ソニーが37インチ以上でシェア30%を狙う意味とは ~年末商戦戦略をソニーマーケティング・宮下社長に聞く~ |
ソニーマーケティング・宮下次衛社長 |
9月10日、ソニーマーケティングは、東京・品川のグランドプリンスホテル新高輪において、特約店向け内覧会の「Sony Dealer Convention 2008」を開催するのにあわせて、報道関係者を対象に、事業方針説明を行なった。
この席上、同社では、年末商戦におけるシェア目標を明言した。
BDに関しては、9月3日の新製品発表時点で、40%獲得のシェア目標を明らかにしていたが、大画面テレビのシェア目標は、8月28日に行われたBRAVIAの新製品発表では明らかにされなかった。それだけに、主力の薄型テレビ、BDのシェア目標が出揃ったことで、ソニーの年末商戦におけるターゲットが明確になったともいえる。
だが、気になることがある。大画面テレビのシェア目標を、「37インチ以上で30%」としたことだ。
ソニーは、37インチの液晶テレビの製品ラインを持っていない。大画面テレビは40インチからのラインアップとなる。それに加えて、37インチはシャープの独壇場だ。それにも関わらず、ソニーは、37インチ以上というカテゴリーでシェアを発表して見せたのだ。
同社では、「業界団体であるJEITAの区分に準拠しただけ」と、公式には話すが、実は、この発表の裏には、ソニーマーケティングの強い想いがある。
ソニーマーケティング・宮下次衛社長は、「37インチ以上で30%のシェアを獲得するには、40インチ以上の領域で50%以上のシェアを取らなければならない。40インチ以上での圧倒的シェア獲得を目指すという意味を込めたもの」と明かす。
そして、この数字から導き出されるもうひとつメッセージは、「37インチの薄型テレビを、40インチの液晶テレビで置き換える」ということだ。大画面テレビのエントリー領域を、37インチから、40インチへとシフトしたいという思惑もあるのだろう。
いずれにしろ、対外的には、業界の区分に準拠したというものの、その裏では、ソニーの強い想いがあることに違いはないといえよう。
大画面テレビのシェア目標 | BRAVIAの展示標 |
■ 群提案の加速に向け、ブランド戦略を変更
SONYのブランドロゴとカテゴリーブランドを併記して「SONYの各ブランド」を訴求する |
ソニーでは、全世界的な取り組みとして、ブランディング戦略を変更する。 それは、「SONY」というコーポレートブランドと、「BRAVIA」、「VAIO」、「CyberShot」などのカテゴリーブランドとを連動させる提案へと移行。店頭展示やカタログなどにおいて、カテゴリーブランド単独での表記ではなく、「SONY」とカテゴリーブランドを一緒に掲示することを進めるというものだ。同時に、製品の梱包箱にも、SONYの文字を目立つように刷り込む考えだ。
この戦略にいち早く乗り出したのが、日本の市場を担当するソニーマーケティングである。
「つなぐという時代において、SONYブランドと、カテゴリーブランドを連動させる提案施策が不可欠になってきた」(宮下社長)のがその理由だ。
「とくに、日本の市場においては、BRAVIAなどのカテゴリーブランドが前面に打ち出されて、自立化している印象がある。店頭展示でもBRAVIAという文字が大きく表示されてきた。しかし、BRAVIAがソニーの製品であるということが、すべての消費者に浸透しているわけではない。我々の財産は、SONYというブランド。ソニーとBRAVIA、ソニーとVAIO、ソニーとαを紐づけることで、SONYという強いブランドのもとで、群としての製品提案を行なえるようにする」というわけだ。
ソニーは、年末商戦において、「群」としての提案を加速する考えだ。
昨年の年末商戦では、社内用語で「四天王」という言葉を使い、液晶テレビ、BDレコーダ、シアタースタンドシステム、おき楽リモコンの4つの製品の連動提案を徹底してきたが、今年の商戦では、これに加えて、BDレコーダとウォークマン、ハンディカムとBDレコーダ、VAIOとαなどというように、製品カテゴリーを越えた連動提案を、数多く行なっていくことになる。
「SONYというブランドとカテゴリーブランドが連動することで、群の提案の威力が発揮される。ブランド戦略の変更と、群提案の加速は同じ狙いを持ったものと位置づけられる」
年末商戦の量販店店頭では、SONYとカテゴリーブランドの同時表示があちこちで見られることになるだろう。
