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第350回:小さくなって帰ってきた!? フルHD Everio「GZ-HD6」
~ 「W倍密」はどこまで有効か ~



■ 行って戻ってまた行って……

 ビクターのEverioシリーズがHDカムコーダ市場に参入したのは、2007年3月の「GZ-HD7」が最初であった。当時際だっていたのが、1,920×1,080ピクセルのフルHDで記録するというコンセプトである。今でこそどのメーカーもフルHD記録を売りにしているが、このトレンドを最初に持ち込んだのは、ビクターだったのだ。

 ところが次号機の「GZ-HD3」では、小型・廉価化はまあある意味当然の流れだが、なんとフルHD記録をやめるという方向に出た。「そこ落とすのかよ!」と心の中で突っ込んだのは筆者だけではあるまい。

 しかし今年の春モデルである「GZ-HD6/HD5」は、再びフルHD記録になって戻ってきた。光学部はHD7と同じでありながら、約40%の小型化を実現したという。さらに上位モデルのGZ-HD6(以下HD6)では、1080i記録を出力時に1080pに倍密化して出力することができるという。以前三洋Xacti「DMX-C6」ではSD解像度を倍密化したが、1080iを倍密化して出力するモデルは初めてである。

 SDでは好調が伝えられるEverioだが、フルHD記録返り咲きで、HDでも同様の好評を得ることができるだろうか。HD6の実力を早速試してみよう。


■ スペック据え置きで大幅な小型化を実現

 まずはいつものようにデザインから見ていこう。HD6の特徴はなんといっても、上級機種GZ-HD7と同等の光学部を持ちながら、大幅にサイズを小さくしたことにある。ただビューファインダを省略し、またマニュアルフォーカスリングやレンズフードもなくなったという点を考えれば、まあだいたいそんなもんかと想像できる範囲である。


外観はオーソドックスな横型スタイル バッテリはボディからはみ出る

 全体的な印象としては、樹脂製パーツ部分が目立ち、直線が多いデザインとなっているあたり、若干地味な感じがする。若干地味な感じがする。HD7のアルミを使ったボディと比べると、若干コストダウンの様が見えてしまうのは残念だ。

 レンズはフジノン製光学10倍ズームレンズで、35mm換算で39.5~395mm。倍率は低めだが、広角寄りで使いやすい画角だ。撮像素子は1/5型プログレッシブ3CCDで、57万画素×3。動画も静止画も有効画素数は53万画素×3だが、画素ずらしにより1,920×1,080ピクセルの解像度を得る。また今回はx.v.Colorにも対応した。

撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画(16:9)
39.5mm

395mm
静止画(16:9)
39.5mm

395mm


前面はずいぶんすっきりした印象

 前面は静止画用フラッシュを装備しないのは従来機と同じだが、HD3で搭載されたLEDビデオライトも今回は搭載していない。また得意のフォーカスアシストも前にボタンがないため、前方のルックスはずいぶんすっきりしている。レンズカバーは電動式で、スタンバイモード時も閉じる。最近はスタンバイでもレンズカバーが閉じる機種が増えたことは、喜ばしいことである。

 内蔵HDDは120GBで、最高画質で約10時間の録画が可能だ。またこのモデルではSDカードへの動画記録にも対応しているが、転送レートの関係から、最大22Mbps VBRであるSPモードまでとなっている。MPEG-4系ならばメモリでももう少し高画質モードもいけただろうが、EverioはMPEG-2記録なので、メモリに移行するメリットはあまりないのかもしれない。

 液晶モニタは2.8型ワイド液晶で、こちらはx.v.Colorには対応していない。液晶脇にはHD7から続くジョイスティックとインデックス、ファンクションボタンがある。録画の開始がモニタ周辺でできるカメラが増えているが、そのあたりの対応は考えていないようだ。

 液晶内側のボタン類はシンプルで、5つしかない。AUTOとインフォボタンが兼用になったほか、フォーカスアシストボタンがここに移動した。ボタン上の穴はスピーカー、上下のスリットは放熱口だと思われる。


