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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第362回:ウォークマンと完全同期するレコーダ「ソニー BDZ-A70」
~ 番組消化に強い味方、ダビング10対応で嬉しい唯一の機種 ~



■ 究極のワンタッチ

 筆者は以前からテレビ番組をなんらかのポータブルデバイスに移して見るのが好きで、韓国製PMPや、Nokiaのスマートフォン、PSPなど、いろんな方法で視聴してきた。まあそうでもしないと、家でゆっくりテレビを見る時間がないのである。

 これまでは、というか今も活躍しているのが、NECの「AX300」だ。とっくの昔にNECはレコーダから撤退し、すでにもうCPUファン1回、電源FAN2回故障しているが、そのたびに自分で修理して未だにガンガン使い続けている。

 AX300がいいのは、Ethernet経由で番組をPCに取り出せることだ。もちろんアナログ放送しか対応していないが、これが表立ってできるレコーダはもはや現存しないので、筆者のテレビライフには欠かせないのである。

 しかし時代はデジタル。もっと効率的にポータブル機器に転送できないものか。その答えにもっとも近かったのが、ソニーのレコーダだ。スゴ録時代からPSPへのおでかけ・おかえり転送を実現し、昨年末のBlu-rayレコーダでも、「BDZ-X90」でこの機能を搭載した。

BDZ-A70

 そしてこの夏のボーナス商戦向けとして新たに投入するのが、ワンタッチボタンでおでかけ・おかえり転送を実現した、「BDZ-A70」(以下A70)である。レコーダ全体のスペックや使い勝手などは、すでに記事が出ているのでそちらを参考にしていただくとして、今回はこの転送機能の開発者にお話を伺ってみた。

 実は本当に現場の最前線で開発している技術者にお話を伺える機会は、あまりない。大抵は全体を指揮したプロダクトマネージャや統括部長クラスの方々が、代表してお話されることが多いのである。そういう意味でも、今回は比較的珍しいインタビューとなった。



■ 「ウォークマン」と組んだのがポイント

A70に搭載のワンタッチ転送ボタン

 A70では、録画予約時に「ワンタッチ転送」を「入」に設定しておくと、その番組を録画する際に転送用のファイルも作成される。ウォークマンを接続して、「ワンタッチ転送」ボタンを押すと、その番組が自動的に「おでかけ転送」される。

 デジタル放送の番組が転送できる機器は、この春発売されたウォークマン「NW-A82x」シリーズとPSPのみ。それ以前のビデオ対応ウォークマンシリーズや携帯電話、昨日発表されたNTTドコモ FOMA906i、706iのほか、904i、905i、705iシリーズ(一部機種を除く)には、アナログ放送を録画したものがワンタッチ転送できる。

デジタル放送の「おでかけ」に対応したウォークマン「NW-A82x」シリーズ

 どれぐらいの期間の番組を転送するかは、3日分、1週間分、2週間分から選ぶことができ、ウォークマン上で視聴した番組は、その期間が過ぎたものから自動的に「おかえり転送」される。番組転送時にはテレビの電源を入れて画面表示を確認する必要もなく、またレコーダのリモコンを一度も触ることなく、完全に自動である。


おでかけ機能の仕掛け人たち。左から水野氏、本間氏、満生氏

 この仕組みのハードウェアを担当したのがビデオ事業本部システム設計部システム・デザイナーの水野 力氏、ソフトウェアを担当したのが同事業部ソフトウェア設計部アシスタントマネージャーの満生(みついき)一隆氏、商品企画を担当したのが同事業部商品企画MK部係長の本間 由美子氏である。(以下、敬称略)

-僕は以前からポータブル機器に番組を転送して見るというのはアリだと言い続けてきたんですけど、回りの反応は冷たいんですよ。「そんな人見たことない」とか言われるんですけど、ようやくこういう、僕的に言えば「わかってる」機器が出てきたことを、うれしく思います。

