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第295回:ZOOMの24bit WAVEレコーダ新モデル「H2」を試す
~ 高音質と内蔵マイクでの4chレコーディングが魅力 ~




ZOOM「H2」

 ZOOMから新たなポータブル・デジタル・レコーダー「H2」が発売された。ちょうど1年前に発売された「H4」の後継という位置づけのようだが、H4よりもかなりコンパクトに、使い勝手もグッとよくなっている。

 Rolandの「R-09」(実売38,000円)や、KORGの「MR-1」(実売6万円)などを含め、この種のレコーダーがかなり売れているようだが、29,800円という低価格で登場したこのH2、実際どんなものなのか使ってみた。



■ コンパクトな本体。W-XYステレオマイクを内蔵

 先週末、渋谷の楽器店を見ていたら、H2の価格が23,800円、その隣でH4が24,800円、さらにちょっと離れたところにR-09が37,800円という価格で売られていた。いずれも、かなり目立つ場所に山積みにされていたので、結構売れているジャンルのようだが、どれを選ぶかとなると、なかなか難しいだろう。

 実績のあるR-09にするか、低価格なH2にすべきか……、価格だけで決めるのはやはり危険と思いながらも、スペックを比較してもよく分からないというのが実情だろう。すでにR-09H4については以前レポートしているので、H2についてこれらと比較しながら見ていくことにしよう。

 H2の実物を見て、すぐ感じたのはH4と比べるととても小さくなったこと。R-09と比較するとまだちょっと大きいが、それほどの差ではなくなっている。機能的にはH4を踏襲しているようだが、ユーザーインターフェイスやメニューの構成などを比べるとかなり作り直したことが伺える。

 H4のユーザーインターフェイスはメニュー選択ボタンが2種類あったことから、非常に分かりにくかったが、H2ではそうした問題が解消され、マニュアルなど見なくても、とりあえず操作できるスッキリしたものになった。また、SONYの「PCM-D1」を真似したようなデザインのX-Y方式のマイクが本体内に収納されたこともあって、見た目もスッキリしたものになっている。

 ただし、H4ではファンタム電源対応のキャノン入力およびフォン入力の双方に対応するコンボジャックが2つ搭載されていたが、H2ではコンパクト化したためか、外部入力はマイク用およびラインイン用のミニジャックのみとなった。ただし、R-09と同様マイク入力はプラグイン・パワーに対応しているので、いろいろなタイプのマイクが接続できそうだ。


左からR-09、H2、H4を並べたところ。H4と比べるとかなり小型化している 外部入力はマイク用ミニジャック(プラグイン・パワー対応)、ラインイン用ミニジャックを装備

 この内蔵マイク部分、単なるX-Y方式ではなく、「W-XYステレオマイク」というユニークなものが採用されている。これはフロントとリアの両サイドのステレオ集音が可能というもので、これらを組み合わせると360度サラウンドの4chレコーディングができてしまうのだ。フロントのマイクは90度ステレオ集音、リアのマイクは120度ステレオ集音できる形に構成されており、ステレオ2チャンネルでレコーディングする場合でも、モード切替によって、フロントのマイクを用いるか、リアのマイクを用いるか選択できるようになっている。

 このことからも分かるように、基本的にH2では音の発生源に向かってH2を立たせてレコーディングする。横向きでレコーディングするR-09やH4との大きな違いともいえるだろう。また、これにあわせて、H2を立たせるためのスタンドも付属しているので便利に使える。しかも、スタンドと接続する穴はカメラの三脚にもそのまま接続できるので、用途も広がる。

 もうひとつ、マイククリップ・アダプタというものを付属している。スタンドの代わりにマイククリップ・アダプタを接続すれば、ここを握ることでグリップノイズが入りにくくなり、アウトドアで使う際などにも便利で、マイクスタンドにそのまま取り付けられるというのも大きなメリットだ。もうひとつ便利なのが、やはり屋外で使用する際などに、風のノイズが入らないようにするウィンド・スクリーン。いずれもオプション扱いでなく、標準で添付されるのは嬉しいところだ。


