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本田雅一のAVTrends

「iPod touchにかいま見る可能性」




 先週末、サンフランシスコから帰国すると、翌日にiPod touchが届いた。日本では、iPhoneの発売が行なわれていないこともあり、(並行輸入ユーザーは別として)iPod touchはアップルの新しいタッチパネルによるユーザーインターフェイスに触れる初めての機会となる。

iPod touch

 すでにiPhoneには触れたことのあったのだが、実際に週末を通して触れていると、これまではあまり考えていなかった様々な可能性が感じられた。

 デジタルプレーヤーとしてのiPod touchは、Windowsとの接続に関する初期トラブル以外にも、再生中に何度か再起動がかかったり、Cover Flowでたくさんのジャケットをスクロールさせていると、ジャケット写真が出なくなることがあったり(再度カバーフローモードに入ることで解決)、スライドバーを使った頭文字検索で日本語が使えない、Safariで文字化けした時に文字コードを選べないなど、初期バージョンにありがちなバグや、国際化の不十分なところが散見されるが、直感的なインターフェイスや操作レスポンスの良さは好感触だ。

 また、すべてのiPodを聞いてきたわけではないが、これまでに使ってきたiPodの中では音質はもっとも良い。低域の量感が増したことで、高域よりだったエネルギーバランスが改善されている。高音質とは言わないが、長時間聴いても聴き疲れしないタイプの音であり、ポータブルオーディオとしては十分という印象だ。

 もっとも、この連載でiPod touchレビューを行なうつもりはない。今回はiPod touch、あるいは来年には発売されると期待されているiPhone日本語版の将来性について、感じるところを書いてみたい。というよりも、新しいタッチインターフェイスを持つ小型デバイスで“挑戦して欲しいことリスト”である。


■ 無線LANがあるならば

PC/Macを介さずにiTunes Wi-Fi Storeにアクセス

 iPod touchの特徴のひとつに無線LANが搭載されたことがある。とはカタログ的な文言だが、無線LANを使いこなしているかと言えば、決して使いこなしてはいないと思う。たとえば、全くセールスは振るわなかったマイクロソフトのZuneだが、Zuneを持ち寄った仲間同士で無線LANを用いることで音楽を聴かせ合うことができるなど、初めて無線LANを搭載したメディアプレーヤとして、考えるところはきちんと考えていた。

 iPod touchの場合、iPhoneからそのまま持ち込んだWebブラウザのSafariやスケジューラ、アドレスブックなどを除くと、無線LANが活躍するのはiTunes Wi-Fi Storeへのアクセスのみということになる。個人的にはGoogle Mapsクライアントが付属しなかったのが残念だ。

 ここはもう少しやり方があったのではないだろうか?

 Zuneのように音楽を共有するというのもひとつのアイディアだが、iPod touchの中の音楽を無線で飛ばす機能があれば楽しそうだ。アップルは無線ルータ機能に音楽再生機能も付属したAirMac Expressを商品化しているが、AirMac Expressはパーソナルコンピュータ上で動かすiTunesの無線外部スピーカーのように振る舞うため、手元にコンピュータがなければ操作はできない。

 もしiPod touchがAirMac Expressを外部スピーカー出力のように扱う機能を持っていれば、iPod touchの流麗なグラフィックスと直感的な操作で音楽を楽しめる。iPodを音楽専用マイクロコンピュータと定義するなら、これほどiPodらしい機能はない。

 すでに語り尽くされた感があるが、iPod touchの操作フィーリングは、これまでiPodに感じていた様々な不満を解消してくれる。今までは大量の“リスト”の中から、記憶を頼りに埋もれた音楽を探す感覚だったのが、高速なカバーフロー表示とタッチパネルによる直感的なインターフェイス、美麗グラフィックス表示によって、埋もれた音楽の発見をひとつのエンターテイメントとして楽しめると言ったら言い過ぎだろうか。