水野:そういっていただけると、うれしいです。自分だけが欲しいのかなとずっと思ってたので(笑)。わたしは通勤が片道2時間なので、「おでかけスゴ録」の評価時期からすると、もうかれこれ1,500時間とか使っていることになるんですよ。本当はもっと前に出したかったというのはあるんですけど、やっとここまで来られたという感じです。以前小寺さんの記事で、「チェックイン・チェックアウトを使って番組の持ち出しをやればいい」と仰ってた頃には、実はもう仕組みはできていたんで。

-PSPで見るのもいいんですが、メモリーカードの容量に依存しちゃうのと、番組を見るだけの用途にはちょっとかさばるんですよね。その点ウォークマンは、ちょうどいいです。バッテリも保ちますし。

水野:>> 今回はウォークマンの開発が若干先行していたので、無理にお願いしていろいろ機能を付けて貰うことができました。例えば番組の消去機能ですね。これまでは書き込みも消去も全部PCでやるというのがウォークマンのスタイルだったんですが、おでかけができるようになるとどんどん貯まっていってしまいまから。

満生:あとチャプター機能ですね。PSPでおまかせチャプターの引き継ぎをやってすごく便利だったので、なんとか対応して貰えました。これがないと、次の見たいところまでずっとスキャンして探さないといけないので。




■ 転送が生活と一体化

ワンタッチ転送中はボタンが赤く点灯する

-ワンタッチで転送できると、なにかこう生活サイクルの中に入っちゃうんですよ。今日もここに来るまでにお笑い番組を見ながら来たんですが、これも出かける前にワンタッチして、着替えたり準備している間に転送できてしまう。60分番組の転送に約2分ですから、かなり速いと思います。

本間:以前PSPと連動した時も、最初はみんな面白くてやるんだけど、だんだん操作が面倒になってくる。「そこまでして」という話は、伺ったことがあります。それならばとにかく簡単にということで、何も考えないでボタンさえ押せばいいようにしました。このワンタッチボタンから起動したときだけは、「ブラビアリンク」も働かないようにしてあります。リンクしていると、本来はテレビのほうも起動してしまうのですが、せっかくテレビなしでワンタッチやりたいというのに、テレビが起動したらかっこ悪いですから。

-しかしここまで簡単にできてしまうと、何かもう普通のレコーダとは違うニーズを立ち上げちゃってるんじゃないかという気がするんですよ。例えばBlu-rayに保存とかできなくてもいいから、おでかけ専用機みたいなものでもっと安いのができないかな、とか。

本間:そこまで使っていただけると我々としては本望なんですけど、今回はシンプルなほうに振ってみました。 おそらく「おでかけ」をやったことがない方が大半だと思うので、ウォークマンやPSPだけじゃなくて、アナログだけですけど携帯電話にも対応しました。これがないとやっていけないわ、というぐらいになってくれるとうれしいなと思います。

水野:アナログ録画でも、ワンセグとは全然画質が違うねというご意見も伺っています。しかも携帯電話だと、「早見」機能が使えるものがあるんですよ。人によってはベストソリューションになる可能性もありますよね。

-携帯電話でデジタル放送に対応、という線は見えているんでしょうか?

水野:今回の携帯へのアナログ書き出しも、我々だけではなかなかできなかったところです。これは企画のほうに頑張っていただいて、まずアナログをというところから始めて、そこから今後の話に繋がって行けそうか、というところです。

-しかし携帯に書き出せるようになると、ワンセグを見るのか録画番組を見るのかという選択になると思うんですが。ワンセグがいいのは、字幕をONにすれば音声をわざわざ聞かなくても、なんとなくわかるというメリットはありますよね。

水野:実はA70には字幕焼き込みの機能があって、おでかけで転送するほうにも字幕が焼き込まれます。レコーダに残る方は、DRで録っていれば自由にON、OFFできます。ただXRなどAVC記録してしまうと、そちらにも字幕が焼き込まれます。



