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本田雅一のAVTrends

Deep Color対応とHDMI接続の互換性
-便利なHDMI接続に潜む“落とし穴”




 昨年後半から今年にかけて、AV業界でもっとも大きな話題と言えば、すでに終結した次世代フォーマット戦争と、もうひとつはHDMI 1.3対応によるHDオーディオ(高品質ロスレスサラウンドオーディオ)対応機器の話題だった。

 HDオーディオ対応のAVアンプが多数登場するとともに、BDレコーダ、プレーヤはHDMI 1.3から導入されたHDオーディオ対応が当たり前になってきている。薄型テレビやホームプロジェクタなども、現在はそのほとんどがHDMI 1.3対応。

 しかし、HDMI 1.3対応が進むにつれて、接続性の問題も出てくるようになってきた。うまく映像が出ないといったケースがあるのだ。なぜ繋がらないのか? バージョン違いが問題なのか? それとも相性やケーブルの問題なのか? 原因を探るうちに、徐々に見えてきたことがある。



■ HDMI 1.3未対応のリピータが存在する場合、映像が出なくなる場合がある

 HDMI 1.3は、それまでのバージョンアップに比べ、非常に多くの仕様追加が行なわれている。そのうちのひとつはHDオーディオストリームのサポートだが、他にもDeep Color(8bitを超える色深度のサポート)やオートリップシンク、リンク速度の向上といったトピックがある。

 HDMIは双方向に通信を行ないながらネゴシエーションし、接続相手の能力を見て、映像を送るソース機器(レコーダやプレーヤー)が最適な信号を送る。このため、本来はユーザーは特にバージョンを意識しなくとも、最低限“映らない”という状況は回避できるハズだ。しかし、実際には映像が出てこないケースがあるのだ。

 実際に確認できたケースでは、以下の場合には映像がディスプレイに表示されない可能性がある。

  • ソース機器、ディスプレイともにDeep Colorをサポートしている
  • リピータ機器(AVアンプ、HDMIセレクタ、延長モジュールなど)が間にあり、それがHDMI 1.3対応ではない

 リピータ機器が1.3対応ではないのだから、つながらないのは当たり前、と考えるのは早計だ。リピータ機器はパススルーで映像信号を送信しなおすだけなので、サポートする帯域の上限を超えない限り、繋がるハズなのだ。そもそも、リンクする前にリピータが1.3対応ではないことを、他の機器は知っているのではないか?

 HDMIは元々、コンピュータ用に開発されたDVI規格を元にしている。DVI規格はEDID(Extended display identification data:拡張ディスプレイ識別子)をディスプレイが出力し、映像を送る側はその内容を吟味して表示可能な範囲の信号を送信する。したがって本来、リピータ機器は自分が1.3対応ではないことを知っているのだから、ディスプレイの能力を知らせるためにEDIDをソース機器にリレーする際、ディスプレイから届いたEDIDを見て未定義(自分が知らない)ビットのフラグをすべてクリアしてからソース機器に伝えるべきなのかもしれない。

 しかしすべての製品がそうというわけではないが、リピーター機器の一部はディスプレイが報告してきたEDIDに関して、未知のビットは操作せず、そのままソース機器に伝える。つまり、上記の場合で言うと、送り側はディスプレイがDeep Colorをサポートしていると思い、10bitの色深度で映像を送り出してしまう。

 この際、1080/60pの信号をDeepColorで送ろうとしても、ディスプレイには届かないため映像は映らない。ビット数が増えた分、高速にリンクしなければならないが、間に挟まるリピータがHDMI 1.2以下だと、サポートするリンク速度の上限を超えてしまうからだ。

 しかし、1080/24pや1080/60i、あるいはそれ以下の解像度ならば10bit Deep Colorでも帯域の上限は超えないので、リピータは映像信号を正常にパススルーできるはずだ。ところが、この場合でも“映る場合もあるし、映らない場合もある”のである。話をシンプルにするために、AVアンプではなく純粋なリピータ機器(セレクタなど)で話を進めよう。

 実はあるメーカーの技術者によると「リピータ機器の一部に、Deep Colorであることを示すフラグをマスクしてしまうものがある」ことが、最近のトラブル報告などでわかってきているという。

一部リピータで映像が映らない理由 別のリピータで映る場合もある理由

 かなりテクニカルな話になるが、HDMIの映像信号タイミングは、SMPTEのフォーマットをそのまま踏襲している。アナログ信号と同じ送出タイミングとなっているため、垂直同期帰線のためのブランク期間が設定されている。要は、フィールドとフィールド(あるいはフレームとフレーム)の間に、何もデータを送信していない時間がある。

 HDMIはこのブランク期間にオーディオデータや、様々な動作のフラグ情報を入れており、“このデータはDeep Colorですよ”というフラグもまた、ブランク期間内のパケットに収められている。上記の“Deep Colorであることを示すフラグをマスクしてしまう場合がある”というのは、一部のリピータ機器が自分の認識できるフラグを持つブランク期間のパケットを勝手にクリアしてしまうことを指している。

 リピータ機器内でDeep Colorフラグがクリアされてしまうと、送信側はDeep Colorの書式でデータを送っているのに、受け取っているディスプレイはそれが8bitデータだと思って処理しようとする。すると正しく処理できずに画像が表示できなくなってしまう。