PS3と有機ELテレビ「XEL-1」の連動提案 |
だが、ソニーが取り組む「群提案」のベースになるのは、なんといっても、強い「個の商品」ということになる。宮下社長は、「馬車を何台連結しても、鉄道にはならない。鉄道を何台も連結することで、初めて圧倒的なスピードが実現される」と比喩し、群戦略では、強い「個の製品」同士がつながる必要性を示す。
ソニーの中鉢良治社長は、「顧客視点に基づいたモノづくり」、「テクノロジーナンバーワン製品の投入」、「現場力の強化」の3点を掲げ、ソニーの復活に取り組んできた。
こうした取り組みの成果が、この年末商戦向けの新製品で形になってきたと、宮下社長は自己評価する。「世界最小、世界最薄、世界最高といった製品が目白押しとなっている。技術のソニーの復活を象徴する製品が増えてきた」
液晶テレビのラインアップを見ると、今年の製品の強さが浮き彫りになる。昨年までのソニーの液晶テレビは、最上位機種があり、そこから機能を除いた製品が、中位機、下位機として構成していた。一般的な製品ラインアップといえるものだ。
BRAVIA 新シリーズ |
だが、今年の場合は、「全部入り」という製品が存在しない。世界最薄となるZX1シリーズをはじめ、世界初の4倍速動画表示を可能にしたW1シリーズ、世界最高のコントラスト比を実現したXR1シリーズ、高画質エンジンの「ブラビアエンジン2プロ」を搭載したX1シリーズといったように、フラッグシップ機が横並びで存在する。
「昨年までのラインアップがI型とすれば、今年のラインアップはT型といえるもの。技術のソニーを認めてもらえる製品が目白押しともいえる。店頭でも、訴求ポイントが多い分、販売に弾みがつくことになるだろう」と自信を見せる。
今年の年末商戦向け新製品によって、ソニー復活に向けた準備が整いつつあるというわけだ。
■ ウォークマンの巻き返しは?
ソニー復活の一翼を担うもののひとつに、ウォークマンがある。
ウォークマン「NW-S730F」シリーズ |
8日には、ソニーからウォークマンの新製品が発売されたのに続き、10日にはiPodの新製品が発表。首位を走るアップルと、それを追うソニーとの争いが、この年末商戦も注目される。
「デジタルミュージックプレーヤーは、魅力的なハード、扱いやすい管理ソフト、配信サービスの3つが揃って、初めてビジネスが成り立つ。それを実現できているのは、アップルとソニーしかない。この1年で、ソニーは、3つの観点から強化を進めてきた。本体そのものの製品強化に加えて、ソニーならではの高音質なヘッドフォンのラインアップ、PCを介さずに音楽ダウンロードができるネットジュークとの連動提案、auのLISMOとの連携などのほか、BDとウォークマンの連携による映像コンテンツの利用も新たな提案のひとつ。現在、日本におけるシェアは約30%。これを35~40%にまで引き上げていきたい」とする。
ウォークマンが、どこまでiPodをキャッチアップできるかが注目されよう。
■ ソニー完全復活に向けた試金石
ソニーマーケティングでは、年末商戦向けのメッセージとして、昨年同様、「ハイビジョンはソニーにおまかせ!」をキーワードに、ハイビジョン=ソニーのイメージづくりにも力を注ぐ。また、BDでは、2011年画質として、ハイビジョン画質の訴求に力を入れる。
「ソニーの復活を確実なものにしたい。その足がかりとなる商戦になるだろう」と宮下社長は語る。
この年末商戦は、ソニーにとって、完全復活に向けた試金石となる。
□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□BRAVIAのホームページ
http://www.sony.jp/products/Consumer/bravia/
□WALKMANのホームページ
http://www.walkman.sony.co.jp/
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= 大河原克行 = (おおかわら かつゆき) |
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島(宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。 |
[Reported by 大河原克行]
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