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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第360回:HDVでもHDD収録、キヤノン「XL H1S」+ EDIROL「F-1」
~ 現実的なハイエンドHDVの使い方 ~



■ 今更HDV?

 DVにしろHDVにしろ、ハイエンドでは業務レベルのものが広く浸透している。ソニーにしても昨年のInter BEEでハイエンドHDV機を2モデル投入したばかりだが、この分野ではテープ式というのは結構手堅いところなのである。

 ただそうは言っても、やはり編集から先のワークフローがすべてノンリニア化した現状では、あとあとの作業を考えると収録もノンリニア化したいというニーズは高い。ソニー「HVR-Z7J」と「HVR-S270」にも、CFカードで記録するレコーディングユニットが標準付属しており、テープのメモリのハイブリッド記録という、新しい方向性が出てきている。

 レンズ交換可能なハイエンドDV/HDVカメラとして草分け的存在のキヤノンも、先日のNAB 2008で新製品「XL H1S」と「XL H1A」を発表した。個人的にはこのタイミングで、ノンリニアメディア収録機が欲しかったところだ。だが2004年にソニーがHDVハイエンドを出したときにも、キヤノンはDVフォーマットのハイエンド「XL2」をリリースしたように、なんか最後に決定版を出さないと次に行けないようなところがあるのかもしれない。

 さて今回は、キヤノンのHDV最高峰となるXL H1S(以下H1S)を取り上げるわけだが、ノンリニア収録ソリューションとして同じくNAB 2008で発表された、EDOROL のフィールドレコーダ「F-1」もお借りすることができた。今回はこの2台を組み合わせて、HDVでノンリニア収録の実際を試してみたい。


■ 細かい改善点多数

H1SにF-1をVマウントアダプタで接続

 H1Sは、基本的には2006年に発売された「XL H1」をベースに、細かい改善を行なったものと思っていいようだ。姉妹機H1Aとの違いは、HD SDIやTCなどプロ用端子の有無ぐらいである。このあたりは、ハンドヘルド機XH G1とA1の違いと同じだ。

 基本的なデザインはH1とかなり近い。ここではH1とH1Sの差を中心に見ていこう。まずスペック上の最大の違いは、H1がHDVで4chオーディオ収録が可能だったのに対し、今回のH1Sでは2ch収録に戻っていることだ。それぞれのチャンネルは、独立して外部入力かカメラマイクに切り替えることが可能。つまり1chはインタビューマイク、2chはカメラマイクといった収録ができるようになった。というか、普通のプロ用カメラと同じになったということである。

 XLシリーズはレンズ交換可能だが、今回はセットレンズも新しくなっている。画角などは前回と変わらないが、今回新たに絞りリングが付いた。解放からCloseまで多段階で絞ることができる。また小絞り回折が起こるようなF値では、表示がグレーになって教えてくれる。フォーカスとズーム、絞りのリングの間に段差を設けて、手元を見なくても操作できるようにした。

 ズームリングは電子式だが、テレ端からワイド端までのリング回転角を、45度、60度、90度から選べるようになった。またズームレバーは速度固定の時に、スロースタート/スローエンドするようになった。これは以前筆者が「プロフェッショナル・スマートズーム」と名付けてコンシューマ機用に各カメラメーカーに提案していたアイデアなのだが、プロ機に実装してくるとは意外だった。

オーディオは2ch仕様になった 絞りリングが付いて新デザインとなったセットレンズ

FireWire端子を6ピンに変更、イヤホンジャックも金属製に変わった

 ボディの改良点では、まずFireWire端子が4ピンから6ピンに変更されている。コネクタは6ピンのほうが丈夫で外れにくいので、今後フィールドレコーダを併用する際には安心できる。またイヤホン端子の周囲が樹脂から金属に変わったりと、ユーザーからのフィードバックをかなり取り入れた細かい改善点が多い。

 キヤノン機の特徴であるモードダイヤルは、電源OFFのすぐ隣が「マニュアル」モードになった。そのほか、ハンドグリップに指かけ用の突起が付けられたり、業務用三脚に多い「大ネジ」のベースが付属し、三脚に合わせて取り替えられるようになっている。

 また以前からの特徴であった跳ね上げ型ビューファインダだが、常時液晶モニタで使う人には、接眼部が邪魔だった。今回は公式には謳っていないが、この接眼部が外せるようになっている。ただ「外せないこともない」という程度で、実際にはピンセットなどを使ってヒンジ部の左右のピンを抜く必要がある。

 カメラ機能としては、全体的にカスタマイズが非常に細かくできるようになっている。従来カスタムプリセットとして細かい絵作りができるようになっていたが、カラーマトリックスなど色調に関する部分は、従来の±9ではなく±50に細かく設定できる。また本体に保存できるプリセット数は6から9に増えた。

大ネジ用のベースも付属する 接眼部は一応外せるようになった

ビデオゲインは一カ所自由にプリセットできるところができた

 ビデオゲインは、0.5dB刻みで設定できるほか、最高で+36dBまで設定できるようになった。普通のシチュエーションで使うものではないが、わざとS/Nが悪い表現や、特殊撮影などを狙ったものだろう。ホワイトバランスの調整範囲も、H1の2800K~12000Kに対して、H1Sでは2000K~15000Kに拡張されている。

