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第327回:iriver plus3でGracenoteとAMGの楽曲認識を比較
~ 無料入手可能。新譜に強い高速フィンガープリント認識 ~



 CDのTOC認識といえばGracenoteの「CDDB」、オーディオデータからのフィンガープリント認識といえば「MusicID」というのがポピュラーだ。しかし、そのGracenoteが先日SONYに買収されたことによって、今後の状況は変わってくるかもしれない。

 特に気になるのがAMGの動向だ。AMGは先日、DVDやCCCDなどさまざまな著作権保護技術を持つMacrovisionに買収されているが、メーカーとの関係では完全に独立系。またAMGはこの2年間で急速に邦楽データを充実させてきており、またGracenoteよりもデータの質が高いという点で評価がある。

 なぜかPLAYSTATION 3がGracenoteではなくAMGの認識技術Lassoを採用しているなど、ハード機器系でシェアを伸ばしているAMGだが、ソフトにおいては日本語データが利用できるものがこれまでほとんど存在しなかった。しかし、先日iriverのジュークボックスソフトであるiriver plus3がGracenoteから乗り換える形でAMGに対応。使ってみるとかなり便利、かつ強力。SonicStage CPなどと比較する形で紹介する。


■ 本来バンドルソフトだが、海外経由でソフトを無料入手できるiriver plus3

 Windows Media Playerをはじめ、AMGの音楽データベースにアクセスするソフトは少なくないが、CDからリッピングする際にCDを認識するTOC認識と、すでに存在しているWAVやMP3、WMAなどのオーディオ情報から楽曲を認識するフィンガープリント認識の両方の機能を持つ日本語対応ソフトというのはほとんど存在していなかった。○○社が開発しているらしい、といった噂はよく耳にしており、各社Gracenoteからの乗り換えの動きがあったり、すでに開発に着手しているのは確かなようだが、現状まだなかったのだ。しかし、こに来て、ようやくiriverのポータブルプレーヤーにバンドルされるソフトである、iriver plus3が対応した。

 当然このソフトはiriver製品にバンドルされているのだが、iriver製品を持っていなくても、iriverのワールドワイドサイトに行くと、Supportメニューからダウンロードできる。最新はVer 3.5.0.2というものだが、これは日本語、英語、韓国語など各国語に対応しているので、インストール時にJapaneseを選べば、即、日本語環境で利用できる。

iriver plus3バージョンは3.5.0.2



■ TOC認識では新譜に強いがインディーズには弱い

 まずは、CDのメディアそのものを認識させるTOC認識から試してみた。旧譜を中心にいろいろなCDでテストしてみたが、邦楽・洋楽含め、ほとんど問題なく、認識した。最近、GracenoteのCDDBもかなり正確なデータになってきているようだが、正確さを売りにしているAMGだけに、それぞれの表示内容を細かくチェックしても、ミスは見当たらない。またジャンルの分類などもしっかりしており、同じ曲がさまざまなジャンルになっているといったこともない。

邦楽・洋楽どちらも問題なく認識した

 ただし、網羅性という意味では、まだGracenoteに軍配が上がるようだ。ご存知のとおり、もともとユーザーの入力した情報を元にデータベースが構築されているGracenoteのCDDBは同じアーティストのCDでもアルバムによってカナだったり、英語だったりと統一性の面で多少問題があったり、入力データに誤りがよく見つかったりするものの、インディーズ作品や雑誌付録のCDなど、メジャーでない作品でもデータがあるというメリットがある。

インディーズなどは見つからない場合が多い

 それに対し、AMGは、基本的にすべてのデータをプロが入力していることもあり、データは正確だが、インディーズなどマイナーな作品ではデータが見つからないケースが多い。実際、先週題材で使ったAreareaのアルバムや、リニアPCMレコーダーのテストに使っているTingaraのインディーズ時代のアルバムなどは見つからず、ディアゴスティーニの雑誌の付録CDなども見つからない。

 その一方で新譜にはかなり強いようだ。以前にインタビュー記事を紹介したことがあったが、邦楽はレインボー・パートナーズというAMGの代理店がデータの入力作業を行なっている。同社によると日々国内のメジャーレーベルの新譜すべてをレコード店の入荷日(通常発売の前日)に入手し、入力しており、翌日には公開しているとのことだ。

新譜への対応ではAMGの方がやや早かった

 実際に5月21日発売のアルバムをいくつか入手して23日に試してみた。21日発売のアルバムとしては、ちょうど先日、ギターマガジンでいっしょにお仕事させていただいた野村陽一郎さんが率いる二千花から「あたらしい水」という作品が、また先日オリンパスのリニアPCMレコーダー、LS-10の発表会でバイオリンの演奏を披露してくれた岡部磨知さんが参加している高嶋ちさ子12人のヴァイオリニストの「ヴァイオリン・ファンタジー」、の2枚に加え、T-Square Super Bandの「Wonderful Days」、竹内まりやの「幸せのものさし/うれしくてさみしい日 (Your Wedding Day)」の4枚をテストした。

 その結果、AMG側はすべて認識したのに対し、23日の時点ではGracenote側は全滅となった。しかし、25日に再度試したところ、二千花と竹内まりやは認識するようになっていた。なお、GracenoteのテストにはSonicStage CPを用いている。


■ 非常に高速で正確なフィンガープリント認識

 次にテストしたのが、すでにMP3やWMAなどのデータになっている音声データを認識させるフィンガープリント認識だ。

 過去にMP3データを作ったものの、TAG情報が付いていないとか、誤りがあるなど問題があるというケースも少なくないだろう。そうした場合、フィンガープリント認識で正確なデータを見つけて、TAG情報を付け直すという手段は非常に有効だ。

