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大河原克行のデジタル家電 -最前線-
~ソニーは、液晶テレビの安売りに走るのか?~



 ソニーが発表した2008年度の液晶テレビの出荷計画は、1,700万台。2007年度実績の1,060万台から60%増となる大幅な成長を見込む。しかも、その前年度実績が630万台であったことに比較すると、わずか3年で、2.7倍もの出荷規模に増やす計算だ。

 松下電器は、2008年度の計画として前年比47%増の1,100万台(前年度実績750万台)、シャープは、21%増の1,000万台(前年度実績824万8000台)を目指す計画を明らかにしているが、これらライバル企業を圧倒する意欲的な計画ともいえる。

 2008年度の全世界の液晶テレビの市場規模は、ディスプレイサーチの予測では1億800万台と、前年比27%増の市場成長率になると見込んでいる。ソニーは、その高い成長を、さらに大きく上回る計画を掲げているのだ。

 しかも、ソニーの出荷台数は、もともと分母が大きい。これだけの分母の大きい企業が、60%増という高い成長率を目指すのは並大抵のことではない。



■ 圧倒的なビジネスボリュームを目指す

大根田伸行執行役EVP兼CFO

 ソニーは、2008年度の方針として、「市場成長期における圧倒的なビジネスボリュームの獲得」を掲げる。

 つまり、量による拡大戦略が主軸になる。ソニーでは、1億台に達する液晶テレビ市場において、15~20%のシェアを獲得したいと語る。実際、社内的には、1,700万台以上の出荷計画を掲げているとの声もあり、松下、シャープとの差をさらに広げる姿勢だ。

 15%以上のシェアを獲得すれば、全世界において、「液晶テレビ=ソニー」のイメージが定着するだろう。国内では、「液晶テレビ=シャープ」のイメージが定着しているが、それは、圧倒的なシェアによる存在感が背景にある。ソニーは、ブラウン管時代と同じように、液晶テレビでも世界のリーディングメーカーとしてのポジションを確保することに、この1年を使おうと考えているのだ。

 量の拡大は、2008年度の黒字化への布石にもなる。「量の拡大が、固定費負担の減少につながる。これがテレビ事業の黒字化に寄与する」と、ソニーの大根田伸行執行役EVP兼CFOは語る。

 ソニーは、2007年度連結決算で過去最高の売り上げ、最終利益で過去最高の業績を達成したものの、テレビ事業に関しては、営業損失が約500億円も増加し、マイナス730億円の赤字となった。

 テレビ事業の赤字脱却は、BRAVIAブランドが登場して以来の課題。BRAVIAになって初めてとなる、テレビ事業の黒字化を、2008年度に目指すソニーにとっては、まずは圧倒的なボリュームを確保することで、コスト削減を実現することが必須条件となる。

 コスト削減の取り組みは、それだけではない。現在5つあるシャーシを、今年度中には2つに減らし、さらに標準パネルを採用したエントリーモデルを投入する。


■ S-LCD以外から調達する標準パネル

S-LCD工場。一番左が第8世代パネルを生産する新工場

 ここで気になるのが、ソニーがいう標準パネルとはなにか、ということである。実は、ソニーでは、S-LCD以外から調達する液晶パネルのことを標準パネルと呼ぶのだという。現在、ソニーは、韓国サムスンとの合弁であるS-LCDから調達したパネルを活用している。これをソニーパネルと呼ぶ。

 ソニーによると、S-LCDでは50%対50%の出資比率に応じて、ソニーとサムスン向けにそれぞれパネルが供給されるが、コントラスト比や応答速度、視野角などの性能が、2つの供給先に向けて仕様が異なる。さらに、S-LCDではモジュール工程までが組み込まれており、このモジュールの差でもソニー向けとサムスン向けではパネルの性能が異なるという。

 これによってサムスン向けとは異なるパネルがソニーに供給され、それを「ソニーパネル」と呼ぶ、というのがソニーの言い分である。これに対して、標準パネルとは、台湾のパネルメーカーなど、S-LCD以外の企業から、ソニーが調達したパネルのことを指すという。