H2を立たせるデスクトップ・スタンドが付属 手持ちで録音する際に重宝するマイククリップ・アダプタ


風のノイズを防ぐウィンド・スクリーン これらが全て標準で付属するのはうれしいところ パッケージ

 記録メディアおよび駆動電源はR-09/H4と共通。SDカードにレコーディングし、単3電池2本で動くという仕様だ。SDHC対応に関してはH4は対応していなかったが、H2はR-09と同様対応するようになった。またフォーマットの記載はなかったが、カタログによれば単3アルカリ電池で約4時間の連続レコーディングができるとのこと。ACアダプタも付属しているから、屋内で使う場合などは、電池切れの心配もない。

 レコーディング・フォーマットはWAVとMP3の2種類。WAVの場合は16bit/44.1kHzから最高で24bit/96kHzまで、一方MP3は64kbps~320kbpsを選択できるようになっている。


Wavはサンプリングレート16bit/44.1kHzから24bit/96kHzまで対応 Mp3はビットレート64~320kbpsで録音が行なえる

 フォーマットの選択をしたらレコーディング手順はいたって簡単。真ん中の赤いボタンを2回押せばレコーディングがスタート、再度このボタンを押すとストップという流れだ。サイドにマイクゲインのスイッチがあり、L、M、Hの3段階で切り替えることができるほか、赤いボタンを一回押した後に、左右のキーを押すことで入力レベルを0~127の間で調整することができる。



■ かなりリアルな録音品質。楽曲録音ではR-09、H4に及ばず


録音サンプル
住宅地外れのセミの鳴き声 sample.wav
(6.51MB)
編集部注:録音ファイルは、24bit/48kHzで録音した音声を編集し、16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 さっそくH2を屋外に持ち出し、スタンドを付け、ウィンド・スクリーンを取り付けた状態で、住宅地の外れの緑地帯でセミが鳴く声をレコーディングしてみた。24bit/48kHzでマイクゲインMの状態、マイクはフロントのステレオで録ったのだが、ややレベルが小さかったので、あとでPCに取り込んだ後ノーマライズしている。

 こうした編集をしたので16bit/48kHzのフォーマットで保存しているが、その音を確認してほしい。かなりリアルに音を捉えているのが分かるだろう。また300mほどの距離に踏み切りがあるのだが、そのかすかな音や100mほど離れたところにあるクルマの音などもキレイに捉えているのが分かるだろう。

 しかし、こうした野外の音のレコーディングと音楽のレコーディングはかなり異なるもの。本来なら、R-09の発表会であったような生の演奏を直接レコーディングして比較すると一番いいのだが、それはなかなか難しい。そこで、CDを再生している音をH2、H4、R-09のそれぞれで同じようにレコーディングして比較するという方法をとってみた。

 とはいえ、一般のCDでは著作権の問題から、実際の音を公開するのが難しいため、JASRAC登録されていない音源を使ってみた。具体的には、以前インタビュー記事を紹介して、携帯プレーヤーの音質補正機能を検証記事などでも使わせてもらっているTINGARAの「JUPITER」という曲だ。

 一般にはMP3で公開されている曲なのだが、好意で16bit/44.1kHzのWAVファイルでデータをもらっているのでこれを利用した。ただし、PCで鳴らすとPCのファンノイズが気になるので、一旦CDに焼いたのち、これをCDプレイヤーで再生させ、S/PDIF出力したものをRolandのMA-10Dを用いてかなり大きめの音量(ボリュームの7割程度)で再生させたものを約50cmの距離でレコーディングしてみた。

 ここでも先ほどのセミの声と同様に、24bit/48kHzでレコーディングした。3機種とも最大の音が-6dB程度となったため、やはり最後にすべてノーマライズ処理をして16bit/48kHzの形で保存している。内蔵マイク+各機種のレコーディング性能の総合音質比較ということになるが、結構音の違いがハッキリと出た。

