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第326回:ノイズリダクションなど多機能で7千円の波形編集ソフト
~ 優秀なノイズ除去。Cakewalk「AUDIO CREATOR」 ~



AUDIO CREATOR

 先日、Rolandから発売されたCakewalkの波形編集ソフト「AUDIO CREATOR」。一風変わった波形編集ソフトで、約7,000円という低価格ながら機能が搭載された強力なソフトだ。

 その中でも目玉機能ともいえるのが「iZotope Audio Restore」というノイズリダクション機能だ。これによって、ヒスノイズ、ハムノイズ、クリップノイズ、クラックルノイズなどが効率よく除去できるとのことだが、実際どの程度の効果があるのだろうか? このノイズリダクション機能を中心に、AUDIO CREATORを試した。


■ 6つの機能を持つ波形編集ソフト

 CakewalkのAUDIO CREATORは、海外においては「Pyro Audio Creator」という名称で発売されているソフト。国内でも以前、Cakewalk Pyro 2004という音楽CD作成を主な機能としたソフトがリリースされていたが、AUDIO CREATORはその延長線上にありつつも、かなり趣向の異なるソフトに進化している。もちろん従来どおりCDを焼く「BURNER」という機能もあるのだが、それ以外にもCDからリッピングする「RIPPER」、MP3やWMA、FLAC、AIFFなどにエンコードする「ENCODER」、タグ付けのための「TAGGER」、メインとなる波形編集機能の「EDITOR」、そしてネットに作品を公開するための「PUBLISHER」という、大きく6つの機能が統合されたソフトとなっている。

 このAUDIO CREATORのLE版であるAUDIO CREATOR LEが、RolandのリニアPCMレコーダ「R-09HR」にもバンドルされており、機能的には実はパッケージソフトのAUDIO CREATORとほぼ同等なのだ。違うのは、MP3やFLAC、AIFFなどへの変換がインストール後30日しか使えないことと、PUBLISHER機能がないことくらいで、それ以外の機能はまったくといっていいほど同じ。もちろん、ノイズリダクション機能も同様に使える。

 そのノイズリダクション機能の前に、AUDIO CREATORの各機能を簡単に紹介していこう。

 このソフト、起動させると6つの機能のランチャーと、チュートリアルが表示される。またあらかじめ「オプション」でオーディオインターフェイスの設定をしておく必要があるが、これを見ると、まさにSONARの設定画面と同じであり、SONARと同様のオーディオエンジンを搭載していることが分かる。ドライバとしてMME、WDM/KS、ASIOのそれぞれが利用でき、最高で192kHzまでのサンプリングレートのデータを扱うことができる。また、詳細設定タブを見ると、「ディザリング」という項目があり、チェックをしておくと24bitを16bitへ変換するような場合、自動的にディザリング処理されるようになっている。

起動時のランチャーとチュートリアル画面 SONARと同様のオーディオエンジンを搭載 自動ディザリングも設定可能

 ランチャーの上から順に見ていくと、まずBURNERを選択するとCDの書き込み設定画面が表示される。機能的には単純で、CDに焼きたい曲ファイルを読み込んで、並べていくだけだ。読み込めるデータはWAVだけでなく、MP3、AIFF、WMAなど置くことも可能。読み込んだ曲データを再生して確認することはできるが、曲間を設定したり、クロスフェードをかけるといったことはできないようだ。なお、オーディオCDだけでなくデータCDの書き込みも可能になってはいる。

BURNERでは、CDの書き込み設定画面が表示 オーディオCD以外にデータCDの書き込みも可能

 次にRIPPERはCDのリッピング機能だが、これも特に珍しい点はない。CDDBからCD情報を入手して画面に表示され、これを元にしてリッピングしていくこのリッピングデータのファイル形式はWAV以外にもMP3、WMA、FLACなどが選択できる。ただし、いずれのファイル形式であっても、拡張子.TMPというWAVファイルらしきものがリッピングされた後にエンコード処理が行なわれる。

 ためしに4分ちょうどの曲をMP3/128kbpsを指定した上でエンコードをしたところ、リッピング自体は10秒もかからずに終わったが、その後のエンコーディングに約1分20秒を要した。何に使うかにもよるが、単にMP3でのリッピング用ということなら、iTunesやWindows Media Playerを使ったほうが速そうではある。ちなみにMP3のエンコーダにはLameの3.97が用いられている。

リッピング画面 WMA/FLAC形式なども選択可能 MP3のエンコーダはLameの3.97

 ENCODERは、ちょっと変わったユーザーインターフェイスになっている。これを起動すると、「クリックしてプリセットを挿入」と書かれた画面が登場する。クリックしてみると、MP3、WMA、FLACなどを選択することができ、ビットレートなどの設定もできる。たとえばMP3を選択すると、画面にはMP3と書かれたものが登場する。また、WMA、WAV、FLACなどを並べていくことも可能だ。このMP3、WAVなどと書かれたところに、オーディオファイルをマウスでドラッグ&ドロップすると、自動的にエンコードしてくれる。

