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本田雅一のAVTrends

「HDオーディオ対応AVアンプ総まとめ」
 ミドルレンジ以上に各社充実の新製品を投入




 今年の年末商戦も中盤にさしかかってきた。今年、AV業界で人気の商材はブルーレイレコーダとHDオーディオのデコードに対応したAVアンプ。この年末はBDレコーダを発売する松下電器とソニーの“仕込み”がやや少ない。松下電器はBDレコーダがハイビジョンレコーダ全体の10%と予測し、生産計画を立てていた。ソニーはこれを20%と読み、シャープはさらに多い30~40%に設定したようだ。

 ただ、シャープ以外はかなりコンサバティブな読みだったこともあって、この年末商戦向けに市場投入されるBDレコーダは、昨年モデルの流通在庫を含めて20万台程度に留まる。松下電器のDMR-BW900にほとんど在庫がないのはこのためだ。

 ある程度の増産はかけているだろうが、年末商戦期は電子部品の急な調達も難しいため、これからクリスマスにかけて商戦期が盛り上がったとしても、BDレコーダのシェアはハイビジョンレコーダ全体の15~20%ぐらいに留まるだろう。それ以上は売りたくとも商品がない。この反省から来年のオリンピック商戦では、各社とも50%以上をBDレコーダで“仕込み”を入れそうだが、年内は機種を自由に選べない状況に陥るかもしれない。

 と、ここではBDレコーダではなく、もうひとつの人気商品、HDオーディオ対応AVアンプについて、カタログなどからはわからないポイントをまとめておくことにしたい。


■ 狙い目の価格帯は?

 これまでAVアンプの中級機というと、20万円前後の製品が多かったのだが、今年はやや価格帯の中心軸が上がり、25万円を中心にした製品ラインにミドルレンジの優秀機が集まっている。

 これはHDオーディオのデコードや、HDMI関連の機能充実に伴い、機能実装のコストと音質対策のコストが嵩んでいるからだろう。たかが音声ストリームのデコードとHDMIチップの追加ぐらいじゃないかと思うかもしれないが、HDオーディオのデコードには思いのほか、メモリが必要のようだ。ドルビーTrueHDのデコードは比較的処理が軽いものの、DTS-HD Master Audioはメモリバッファの量が多く必要とのこと。

 また、HDMI関連のチップは非常に消費電力が大きく、HDオーディオデコードのDSPの電力消費と合わせ、電源周りの回路が複雑化。デジタル部向け電源容量もかなり多く採らざるを得ず、またアンプの音質に影響を与えないよう、各社ともかなり苦労を重ねて中級機を開発した。

TX-SA605(N)

 これよりも下の価格帯にも、最廉価のオンキヨー「TX-SA605(84,000円)」をはじめHDオーディオ対応モデルが存在するが、機能だけでなく音質も気にするのであれば、25万円前後の製品を検討することを勧める。

 また12月にはデノン、パイオニア、ヤマハから上位機種が登場。さらに、デノンはセパレート型AVアンプを2008年1月に追加する。HDオーディオがやっとハイエンド機にも実装されるこの年末、どのメーカーも“このタイミングでなければ、ここまでコストはかけられない”とばかりに、力の入ったハイエンド機を用意している。

 ここ数年は、ハイエンド機のモデルチェンジサイクルを迎えても、次世代光ディスクやHDオーディオ、HDMIの動向が落ち着かず、モデルチェンジしたくともできなかった。その分の“タメ”が、気合いの入った製品仕様へとつながっているのだろう。

 したがって、音質や機能の面で最高のものがほしいというなら、もちろん、このクラスの製品がお勧めということになる。なにしろ、何度か開発途中の音質をチェックしていても、どの製品にするか迷うほど高いレベルで揃っている。

 では各社のラインナップの中から、いくつかの機種をピックアップしてコメントしよう。


■ 各メーカーラインナップの中からピックアップ

・デノン

AVC-3808

 今年、国内市場でシェアナンバーワンを獲得したデノンは、AVC-3808(231,000円)が中心。HDデコード対応は下位モデルのAVC-2808(168,000円)もあるが、こちらはやや力ずくで音質のバランスを取っている印象。3808の方が伸びやかで楽しめる音が出る。もしデノンでもう少し下のクラスを選ぶのなら、AVC-2308(105,000円)の方が音質そのものはノビノビと開放的な音が出てくる。

 今年のデノン製AVアンプ全体の傾向として、従来の力強いとも鈍重とも言える中低域から低域にかけての量感や響きが、今年は抑え気味になっていること。もちろん、デノンというブランドのキャラクターを大きく変えない程度の味付けだが、これまでデノンの音はあまり好きじゃないと思っていた人も、聴き直してもいいと思う。

