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第335回:内部設計を一新したRolandの「UA-25EX」を試す
~ コンプレッサを搭載。S/Nが大きく向上 ~



UA-25EX

 前回、Rolandの発表会の内容を紹介したが、その中の目玉製品ともいえるのがUSBオーディオインターフェイスの「UA-25EX」だった。

 これまであったUA-25の後継機であり、見た目にもそう大きく違いはないが、実は内部的には完全に設計をし直した、新モデル。実際何がどう違うのか試した。


■ 入出力端子は「UA-25」と共通

24bit/96kHz利用時は再生のみ、または録音のみとなる

 UA-25EXは最高24bit/96kHzに対応したオーディオインターフェイス。2IN/2OUTという仕様だが、USB 1.1対応であるため24bit/96kHz利用時は再生のみ、または録音のみという制限はある。

 入出力を見ると、基本的には前モデルのUA-25と同様にフロントにTRSフォン、XLRの兼用となったコンボジャックが2つあるのとともに、右側に標準ジャックのヘッドフォン端子が用意されている。またリアにはTRSフォンの出力と並行してRCAピンジャックの出力が、さらに光デジタルの入出力とMIDIの入出力が装備されている。フロントのコンボジャックはともに+48Vのファンタム電源に対応しており、リアのスイッチでオン/オフの設定が行なえる。また右側のINPUT 2のみはギターやベースなどの入力に対応したHi-Z仕様となっている。

 またフロントにはMONO/STEREOスイッチ、MONスイッチ、Direct Monitor VOLUME、DIGITAL INスイッチといったものがあるが、これらはUA-25のほかUA-101やFA-101、FA-66などと基本的にまったく同じ。MONO/STREOスイッチはフロントのコンボジャックへの入力をモノにするかステレオにするかの切り替えスイッチ、MONスイッチは同じくコンボジャックへの入力をダイレクトモニタリングするか否かのスイッチ。

 そしてDirect Monitor VOLUMEはMONスイッチをオンにしたときダイレクトモニタリングする音とPCから鳴らす音のバランスをとるためのもの、そしてDIGITAL INスイッチは入力をコンボジャックからのアナログ入力にするか、光デジタルからの入力にするかの切り替えスイッチとなっている。


TRSフォン/XLR兼用のコンボジャックが2つ 背面 前面のMONO/STEREOスイッチなど

 また、UA-25やUA-4FXなどと同様、ADVANCED DRIVERスイッチというものがあるのもRoland製品の面白いところだ。これをONの状態でつなぐのが基本で、これをアドバンスド・モードという。アドバンス・モードでは24bit/96kHz、24bit/48kHzなどのフォーマットで、安定したタイミングで高音質での入出力が可能となる。ASIOドライバやWDMドライバ、またMacにおいてCoreAudioドライバを用いてDAWや波形編集ソフトを使うのであれば、アドバンスド・モードで使うことが必須だ。


ADVANCED DRIVERスイッチ アドバンス・モードでは24bit/96kHz、24bit/48kHzなどで、安定した高音質入出力が可能

 それに対し、OFFの状態でPCと接続するのが標準ドライバ・モード。このモードではUA-25EX用のドライバが不要で、OS標準のドライバで動くため、どんなPCとも即接続して使えるのが大きなメリット。ただし、この場合はサンプリングレートが設定にかかわらず、強制的に16bit/44.1kHzで動作する。


■ コンプレッサ搭載。グランドループによるノイズの除去も

コンプレッサはアナログ回路で構成。リアの切り替えスイッチでCOMP 1/COMP 2/LIMIT/BYPASSから選択できる

 では、UA-25と何が変わったのだろうか? まず機能的な面でいうと、大きく2つある。まずは、従来からあったリミッタに加えて、コンプレッサを搭載したこと。このコンプレッサはリミッタと同様アナログ回路で構成されており、D/Aの前に置かれているのがポイントだ。リアに切り替えスイッチがあり、COMP 1、COMP 2、LIMIT、BYPASSから選択できるようになっている。つまりコンプレッサとリミッタは切り替えでの利用となるのだが、COMP 1がアタックタイムが短く、ボーカル用に使えるコンプレッサ、COMP 2がアタックタイムが長く、パーカッションやアコースティックギターなどの楽器のレコーディングに適したコンプレッサとなっている。

 コンプレッサというと、初心者にはなかなか設定が難しい印象があるが、UA-25EXに搭載されたコンプレッサはフロントにあるツマミを調整するだけで、とても簡単。ツマミひとつで設定できるコンプレッサというと、YAMAHAのn12などに搭載されている「Sweet Spot Morphing Compressor」を思い出す。Sweet Spot Morphing Compressorの場合は、スレッショルドとレシオを同時に調整し、いいところの設定を自動的に行なえるというものだったが、UA-25EXのこのツマミはそこまで高度なものではないようだ。このツマミはスレッショルドのみの設定であり、レシオは固定となっている。