エンコーダの画面 フォーマットやビットレートなどを選択 各アイコンにドラッグ&ドロップすると自動でエンコードを行なう

 TAGGERはMP3などのタグをつけるための編集機能。編集したいファイルを読み込むと、タイトル、アーティスト、アルバム、ジャンルなどを手動で設定することも可能。またタグを元にファイル名を作り直したり、そのファイル名のつけ方のルールを設定することもできる。

 ひとつ飛ばして、PUBLISHERはWeb上にMP3ファイルを公開するためのツール。自分のホームページのFTPを設定すると、指定したディレクトリ上にMP3がアップロードされるとともに、そのMP3を開くためのHTMLタグなどが埋め込まれる仕組みになっている。

TAGGER画面 ファイル名のルールも設定できる PUBLISHERの画面



■ ノイズリダクション機能も良好

 メイン機能となるのがEDITOR。ここで波形を読み込めば、一般の波形編集ソフトと同様に、フェード処理やゲインコントロール、ノーマライズ処理、DCオフセット除去といったことができ、もちろん、カット、コピー、ペーストといったことも可能。また複数の波形データを読み込み、それぞれをクロスフェードさせたり、曲間を自由に設定することもできるのが面白いところ。

 できれば、ここで作成したPQポイントなども含めたトータルの情報をBURNERに持っていくことができると、かなり強力なオーディオCDライティングソフトとして使えるのだが、そうしたことはできないようだ。

EDITORの画面 フェードの設定画面 複数の波形データを読み込んで、クロスフェードや曲間を自由に設定できる

エフェクトは、画面右下のFXラックに組み込む

 一方、エフェクトはDirectXプラグインとVSTプラグインが使えるのだが、メニュー項目上に、これらがないため、SoundForgeやSoundEngineといった波形編集ソフトに慣れていると、やや違和感を感じるかもしれない。実は、こうしたエフェクトは、画面右下のFXラックに組み込むのだ。つまり、エフェクトはある部分を選択して、それを波形処理するのではなく、再生時にリアルタイム処理するという考え方なのだ。

 もちろん、MP3やWAVで書き出す際に、高速でレンダリングすることはできるため、とくに困ることはないが、これはまさにDAW的な考え方のソフトというか、SONARのシングルトラックそのものなのだ。

 そして、あらかじめ組み込まれているプラグインとしてPara-Q、Mastering Limiter、Audio Restoreの3種類がある。Para-QはSONARにも搭載されているCakewalkパラメトリックEQ。Mastering LimiterとAudio Restoreはともにマスタリングツールやタイムストレッチツールのメーカーとして著名なiZotope社のプラグイン。Mastering Limiterはマスタリング用のリミッターというかマキシマイザであり、簡単に音圧を上げることができる便利なツールだ。

 そしてAudio Restoreというのが、AUDIO CREATORの目玉機能である、ノイズリダクションなのだ。ヒスノイズ、ハムノイズなど一般的なノイズを取り除くためのデノイザー、A/Dコンバータが強く押されすぎたり、磁気テープが過飽和状態にある際に生じる、デジタルおよびアナログのクリッピングを修復するデクリッパー、そしてレコードのプチプチいうクリック音やポップ音などクラックルノイズを取り除くデクリッカーの3機能が統合されたソフトとなっている。

CakewalkパラメトリックEQ Mastering Limiter ノイズリダクションのAudio Restore

 もう7年も前になるが、このDigital Audio Laboratoryのスタート当初、こうしたノイズリダクション機能を評価する記事を連載で掲載したことがあった。そのころと今では、販売されているソフトも様変わりしてしまったが、せっかくなので比較のためにも同じ実験を再現した。

 当時用意したのは3つの素材で、CDのサウンドにヒスノイズを足したもの、同じく電源系のハムノイズを足したもの、そしてプチプチいうクラックルノイズを足したものだ。また、その音源としては、Areareaという女性二人のユニットによるピアノとボーカルによる「愛のあかし」という曲を使わせてもらっていた。そのArearea、その後も数々のCDをリリースするとともに、iTunes StoreやMora、Listenなどダウンロード専用アルバムなどもリリース。また現在でもライブ活動を続けている。お願いしてみたところ、再度同じ素材を使わせてもらうことに快く応じてくれたので、まったく同じ実験をしてみたいと思う。

【今回実験に使ったサンプル】
【オリジナル】
約468KB(original.mp3)
【オリジナル+ヒスノイズ】
約471KB(a_hiss.mp3)
【オリジナル+ハムノイズ】
約471KB(a_hum.mp3)
【オリジナル+クラックルノイズ】
約471KB(a_cracle.mp3)
楽曲:Arearea / 愛のあかし