 またカスタムディスプレイ機能では、ユーザーが必要なステータスのみを選んで表示できるようになった。EVF DISPLAYボタンで、全表示、カスタムディスプレイ、非表示に切り替えできる。


■ フィールドレコーダのフルスクラッチ「F-1」

EDIROLのフィールドレコーダ「F-1」 内蔵のHDDユニット。単体でPCにUSB接続できる

 F-1のほうも見てみよう。こちらは発売が6月下旬とまだ先で、プロトタイプをお借りしているため、仕様は製品版とは異なる可能性があることをお断わりしておく。

 フィールドレコーダと言えば、大手としては「FOCUS FS-4 HDシリーズ」があるほか、国内製品ではソニーの「HVR-DR60」などがある。

 F-1はそれらに比べれば大型だが、かなりPCオリエンテッドな作りになっている。まず記録メディアだが、リムーバブル型の120GB HDDで、内部ユニットだけでPCなどにUSB接続できる。本体側にもUSB端子があり、ここに接続しても構わない。

 またEthernet端子を備えており、F-1にPC等からログインすることで、ある程度のファイル操作が可能になる。またこのEthernet接続を使って、最大4台までのリモート操作も行なえる。ファイル転送も可能だが、Gigabitには対応していないので、転送はUSBのほうが速いだろう。ただこのあたりの機能は、まだ実装されていないようだった。

 本体横にあるVGA端子にPCモニタを繋げば、同じように内部のファイル操作が可能だ。操作自体は本体にUSBマウスを接続して行なう。

本体左側。Ethernet端子と排気用ファンがある 本体右側。VGA端子をモニタに繋げば、ファイルがモニタリングできる モニタ出力でGUI操作も可能

VマウントキットでカメラとF-1のバッテリを供用できる

 また音の会社らしく、カメラからの2chオーディオに加えて、別途2chの音声がリニアPCMで録れる。H1Sが4ch記録を辞めたのと対照的に、これを使えばまた4ch収録が可能になるわけで、うまい補完関係にあると言えるだろう。

 バッテリは単三電池8本で駆動するほか、XLRタイプの外部電源端子もある。またVマウント・キットを使えば、大型バッテリからカメラとF-1両方に電源を供給することもできる。


■ どこまでも破綻のない描写

 では早速この組み合わせで撮影してみよう。フィールドレコーダはカメラとFireWireで接続すると、カメラの録画と同時にRECコマンドを受けて録画を開始する。つまりテープにもHDDにも同じ絵が撮れるため、テープ側をバックアップとして使うことができる。

 テープが不要であれば、レコーダ単体で回すこともできる。カメラにテープが入っていなくても、通常はカメラ側のDVコントロールをONにしておけば、カメラ側のRECボタンでレコーダも録画開始できるものだが、現在この組み合わせではうまく動かなかった。テープを入れればOKなのだが、何せ筆者もこう言うものを使うのが初めてなので、他にも何か設定があるのかもしれない。

 両者の組み合わせでは、かなり後ろが重たくなる。担げばちょうどバランスはいいのだが、三脚ではベースが前の方にあるので、バランスが悪くなる。Vマウントバッテリではなく、乾電池駆動にすれば多少はいいかもしれない。

 またH1Sはヒップアップした形状なので、こうやってレコーダやバッテリを後ろに積んでいくと、重心が高くなる。カメラ自体は横幅があまりなくスリムなので、床に置いたときなどが倒れやすくなる。特に底部にシューが付いている時は、要注意だ。

 描画に関しては、さすがに前作H1から2年が経過しているだけあって、HDレンズもこなれてきている。エッジはなめらかだが、ディテールは綺麗に出る。収差らしい収差も感じられない。場合によってはワイド端が足りないこともあるだろうが、20倍ズームでテレ端が778mmなので、相当寄れる。そういう使い勝手のあるレンズである。

撮影モードと画角サンプル
20倍ズーム XL 5.4-108mm L IS III使用(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画
(1,440×1,08ドット)

38.9mm

778mm
静止画
(1,920×1,080)

38.9mm

778mm

 AFに関しては、レンズ交換が可能なこともあって、得意の外測センサーがない。フォーカスが合うまで少し時間がかかるが、AF時でもフォーカスリングを使うことができる。ただソニーのEX1ではマニュアルフォーカスで「この辺だよ」と教えれば、「ああその辺か」とカメラが判断して、なんとなくそのあたりをAFしてくれるという感じがあったが、キヤノンの場合は「こっちだよ」と教えても、ジワーッとAF判断のところに戻っていってしまう。このあたりのアルゴリズムは、ソニーに一日の長がある。

 新改良のレンズは、確かに指がかりが良く、リング間に適度な隙間があるため、指が置きやすい。フォーカスとズームはリングの幅でだいたいわかるのだが、滑り止めのパターンを変えて指の感触でわかるようになっていれば、さらに良かったかもしれない。

