が接続されると、このランプが光り、ハードとソフトが深い連携をするようになっている。

 特にダイレクトモニターとVSTエフェクトを介したモニターの切替がスイッチひとつで可能。レイテンシーまったくゼロで、入力した音がそのままモニターできるモードと、入力された音をVSTエフェクトを介したウェットな音をモニターするモードがあり、その切替が一発でできてしまうのだ。また、アナログ入力とCubaseからの入力を一発で切り替えられるのも非常に便利だ。


「Cubase Ready」ランプを搭載 アナログ/Cubase入力切替などが容易に行なえる

 さらに、パネル右下にあるコントロールセクションにおいては、Cubaseのトランスポートをここからコントロールできるようになっており、チャンネルストリップのフェーダーももちろんコントロール用に使える。ただし、フェーダーはモータドライブには対応していない。

 以上がnシリーズの概要だが、全体を眺めてもうひとつ特徴的なのは、1ノブ1役割となっていること。デジタル機材ではあるが、モード切替で1つのノブに複数の役割を当てることをしていないため、アナログ感覚で利用でき、1回覚えれば戸惑うことはないという設計だ。そのため、ちょっと大きな機材とはなっているが、使いやすさの面では、かなり考えられているようだ。


■ 使い勝手と音にこだわった「MWシリーズ」、「nシリーズ」

 この発表会の翌日に、これらの製品のマーケティング担当者であり、以前にもインタビューしたことがある、ヤマハ株式会社PA・DMI事業部MP推進部マーケティンググループの主任、石川秀明氏に話を聞くことができた。(以下敬称略)

藤本:まずMWシリーズについてお伺いしたいのですが、エフェクト機能、デザイン面以外で、前モデルのMG12/MG10との違いはどんな点ですか?


PA・DMI事業部 石川秀明氏

石川:REC OUTというバスを作って、録音できるチャンネルを選択できるようにしたのが大きな違いです。またMW10CとMW8CXではREC OUTのポイントがステレオノブの前になっています。以前はステレオノブの後にあったためステレオノブを動かすと音量が変ってしまうという問題がありましたが、今回はそうした影響がないようになっています。

 また、バンドルソフトがCubase AI 4になったので、より高音質、高性能になっています。MWシリーズはNEUTRIK(ノイトリック)製の信頼性の高いジャックを採用しているので、より音質のいい制作環境を実現しています。

藤本:今回も前回と同様、ASIOドライバはバンドルされず、Webサイトからダウンロードするということですが、せっかくCubase AI 4がバンドルされるのに、なぜASIOドライバをバンドルしないのでしょうか?

石川:これも使い勝手を最優先したためです。このMWシリーズはWindowsでもMacでもドライバなしで即使うことができます。

 MIDIでソフトシンセを鳴らすといった場合には、確かにレイテンシーの低いASIOドライバが必須となりますが、単にオーディオを録音するだけならば、ダイレクトモニタリング機能があるので、レイテンシーは問題となりません。それならば、ドライバをインストールする手間を増やさず、すぐに使えるほうがいいだろうという判断です。

藤本:次にnシリーズについて、お伺いします。これは音のよさにこだわったとのことですが、具体的な数値で表せる点などありますか?

石川:ヘッドアンプ部にインバーテッドダーリントン回路を採用し、密度の濃い中音域を実現し、全体的にバランスのいい音質に仕上げています。この部分のトータルハーモニックディストーション(THD)の値を見ると0.003%以下。一般的なハイエンドレコーディング機器が0.0x%で超ハイレベルといわれていますが、それよりも桁がひとつ違います。それだけひずみの少ない音を実現しているわけです。

藤本:電源部に専用の電解コンデンサを採用したとのことですが、これはYAMAHAオリジナルの電解コンデンサなんですか?

石川:当社の中で作っているわけではないのですが、日本の電子部品メーカーであるエルナーにnシリーズ専用に新たに作ってもらったものを採用しています。そうした点からも音に対するこだわりの意気込みを感じていただけるのではないでしょうか?

