毎年、秋冬はプロジェクタの新作シーズンなワケだが、今年も各社からLCOSプロジェクタと透過型液晶プロジェクタが続々と発表されている。
このところテレビ製品の取り扱いが多かった大画面☆マニアだが、今回はプロジェクタを取り上げる。今シーズンの第1弾として取り上げるのは、「EH-TW4000」だ。 EH-TW4000の液晶パネルは、2007年モデルEMP-TW2000と同じD7世代であるが、倍速駆動に対応した新D7パネルを採用している。今年の透過型液晶プロジェクタに広く採用されているが、このパネルを開発したのはいうまでもなくエプソンだ。 透過型液晶プロジェクタの家元が見せる今期のベンチマーク的画質をじっくり見ていくことにしよう。
■ 設置性チェック ~筐体デザイン一新。ボディ大型化でさらなる静粛性を獲得
先代機は2007年の傑作機「EMP-TW2000」。2008年はEMP型番からEH型番となり、フルHDパネルのdreamioは、EH-TW3000とEH-TW4000が発売されている。今回取り上げるのは上位機種のEH-TW4000だ。EH-TW3000とは、筐体と光学系の基本設計を同じくするが、TW4000は倍速駆動技術への対応と、黒の沈み込みを強化したD7パネルのC2FINEバージョンが採用されている点が違う。 さて、まず外観に着目してみると、気がつくのがEMP-TW2000/1000から筐体デザインが一新されているという点。2年ぶりの筐体デザインのリニューアルと言うことになる。 曲面を使ったセクシーなデザインだったTW2000に比べ、TW4000はふくらみを帯びた横長の直方体で、見た目はシンプルになっている。ボディカラーはブラックのみだ。なお、EH-TW3000も筐体デザインは同じだが、ボディカラーがホワイトとなる。 ボディサイズは450×360×136mm(幅×奥行き×高さ)と、一回り大きくなっている。これは防塵フィルタの大型化による集塵機能強化と、静音化のためのようだ。昨年のTW2000では埃が光学系やパネル近くに混入し、映像に斑点が出る症状を本連載でも報告したが、防塵フィルタの強化はそうした弱点を補う改善とみて間違いない。
奥行きが長くなったため、本棚設置では、天板に載りきるかどうかを事前に吟味する必要がある。ちなみに、実際に“接地”するプロジェクタ底面の脚部は前後距離にして30cmはないものの、後方脚部の接地点から約4cmほどボディ後部が突き出る。 なお、脚部は前側の2つがネジ式に高低を調整でき、前側脚部は固定されている。本体重量も前モデルから約30%増しの約7.5kg。重くはなったが、女性でもなんとか一人で移動はできる。 天吊り金具は2005年モデルのEMP-TW600からずっと共通の純正オプション「ELPMB20」(47,250円)が、今回も利用できる。これは買い換え派にとっては朗報だろう。なお、細かいことだが、投射レンズ横の「EPSON」ロゴは、回すことで上下逆にできる。これは、天吊り設置時にホディが逆転して設置されたときにEPSONロゴを正しく見せるための配慮だ。 投射レンズは、手動式の2.1倍ズームレンズ(F2.0-3.17/f:22.5-47.2mm)を採用。細かいファイン・チューニングはなされていると思うが、基本スペックはEMP-TW1000から据え置かれている。ズーム制御、フォーカス調整はレンズ・リングを手で回して調整する方式で、レンズシフト調整もボディ上面のダイヤルを回して行なう方式だ。 昨年からこの価格帯でも電動式レンズ制御が主流になってきており、今年モデルでも競合のパナソニック「TH-AE3000」などではレンズメモリー機能のような電動式のメカニズムを活かした新機能提案も起こっているので、この点は競合に見劣りする。次期モデルの対応を望みたいところだ。 100インチ(16:9)の最短投射距離は約3m(298cm)で、最長投射距離は約6.3m(636cm)と、小さい部屋での大画面から、大きい部屋で常識的な画面の大きさにとどめるような設置も可能で、この辺りはクラス、トップレベルの高倍率ズームレンズが活きた性能といったところ。 光学系の基本スペックはEMP-TW1000から変更がなく、レンズシフト量は上下±96%(約3画面分)、左右±47%(約2画面分)。競合と比べても、このシフト性能は見劣りしない。
