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すべては「コンテンツとの出会い」のために
東芝 片岡氏に聞く「HD DVD時代」のビデオレコーダ


東芝DM社 デジタルAV事業部 DAV商品企画部 商品企画担当 グループ長 片岡秀夫氏

 HD DVD搭載レコーダの新機種である「VARDIA RD-A300/A600」の出荷が始まった。HD DVDレコーダの普及機として期待されるだけでなく、動作速度や仕様の面でも、「最新のデジタルビデオレコーダ」として、注目される製品だ。

 そんなA300/A600シリーズは、どんな背景で生み出された製品なのだろうか? 今回は、「RDの生みの親」として、ビデオレコーダに関し、様々な思想を持つ人物として、AVファンにはおなじみの東芝 デジタルメディアネットワーク社 デジタルAV事業部 DAV商品企画部 商品企画担当 グループ長 片岡秀夫氏に話を聞いた。話題は、VARDIAの思想からHD DVD規格策定の秘話、そして「メディア論」まで多岐にわたった。



■ 「HD DVD」でも「レコーダ」としての出来が優先

RD-A600

-RD-A300/A600のコンセプトは、どういうところになりますか?

片岡:レコーダとしては、HD DVDの新製品というよりも、いかにビデオレコーダとして使えるか、という観点でやっています。

 これまでは、HDDにはMPEG-2 TSのハイビジョンで録れるのに、DVDにはそのまま残せない、という状態で、ある意味、基本的な機能が不足していたともいえます。ドライブの面で、その問題をカバーしよう、ということです。この辺は、以前からのRDシリーズの基本コンセプトである、「HDDがメイン」ということから変化はありません。ハイビジョンのままのバックアップができなかったので、それを可能にする、ということです。

 だから、HD DVDになったからといって、シリーズが分かれることはないんですよ。

-ということは、初代HD DVDレコーダである、「RD-A1」とは違うわけですか。

片岡:A1と今回の新製品では、狙いが違いますね。RD-A1は、「HD DVDは規格としてこれだけの画質・音質が実現できますよ」ということを示すためのもの。セットの出力品質がしょぼかったら、規格がしょぼいと思われてしまう。規格の盟主として、最高の品質を狙う必要があったわけです。

 もちろん、、チップなど、規格が確定する前にハードウエアの準備を始める必要があるという理由もあったわけですが、だからこそ、無理に低価格化を狙わず、ちゃんとハイクオリティを目指すことができた。「HD DVDの品質」を示すために出したものです。

-ということは、RD-A300/A600が、「最新のレコーダが欲しい」人向けの製品、ということになりますか?

片岡:そうですね。逆に言えば、HD DVDにダビングをせず、DVDにしかコピーしないという方でも、おおいに使っていただきたいですね。そもそも、とにかくDVDを焼くという方以外では、ほとんどの場合HDDで足りてしまうはず。私自身、月に数度、土日にたまった番組を書き出すくらいで。

 HD DVDはあっても、まずはHDD。そこで、プラスαでパッケージメディアを見たり、デジタル放送を残したり、ということになるでしょう。HD DVDに保存できることは重要だけれど、一つの要素でしかないです。

-A300/A600の特徴として、動作速度が大幅に改善され、使いやすくなった、ということが挙げられます。そのあたりの事情はどうですか?

片岡:デジタルになった後も、RD-X6の頃は、そんなに悪くはありませんでした。遅くなってしまったのはデジタルW録の、RD-XD92Dの頃ですかね。

 ハイビジョンのデータというのは、アナログのエンコードに比べて5倍くらいの情報量があるわけです。データ消費的に見れば、同時に5番組録画しているようなものですよね。それがW録で2個、ということは、10個録っているのと同じくらいのデータがとぎれなく流れているわけです。しかもその時同時に再生したい、となると、さらに5つ分増えるわけです。