 いち早くGracenoteのフィンガープリント技術に対応したアプリケーションとして、オンキヨーのCarryOn Musicがあるが、その最新版をダウンロード購入して使ってみた。しかし、CarryOn Musicの場合、ファイルを1つずつ波形表示させてから、MusicIDで認識させる必要があり、非常に面倒で、時間もかかる。

オンキヨーのCarryOn Musicファイルを1つずつ波形表示させてから、MusicIDで認識させるのは時間がかかる

 一方で、SonicStage CPがMusic IDに対応しているので、これを使えば無料でソフトは入手でき、複数のファイルを一気に認識させることも可能で便利だ。そこで、TOC認識と同様、iriver plus3とSonicStage CPの2つでフィンガープリント認識を比較した。

 iriver plus3の場合は、認識させたい曲を選択した上で、右クリックして音楽情報検索を選択する。ここには、アルバム単位検索と曲単位検索というものがあり、これが結構便利に使える。まず曲単位検索の場合、1曲ずつ検索するため、曲によっては複数のアルバムに収録されているため、検索結果の中から手動で目的のデータを選択する必要がある。それに対し、アルバムの曲すべてを選択した上でアルバム単位検索をすると、それに相当するアルバムが絞り込めるため、効率のいい検索ができる。

右クリックして音楽情報検索を選択アルバムの曲すべてを選択した上でアルバム単位検索をすると、それに相当するアルバムが絞り込める

 一方、SonicStage CPでも、複数の曲を選択して一気に検索をかけることができるが、曲単位検索となるため、ひとつずつ正しいものを選択肢から選ぶ必要はある。実際に試してみて感じたのは、その選択肢の数の差だ。やはりAMGのデータベースはAMG自ら入力しているだけに、データが正確で選択肢が少ないが、Gracenoteのほうは、明らかに同じアルバムなのに、微妙に内容が異なるため、膨大な数の選択肢になっているケースが多いのだ。そのため、効率よくTAGを振りなおすという面では、AMGのほうがかなりよさそうだ。

SonicStage CPでも、複数の曲を選択して一括で検索できる(左)が、曲単位検索となるため、ひとつずつ選択していく必要がある

 また、iriver plus3でのフィンガープリント認識のスピードが速いのにも驚いた。たとえば11曲で約50分というアルバムの場合、アルバム単位検索で7秒、曲単位認識では9秒で行える。それに対し、SonicStage CPでは20秒程度かかる。20秒でかかっても、その後の選択なども考えればまったく問題はないのだが、認識速度に違いがあるのは確かだろう。


■ ソフトの仕様上、英語モードがお勧めではあるが、問題点も

 このように、比較していくと一長一短があるわけだが、使っていてiriver plus3のフィンガープリント認識にひとつ大きな問題があった。それは日本語のデータが優先されるという問題だ。

 洋楽のTAG情報はカタカナではなく英語で入れておきたいという人も多いだろう。筆者自身もそうなのだが、このiriver plus3の場合、使っている言語のデータが優先されるため、日本語データがある場合、カタカナのTAGに置き換えられてしまうのだ。

 英語データを優先にするといった機能があればいいし、せめて選択ができればいいのだが、同じアルバムの情報が多言語登録されている場合、強制的に日本語が選択されてしまうのは困ったところだ。AMGの代理店であるレインボーパートナーズによると、データベース上は言語選択が可能となっているが、iriver plus3の場合、言語が固定されているため、こうした問題がおきているという。

 そこで、試してみたのが英語モード。つまり、iriver plus3を一度アンインストールした上で、再インストールする際に、JapaneseではなくEnglishを選択してみたのだ。その結果、無事英語のデータを入手することができた。また、英語モードで邦楽を認識させた場合でも、しっかり日本語のデータを表示させることができるので、メニュー表示が英語になること以外、まったく不便はない。洋楽中心で使うのなら、やはり英語モードがお勧めだ。

再インストール時にEnglishを選択英語表記のデータが入手できたメニューが英語となる以外は問題なかった

ボーナストラックのみが別のアルバムとして認識される

 ただし、使っていて面白い問題にも気づいた。洋楽の輸入版はいいのだが、国内版の場合、ボーナストラックが入っているものが多いため、ボーナストラックのみが別のアルバムとして表示されてしまう。またiRiver plus3のバグなのか、アルバムの中の数曲が英語アルバムとして、残りが日本語アルバムとして認識されるケースもある。その結果、一つのアルバムのはずが2つのアルバムとして分類されてしまう。この辺がどうにも扱いづらい点なので、ぜひ早期の改善を願いたいところだ。

 とはいえ、AMGのデータベースを誰もが気軽に使えるようになったということは、選択肢が増えたという点で喜ばしいところだ。AMGに切り替えるとすべてがうまくいく、というものではなさそうだが、Gracenoteとうまく使い分けることで、効率がよく、正確なTAG情報の入手が可能になりそうだ。

□Macrovisionのホームページ(英文)
http://www.macrovision.com/
□Gracenoteのホームページ(英文)
http://www.gracenote.com/
□関連記事
【4月23日】米Sonyが「CDDB」のGracenoteを買収
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080423/sony.htm
【2005年3月14日】洋楽DBの巨人「AMG」が邦楽対応を開始
~ 新サービス「LASSO」の内容とは? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050314/dal183.htm

(2008年5月26日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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