最大上方向シフト時の100インチ投影では、約58cmも映像を上下にずらせるので、天吊り時にはかなり下に、そして台置き設置時にはかなり上へ打ち上げることが出来る。また、オンシェルフ設置でも同様に下に打ち下ろせることになる。横方向最大シフト時は、視聴者の完全真横においても正面に投射できるので、部屋の邪魔にならないところに自由に設置できる。設置性に不満はない。 光学系に大きな仕様変更のないEH-TW4000だが、光源ランプは一新され、EMP-TW1000/2000の170W出力の超高圧水銀ランプから、200W出力のものへとグレードアップされた。最大輝度は1600ルーメンのままで据え置かれている。なお、下位モデルのEH-TW3000は、この高出力ランプの光出力を最大限に輝度方向へ応用するチューニングで1,800ルーメンを実現している。 交換ランプ「ELPLP49」は、出力こそ上がったが、価格は前モデルと同じ31,500円。ランニングコストが据え置かれているのは嬉しい限り。ただ、消費電力は285Wと競合他機種と比べても若干高めだ(EMP-TW2000は245W)。 公称騒音レベルは、ボディ大型化と内部エアフロー最適化により、低輝度モードで22dBを実現した。前モデルは24dBだったのでかなりの改善がなされたといえる。ただ、利用頻度の高い高輝度モードだと、本体から1m離れても部屋が無音状態だと「フー」という排気音が聞こえる。 吸気は背面スリットから、排気は前面のレンズ横のスリットから行なわれる。背面吸気のため、極端に壁に寄せた設置は吸気効率を下げるので注意が必要そうだ。なお、排気口にはフィン型のエアガイドが付いており、正面向かって左に向けて排気されるので、熱気や埃が投射映像を揺らすことはない。光漏れは前面排気口から多少あるのだが、エアガイドが投射方向への光漏れをうまく遮断している。この辺りのデザインと機能性に配慮した設計は昔からエプソンはうまい。
■ 接続性チェック ~HDMIはVer.1.3aに
HDMI端子は2系統を装備。機器間通信に対応した1.3aにバージョンアップしている。 EMP-TW2000ではやや狭苦しかったHDMI端子外周に、スペースが与えられたことで、コネクタ部が幅広いケーブルや、大きめなHDMI-DVI変換アダプタも取り付けられるようになった。モンスターケーブルの「VA HDMI-DVI SL」変換アダプタも余裕で接続できた。 PCはHDMI端子でも接続できるほか、アナログRGB(D-Sub 15ピン)接続端子も備える。なお、ドットバイドットの高品位表示はHDMI(DVI)経由の接続でしか保証されないので、特殊なケースを除いては、PCとの接続はHDMI端子利用を使うべきだ。 PC接続時に画面が若干拡大されて切り取られて表示されてしまうオーバースキャンをキャンセルするには「映像」メニューの「出画率変更」設定を「100%」設定にすればよい。実際に試した限りでは、NVIDIA GeForce GTX280および、ATI RADEON HD4850にて1,920×1,080ドットのドットバイドット表示を確認できている。
アナログビデオ入力端子は、コンポジットビデオ端子、Sビデオ端子、コンポーネントビデオ端子を各1系統ずつを備える。コンポーネントビデオ端子は、RCAピンプラグを採用しており、D端子は搭載しない。 この他、PCとの連動制御に用いるRS232C端子、外部の電動カーテンや電動開閉スクリーンと連動させるためのDC12Vトリガ端子を備えている。 設置時の美観を重視するためのユーザーのために、EH-TW4000では、別売りになるが、背面端子パネルを覆うケーブルカバー「ELPCC01B/W」(5,250円)が新たに純正オプションとして設定されている。背面の接続端子パネル全体を覆うようになるが、その分後ろの突き出し感は強くなる。