液晶モニタ横にジョイスティックなどを装備 内側のボタン類。フォーカスアシストボタンがここに移動した

 端子類は、ほとんど背面に付けられている。バッテリの上が電源とマイク、イヤホン端子、バッテリの横がUSB、HDMI、コンポーネントビデオ、コンポジットビデオ出力となっている。HDMIは、最近カムコーダで採用の多いHDMIミニではなく、標準タイプだ。単純なゴムカバーで覆われているあたりは、前回の「HDR-SR12」と比べると見劣りする部分である。


バッテリ上にマイク、イヤホン端子など HDMIは標準サイズを装備

 グリップ部のデザインは前作のHD3とほとんど変わらないが、以前のようなディンプル加工はなくなって、つるっとした表面になっている。またグリップ部前方にはi.LINK端子がある。CBR1440モードで撮影した場合のみ、HDV互換としてこの端子を使うことができる。

 SDカードは今回あらたにmicroSDカードになった。スロットは前回同様底面である。最近は低価格な大容量メモリを使用するため、スタンダードサイズのSDカードに戻る傾向が強まっているが、MPEG-2記録である限りはあまりメモリ記録にシフトするメリットがないのか、小型化のほうへ進んだようである。


i.LINK端子はかなり深いところにある メモリはmicroSDカードを採用



■ 良くも悪くもHD7と同等の動画

 光学部がHD7と同じということは、画質面でもほぼHD7と同等と考えていいだろう。画質モードは新たにLPモードを追加した。長時間撮影のためということだが、やはりMPEG-4に比べてMPEG-2のビットレートの高さが、長時間記録という点でネックになってきたということだろう。

動画サンプル
モード 解像度 ビットレート HDD記録時間 サンプル
FHD 1,920×1,080i VBR 最大30Mbps/
平均約26.6Mbps
10時間
ezsmfhd.tod (45.6MB)
SP 1,440×1,080i VBR 最大22Mbps/
平均約19Mbps
14時間
ezsmps.tod (29.8MB)
LP VBR 最大15Mbps/
平均約11Mbps
24時間
ezsmlp.tod (17.0MB)
1440CBR CBR 27Mbps 10時間
ezsmcbr.tod (43.4MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 ただサンプルを見てわかるように、LPモードは画質的にもさすがに厳しいものがある。通常の用途で使うものでもないだろう。

 解像感は全体的に若干甘めではあるが、画素ずらしの精度が高いこともあって、偽色などは少ない。このあたりの印象は、HD7と同じだ。それと同時に、HD7と同様の問題も一緒に抱え込んでいる。


静止画サンプル
解像感は若干甘めの傾向がある 発色の瑞々しさに3板式の特徴がよく出ている

 HD6はフルマニュアル機ではないが、シャッター優先/絞り優先モードを備えている。絞り優先の時に解放にすると、明るい被写体の輪郭にぼんやりとしたフリンジが出る現象があるのはHD7と同じである。

 ただオートではF4付近で動作するので、それぐらい絞ればあまり目立たない。このカメラの性格から、あまり優先モードは使われないという判断かもしれない。

絞り別静止画サンプル
絞り サンプル 絞り サンプル
F1.9 F2.0
F2.8 F4.0
F5.6 F8.0

 今回はx.v.Colorに対応したのも大きなポイントだ。比較してみると、3CCDゆえに発色の強さはOFFでもほとんど問題ない。ただ濃い色は位相が若干曲がっていたのが、x.v.Colorでは正しい色方向に伸びるようになっている。

 x.v.Colorは、元々カメラサイドでは対応が比較的簡単なので、搭載されるモデルが今年からぐっと増えてきている。

静止画サンプル
x.v.Color ON x.v.Color OFF

 そうなってくると難点は液晶モニタだ。x.v.Color対応でないのはまあ初回は仕方がないとしても、上下方向の視野角が狭く、正確なコントラストが掴みにくい。ビューファインダもないことだし、もう少し高水準の液晶を使って欲しかった。