藤本:nシリーズに搭載されたコンプレッサ、イコライザなどはK's Labで開発したとのことですが、K's Labというのはどんなところなのですか?

石川:ここは次世代の音源の開発を目的に開設された当社の技術開発グループで、世界初の物理モデリングシンセサイザ、VLシリーズの開発で知られる国本利文技師を中心とした浜松にある開発チームです。楽器や音響の技術要素の分野で物理モデルの研究を重ね、回路や素子レベルでのモデリングのノウハウやアルゴリズムなど、先進的なテクノロジーの開発をしています。

 最近では「MOTIF XS」の中のエフェクトや「PM1D」などのデジタルミキサーに搭載したVCMエフェクトなどもここが開発したものです。このnシリーズにおいては、「Sweet Spot Morphing Compressor」、「Musical EQ」、そして「Rev-X」がK's Labによって開発されています。

藤本:今回nシリーズに「Cubase Ready」というランプがついたのは、YAMAHAとSteinbergの協調性の象徴のように思えますが、このランプ、どうなると光るようになっているんですか?

石川:Cubase 4、Cubase Studio 4、Cubase AI 4のそれぞれには、エクステンションというプログラムへ対応する仕組みがあります。nシリーズのハードと、Cubaseというソフトをつなぐためのエクステンションがインストールされており、これが正常に動作すればCubase Readyのランプが光るようになっています。

藤本:ということは、Cubase SX3やCubase LEなど旧バージョンのCubaseではこのランプは光らない?

石川:そのとおりです。ただ、Cubase SXでも、LogicでもPerformerでも、nシリーズをオーディオインターフェイスとして、ミキサーとして、そしてフィジカルコントローラとして利用することはできます。ご自分の慣れているDAWで、nシリーズのクオリティーの高い音を実現することができるわけです。

藤本:逆にCubase AI 4やCubase 4などでしか実現できない機能とはどんなものですか?

石川:クリックのオン・オフなどをコントロールする「クリックリモート機能」、nシリーズへの入力をDAWからか、外部のアナログからかをワンタッチで切り替える「ワークモード機能」、ダイレクトモニタかCubaseを経由した音をモニタするかをワンタッチで切り替える「モニターコントロール機能」などがそうですね。

藤本:ところで、このnシリーズは、「mLAN」ではなく、FireWire対応のデバイスとなっていますが、それはどういう理由なのでしょうか?

石川:ネットワーキングが必要な機材はmLANを採用していますが、nシリーズはピアtoピアを基本としたデバイスであるため、ネットワークは不要と考えました。実際、ワークフローを考えても、他のデバイスとネットワークを組むというシチュエーションがないため、mLANではなく、挿すだけで設定が完了するFireWireを採用しました。

藤本:nシリーズと比較的似たコンセプトでmLANを採用した「01X」がありますが、これとバッティングしないのでしょうか?

石川:基本的にバッティングしないと考えています。また設計コンセプトにひとつ大きな違いもあります。O1Xはエンジニア志向の人向けの製品として作っており、すべてのパラメータをひとつずつコントロールすることができるようになっています。ソフトを使いこなして、細かいところまでコントロールしたいという志向の人に向けているのです。

 それに対してnシリーズは、ミュージシャン志向の人に向けて開発しています。ですので、細かな設定というよりも、自分の演奏をよりよい音で録音したいというニーズに応えた製品としています。それが1つのノブに1つの機能としている辺りにも現れていると思います。ですから、O1Xとnシリーズはこれからも併売していきます。


□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□ニュースリリース(MWシリーズ)
http://www.yamaha.co.jp/news/2007/07052901.html
□ニュースリリース(nシリーズ)
http://www.yamaha.co.jp/news/2007/07052902.html
□製品情報(MWシリーズ)
http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/usbaudio/mwc/index.html
□製品情報(nシリーズ)
http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/n8n12/index.html
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~ アナログミキサーなど、NAMM 2007出展製品を国内発表 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070115/dal265.htm
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~ 低価格でミキサー類充実。ASIOドライバも用意 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060220/dal224.htm

(2007年6月4日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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