■ 操作性チェック ~新リモコン採用。[Default]ボタン採用で画調エディットが容易に
EMP-TW1000時代から採用されてきた、中央がくびれたバータイプのリモコンから、シンプルな平板タイプのものに一新された。筐体デザイン変更に合わせてリモコンも変更したと言うことだろう。 新リモコンはくぼみが前方にあるので握ると親指が十字キーではなくて入力切換キーとキーのバックライト点灯ボタンのところにくる。暗闇で操作する際に便利なリモコンのライトアップボタンだが、そのボタンの位置を見失うことは少なからずある。このデザインはなかなかよく考えられていると思う。 電源オンからHDMI入力の映像が投射されるまでの所要時間は約27.0秒。最近の機種としてはやや遅く、前モデルよりも約10秒遅い。 入力切換ボタンは前述したように、リモコンの上部にレイアウトされている。嬉しいのは入力系統ごとに独立したボタンが実装されているという点。ボタンは[HDMI1]、[HDMI2]、[Component]、[PC]、[S-Video]、[Video]の計6個があり、それぞれを押すとボタン名が示す入力系統に直接切り換えられる。切り替え所要時間はHDMI→コンポーネントビデオで約5.0秒と、最近の機種としてはこれもかなり遅い。 リモコン中央にはメニュー操作用の十字キーがあり、さらに下段にはその他の画調調整ボタンが整然と並ぶ。 アスペクト比切換は[Aspect]ボタンを押すことで開くアスペクト切換メニューから希望のアスペクトモードを選ぶ方式。切換速度は画面の消失を伴い約1.0秒。こちらも最近の機種としては遅め。 用意されているアスペクトモードは以下の4種類。他機種と比べると少ないが、最も使用頻度の高い物を厳選して実装してあるので、必要十分ではある。
画調モードの切換は[Color Mode]ボタンで、画調切換メニューを開いて、希望する画調モードを選ばせる方式。切り替え所要時間は約1.0秒で、標準的な速度だ。プリセットの画調モードのラインナップはEMP-TW2000から変更はなし。各プリセット画調モードにおけるインプレッションについては後述する。 調整可能な画調パラメータは「明るさ」「コントラスト」「色の濃さ」「色合い」「シャープネス」などの基本パラメータ以外に、「絶対温度(色温度)」「肌の色調整」「明るさ切換」「オートアイリス」などの設定が行なえる。
色温度は5,000/5,500/6,000/6,500/7,000/7,500/8,000/8,500/9,000/9,300/9,500/10,000Kというかなり細かく設定が可能で、これはマニアには嬉しい限り。 「肌の調整」は0/1/2/3/4/5/6の7段階調式で、値が小さいほど人肌に関連する色が赤みを帯び、値を上げていくと緑が強くなる。肌色付近を選択式に調整する機能だが、実際には人肌のハイライト色になる白付近も影響がでる。この辺りの調整特性はEMP-TW2000と同じだ。
「明るさ切換」は、基本画調パラメータの「明るさ」となにが違うのか、直感的にはわかりにくいのだが、実はこれ、ランプ駆動モードを指している。「高」か「低」が設定でき、それぞれランプが“高”輝度、“低”輝度の各モードに切り替わる。高輝度モード時は、明るくなって輝度ダイナミックレンジが向上するだけでなく、本体内蔵の冷却ファンがフル稼働する関係で騒音レベルも上がる。
さらに、マニアックかつ、より高度な調整を行なうための「アドバンスト」メニューはEH-TW4000にも搭載されている。