 これがパソコンならば、処理が一時的に重くなった時に、どこかを遅くしてもいいのですが、家電として見られていますから、「録画の部分が重くなって止まっていた」という状態ではダメなわけです。となると、再生を止めるしかない。GUI表示も同じ事情で、結局、動作が重くなっていくわけです。また、W録時に動作制限があったのは、「止まっちゃあ困るので、もう画面は出せない」ということで、動作を安定させるために、「動作に制限をかける」しかなかったのです。

 そういった事情も含め、「デジタルになって動作が遅く、使いづらくなった」と言われてしまったわけですが、今回の、A300/A600から採用したアーキテクチャにより、そういう部分は解消されました。

 ヘンな言い方ですが、HD DVDでハイビジョンTSをそのまま残せることと併せて考えれば、「ようやくデジタル・ハイビジョン時代にふさわしいレコーダになった」と思います。

デジタルW録時の機能改善
機種RD-A600/300RD-S600/300
(参考)
同時録画の種類TS1/TS2
録画時
REとTS2
録画時
TS1/TS2
録画時
REとTS2
録画時
DVD再生
HDD内
別タイトル再生

(TSは不可)
×
各種ナビ画面起動×
録画予約×
プレイリスト編集
チャプター編集
×
追っかけ再生
(TS1/VR or RE)
×
追っかけ再生(TS2)××
高速ダビング ×
画質指定ダビング ×
HD DVD-R
(HDVR)再生
×


■ HD DVD-RWとH.264は「時間の問題」で断念

-気になるのは、HD DVD-RWに対応しなかったこと、そして、H.264へのトランスコードに対応しなかったことです。

片岡どちらも、タイミング的に間に合いませんでした。HD DVD-RWに関しては、テストスペックがまだ確定でないので、製品が出せないんです。ドライブ的には出せるんですが、テストできないので、策定を待っていては、製品が出せなくなってしまいます。

 H.264についても、同じような事情ですね。パーツ的に、このタイミングでは間に合わなかった。もちろん、必要性はすごく認識しています。

-今回、録画時のデータ放送の扱いはどうなっていますか?

片岡:データ放送を録画しない形にしました。メリットとしては、まず、録画時間が延びます。また、データ放送を録画する場合、リモコンの操作面でも制約が多いんですよ。

新デザインのリモコンを採用。データ放送を録画しないため、見るナビ画面上でのシフトボタン操作なしに各種操作が可能となった

 実は、デジタル放送の規格上、データ放送を含む番組の再生中に、十字キー、決定キー、終了キーと、四色のボタンが「予約」されているというのは、ご存知ですか?

 データ放送で使うため、これらのキーに操作を割り当てられないのですが、この制限は、見かけ上はデータ放送の入っていない番組を再生している時でも同じことが大半なのです。透明なデータ放送が上にかぶっているような構造なんです。

 これまでのRDでは、左右のキーに1/20分割のスキップを割り当てているんですが、この制約のために、デジタル放送では、この機能が動かなかったんです。そこでシフトキーを採用し、シフトキーを併用すれば従来と同じ操作が可能になる、という構造だったんです。

 でも、今回のセットからはデータ放送をすべて取ってしまうので、シフトキー不要で自由に使えるようになります。

-設定でデータ放送を残せるようにしても良かったのでは?

片岡:確かに、設定切り替えで、データ放送を取るか取らないかを決められるようにできればベストです。ただし、録画予約の設定も増やさないといけなくなるものですから複雑になるんです。放送時にしか有効でないデータ放送も多いので、他社も含めて様子見になるかもしれません。

 ここで気になるのは、データ放送をはがした結果、どのくらいディスクへの記録時間が伸びたか、ということ。チャンネルによっても違うが、現時点では、地デジの場合で、1層のHD DVD-Rを使うと2時間15分程度。チャンネルや放送時間帯によっては、2時間20分程度になることもあるという。