 その傾向がもっとも強いのが、AVP-A1HD(735,000円)、POA-A1HD(735,000円)のAVプリ+10チャンネルパワーアンプ。3808との間にはAVC-A1HD(598,500円)というパワーアンプ一体型もあるが、現時点(最終音質チューニングの少し前)で、一体型よりもチューニングが進んでいない段階でも、決して小さくはない差が出ている。もちろん、価格も大きく違うのだが。10チャンネルアンプをバランス駆動の5チャンネルアンプに設定すれば、AVプリアンプからパワーアンプまで、全段フルバランス構成のハイエンドなアンプ構成。DAコンバータも1チャンネルあたり2個を用い、バランス構成を採っている。

 とにかく元気が良く、ガンガンと前へ展開するエネルギッシュな音場、シャープな音像と抜けの良さ、開放感など、これまでのデノンとは大きく異なる明るい音はたいへん魅力的。今後は、ややアッケラカンとドライに鳴る傾向を抑え、もう少し潤いを与えて中低位機に程よい重みを付けるというが、現時点でも十分にすばらしい。

 予算や置き場所の関係で一体型という選択肢も否定はしないが、せっかくハイエンドクラスに手を出すならば、セパレート型ぐらい突き抜けている方が満足度は高いはずだ。

プリアンプ「AVP-A1HD」 POA-A1HD

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・ヤマハ

DSP-Z11

 今年のヤマハはDSP-Z11(693,000円)の一本勝負と言ってもいいほど、力をフラッグシップの開発に集中させている。こちらも12月発売ながら、現在も最後の追い込み中で、製品版の音は聴いていないが、素性はとてもいい。

 良い意味でオーディオ的で、S/N感の良いヤマハらしい清楚で上品な質感は残しつつ、しかしアグレッシブでスピード感あふれる低域と抜けの良い中高域から高域にかけてのさわやかさがある。前作DSP-Z9は上品ながら少し奥ゆかしさに歯痒いところも感じていたが、Z11はもっと快活で新鮮な印象。力感も備えており、弱々しさは全く感じなかった。

 このアンプ部の質の高さ、個性もいいのだが、やはりZ11の最大の売りは、ヤマハが独自に開発を続けてきたCinema DSPの集大成とも言える3D Cinema DSPの音場効果。従来の音場効果は反射音や残響音を本来の音にミックスするため、個々の音の音色が変化して聞こえてしまっていた。ところが3D Cinema DSPは、DSPで生成した反射音、残響音を専用のプレゼンススピーカーから再生する。これまでフロント2チャンネルで使われていたプレゼンススピーカーを、リアにも配置。4チャンネル分のプレゼンススピーカーを用いて環境音を作り出すため、DSP処理を行なう音声そのものの音色変化をほとんど感じさせないレベルまで抑え込んでいる。

 加えて高い位置にプレゼンススピーカーを4本配置することで、高さ方向の表現も行なえるようになり、リスナーの周囲を取り囲むだけでなく、リスナーを中心にした半球状の音場がきれいにできあがる。同様の処理はミドルレンジのDSP-AX3800(257,250円)でも行なっているが、Z11の方がDSP処理能力が高いことに加え、プレゼンススピーカーの数が多いため、その効果は圧倒的に自然だ。

 音場効果を引き出すサラウンド処理は、ハイエンドユーザーになるほど使わなくなることが多い。映画でさえそうなのだから、音楽となると素のままで楽しんでいる人がほとんどだろう。しかし、ソースによっては2チャンネルのオーディオソースを、3D Cinema DSPで楽しんでもいい。そう思わせるぐらいの良い結果は得られる。

 難点はプレゼンススピーカーというヤマハ独自配置のスピーカーを4本、高い位置にセットしなければフルにその効果を楽しめない(他スピーカーにミックスさせれば、もちろんそれなりに効果は得られるが)ところだろうか。その点、従来のフロントプレゼンススピーカーを設置しているヤマハファンならば、是非、リアプレゼンスの追加にチャレンジしてほしい。

DSP-AX3800 DSP-AX1800

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・パイオニア

 今年のパイオニアで注目すべきは、フルバンドフェイズコントロールという技術である。これは全音声帯域に渡って、フェイズ、つまり位相を揃える技術のことだ。この処理を加えることで、サラウンドの音場が見事に整い、自分を中心に遠景に音が展開するだけでなく、自分が座っている近接の空間まで、ビッシリと音が詰まった濃厚なサラウンド音場を体感できるようになる。特にフロント、センター、サラウンドの各スピーカーに、異なるスピーカーを使っている場合に効果が大きい。

VSA-AX4AH VSA-AX2AH

 スピーカーはフルレンジの場合を除き、高域、低域、あるいはその両方をカットするフィルタ回路を通し、帯域を制限して複数のユニットで鳴らすマルチウェイがほとんどを占める。ところが電気知識のある人ならわかるとおり、こうしたフィルタを入れると位相がズレてしまう。

 そこで各メーカーは、位相が揃って聞こえるようにツィータとウーファーの位置をずらしてみたり、中には特定のユニットだけ逆位相で接続しているというケースもある。しかし、位相は周波数ごとに微妙にズレ幅が異なるので、全帯域を通して位相を一致させることはできない。