「シャープネス」は「スタンダード」では普通のシャープネスの強弱を-5~0~+5の範囲で設定するだけだが、「アドバンスト」では、映像の高周波成分と低周波成分、水平方向と垂直方向のシャープネスを個別に設定できる。分かりやすく言うとディテール部(高周波)、エッジ部(低周波)、横縞(水平)、縦縞(垂直)のシャープネスを個別に設定できると言うことだ。本来ならば映像エンジン側が自発的に制御する適応型シャープネス処理の傾向をいじれるということ。これはかなりマニアックで面白い。 ガンマ補正の調整はプリセットの2.0/2.1/2.2/2.3/2.4という代表値から選ぶのが基本となるが、これで満足できなければ「アドバンスト」にて、9バンドのグラフィックイコライザーのような操作画面で好みのガンマカーブも作り出せるようになっている。これ以外に、「アドバンスト」メニューには、色出力特性をRGB、RGBCMYで、オフセットとゲインレベルの調整で作り込めるモードまでを搭載している。ここまで、いじる人がどれくらいいるのかは不明だが、とにかく、プロジェクタ製品の開発レベルで使いそうなパラメータ調整を一般ユーザーに開放してくる心意気は、さすがだ。
各プリセット画調モードは、ユーザーエディットが可能になっており、その調整結果は特に保存を行わなくても上書き保持される。ただし、「画質」メニュー、最下段の「初期化」を実行することで簡単に工場出荷状態に戻すことは可能だ。また、パラメータ調整中に、リモコンの[Default]ボタンを押せば、そのパラメータのみを工場出荷状態に戻す機能も新搭載されている。こうした支援機能のおかげで、プリセット画調モードを基軸にした画質チューニングのハードルはかなり低くなった。 調整した結果は、10個のユーザーメモリへ保存することができ、全入力系統で共有される。10個もあれば不足することはないだろう。
ユーザーメモリに保存されるのは「画質」メニュー階層下のパラメータのみ。「映像」メニュー階層下の、倍速駆動関連の「フレーム補間」レベルや、ノイズリダクション全般、「EPSON Super White」設定、「HDMIビデオレベル」、「4-4プルダウン」の設定が保存されない。本連載のEMP-TW2000編の時も「分かりづらい」と指摘したのだが、今回もこの仕様が継承されている。EPSONとしてのこだわりがあるのだろう。 なお、「映像」メニュー階層下の設定は、入力系統ごとに保持され、EH-TW4000全体としてのグローバル設定ではない。ユーザーとしては、この辺りのEPSON系独特の機能設計のクセは理解しておきたいところだ。
■ 画質チェック EH-TW4000の液晶パネルはEPSON自家製の透過型液晶パネルで、プロセス世代でいうと前機種のEMP-TW2000と同じD7の0.74型フルHD(1,920×1,080ドット)の「C2FINE」パネルになる。ただ、2008年仕様のD7/C2FINEパネルは、倍速駆動技術に対応した応答特性が与えられており、いわば「D7+」的な位置付けとなっている。
新D7/C2FINEパネルは、製造プロセスが変わっていないので開口率は約52%のまま据え置かれており、開口率90%前後のLCOSパネルにはまだ及ばない。 開口率の低さは150インチ~200インチ以上の投影で、画素を仕切る格子筋が目立つようになり、粒状感が気になってくるが、一般的なホームシアターの100インチ前後以下の画面サイズであれば、画素の粒状感はほとんど気にならない。 公称最大輝度は、従来機から据え置きの1,600ルーメン。民生向けホームシアター機として1,600ルーメンは必要十分すぎるほどの明るさで、画調モードを輝度重視の「ダイナミック」あるいは「リビング」とした場合には、蛍光灯照明下でも普通に見られてしまうほど明るい。部屋を薄暗い程度にすれば、ゲームプレイなどは十分可能だ。こうした高輝度性能はLCOS機にない魅力だと言える。 公称コントラストはこのクラス最高の75,000:1という触れ込みだが、これは当然、動的絞り機構(オートアイリス)をオンにしたときの値となっている。具体的には絞り開放時の最大輝度の白と、最大絞り時の最低輝度の黒を対比した値であり、同一フレーム内で75,000:1のコントラストが見られるわけではない。あくまで数字のマジックがあるということを前提にした上で捉えたい。 と、いいつつも、実際の投射映像を見てみると、このコントラスト感はたいしたものだといわざるを得なかった。明らかに最暗部の表現能力は、これまでの透過型液晶プロジェクタのそれとは異質なものになっている。