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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第384回:デスクトップをリスニングルームに変えるスピーカー「BauXar」
〜 理想を追求したコダワリの設計思想 〜



■ 個性が求められるスピーカー

 筆者がオーディオに興味を持ち始めた70年代は、縦型コンポが全盛であり、スピーカーは大型バスレフ、2Wayか3Wayが標準であった。

 以降スピーカーは年々小さくなる傾向があり、80年代後半から90年代ぐらいが、ブックシェルフの全盛期だったのではないだろうか。もちろん今でも小型スピーカーは人気があり、未だ競争の激しい分野である。しかしDVDブームに乗ってサラウンドが市民権を得て以来、キューブ型スピーカー+サブウーファ、もしくはトールボーイ型というスタイルが広く受け入れられるようになっていった。

 そして今はどちらかといえばイヤフォン、ヘッドホンの時代である。スピーカーにとっては厳しい冬の時代を迎えようとしており、従来とはひと味違った特徴のあるものが求められている。

 日本エム・イー・ティーのBauXar(ボザール)は、タイムドメイン理論を応用したスピーカーのシリーズだ。以前も日立マクセルのタイムドメインスピーカーを取り上げたことがあるが、今回のBauXarもまた、個性的な製品である。

 見た目は小さなユニットだが、設置位置以上に音が広がり、また音の解像感が尋常ではない。音の立ち上がりが素早く、粒の揃ったアタック間の表現は、一般のスピーカーではまず聴けないサウンドである。最初はその音像にびっくりしたのだが、開発者にお話を伺ってまたびっくりした。今回は久しぶりにオーディオ談義といこう。



■ タイムドメインの音を1/10の値段で

 BauXarには、Marty(マーティ)101・Jupity(ジュピティ)301というスピーカー、EarPhoneMというカナルタイプイヤフォンの3製品がある。Marty101はBauXarのエントリーモデルで、価格は29,400円。高さ31cmの円筒形、5cmのフルレンジスピーカーを搭載。右側に3.5Wのアンプを内蔵したいわゆるアクティブスピーカーで、入力はステレオミニの1系統のみというシンプルさだ。正面に電源とボリューム兼用ノブがあるだけで、見た目もシンプルである。

 Jupity 301はやや大型の上位モデルで、価格は71,400円。こちらも同じく5cmのフルレンジユニットだが、つなぎ目のないアルミ筐体で高さが40cm。アンプは5Wとなっている。

 開発・発売元である日本エム・イー・ティーは、オーディオ業界から見るとベンチャーのように見えるが、実は台湾に本社を持つPCパーツ商社として、20年の歴史を持っている。

韋 社長自作のタイムドメイン型スピーカー

 ただ本社社長の韋文彬(イ ブンヒン)氏が大のオーディオ・楽器マニア。今から約10年前にタイムドメイン社社長の由井啓之氏と知り合い、「Yoshii9」を聴いて感激したところから、BauXarの構想がスタートする。

 開発者の由井氏の手法をまねて、韋社長自ら東急ハンズで塩ビのパイプを買い、タイムドメイン型スピーカーを自作した。塩ビパイプとは、水回りの配管などに使われるやつである。これがBauXarの原型となった。

 古くからの社長の友人で、のちにBauXarの設計者となる栗田真二氏はこのサウンドを聴かされ、驚愕した。2001年頃のことであったという。当時事務機メーカーで回路設計などを手がけるエンジニアであった栗田氏は、趣味でアナログアンプなどを自作するオーディオマニアでもあった。自身も自作アンプの評価をするために、当時標準といわれていたJBLやTannoyの高級スピーカーを所有していたが、その塩ビパイプから出るサウンドに魅了された。


BauXarの設計者 栗田真二氏

栗田氏(以下敬称略):「社長から『一緒にスピーカーを作らないか』と誘われましたが、相当迷いました。趣味でアンプは作ってましたが、音響的には素人。しかも会社で事業としてオーディオ製品を作ったことはありませんでしたから」

 しかし結局、自分でスピーカーを作るという魅力には勝てず、'02年に日本エム・イー・ティーに移籍、スピーカーの設計を手がけることになる。社長と栗田氏が掲げた目標、それは「1/10の値段でYoshii9に迫る音を実現し、提供すること」であった。ちなみにYoshii9は、標準価格315,000円である。

 「提供する」とはすなわち、量産ラインに乗せるということである。ハンドメイドなら可能な行程も、量産設計となるとまた違ったロジックが必要となる。栗田氏の試行錯誤が始まった。