 もうひとつ機能面で追加されたのが、GROUND LIFTというスイッチだ。これはUSB接続の音源などと接続した際、グランド信号がループして発生するノイズを遮断するためのものだ。オーディオインターフェイス単体で使っているときはあまり問題にならないが、PCにオーディオインターフェイスだけでなくMIDI音源モジュールなどを接続し、それらをミキサーなどを介して接続すると、グランドがループして、ハムノイズなどが発生してしまうことがある。そこで、GROUND LIFTスイッチをLIFTに設定することで、マスター出力ジャックやTRSフォンのSLEEVE(GROUND)部分がグランド、つまりシャーシ部分から完全に切り離され、グランドのループを遮断することができるのだ。このGROUND LIFTによって、UA-25EXを単なるDI(ダイレクトボックス)として利用することも可能となる。ライブなどでギターの接続用にDIが欲しいケースがよくあるが、そんな場合でも安心して利用できる。


GROUND LIFTスイッチ グランドループの例 マスター出力ジャックなどをシャーシ部分から切り離し、グランドのループを遮断できる

ローランドのDTMP開発部プロデューサー、伊志嶺馨氏

 UA-25とUA-25EXの違いを機能面だけでいうと、この2点ということになるが、実際には、完全に回路を再設計し、中身は大きく異なるものになっているという。UA-25EXの開発責任者であるローランドのDTMP開発部プロデューサー、伊志嶺馨氏に話を伺ったところ、具体的な変更ポイントを聞くことができた。

 「まずはファンタム電源の見直しを行なっています。従来のUA-25よりも立ち上がりが早くなり、音質が大きく向上しています」とのこと。

 コンデンサマイクへ供給する+48Vの電源回路の見直しに大きな意味があるのだろうか? この点について伊志嶺氏は「コンデンサマイクは入力の音量によって消費する電力が変化し、供給する電源への負荷が変化します。それによって電圧が変化してしまうと、どうしても音へ影響が出てしまうのです。そこで、電圧を安定するようにしたことで、音質が向上するわけです」と話す。

 さらに、「ノイズの低減にも力を入れました。まずは電源からのリップルノイズを低減させています。またプリアンプの改良も行なっており、ここでもノイズの低減、音質の向上を実現させています。これらはR-09HRやR-4Proなどフィールドレコーダーで培った技術を応用しています」と、さまざまな角度から音質向上を図っている点を強調する。

 またコンプレッサについても聞いてみたところ「コンプレッサはアナログを搭載することにこだわりました。デジタルだとどうしても硬い音になってしまいがちですが、ナチュラルで温かい音を実現しています。また、通常のコンプレッサの場合、スレッショルド、レシオ、アタック、リリースなど、多くのパラメータがあって、初心者には使いこなすのが難しいのが実態です。そこで、もっとも重要なスレッショルドのみを調整する形にしたことで、誰もが簡単に利用できるようになりました。アタックに関しては、リアのスイッチで切り替えるようになっていますが、レシオとリリースに関しては固定となっています」ということだ。

UA-25EXのブロック図

 このUA-25EXのブロック図を見れば、その構成をイメージできるはずだ。

 UA-25とUA-25EXの違いは、本体だけでなく、バンドルソフトにもある。UA-25では波形編集ソフトとしてインターネットの「Sound it!3.0 LE for Windows」および「Sound it!3.0 for Macintosh」がバンドルされていたが、UA-25EXでは「Cakewalk Production Plus Pack」および「AUDIO CREATOR LE」に変わった。Cakewalk Production Plus PackはUA-25にも昨年11月からバンドルされていたが、これはSONAR 6 LEとD-Pro LE、Project 5 LEの3点セットだ。一方のAUDIO CREATOR LEはCakewalkの波形編集ソフトであり、R-09HRにバンドルされているものと同じものとなっている。


SONAR 6 LE AUDIO CREATOR LE



■ UA-25に比べS/Nなどが改善

 では、実際の音質はチェックした。いつものようにRMAA Proを用いて試してみよう。ただし、前述のとおり、24bit/96kHzでは入力のみか出力のみしか行なえないため、RMAAでテストすることができない。そのため24bit/44.1kHzおよび24bit/48kHzの2パターンで測定してみた。

 接続はTRSフォンの出力をそれぞれフロントのコンボジャックへバランス接続の状態で行なっている。また、入力のSENSはそれぞれ0に、またOUTPUTのボリュームはほぼ目いっぱいに上げる状態で行なっている。

 結果はご覧のとおりであり、まずまずという結果。やはりUSB 1.1のバス電源供給という問題があるのか、ほかのオーディオインターフェイスと比較して、さほどいい結果ではないが、以前行なったUA-25での結果と比べるとS/Nなどはかなり向上していることが確認できる。もっともこのUA-25での測定結果はRMAA ProではなくRMAAで、ドライバもMMEを使っていることから単純比較はできないものの、確かに改善されているようではある。

 この結果をどう捉えるかは人それぞれだと思うが、やはりガッチリとしたボディーでライブなどでも安心して使え、しかもさまざまな機能を持ちながらUSB電源供給で動作するメリットは大きい。価格的にも25,000円と手ごろで、サブ用のオーディオインターフェイスとして考えるといい選択肢になるだろう。

RMAA結果。左は24bit/44.1kHz、右は24bit/48kHz


□ローランドのホームページ
http://www.roland.co.jp/
□製品情報
http://www.roland.co.jp/products/jp/UA-25EX/index.html
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(2008年7月28日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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