 1層HD DVD-Rの場合、BSデジタルの最大ビットレートにあわせ「75分」の録画ディスクとして販売されている。しかし、地上デジタルであれば、ビットレートは15Mbps程度と低く、さらに今回データ放送を録画しないため、1層ディスクへの2時間以上の録画も実現可能としたわけだ。もちろん、放送のビットレートは、「録画してみなければわからない」ことも多いということには注意したい。


■ 番組と「出会うチャンス」を増やすのが「デジタルレコーダ」の仕事

-いまのビデオレコーダに必要とされる要素はなんだと思いますか? アナログ中心の時代とは違った要素があると思うのですが。

片岡:まず最初に挙がるのは、番組表に対するアプローチだと思います。

RD-A600/A300の番組表

 デジタル化したということは、地デジからBSデジタルと、対応すべきものが増えるということ。地上デジタルとBSだけでも、多チャンネル化しているわけで、無料放送の範囲でも20くらいあります。これは、アナログの頃に比べて明らかに多い。

 しかも、画質/音質が上がって、録りたい/残したい番組が増えています。例えば音楽番組なら、最近は単なるヒットチャートではなくて、1時間枠で少数のアーティストをピックアップして、じっくり聞かせるものが増えてます。そういうものは残したいじゃないですか。

 デジタルになることの意味というのは、高画質がお手軽に、マルチ化して見られるということなんです。そうなると何が大変になるかというと、膨大な番組の中から、自分の限られた時間の中で、番組と出会うためにどうすればいいのか、ということになります。そこに力を入れることが重要です。

 皆さん、“番組を知る”というとラテ欄を思い出されるんですが、あれは、たかだか10局くらいしか見られませんよね。番組誌もその感覚が多い。これだけチャンネルが多いと、番組誌では1日分の番組表が6ページになっても不思議じゃない。たとえば、EPGをリモコン操作で全部見ようとすると、一週間で1,500ページ以上になります。

 そうなると、EPGを単純に見て番組を探せる人はいるんだろうか、ということになってくるんです。あるいは、探す時にも「どうやって探すんだろう」という問題に行き着きます。

番組表の表示チャンネルも設定可能

 そこで、私たちがVARDIAの仕様を決める時には、なんらかの手当を用意しようと考えました。

 その一つが、「番組表一発切換」です。現在録画中/視聴中のチューナが何かに関係なく、ダイレクトに番組表を呼び出せます。他社だと、横か縦に番組表をつないで、スクロールで移動させたり、メディアごとにわかれたままだったりですが、それでは実用性が低い。以前のモデルから用意してはいたのですが、今回のリモコンには、どこを押すと番組表の対象が切り替わるのか、リモコン上のシルクに地デジやBS、ライン入力まで、全部書き込んであるんです。

 二点目は、番組表の並べ替えです。よく使う物をまとめたり、いらないものを外したりします。

 三点目は、近接予約確認。今予約しようとしている番組とぶつかっている番組を含むチャンネルの行(横表示)だけの番組表に、ボタン一つで絞り込まれます。これらは、地上デジタルやBS、スカパー!などを混在して可能です。単に「録画をキャンセル」だけでなく、どこかで再放送をやっているか、そしてそれに録画時間を変更するかどうかまで見られないといけません。ですから、使っている番組表情報は、横断的に見えないといけないわけですよ。

 こういう能動的な機能は、番組情報誌と併用すると有効ですね。すぐに、「あ、この番組を録っておきたい」と考えて、アクションが起こせます。

EPGの表示チャンネル数切替や絞り込み検索、表示方向変更などが可能 ボタン一つで、チャンネル別の一覧に切換、再放送や月~金番組が確認可能 近接予約も確認可能

 さらにTipsとして、使った人に喜ばれるのが「黄色ボタン」。録画予約一覧などすべての番組リストの選択番組から、「黄色ボタン」を押すことで、必ずそのチャンネル、その時間の番組表に飛べるんです。毎週予約してある時など、本当にその番組が今週も放送されるのかを確認する時、いちいち膨大なページのEPGをめくるのか? ということです。