■ 対策方法はシンプルだが……

 AVアンプが間に挟まっている場合、AVアンプは単なるパススルーで信号を切り替えているわけではない。オーディオ信号を途中で受け取る必要があるため、一度、信号を受け取ってそれを再送信するという形になる。

 この場合、AVアンプはディスプレイから受け取ったEDIDのうち、オーディオ信号に関するフラグだけを書き換えてソース機器にリレーする場合があるため、やはり同じ問題が起きる可能性がある。ただし、AVアンプの実装に依存するので、HDMI 1.3非対応だから必ずダメというわけではない。このあたりは、各製品ごとにテストを行なってみる必要があるだろう。

 すべてのメーカーのAVアンプについて確認したわけではないが、少なくともHDMI 1.3の仕様が発表された一昨年の1月以降に設計されたAVアンプに関しては、自分自身(つまりAVセンター自身)が使い道をしらない未定義のフラグに関して、ゼロクリアしてEDIDをリレーしている。デノン、ソニー、パイオニア、オンキヨーなどに関しては、比較的最近の製品であれば大丈夫のようだ。

 さて、HDMI 1.3に対応していないAVアンプに関してだが、この場合はそもそも10bit Deep Colorの信号を認識できないため、再送信したくとも正しく送れるかどうかわからない。プログラムの組み方次第では運良く再送出してくれる可能性もあるが、発売時に決まっていなかった規格フォーマットでの動作がどうなるかは、全くテストされていないと考えた方がいい。つまり、映像が出なかったとしても不思議ではない。

以前のAVアンプで動作しないケース 非HDMI 1.3のAVアンプで動作するケース

 このようにDeep Colorに関しては、いくつかのケースにおいてうまく映像が出ない可能性がある。またつながったとしても、マニアックな視点で言うと接続リンクの周波数は8bit時よりも高くなるので、音質面での悪影響も若干だがある。

 このように書くと、「HDMIのバージョンが心配で機器を揃えられない」という話になってしまうが、対応する方法はもちろんある。HDMIの基本的なポリシーは、ソース機器が接続する相手の能力を見極めた上で、問題なく映像や音声を送ることができる信号を送出するというものだ。

 したがって、ソース機器にDeep Colorを利用するか否かを決めるオプションがあればいい。ソース機器側でDeep Colorを使わないよう設定しておけば、途中の経路で問題が起きる可能性はない。もちろん、ケーブルの品質などによる問題はその限りではないが。

 ではレコーダ、プレーヤー側はDeep Colorのオン/オフを行なえるようになっているのだろうか? 主要な製品について調べてみた。

 まずDeep Color対応のBDレコーダに関しては、シャープ、ソニー、松下電器、いずれもDeep Colorが自動判別され、ディスプレイ側がDeep ColorサポートのEDIDを返してくると必ず10bit Deep Colorで映像を送出する。

ソニー「BDZ-X90」。DeepColorの自動/Offを切り替える設定項目も用意する 松下電器「DMR-BW900」 シャープ「BD-HDW20」

パイオニア「BDP-LX80」

 次にBDプレーヤーだが、パイオニアは現時点でDeep Colorに対応していないため問題はない。デノン製はDeep Colorに対応しており、自動判別がデフォルト設定になっているが、オプションでDeep Colorをオフに設定できる。もしデノン製BDプレーヤーのユーザーで、今回紹介したケースに該当すると思ったユーザーは、Deep Colorのオプションをオフに切り替えてみるといい。

 “Deep Colorオフにすると画質が落ちるのではないか?”と思う読者もいるだろうが、現時点においてDeep Colorに意味が存在するアプリケーションは、ゲーム、それも10bit色深度対応ゲームのみ(すべてを把握していないが、ほとんどのゲームは8bitレンダリングだろう)と、デジタル写真(こちらも実際には8bit/JPEGに記録しているものがほとんどだろうから、あまり意味はない)ぐらい。

 DVD、BD、HD DVD、デジタル放送。これらはすべて8bitの階調しか持たないので、Deep Colorはオンでもオフでも伝送ロスは起きない。唯一、DVDをアップスケールした際、輪郭部に演算で生じる階調情報が出る可能性はあるが、丸めても画質に大差はない。今後、ソース機器側で階調クリエイションや積極的な絵作りを行なうことがあれば、そこには10bitの意味も出てくるだろうが、現時点ではデフォルトでオフにすることの弊害はなく、むしろ互換性は上がる。

 念のため、いくつかのメーカー開発者に連絡を取りながら今回の記事を書いた。できれば、各メーカーのソース機器が、Deep Colorの設定に関して適当な対策を施してほしい。原因となっている機器がHDMIセレクタの場合なら、最悪は買い換えればなんとかなるが、AVアンプとなると簡単に買い換えるわけにはいかない。

 万が一、混乱が大きくなる前に、対策と問題の周知が進むことを期待したい。


□HDMI Licensingのホームページ(英文)
http://www.hdmi.org/
□関連記事
【2007年10月17日】広色域対応HDMI機器は「HDMI 1.3(x.v.Color)」に
-新表示ルールを規定し、対応機能を明確化
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071017/hdmi.htm

(2008年3月6日)


= 本田雅一 =
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]


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