 実際、ソニーがS-LCD以外からパネルを調達することは、ソニーの出荷計画と、S-LCDの生産能力の差からも明らかだ。

 S-LCDの生産能力は、46インチで6枚、あるいは40インチで8枚を切り出せる第7世代ラインで月産10万枚の体制を確立しているのに加え、2007年度からは、46インチで8枚を切り出せる第8世代ラインを稼働させ、こちらでは月5万枚の体制となっている。これをサムスンと折半しているため、第7世代ラインでは40インチで480万台、第8世代の46インチで240万台がソニー向けに供給されていることが逆算される。だが、両方をあわせても720万台。もう少し小さいサイズのパネルに切り出したとしても、計画の1,700万台には到底届かない数字だ。

 S-LCDでは第8世代の新規ラインを月6万枚体制で稼働させることを発表しているが、これは2009年第2四半期(4~6月)から貢献するもの。また、シャープとの協業による第10世代の堺工場の稼働も、2009年度中が目標となっており、2008年度計画には関係ない。

 ソニーは、外部からの調達するエントリーモデル向けの標準パネルを拡大することで、1,700万台という目標達成に挑むことになる。



■ エントリーモデルとはなにか

 大根田執行役EVP兼CFOは、この標準パネルを、「中位およびエントリーモデルに採用することになる」とする。では、ここでいうエントリーモデルの定義とはなにか?

 これには2つの考え方がある。ひとつは、32インチ以下の中小型液晶テレビという領域での展開だ。このクラスの製品であれば、中小型パネル生産で力を発揮する台湾のパネルメーカーからのパネル調達でも製品化は可能になる。

 もうひとつは、40インチ台の製品ながらも、ネットワーク機能などを取り払った「素」ともいえるモデルの展開だ。これは北米市場などでの展開が見込まれるだろう。

 ソニーは、2007年からWALMARTやCOSTCOといった大規模スーパーマーケットや会員制ディスカウントストアでの販売拡大に乗り出している。北米においては、液晶テレビ全体の35%を占めていた同販売ルートが、2008年度には40%にまで拡大すると見られている。ソニーは、それにあわせて、新たな販売ルートの拡充に乗り出しているのだ。

 同社では、「販路別の消費者ニーズに対応する最適な商品ラインアップを展開する。北米向けの液晶テレビの製品数は、前年の1.5倍に拡大する」と語る。

 こうした新たな販売ルートに向けた展開の上で、エントリーモデルの役割がある。いわば、機能を絞り込んだ大画面低価格モデルによって、価格競争の激しい北米の薄型テレビ市場に打って出ようというわけだ。


■ 日本市場向けの低価格戦略は?

 では、日本におけるエントリーモデルの展開はどうなのだろうか? エントリーモデルは、エリア別の戦略に準拠するというのがソニーの見解だ。そのため、高機能モデルが中心となる日本でのエントリーモデルの積極展開はあまり現実的ではないと考えられよう。

 だが、32インチ以下のクラスでは、エントリーモデルによる積極的な取り組みが見込まれる。それはすでに現実的なものになっている。

 例えば、今年4月の液晶テレビの平均単価をBCNランキングから見てみると、ソニーのフルHD液晶テレビ全体の平均単価は19万7,000円。市場全体の平均単価18万6,000円を上回る。これは松下電器、シャープ、東芝を上回る平均単価だ。また、40インチ液晶テレビ全体では、ソニーの17万5,000円に対して、市場全体は17万3,000円、46インチ液晶テレビ全体では、ソニーの25万9,000円に対して、市場全体は25万4,000円と、ソニー製品の単価の方が高い。

 しかし、32インチ液晶テレビではソニーの10万7,000円に対して、市場全体が11万円、20インチ液晶テレビではソニーの平均単価は、市場全体と同じ6万6,000円。3月実績では市場全体の平均単価を下回るというように、ソニーが平均価格を下回る低価格ぶりが目立つのだ。

 つまり、ソニーは、下位モデルでは標準パネルによる低価格戦略を推進し、上位モデルではソニーパネルによる付加価値戦略で顧客を獲得するという戦略を、すでに打ち出しているともいえる。日本での戦略は、北米や欧州の戦略とはやや異なることになるが、明確な2極化戦略によって、シェア拡大策に乗り出すことは明らかといえよう。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ソニーグループの業績発表文
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/financial/fr/index.html
□関連記事
【5月14日】ソニー、2007年通期決算は売上/純利益とも過去最高に
-エレキ最高益。テレビは1,000万台達成も赤字拡大
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080514/sony.htm

(2008年5月16日)


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき) 
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島(宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。

[Reported by 大河原克行]


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