■ 目標を達成した「Marty101」

Marty101のモックアップ。デザインは現在と同じだが、ボディがアルミの筒 Marty101の内部。スピーカーはリングとシャフトのみで支えられる

 栗田:「最初はエンクロージャを継ぎ目のないアルミで作ろうとしました。ですが筒の中にスピーカーを中空に浮かせつつ固定する方法、しかも量産可能な方法が、どうしても思いつきませんでした。単なるパイプでは、固定のために内側に溝を作るといった加工が出来ません。1年半試行錯誤しましたが、最終的には量産効率を考えて、樹脂製で縦に分割する構造にしました」

 タイムドメイン理論では、スピーカーは完全に振動しない、振動の影響を受けない状態で固定しなければならない。Marty101では、内部に頑丈なリングを設けてシャフトを固定、そこにスピーカーユニットを固定している。リングとエンクロージャは、弾力性のある接着剤を充填することで、振動を吸収する。スピーカーは上蓋には固定されておらず、この支柱のみによって支えられている。

 このスピーカーユニットも、ベースとなるものから音質改善のために徐々に仕様を変えていった。ユニットだけで10回近く試作を行なったという。

 栗田:「スピーカーのコーンは、質量が限りなく0に近く、ダイヤモンドのように堅いというのが理想です。その点から考えて、小型の5cm径のものがもっとも条件に近い。現在コーンに使われる材質は色々なものが登場して、カーボン、ケブラー、チタンなどがありますが、我々は紙にこだわりました。オリジナルのコーン紙からさらに薄く、軽くするために、紙にガラス繊維を織り込んであります」

ガラス繊維を織り込んだコーン紙 底部はバスレフポートになっている

 バスレフの穴を通すために、アンプ基板も真ん中に穴が空いている。基板からバスレフポートを繋ぐパイプ部も、紙を採用した。

 栗田:「底部は樹脂ですので、バスレフのパイプ部も一体成形すれば簡単なんです。ですが、それだとどうしても音質的に満足できない。いろんな材質を試しましたが、やはり紙が一番良かった。日本のオーディオで次第に紙が使われなくなったのは、湿度の変化が激しいので、均質な品質をキープするのが難しいからなんだと思います。大手メーカーとしては均質・信頼性が重要ですが、我々のような小さなところでは、多少歩留まりが悪くなっても音にこだわった製品が作れる」

 Marty101が世に出たのは、05年12月のことであった。目標どおり、「Yoshii9」の1/10の価格を実現した。独特の世界観を持ち、きらびやかなサウンドのMarty101は、多くのファンを獲得した。そしてさらに上質のサウンドを目指すため、一度は断念した継ぎ目なしのアルミ筐体に、もう一度トライすることになった。それがのちの「Jupity301」である。

 中空で固定する仕組みは、特殊なネジを使って三方から押すという方法を考えた。Marty101ほどの量産性はないが、アルミ筐体と支柱の間を点で支えるため、振動の減衰も見込める。筐体も容積を増やし、アンプも5Wに強化した。

アルミの筒がそのままボディとなったJupity301 アルミパイプ内でネジを使って三方から支柱を固定

 栗田:「Marty101の時はワールドワイドで販売するために安全基準を厳しく見積もって、電力設計をかなり抑えた形にならざるを得ませんでした。ACアダプタもワールドワイド仕様のスイッチング電源です。ですがJupity301は日本専用モデルにして、とにかく国内の安全基準だけ通せばいいということで、電源部をかなり強化できました」



■ 同じユニットだが個性が違う2製品

 実際にMarty101とJupity301を聞き比べてみた。最初にMarty101を試聴したが、第一印象として中域の表現、とくに人の声の表現力が的確で、ボーカルものやライブ音源ではすばらしいリアリティを発揮する。

 しかしその一方で低域の不足感を感じる。これはどのような音楽を好むかで、かなり評価が分かれるだろう。筆者がよく聴くロック系の音楽は、低域の重量感が重要な要素であるため、若干物足りない感じがする。音のスピード感、アタック感が低域の不足感を補っているが、いわゆる「ロックな音」ではない。

 Jupity301のほうは、全く同じスピーカーユニットを搭載しているにも関わらず、低域までバランスよく出ている。Marty101に比べて筐体の材質と作りの違い、また電力設計の違いしかないのだが、これだけの違いが出るというのは驚きである。これはロックを鳴らしても、まったく普通に楽しめる。ロックの中でも比較的ソリッドなもの、例えば80年代後半のLAシーンで録音されたAORなどは、そのサウンドの個性がよく表現されている。