 フォーカスの追従性は、おかしな癖もなく、比較的使いやすいほうだろう。特徴的なボタンではなくなったが、フォーカスアシスト機能があるので、補正は楽だ。アシストボタンを押すだけで画面が自動的にモノクロの輪郭強調モードになり、マニュアルフォーカスとなる。フォーカスの調整はジョイスティックの左右だ。

 光学式手ぶれ補正もHD7は利きが悪かったが、本機では後に出たHD3と同等の性能となっている。

動画サンプル

ezsample.mpg (199MB)

ez_room.mpg (31.7MB)
屋外サンプル 室内サンプル。若干暗めだが、S/Nは悪くない
編集部注:動画サンプルは、TODファイルをEDIUS Neoで直接編集し、FHDモードと同じビットレートでセグメントエンコード出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ UIにやや難あり

 ここでは静止画撮影も含めて、操作性について言及しておこう。静止画は元々最大で1,920×1,080ドットしか撮れないということもあって、それほど大きく期待できるわけではない。

 また昨今のカメラには珍しく、動画と同時に静止画撮影ができない。同じ3CCDのPanasonic機では可能なので、技術的にできない話ではないと思うのだが、せっかくCCDがプログレッシブなのに勿体ない気がする。


静止画サンプル
静止画モードで撮影。解像感もそれほど悪くない 発色の深みが気持ちいい

 静止画の保存先は、SDカードにもHDDにも指定できる。またコピーは相互に可能だ。一方動画はSDカードにも撮影できるが、撮影モードはSPモードに固定されている。だが単にビットレートの問題だけだったら、今回新たに搭載されたLPモードが選べても良かっただろう。メモリの汎用性を考えると、低画質でもメモリに撮った方が便利というシチュエーションも考えられるのではないか。

 また動画の場合は、HDDとSDカード間でコピーする機能そのものがない。搭載がmicroSDなので、それほど大容量のものはないとは思うが、電源が取れない場所でちょっとメモリにコピーしてノートPCに転送、という使い方もある。録画・再生といったリアルタイム動作が難しくても、データとしてコピーできれば、より利便性が上がったことだろう。

 まだ各社とも、AV機器としてのカムコーダの常識に捕らわれていて、固定メディアのHDDと、リムーバブル・高速・大容量メモリを組み合わせることでどのようなイノベーションをもたらすのか、はっきり見えていない印象を受ける。

 メニューのインターフェイスに関しては、若干の改善が加えられている。これまでのEverioでは、メニュー項目をスクロールすると、ローテーションしてエンドレスで現われる。そうなるとメニュー項目が多い場合、すでに項目が一回転しているのを気づかずにどんどんスクロールしていってしまい、無限に項目があるような気がしてしまう。変更したい項目の場所をうろ覚えで探す場合に、この罠にはまって延々と同じ場所をグルグル探し回ることになるのだ。

 この問題に対して今回は、メニューの起点となる項目の下にアンダーラインが引かれて、区切り目がわかるようになった。これでメニューが一回転したかどうかがわかる。

 しかし別の問題は放置されたままだ。それはシーンメニューである。せっかく「ダイヤル」という円形のメタファを採用しているのに、最後の「夜景モード」からOFFへは、最短コースで戻れないのである。つまり「夜景モード」で回転がストップしてしまうので、OFFするためには、また延々と逆回しにして戻っていかなければならない。これでは何のために円形のメタファを使っているのか、さっぱりわからない。


メニューの起点にアンダーラインが引かれた シーンメニューのダイヤルUIがなぜ1回転しないのか謎



■ 倍密再生は効果あり?