 それをそのまま自宅のオーディオシステムでも楽しみたいと思うのは自然なことだ。もっとも、AirMac ExpressはApple Lossless Audio Codecを用いてコンピュータから音声データを受け取る。従ってAACやMP3でエンコードされたデータは、いったんiPod touch側でデコードしてから、再度、ロスレス圧縮して無線LANから送出しなければならないため、バッテリ持続時間が短くなるなどの問題は出るかもしれない。


■ アップル製品の高機能リモコンとして

 さらに言えば、無線LANにつながっている他のアップル製品のリモートコントローラとして機能させる可能性もあるのではないか。Apple TVやパーソナルコンピュータ上で動作するiTunesを無線LAN経由でiPod touchから操作できれば、いちいちテレビを点けなくとも、iPod touchのビジュアルインターフェイスを用いて音楽だけを楽しむことができる。

 ネットワークの先にあるコンテンツのメタ情報をあらかじめキャッシュしておかなければ、なかなか内蔵コンテンツと同じようには高速な閲覧は出来ないだろうが、リモートコントロールできる対象をコンテンツを同期している相手に限定すれば、メモリ内のコンテンツを再生するのとパフォーマンスは変わらない。

 現在、家庭内にはリモコンが氾濫し、赤外線を用いたリモコンのソリューションはすでに破綻しているといっても過言ではない混乱状況だ。今後、リモコンはIR(赤外線)からRF(電波)へと向かうと言われている。いくつかのRFリモコンシステムが提案されているが、デジタル家電の多くがインターネット接続を視野に入れていることを考えると、最終的には無線LANを通じたリモートコントロールソリューションへと収斂するのではないだろうか。

 また、単なるリモコンではなく、iPod touchの同期元とのシームレスな結合という視点もおもしろいのではないか。iPod touchを自宅に持ち込んでAVセットの電源を入れ、手元でちょっと操作すると同期元から、出先で楽しんでいた再生中コンテンツの続きを楽しめるといった機能だ。そのままiPod touchで操作を行なえば、同期元のコンテンツを再生するリモコンとしても機能する。

 アップルがiPod touchを自社製品のリモコンとして使わなかったとしても、どこかの家電メーカーが無線LANを用いた提案を行なうだろう。デジタルAV機器の多くは何らかの形でネットワークに接続するようになってくる。そのうち、デジタルAV機器のほとんどに無線LANが内蔵されるといったことも、可能性としてはあるかもしれない。

 ポータブルAVと家庭内AVをシームレスに接続するコンセプトは、松下電器やソニー、マイクロソフトなども提案しており、今後、発展していく可能性がある。

 現状、AV機器間の相互通信はひじょうに限定的だ。たとえばHDMIを通じたコントロールにしても、リッチな情報をリアルタイムにやりとりする通信ネットワークとしては使えない。しかし、無線LAN(あるいは有線でもかまわないが)で相互接続できれば、自社製品同士を自動認識して多くのメタ情報を交換し合うことができる。たとえば、プレーヤー/レコーダとディスプレイが通信ネットワークで接続されれば、コンテンツの送り出し側しか知り得ない情報を、ディスプレイ側に伝えることが可能だ。

 やや話が脱線したが、無線LANでつなぐAVネットワークには、PCを中心にしたホームネットワークとは別の可能性がある。その中で、手元にもっとも近く、革新的な操作性を持つiPod touchは、今後の展開次第で単純なメディアプレーヤを超えた存在に成長する可能性を秘めている。

□アップルのホームページ
http://www.apple.com/jp/
□製品情報
http://www.apple.com/jp/ipodtouch/
□関連記事
【9月28日】アップル、iPod touchのWindows接続時の不具合を修正
-touch本体とiTunesをアップデート
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070928/apple.htm
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070927/touch1.htm
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070925/apple.htm
【9月6日】米Apple、「iPhone」から電話機能を省いた「iPod touch」
-Webブラウズや無線LAN経由で本体から直接楽曲購入可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070906/apple1.htm

(2007年9月28日)


= 本田雅一 =
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]


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