 次にあげられるのが自動録画です。見つけるのが面倒なら、最初から絞り込んでおけばいい、という発想です。そこで導入したのが、シリーズ予約とお気に入り予約です。前者が番組名を主体に自動録画し、後者はキーワードや人名などを主体としています。  さらに、この間導入したのが「お楽しみ予約」。これは、キーワード設定すら面倒だ、という人のためのものですね。一度か二度録画すれば、あとは自動で録ってくれます。

 それに加えて「おすすめサービス」というネットの軸も同時に育ててきました。そもそも自分で選ぶのではなく、誰かが選んだものを使う、ということですね。ランキングなどから、「みんなが予約しているものを知りたい」という流れです。これはいわば、「お楽しみ予約」のネット版ですね。自分の履歴から録画候補を作るのではなく、ネット上の情報から候補を作る、という考え方です。

 大きな話でいえば、これらすべてが多チャンネルにいかに対応するか、というための機能なわけです。例えば、W録もそうですよね。W録が大事なのではなく、チャンネル数が増えてぶつかることが増えたからW録が必要になったのであり、前回は同時動作制限がかなりありましたけれど、今回は基本的なところはクリアーできたかな、と思っています。

番組表から抽出されたテーマ別のキーワードから録画予約が可能なテーマ選択 おすすめサービスでネット動画のダウンロードに対応


■ 「チャプタ結合」で編集の操作性が大幅に向上

-もう一つ、デジタル録画世代的な要素というと、チャプタの自動設定がありますが、そちらの精度や利用頻度はどうですか?

片岡:マジックチャプタ(自動チャプタ設定機能)もずいぶん良くはなっています。ただ、「マジックチャプタは精度的にあてにならないので、自分で切り直す」という人も少なくないようですね。

マジックチャプタとチャプタ結合の利用イメージ

 その点で、今回増えた大切な機能があるんです。発表会などで解説できていないんですが、今回新たにリモコンボタンで「チャプタ結合」ができるようになったんですよ。

 例えば、マジックチャプタなどで自動で切っていると、納得できないところで切れることがありますよね。とりあえず通常に再生しながらそこへチャプタスキップして、本来切りたい場面でリモコンで分割し、そのあとで不要な部分に再度スキップしてリモコンで結合する、という形にすれば、かなり楽に切り直しができるようになります(右図)。

 クイックメニューを組み合わせれば、チャプタサムネイルの設定もその場でできますから、その場でサムネイルとチャプタができてしまいます。

 いままでは「見るナビ」で結合とか、「編集ナビ」に入って修正とか、色々複雑な手順が必要だったんですが、今回からは、ほとんどのシーンでは、編集ナビがいらないわけです。

見るナビも機能強化 見るナビ上での編集機能やチャプタ結合などの機能を強化した

 私は、編集ナビでチャプタ分割するのは検査の時だけで、普段は使わないんです。音楽番組で一曲ずつ設定したりするわけですが、その時にも、番組を観ながら曲のあたまでチャプタ分割をして、そのまま再生していいところでサムネイルをクイックで指定して、という作業をします。これなら、チャプタの切り直しをしても、ほとんどストレスはないですよね。

 実は、この分割/結合って、追っかけ再生中にもできるんです。分割だけなら、再生中/追っかけ再生中/録画中にもできます。結合は、再生中/追っかけ再生中にできます。本当に便利ですよ。

 これって盲点なんですよね。チャプタ分割って録画後にやるもの、と思いこみがちなんですが、私は、リアルタイムで録画・視聴中に、チャプタを切っています。試合が終わったら、偶数チャプタープレイリスト作成でダビング元のプレイリストができあがるので、HDDドライブ内でまずはダビングして試合そのものはすぐに消してしまい、後で20試合くらいをまとめてDVDに焼いています。スポーツなどにはいいですよね。