 改めて聴いてみると、この3つの素材、かなり極端なノイズの乗り方であり、ここまでひどいノイズが乗っている音もそうなさそうだが、これがそこそこ取れれば、かなり優秀なノイズリダクションといえるだろう。さっそく試してみた。なお、ここでの実験ではWAVファイルを用いているが、当然ファイルサイズが大きくなるので、ここでは聴きやすくするためにMP3のデータを公開する。

デノイザーでは、「トレイン」でノイズをサンプリングして、周波数分析

 まずは、ヒスノイズから。これは、デノイザーを使うのだが、デノイザーではまず、トレインという機能を用いてノイズをサンプリングして、周波数分析を行なう。その後、トレインのチェックをはずして再生すると、サンプリングした周波数成分を減算することでノイズリダクションが行なわれるのだ。パラメータとして、しきい値、数値という2つがあり、しきい値はノイズと有用な信号レベルの分離をコントロールするもの、数値はノイズ抑制の度合いをコントロールするものとなっている。

 とりあえず、デフォルトではしきい値が0dB、数値が12dBとなっているが、確かにかなりヒスノイズが軽減されている。ただ、それにともなってかなり音質が変化してしまっている。それでも最初の音楽の音量レベルが小さいところではまだノイズが目立つため、数値を18dB程度に上げてみた。その結果、さらにノイズが軽減するが、さらに高域も弱くなってしまった感じがする。とはいえ、これ以上の値にすると、音楽そのものに影響が出てシュルシュルといった感じで音がかすれてしまうので、この辺が限界といったところだ。ノイズレベルが小さければ、かなりキレイにとれそうだ。それぞれ、AUDIO CREATORを使ってMP3出力してみたので、聴き比べてみてほしい。

 次にハムノイズもデノイザーを用いて、同様にテストしてみた。こちらも、デフォルトでの設定より、やや数値を上げて15dB程度にするといい感じでノイズ除去することができた。ただし、ハムノイズ専門のノイズリダクションと比較すると、効果は低い。というのも、50Hzや60Hzといった電源系のハムノイズは、周期を捉えることができる専門ソフトを使うことでほとんどシャットアウトすることができるからだ。それに対してAudio Restoreのデノイザーはヒスノイズと同様に周波数成分を元に処理しているので、どうしても効きが甘くなってしまう。

 では、レコードのプチプチ音であるクラックルノイズはどうだろうか? これはデノイザーではなく、デクリッカーを用いる。こちらの使い方は単純で、ただ有効にチェックを入れて、感度を設定するのみだ。デフォルトでは3.00となっているが、設定範囲は0.00~10.00で、値をある程度大きくしても音質にはそう影響しないようだ。10.00とすると、やや高域が弱くなる感じがするが、8.00程度であれば、そこそこクラックルノイズが取れて音質的にも良好だ。

ハムノイズも、デノイザーを15dB程度にすると良くノイズが除去できた クラックルノイズを除去するデクリッカーは、チェックを入れて感度を設定するだけで利用できる

 もともとの音量が小さいところに大きなクラックルノイズが入っている部分はキレイに取れる一方、音量が大きい部分ではノイズを判別しにくいらしく、あまり取れていない。ただし、大半の場合、気になるのは音量が小さいうちだけだろうから、これで十分といえるだろう。

【ノイズリダクションの効果】
ヒスノイズ デノイザー
(12dB)
約471KB(hiss12.mp3)
デノイザー
(18dB)
約471KB(hiss18.mp3)
ハムノイズ デノイザー
(12dB)
約471KB(humm12.mp3)
デノイザー
(15dB)
約471KB(humm15.mp3)
クラックルノイズ デクリッカー
(3.00)
約471KB(cracle3.mp3)
デクリッカー
(8.00)
約471KB(cracle8.mp3)

 以上、久しぶりにノイズリダクションの実験をしてみた。もちろん、これで完璧にノイズを取り除くことができるわけではないが、7,000円のソフトとしてはなかなか優秀といえそうだ。もちろん、AUDIO CREATORはノイズリダクションソフトではなく、多機能な波形編集ソフトなのだが、ノイズリダクションのために購入しても良さそうだ。とくにレコードやテープ素材をデジタル化したいという場合、前述のMastering LimiterやPara-Qなどもリマスタリング用として大きな効果が出せると思うので、試してみる価値はあるだろう。

□Cakewalkのホームページ
http://www.cakewalk.jp/
□製品情報
http://www.cakewalk.jp/Products/AudioCreator/index.shtml
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~ NAMM2008出展のPCMレコーダやキーボードを国内初公開 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080212/dal313.htm
【2001年7月2日】デジタル時代のノイズリダクション
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010702/dal17.htm

(2008年5月19日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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