 個人的な感想ではあるが、原音に一番近い感じで聞こえたのはR-09。ややこもった感じだったのがH2、その中間といえるのがH4といった感じだ。ひとつの例に過ぎないので、これですべてを語るのは危険ではあるが、価格順の音質といった結果となった。

 試しに、16bit保存する前の24bit/48kHzの状態で「WaveSpectra」を用いてピーク周波数の解析をしてみたところ、やはりハッキリとした差が見受けられる。いろいろな差はあるが、H2とR-09の最大の違いは、高域のレベルの出方ではないだろうか? あとでEQ補正することで、ある程度はよくなる可能性はあるが、やはり何も補正しない状態でどのくらい出ているかは大きなポイントになるはずだ。

録音サンプル : 楽曲(Jupiter)
H2
【音声サンプル】(7.55MB)
H4
【音声サンプル】(7.55MB)
R-09
【音声サンプル】(7.55MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは、いずれも24bit/48kHzで録音した音声を編集し、16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 ところで今回はあまり積極的には使わなかったが、レベルコントロールをマニュアルで行なわずオートゲイン機能を用いる方法がある。またオートゲインとの切り替えで、急な過大音に対応するためのリミッタ機能、さらにはコンプレッサ機能なども搭載されているので、必要に応じて使い分けることができる。また、ある一定の音量を超えるとレコーディングがスタートするAUTO REC機能なども使うことができる。

 そのほか、R-09にはない、H4のユニークな機能であった、USBオーディオインターフェイス機能やメトロノーム機能、チューナー機能などもH2へ継承されている。一方で、H4にあったエフェクト機能は削除されている。また、H4でバンドルされていたCubaseLEもH2にはない。

 なお、このUSBオーディオインターフェイスで利用する場合のサンプリングレートは、44.1kHzまたは48kHzで96kHzは利用できない。また、対応しているのはMMEドライバのみであり、ASIOドライバやWDM/KSドライバには対応していなかった。


録音時のレベルコントロールには、オートゲイン機能も利用可能 H4で搭載していたメトロノーム機能も備える USBオーディオインターフェイスとして利用する場合は、MMEドライバに対応



■ 内蔵マイクのみで利用できる4chレコーディング機能

 そのほか、4chのステレオレコーディングも試してみた。この4chレコーディングはH4でもあった機能だが、外部マイクなしに、即サラウンドレコーディングできるというのはなかなか便利。また、これに関連して搭載されたユニークな機能が3Dパン。3Dパンを利用することでレコーディング時の前後・左右のバランスを調整する。

 ところでこのサラウンドレコーディングの場合のサンプリングフォートは最高で24bit/48kHzまでとなっている。また、レコーディングした結果はWAVファイルになるのだが、4chのWAVファイルができるのかと思ったら、フロントの2chとリアの2chと、2種類のWAVファイルができる。そのためSoundForge9やDigiOn Soundのようなマルチチャンネル対応のエディタでなくても問題なく読み込むことができた。


4chステレオレコーディング機能を外部マイクなしで利用できるのは魅力 3Dパン機能で前後・左右のバランスを調整 フロント2chとリア2chの2種類のWAVファイルとして保存される

 以上、ZOOMのH2をH4やR-09と比較しながら紹介してみた。音質面では若干劣るものの、使い勝手やデザイン性、コンパクトさといった点ではH4を大きく超える強力な機材に仕上がっている。価格的にも非常に安いので、かなりのヒット商品になるかもしれない。


□Steinbergのホームページ
http://www.zoom.co.jp/japanese/index.html
□ニュースリリース
http://www.zoom.co.jp/japanese/news/news170/index.php
□製品情報
http://www.zoom.co.jp/japanese/products/h2/index.php
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(2007年9月3日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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