 私は、マンチェスター・ユナイテッドの試合を見ながら追っかけ再生して、40シーンくらいの前後を分割して毎試合10分くらいのダイジェストを作ってます。もう5年くらいかな? 年間全試合七十数試合が、だいたい4枚くらいのDVDに収まります。「いいプレイを残したいけれど編集が面倒くさい」というスポーツ好きの人にも、面倒じゃないからダイジェストを作ってみたら、といいたいですね。結合もできるようになりましたから、失敗してもやり直せますし。

-すなわち、「録って後で見る」、「録って後で編集する」という考え方すら古い、ということですか。

片岡:そうですね。要は、限られた時間をいかに有効に活用するか、そこをどう助けようか、ということです。自分自身が大変だからでもありますが、そういった悩みに、地道に答えている繰り返しのつもりなんです。広告面などで、派手な機能に隠れがちなんですけどね。

 RDシリーズのユーザーは、上位機種の場合、すでにRDシリーズを2台以上持っている人の割合が、50%を超えています。リピート率が高いんですね。こういった改善を、投げ出さずに続けていることが、リピート率につながっている、と思っています。まあ、設計や企画者全員の熱意の表れ、と思っていただけると(笑)。

 設計とかけあって、機能を入れる目的と理由を説明して仕様を決める、説得工作の繰り返しなんで。「今回は、なんとかここまで入れられた」という感じです。

-例えばどんな機能があります?

i.LINKムーブ機能「RD間i.LINKダビングHD」を搭載する

片岡:今回の「RD間i.LINKダビングHD」も、当初は設計からは誰一人支持を得られず、私も「i.LINKは動作が不安定だから、別にいらないかな」と思っていたのですが(笑)、企画メンバーの澤岡や青山から、これは必須だという明確な理由が出てきたので実現したんです。

 社内では、i.LINKというと動作が不安定な規格で、評価/開発に時間がかかる、という評価になりますし、「そんなのいまさら?」ということになるんです。単純に「欲しい」、「いる」では通らないんですよ。

 そこで、「過去のRD救わなくてどうするんですか? これしか、旧機種をバージョンアップせずに済ませる方法はない」と。そこで全員の目から鱗がおちて、やる方向で話が進み始めたんですよ。

 重要なのは、i.LINKを搭載するということではなくて、過去のRDのデータを救うということ。せめてi.LNKがついているモデルは救いたい、と。

 みなさん、かなりたくさんTSのハイビジョンデータをHDDにお持ちで、それをなんとかしないといけないと思っていました。「はやくハイビジョンのまま、ディスクに残せるようにしてくれ」とおしかりもいただいていましたし。

-基本はRD間での動作保証ですよね。実動作は、どのような感じになっているのですか?

片岡:他社のものは保証しない形です。メーカーIDなどで拒絶はしません。D-VHSとして認識されれば、動作する可能性はありますが、あくまで無保証です。ダビング中は、他の再生ができません。i.LINK系では、録画予約などに、いくつか制限があります。

-DLNAの扱いは、RDの中でどういう位置づけなんですか?

片岡:皆さんが期待していることは、全部できるようにしたい。ただし、規格が決まっていないとか、認証の手順が決まっていないとか、世の中のルールで出来ていないことは全部NGということで。

 DLNAはまだちょっと早い、という感じです。まだ規格上の制限が多いですね。世の中では、「DLNAだめなんじゃないの」という人もいますが、「なにいっているんだ、まだはじまってないよ」って感じですね。

 DTCP-IPへの対応も、動作保証上は、あくまで東芝製品同士での保証、ということになっていますが、実際の実装は規格通りに行なっています。

 ただ、ネット関連機能ついては、名前がわかりづらくなってきたので、名前を統一し、VARDIAはみんな「ネットde」シリーズにしよう、ということにしました。旧来のDLNAをHD対応にした時点で、「ネットdeサーバーHD」という名前にしました。

 名前付けルールも統一しました。HDで出せる能力があると、最後に「HD」がつく。ネットdeサーバーも、RD間i.LINKダビングも、HDで出せるので最後に「HD」がつきます。