ものすごいディテール 昔のHDVとは隔世の感がある

動画サンプル

sample.mpg (184MB)
今回のサンプルは30P/CineVガンマで撮影、Edius Neoにてネイティブ編集した
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。
 今回ユニークな試みとして、フォーカス確認用のマグニファイ表示をそのままレコーディングできる機能が付いた。これだけ綺麗に寄れるのに勿体ないという声が多かったのだろう。画質もさほど落ちず、簡易的なエクステンダーとして、十分使える。

通常撮影 マグニファイ記録

 F-1のほうは、カメラにマウントしてしまうと操作部が上を向いてしまうため、カメラが高い位置にあると、操作パネルが見づらい。またRECランプも直射日光が当たる場所では、点灯が確認しずらかった。できればファインダ側の側面になんらかのインジケータが欲しいところだ。あるいはファインダ内のタリーと連動するなど、なんらかの連携があると使いやすいだろう。

 時折RECボタンを押しても反応しないことがあったが、まあこれは製品版では改善されるだろう。基本的にFireWireからのストリームをそのまま記録するだけなので、本体には再生機能はない。カメラとFireWire接続していれば、カメラの入力を通じてモニタなどに出力できる。


■ Mac対応が課題

 ノンリニアメディアで撮るというのは、ほとんどが編集の利便性のためである。F-1では日付でフォルダを作ることができ、録画先をそこに指定することができる。録画されたファイルは、「F_000.m2t」のような連番ファイルとなっている。

 PCへのファイル転送だが、方法としては以下のの4通りがある。

  1. 本体とUSB接続
  2. 本体とEthernet接続
  3. 本体とFireWire接続
  4. リムーバブルHDDとUSB接続

 1に関しては、本体を動かすためにわざわざバッテリやACが必要だ。4の方法ではバスパワーで動くため、そちらのほうがメリットがある。2に関しては、ファイル転送に関してはUSBほど速度が出ないものの、遠隔地からの操作などでメリットがある。3はもっとも多くのシステムに繋がる方法ではあるが、VTRをエミュレーションすることになるので、転送は等速になる。せっかくHDDに撮っても転送が等速では、テープと変わらない。ここは素直に4がもっとも現実的な方法だろう。

 編集ソフトやプラットフォームに合わせて、いろいろな手段が使えるのはメリットだ。ただ現状では、Macとの相性が悪い。Mac OSにラッパーなしの素のMPEG-2 TSファイルをそのまま持ってきても、いかんともしがたいのである。Final Cut ProでFireWire取り込みを試みたが、F-1をVTRだと認識しないようだ。このあたりは、今後のチューニングということだろう。

 一方Windows系プラットフォームでは、.m2tファイルを直接インポートできるものが多い。ノンリニアマシンとしても、HDVならばネイティブ編集可能なものも多いので、多少古いシステムでも十分にHDD収録の恩恵が受けられるだろう。


■ 総論

 H1Sは、絵作りの面だけでなく、操作系でも結構細かいカスタマイズが可能だ。リングの回転方向や回転角もソフトウェアの設定で変えられる。ギヤ式でないと滑る、ズームピンが付けられないという意見もあるのだが、回転を逆にできるというのは電子式ならではだろう。

 しっくり来る操作性をじっくり仕込んでおいて、その設定をSDカードに書き出せる。レンタルなど別のカメラを使うときも同じ設定にできるので、プロには便利だろう。もっとも頻繁にキヤノンを使っているカメラマンは、カスタムファンクションのパラメータを暗記している人も多いと聞く。

 先日のNAB2008で、ソニーが「XDCAM EX3」を発表したが、これはかなりH1の影響を受けたカメラだと思う。跳ね上げ型ビューファインダやヒップアップしたデザインなど、見た目が小型のH1だ。キヤノンがこのクラスでテープを捨てるときには、こういうスタイルになるのだろうか。次の一手が楽しみだ。

 EDIROL F-1は、まだプロトタイプということもあって、細かい点はこれからいろいろ詰めていくところだろう。総じて言えば、単にカメラにマウントするだけでなく、スタジオ撮影でも使えるデッキ的な用途もいろいろ考えられるかもしれない。Ethernetによるコントロールをワイヤレス化できれば、4台までマルチカメラを集中コントロールできるのではないかと思う。

 両製品とも、ある意味ものすごくマニアックなところにまで踏み込んでおり、もはや単純なHDVの枠を越えた運用が可能だ。HDVで使用されているコーデックは今となっては正直古く、編集においてはダビング特性やクロマキーの抜けなど厳しい部分もあるのだが、フィールドレコーダの登場でまたしばらく延命されることになるだろう。

□キヤノンのホームページ
http://canon.jp/
□ニュースリリース
http://cweb.canon.jp/newsrelease/2008-04/pr-xlh1s.html
□製品情報
http://cweb.canon.jp/prodv/lineup/xlh1s/index.html
□関連記事
【4月10日】キヤノン、レンズ交換可能な最上位HDVカメラの新モデル
-キットレンズに絞りリング追加。SDI搭載モデルも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080410/canon.htm

(2008年5月7日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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