■ ダビング10+オリンピックに向けていち早く発売

-今回のA70って、発売のタイミングがちょっと変わってますよね。普通はこれからオリンピックを睨んだボーナス商戦に向けて、6月とか7月に発売するんじゃないかと思うんですが、4月末というのはかなり早いですよね。

本間:本当は昨年末のBDZ-X90とかと一緒にという話もあったんです。ですが年末はまず「ソニーのブルーレイ」というのを浸透させる方を重視して、そのあとにこういう「ソニーのブルーレイだったらさらにこういうことができる」という段階を踏んだストーリーを持ってきたかったので、このA70は春、ということにしました。

水野:小寺さんのBDZ-X90のレビューで最後に「ウォークマンに対応してくれれば」というのを見て、悔しがってたんです(笑)。あのときにはもうできてましたからね。ですがこういう戦略がありました。

-確かにあのときは、一気に4モデル出ましたからね。比較してどれがいいのか、というのでは、この機能は目立たなかったかもしれません。

本間:ボーナスシーズンよりちょっと早いのは、あまりギリギリで出すよりも早いタイミングで出して、しっかり店員さんがお客様に説明できる土台をしっかり固めてから、6月7月の商戦に望みたいというのがあったんです。今回の機能って、ちゃんとご理解いただいて使っていただいた上でいいなと思えるものなので、その辺の導入期間を取りたいというのがあったんです。



■ 総論

 A70のおでかけ機能に関しては、さすがに長年研究されてきた機能だけあって、不満点は本当に細かい部分だけしかない。ただウォークマン側でもう一歩踏み込んだ対応があると、さらに使い勝手が良くなるだろう。音楽プレーヤーとしてはどっちが本業なのかわからなくなる可能性もあるのだが、上手いバランスで進んでいって欲しい。

 今レコーダに関するもっともホットな話題は、ダビング10の開始時期である。コピーワンスの現在、ウォークマンに転送してしまった番組は「おでかけ中…」と表示されて、「おかえり転送」するまで見ることができない。自動でおかえり転送できるとはいえ、転送サイクルを1週間にセットしていた場合は、別の人は1週間見られないことになる。

 これがダビング10がスタートすれば、おかえり転送しなくてもレコーダ内の番組を自由に見ることができる。また権利一つぐらい放棄しても構わないというのであれば、おかえり転送はしなくてもいいかもしれない。

 ダビング10のメリットは、Blu-rayが沢山焼けますということではなく、こういう外部機器への転送で使い勝手が上がることだ。ただ事実上これを実現しているのは、家電メーカー内でもソニーだけしかない。ソニーには自社製の動画対応のポータブルデバイスが各種あり、かつて音楽で使用していたDRMを映像用に転用することで、独自DRMを持つことができた。事実上ダビング10が始まれば、この分野ではソニーの一人勝ちとなる。

 新聞報道では、JEITA側が補償金を飲まなかったので、予定通りダビング10が始められないとする記事が多い。しかしそれ以外にも、ソニー以外のメーカーが、ソニー同様のソリューションが準備できるまで時間を稼ぎたいという思惑もあるのではないだろうか。

 今後、ダビング10の開始時期と、各メーカーのレコーダが携帯電話などへの転送機能を実装するタイミングを注意深く観察していくと、本当は何が問題だったのかがわかるかもしれない。


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200804/08-0408/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/BD/product/bdz_a70/index.html
□関連記事
【4月25日】【新製品レビュー】BDレコーダからPSP/ウォークマンに「おでかけ転送」
ポータブルビデオを身近に。ソニー「BDZ-A70」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080425/np036.htm
【4月8日】ソニー、PSPに「おでかけ転送」する新BDレコーダ「A70」
-PSP/ウォークマン用ファイルを同時録画。実売17万円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080408/sony.htm

(2008年5月28日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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