 同時動作に関していえば、SDのコピー保護無し番組については、同時に2台からアクセス可能です。TS番組は1台です。ただし、コピー保護つきのVR番組は再生できません。サーバー動作時は、W録までは動きませんが、一つの録画はOKです。

 レコーダ側での再生については制限があります。DLNA配信中は見るナビなどのGUIを呼び出せないんです。しかし、「タイトルサーチ」という、番号で録画番組を切り替えて再生する機能でなら、番組切り替えもできます。ハイビジョン番組を別の機器に配信しながら、本機で別のハイビジョン番組の視聴ができるわけです。



■ HD DVD-VRは不滅。「ディスク」は重要では無い

-RDユーザーのスカパー! 連動の利用率はどうなっていますか?

片岡:ユーザー登録データから見ると、スカパー!(124/128)連動が多いですね。次にCATVで、最後にe2(110度CSデジタル)、というところです。RDの場合、実際の、スカパーとe2の利用者比率より、スカパー! 連動の利用者が多いのではないか、と思っています。

-なぜこういう話をしたかというと、HD DVDとBlu-ray Disc(BD)との大きな違いとして、アナログで録画したDVD-VRのデータをディスクに記録する時にHD DVDに強みが出てくる、と思うからです。

片岡:はい。HD DVDでは、HD映像とDVD-VR形式のSD映像を、1つのHD DVDディスクに記録できます。僕らのメッセージは、ディスクの種類じゃなく、ムービー形式、アプリケーションフォーマットが大切、ということなんです。

 デジタル文化の良さというのは、HDDの上でも、光ディスクの上でも、ファイルの形式はそのままで、アプリケーションから再生できる、ということのはずです。

 そこで、ディスクのフォーマットにあわせて形式を変えてしまうというのは、私からすれば、エクセル形式をPDFに変換してコピーさせられるのと同じようなもの。あるディスクフォーマットに記録するには形式を変更せねばならない、というのでは、デジタル文化の一種の後退ではないか、と思っています。

 ファイルレベルで、ムービー形式を混在させてバックアップできる、ということが重要です。今のDVDでは、それができていますよね? どこのメーカーさんのレコーダでも、DVD-VRで録画して、それをそのまま高速ダビング、要はディスクへコピーして保存できるわけです。それが「次世代」になったら出来なくなるのは変じゃないの? ということですよ。

 もちろん、あらかじめHDD録画時にBlu-rayにあわせてムービーを作るレコーダもありますが、その結果、逆に、DVD化する際に、毎回映像も音声も劣化があって時間がかかる形式変換を伴うのがいいのか、という疑問です。全部BDに焼くのならばいいですが、まだディスクが高いですし。これは特定の商品の制約ではなく、規格の制約から来ているという点が問題なんです。

 どちらにしろ、自由度が奪われているわけですよ。それでいい、というならしょうがないですけれど、私は、過去にはできていたことが、メーカー側、規格策定側の意図で出来なくなってしまって、本当にいいんでしょうか? と疑問を持っています。

 言い方を変えれば、これはDVD規格の互換性を捨てた、ということでもありますね。もうそのメディアの中では、DVD規格に沿って作られた映像は扱わない、ということですから。

 ここにつながってくるのが、双方向の行き来です。例えば、VHSからの資産を、HDD経由で次世代メディアに入れた、としましょう。それを、DVDしか持たない人に渡したい、と思った時、再エンコードして時間をかけて取り出すんですか? これがHD DVDならば、単純にコピーできます。DVDではできていたことが出来なくなって、ほんとうに進歩といえるんですか? と。

 この点について少々解説を加えておきたい。HD DVDでは、録画データの記録形式は、DVD-VRと同じ「MPEG-2 PS」形式が使われている。それに対しBDでは、SD画質であっても、基本的に「MPEG-2 TS」形式が使われる。すなわち、DVD-VR形式で記録された映像をBDに移す時には、一度TS形式への変換が必要になることになる。この際には、時間がかかるだけでなく、再エンコードであるため、多少の画質劣化も伴う。