 HD6の再生上の特徴は、1080/60iで記録された映像を1080/60p化して出力するという機能が付いたことだ。最近のテレビはほとんど60p対応になってきているが、2~3年前のモデルでは、対応していないものの方が多いだろう。

 基本的にフラットディスプレイでは、インターレースはそのまま表示できないので、内部でI/P変換を行なっている。この変換をテレビ側に任せるのか、カメラに任せるのかという話になるわけだ。ここでは06年に発売されたソニーBRAVIA「KDL-46X2500」を使って再生テストしてみた。

 HD6で60p化して出力したものは、I/P変換によるエラーノイズのようなものはほとんど見つけることができなかった。一方BRAVIA側でI/P変換したものは、細かい絵柄の部分でギシギシとしたエラーノイズが確認できる。これまでこのようなエラーは、ユーザー側ではどうしようもなかったわけだが、出力側でより正確なI/P変換をしてくれるなら、それを利用する価値はありそうだ。

 しかしこの効果を得るためには、カメラ本体をいちいちテレビに繋いで見るということが必須になる。これまで撮影された映像があまり見られていないという原因の一つは、いちいちビデオカメラをテレビに繋ぐのが面倒、という点が大きかった。今後の流れからすれば、カムコーダで撮影した映像は何らかのメディアに保存して、それを使ってテレビで再生するという方法が主流になるだろう。

 そう考えると、カメラ本体にこのような機能を持たせることは、もちろん撮影時の情報を元にI/P変換するからエラーが少ないという点で意義があるにしても、カメラから書き出してしまった映像では効果が得られないことになる。次のステップでは、その情報ごとDVDライターに保存して、そちらで倍密再生を実現するほうが、より利便性は高いだろう。


■ 総論

 HD7でフルHD記録を実現して以来、HD3ではスペックダウンの印象が強かったEverioだが、HD6はHD7とほぼ同等の機能を有しながら、大幅な小型化を実現してきた。以前から精度が高い画素ずらしの3CCD方式を採用してきたこともあり、解像度や発色などで無理しているところもなく、絵作りとしては綺麗にまとまっている。

 倍密再生に関しては、確かに効果があるのは確認できた。テレビのI/P変換アルゴリズムはメーカーによっていろいろ異なるが、どのテレビに対しても一定の出力結果が得られるというのは重要だ。ただ、1080/60p対応テレビを現在持っているユーザーにしかメリットがないのは残念だ。

 今回のHD6ではメモリ記録も一応可能となったが、HDDとメモリ間で動画のコピー機能がない。また動画同時撮影の静止画機能もなく、カムコーダ全体の中では、機能的にはコンサバな印象を受ける。圧縮方式もMPEG-2のSDビデオフォーマットを貫いているが、120GBのHDDを搭載してもAVCHD機に比べると記録時間は半分であり、ビットレートが高いためにメモリ記録もままならないのでは、現時点ではデメリットのほうが目立ってきている。

 また編集の面では、Mac上のQuickTimeの最新バージョンでHD6のファイル再生ができないという問題が起こっている。これはApple側の問題であるかもしれないが、独自規格だと「些末な問題」として対応が後回しになってしまう可能性も否定できない。

 このIT時代に、規格が一つに固定化されることが単純にいいは言い切れない。どんどん進化するのは我々ユーザーにとっても楽しみなわけだが、進化に対するツケもまたユーザー側に回ってくるのが、AV機器業界の常である。それに見合うメリットがあるなら買い換えもやむなしだが、どのぐらいのレベルになればいくら出せるかというのは、実際に体験してみなければわからない。そこまで違いがわかる展示というのは店頭ではなかなか難しい。このあたりがハイビジョンビジネスの難しいところであろう。

□ビクターのホームページ
http://www.victor.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.victor.co.jp/press/2008/gz-hd6.html
□製品情報
http://www.victor.co.jp/dvmain/gz-hd6/index.html
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【1月29日】ビクター、世界初の1080/60p出力可能なHDDカム「Everio」
-記録は1080iで再生時にI/P変換。120/60GBの2モデル
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080129/victor.htm
【2007年3月28日】【EZ】ようやく登場、底力を見せたEverio HD「GZ-HD7」
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070328/zooma300.htm

(2008年3月19日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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