 特にフロント3ウェイ、サラウンド2ウェイといったケースでは、それぞれ周波数帯域ごとに位相が正反対の部分や一致する部分などが混在してしまい、前後の音のつながりが悪くなったり、自分の着座位置に近い部分の音数が減る、薄くなるといった結果を招く。

 フルバンドフェイズコントロールは、それをDSP処理で制御しようというもの。DSP処理を通すため、わずかに鮮度は落ちると感じることもあったが、ソースがマルチチャンネルならば、少々の鮮度感など問題にならないほど、大きな音場改善を得られる。

 一般的な自動音場補正による周波数特性の補正だけでは取り切れない違和感が、フルバンドフェイズコントロールではきれいになくなるのだ。一度慣れてしまうと離れられないほどの魅力がある。

フラッグシップモデル「SC-LX90」

 搭載機はVSA-AX2AH(17万円)、AX4AH(22万円)、VSA-LX70(235,000円)、SC-LX90(88万円)。中でもAX2AHは価格を考えればかなりお買い得。ベースとなっているAX1AHの素性が良いことも手伝って、手軽にフルバンドフェイズコントロールを楽しめる良い入門機になった。

 なお、パイオニアの最上位機種LX90は、今回も他2社のハイエンド機と同様、すばらしい仕上がりだ。フルバンドフェイズコントロールも、他のグレードとは異なる、より高い演算精度で行なわれている。

 LX90もまた、今もチューニング中の製品だが、つい昨日仕上り途中のLX90を聴いたが、タメがまったく無くいきなりポーンと出てくるパンチのある低域、見通しよく透明感のある伸びやかな高域を感じた。内蔵DACが他社の使ってい無いウォルフソン製ということもあってか、中域の歪感が少なく厚みは感じないものの、シャープな音像と粒度の細かい多数の音が音場を埋め尽くす。

 特にHDMI経由の音の鮮度が高く、従来のHDMIは音が悪いという傾向を、ある程度払拭させる仕上がりに大きな期待感を持たずにいられない。


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・ソニー

TA-DA5300ES

 ソニーはワールドワイドでは毎年、いくつかの新機種を展開しているが、日本ではそれらの中から1機種をピックアップし、主に日本市場向けに徹底した音質チューニングを行なう。このため、同じような型番でも海外販売モデルと日本で売っているモデルは、出てくる音が全く異なる(その分、海外よりも日本モデルの方が発売が遅い)。

 今年の場合、その日本向けチューンアップ機はTA-DA5300ES(231,000円)という機種だ。昨年、ヒットモデルとなったTA-DA3200ESをベースにしているが、仕様部品のグレードを2ランクほどアップさせ、電源トランスも大型のものに変更されるなど中身は別物だ。

 非常に素直な音の出方をする機種で、良い意味でオーディオ的であり、AVアンプ的な太書きの荒っぽい描写がないのが最大の長所だろう。柔らかさ、硬さ、奥行き、前へと出てくるアグレッシブさ。それぞれを的確に描き分け、しかも音楽的な楽しさ、感情を失わない。

 ピュアオーディオアンプのような、音をエンハンスしてさらに良く聴かせようといった演出感はないが、しかしナチュラルにソースの音を聴くのなら、これで音楽を聴くというのもアリか。そう思わせるのがDA5300ESだ。

 同じ価格帯にはデノンのAVC-3808、パイオニアVSA-AX4AHといった強力なライバルがいるが、いずれも特徴が異なり、どれにすべきか悩む人も多いだろう。本機はこの中では、もっとも音楽を大切に聴きたい人向けと感じる。

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・オンキヨー

 オンキヨーは今年、もっとも早い段階でHDオーディオに対応。年末向けにはTX-NA905(336,000円)という一体型最上位機を持ってきた。

TX-NA905 TX-SA805

 今年のオンキヨーはもっとも早期にHDオーディオ対応を図ったほか、3段ダーリントン回路で組んだ、瞬時電流供給能力の高いパワーアンプの設計が特徴。エネルギッシュで前へ、前へと出てくる活発な音が特徴。なのだが、NA905に関しては基本設計を共有しているTX-SA805(189,000円)よりもおとなしく、上品な質感の音になっており、兄弟の中でもやや異質だ。

 部品や電源トランスを、より高いグレードのパーツへと変更し、全体にS/N感を高める工夫を行った結果とのことだが、オンキヨーのAVセンターならば、あえてSA805クラスをお勧めする。

 SA805は音のニュアンスや質感の描き分けがやや不得手。音の消え際の描写がやや粗っぽく、雰囲気を何より重視するならお勧めしない。しかし、一方で圧しの強いエネルギー感を持った活発なキャラクターが突出している。クラシカル音楽よりも、J-POPやエレクトリックロック、メタル系ロックなどに合うだろう。

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(2007年11月30日)


= 本田雅一 =
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]


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AV Watch編集部

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