 現時点では、ソニーのBDレコーダの場合、HDD内にアナログ入力のSD映像を録画する場合、MPEG-2 TS形式で記録され、松下のBDレコーダの場合には、MPEG-2 PS形式で記録される。前者は、ダビングはBD中心と割り切り、DVDへのダビング時に再エンコードが必要になり、後者はBDにSD映像をダビングする際に、再エンコードが必要となる。

片岡:東芝がHD DVDにこだわった理由には色々ありますが、私個人としては、(BDの)アプリケーション・フォーマットだけは許せない。RD-Styleというのは、「HDDからDVDへ映像ファイルを高速コピー」ということから始まっているんです。それがダメになる。必ずレート変換してください、ということは、問題外です。

 他方で、「TSのデジタル放送だけはOKなんだから問題ないじゃないか」という話もありますが、それは一方的な論理です。過去はもういいんだ、といっても、過去はできたことなんだから、できるのが当然。ユーザの選択の自由を奪うような、アプリケーション・フォーマットだけは許せないんです。「だけ」は。

 メディアが0.1mmか0.6mmというのは、製造や開発に対する企業のポリシー、戦略の問題でしかありません。極端に言えば、メディアなんてどうでもいいんですよ。だってみなさんHDDを使っているでしょう? メディアは一時的なものなんですよ。

 変な話ですが、HD DVDがなくなっても、ムービー・ファイルフォーマット(HD DVD-VR)は不滅です。ディスクはなくなっても、過去の様々なムービーファイルがそうであるように、PC上で再生できる形でファイル形式は残ります。

 どんな器にのっていても、アプリケーションが残る限り、再生できます。例えばPCのソフトメーカーが、HD DVD-VRの再生に対応すれば、一度作ったものはわざわざ外しません。アプリケーション・フォーマットにこだわる、というのはそういうことで、ずっと残るものです。お皿がどうという話ではないんです。

 BDの発想は、テープ的な、リニアの発想なんですね。イン点・アウト点を決めて切り出して、最終的にディスクへ終着する、という。その間のフォーマットはどうでもいい。

 ところがRDというのは、ノンリニアなんです。最初からチャプタを分割して、サムネイルを付けて、一つ一つをファイルのように扱う、という感覚。ファイルコピーだから、最初から「高速ダビング」という機能も入れて。VideoモードのDVDからも高速でHDDにダビングできるようにしてますが、実は主要BDメーカーさんはこれができていない。だから、再エンコードが必要になるなんて、「いまさらなんでもう一回ディスクへ録画するの?」って感じですよ(笑)。


■ HD DVDは「パッケージの次」を見据えている

-HD DVDのフォーマット策定時には、そのあたりについて、意見を出されたんですよね?

片岡:ええ。さっき言った、ディスクからの書き戻し/コピーの分について、いくつかその前の仕様では不足しているところがあったので、意見を出して修正してもらいました。ギリギリ、そのためのフラグを入れてもらったんですよ。規格にもの申せる立場だったのがありがたいですね。

 制限があると、開発側が大変になるんですよ。ダビング前に、映像内に制限にひっかかるところがないかをチェックし、それから実行ということになるので、ダビングまでに30分かかる、なんてことになりかねない。「このままでは、HD DVDのコンセプトにかかわります」といって陳情したんですが、やっていただけたんですよ。デジタル文化の良さをわかっている人たちが、規格を作ってくれているからですね。

 というのも、初代のRD(RD-2000)のアーキテクチャ、録画エンジンを作った人が、HD DVDの規格開発メンバーに入っていて、録画部分はその人がやっています。すごく優秀な人で、今のRDの録画エンジンの基礎を作ってくれて、その弟子が、いまのエンジンを支えています。事実上、2人の力でRDの録画は成り立っているんですよ(笑)。

 ディスクの規格的に比較すると、少なくとも、ムービーファイル・フォーマットでは圧勝です。BDが勝っているのはディスクの容量だけですね。

-例えばどんなところが勝っている?