 BauXarシリーズとして共通しているのは、その独特の音像定位である。ライドがこの位置、ハイハットがこの位置などきっちりとした方向性を持つ定位ではなく、LRの区別はもちろんあるのだが、それを越えてさらに外側に広がっていく。音像がふわっとしたもの、例えばヴァンゲリスの一連の作品や、YESのジョン・アンダーソンとのコラボレーション作品などは、おそらく制作者が本来意図した以上のふんわり感が強調され、非常に面白く聴くことができた。

 また音源から離れても、サウンドのイメージがあまり変わらないのも特徴の一つだ。正面に座っても、少し離れてソファに寝転んでも、離れた分だけ音量が下がるだけで、音質の変化が少ない。通りのよい音である。

 ところで筆者は、アンプ内蔵のアクティブスピーカーに対して持ち続けている疑問がある。それというのも、片側にだけアンプ部があるということは、すなわち左右のエンクロージャで内部の構造や容積が違うということである。これは少なからず、音像定位に対して影響を与えるはずだが、それに対してきっちりした回答を聞いたことがない。

 アクティブスピーカーというのは、あまりハイファイな世界では用いられないので、そもそもそんなことを気にするレベルの商品ではないという事なのかもしれない。だがDTMの世界では、アクティブスピーカーが広く用いられているのも事実だ。音楽を作り出す側がそういうものを使用しているというのは、問題ないのだろうかといつも思う。

 この疑問に対して、栗田氏が明快に答えてくれた。

 栗田:「まさにおっしゃる通りだと思います。BauXarは右側にアンプがあります。一方左側には基板そのものは無いんですが、基板をマウントする板金は同じものが入れてあるんです。構造上は全然必要ないんですが、これを取ってしまうと音が同じにならなかったものですから」



■ 総論

 上位モデルのJupity301は、発売後1年が経過している。新製品を取り上げる本コラムとしてはいささか遅いのだが、筆者がまったくこの製品のことを知らなかったので、ご容赦願いたい。

 BauXarは、デスクトップにポンと置いて使うのがいい。特にノートPCをセカンドマシンとしてキーボードの横に置いて使っているユーザーには、理想的である。というのも、普通はスピーカーの前をふさぐようにノートPCの液晶モニタを開いてしまうと、片側だけ音が遮られてバランスがダメになってしまうものだ。しかしBauXarならばほとんどのノートPC画面よりも音の出る位置が上なので、スピーカーの真ん前で広げても、影響を受けないのである。

 リスニングで一つ注意すべきは、圧縮音源をBauXarで聴くと全然ダメということである。BGMとして流す程度なら問題ないが、ちゃんと聴こうとすると、圧縮の音痩せや定位の不安定さなどがすごく気になってしまう。

 Marty101はiPodなどで気軽に繋いで欲しいとして、わざわざカラーも白を用意してあるわけだが、あまりにも分解能が良すぎるのも考え物だ。できればCDなどの非圧縮音源か、ロスレスエンコードしたソースを聴かないと、良さがわからない。

 今回はイヤフォンの「EarPhone M」もお借りしたのだが、あいにくスペースが尽きた。こちらは厳密にはタイムドメイン論理ではないというが、やはり同じようにアルミ削りだしの円柱内部に、バランスドアーマーチュアのユニットをシリコン充填で浮かせているのだという。

 BauXarは正直なところ取材するまで、台湾あたりで作られたものをただ輸入しているだけかと思っていたのだが、実はとてつもない時間と労力をかけて日本で設計された製品なのであった。一時期中国で製造したこともあるが、品質が一貫しなくて辞めたのだそうである。今はマレーシアで製造を行なっているが、日本資本で日本人が常駐している工場で作られているという。

 日本人らしいコダワリが通用しないと、なかなかこういう製品は作れないのだろう。これが世界を引っ張ってきた、日本の物作りの本質であると思う。


□日本エム・イー・ティーのホームページ
http://www.bauxar.com/
□製品情報(Marty101)
http://www.bauxar.com/Marty101/
□製品情報(Jupity301)
http://www.bauxar.com/Jupity301/
□関連記事
【2007年11月1日】MET、バランスド・アーマチュア採用のカナル型イヤフォン
−23,100円。「タイムドメイン・スピーカーの音を目指した」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071101/met.htm
【2007年8月27日】MET、タイムドメイン理論採用スピーカーの上位モデル
−71,400円。楕円筒型のアルミボディを採用
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070827/met.htm
【2005年12月22日】MET、タイムドメイン理論採用のアクティブスピーカー
−29,400円。シンプルなデザイン/結線を実現
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051222/met.htm

(2008年11月5日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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