片岡:HDiはネットの上に置いちゃってもそのままウェブブラウザで再生できる世界ですから、ディスクの中とディスクとの境目をなくせるんです。

 私は、もう、「パッケージメディアの時代は終わった」と思っています。そのココロはというと、ディスクを売ることによって、ネットのサービスをトリガーする、ネットのエンターテインメントを売るということです。そこまでいけるポテンシャルを組み込んだのがHD DVDであり、BD-Javaとの違いだと思います。やっていることは、いまはメニューレベルなので同じようなものですが、背景となる思想が違うんです。

 私も以前、DVDの映像をウエブブラウザにはめ込んで、映像の再生にあわせて周囲のフレームの内容が変わる、といったデモをずいぶん作っていました。HDiの元みたいなものですが、そういったことを、ハリウッド側でもやっている人々がいて、意気投合したんですよね。

 一時、「マトリックス」のDVDビデオなどで、「PC Friendly」という要素を入れたソフトが流行りました。これは、ディスクに入っているコンテンツを表示するフレームを、あるタイミングでネットから提供されるフレームに入れ替えてしまうことで、ネットイベントなんかもできるようにする、というものです。マトリックスの場合には、ある特定の日に、パソコンのドライブにディスクを入れておくと、制作者のインタビューが見られるということをやっていました。そういうコンテンツを、リビングルームでもできるようにしよう、と考えていたんです。

 売ったら終わり、ではなく、パッケージを通してお客様との接点を売っている、という考えですね。HDiのネットワーク機能を使えば、次回作の情報など、ユーザーに与えたい情報が提供できます。新しいマーケティングツールにもなり得るわけです。これは、コンテンツのパラダイムシフトです。

 僕たちは、コンテンツにお客様が出会うこと、それを楽しんでもらうことを、機器を通じてお手伝いしているわけです。その観点でいえば、きれいなメニューがでることは大切ですけれど、それは本質ではない。一作目を買った人が二作目を買いやすくしたり、三作目の登場を知れたり、ということを助けられるようにすることが重要です。

 HDiというのは、映画会社とお客様の間をつなぐためのです。ネットにつながることも目的ではなくて、大事なことは、お客様とコンテンツを持っている人をつなげることなんですよ。

 私がDVDとHTMLで実験していたときに、「ああ、こういう風にコンテンツ連動をするには、チャプタ検知など、いろんな機能が必要だな」とわかったんです。それで、HD DVDの規格を決める時には、規格陣にその内容を伝えたんです。結果的に、そのアイデアがここまで生き残ったことに驚いています。ハリウッド側で同じようなことを志した人々のアイデアも生かされて、具現化したんだと思います。

-それは、前出の、番組表や「おすすめサービス」など、RDの発想と通じるものがありますね。

片岡:おっしゃる通りです。RDのおすすめサービスも、思想は全く同じですね。

 結局今は、コンテンツが増えたのに、それに接する機会が少ないんですよ。ですから、その機会をできるだけ増やしてあげたい。

 コンテンツとお客様が「惚れ合える」関係がいいわけでしょう? とすれば、出会いの機会は多い方がいいに決まってます。本当は世の中に、「すごく好きになれるコンテンツ」があるはずなのに、出会えないまま一生を終わるのはいやじゃないですか。私は欲張りなんで、全部出会いたいんです(笑)。

□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/
□製品情報
http://www3.toshiba.co.jp/hdd-dvd/products/vardia/rd-a600_a300/index.html
□関連記事
【6月12日】東芝、新HD DVDレコーダを発表。国内シェア7割へ
-実売15万円から。「BDに勝ったとは言わないが、圧勝」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070612/toshiba2.htm
【6月12日】東芝、低価格化したHD DVDレコーダ「RD-A300/A600」
-VARDIAエンジンで高速動作。i.LINKムーブ/DLNA対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070612/toshiba1.htm

(2007年7月2日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、「ウルトラONE」(宝島社)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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