黒が本当に黒いのだ。 今回の視聴には「ダークナイト」のBlu-rayビデオを用いたが、夜の摩天楼のシーンは、吸い込まれそうな暗闇と、町並みの明かりとの対比が素晴らしく、75,000:1はともかくとしても、透過型液晶プロジェクタでは見たことがない同一フレーム内ハイコントラストを実現していた。画素開口率に関してはLCOSにまだ及ばないが、暗部の沈み込みとこのコントラストパワーに関しては、LCOS機に対して十分な競争力を身につけたといっても過言では無い。 この透過型とは思えない“黒”性能の秘密は、新版D7パネルに組み合わされたリファイン版の「DEEPBLACK」テクノロジーにあるようだ。 透過型液晶パネルは液晶分子を90度位相の違う偏光板で挟み込んでいる。C2FINEパネルでは垂直配向液晶をノーマリーブラック(画素駆動にかかる電圧がオフ時に黒表示になる)駆動しており、電圧オフ時には理論的には出口から光が出てこられない。しかし、現実には光はわずかながら液晶分子に衝突して複屈折を起こしてしまい位相が微妙に回転して、出口側の偏光板を出てきてしまう。これが迷光による黒浮きの原因の1つだ。この微妙な位相回転を補償する光学系がDEEPBLACKテクノロジーで、EH-TW4000ではこの機構がさらに洗練されたというわけだ。 黒浮きの原因はもう一つある。それは液晶パネルと光源の光線の照射角度のズレによって起こる。 光源からの光線は液晶パネルへ直角に入射してこなければならない。斜めからの光は、迷光として液晶素子の状態とは無関係にパネルの出口の偏光板から出てきてしまい、黒浮きの原因となるのだ。光源ランプからの光の入射精度をあげるアプローチはいくつかあるが、1つは、光源ランプ直後の「偏光をそろえる役割を果たす偏光変換素子」の精度を上げること。2つ目は光源ランプの発光部を出来るだけ理想的な点光源に近づけて、ランプ内の凹面ミラーで反射した光を平行光源として取り出すこと。EH-TW4000では、「光源からの光の入射角精度を上げる改良を行なった」とのことなので、そうした方向の光学チューニングもなされたと思われる。もしかすると新ランプ採用は、より精度の高い平行光源を取り出すためのものなのかもしれない。 さて、ネイティブ・コントラストがすでにLCOS機に迫っているEH-TW4000だが、それでも動的絞り機構であるオートアイリスは搭載されている。前モデルのEMP-TW2000では、このオートアイリスはオン/オフの設定しかできなかったが、EH-TW4000では、改良が施され、絞り応答速度を「標準」「高速」から選べるようになった。これだけのネイティブコントラストがあれば動的絞り機構を利用しなくてもよいのではないか、と思っていたが、実際、EH-TW4000のプリセット画調モードのうち、「ダイナミック」以外は、オートアイリスがオフ設定になっていた。それだけ、ネイティブコントラストに自信があるのだろう。
ちなみにオートアイリスに関して、いくつかのシーンで視聴してみたが、明暗の移り変わりの激しいシーンでも不自然な挙動は見られなかった。無理して使うことはないが、長きにわたって熟成されてきた機能だけに完成度は高い。好みで使えばいいだろう。 発色も良好だ。赤、青、緑いずれもパワーバランスがよく、水銀系ランプとは思えないナチュラルな発色になっている。光源ランプの出力は200Wへと引き上げられたが、高まった光出力は色ダイナミックレンジの拡大に使われているのではないか、と思えるほど色深度も深い。二色混合のグラデーションも、思わず感嘆の声が出てしまったほど美しく決まってくれる。ちなみに、筆者には色深度もEMP-TW2000より向上したように見えるのだか、スペック上はNTSCカバー率115%で同等となっている。 人肌の発色も非常に自然だ。過度な赤味強調もなく、それでいて水銀系ランプの黄緑感もない。血の気がほのかに感じられる透き通ったような柔らかい肌色の質感がうまく伝わってくる。肌に乗るハイライト付近の白に近い肌色もリアルに描き出されている。
階調表現も非常に優秀。最暗部は部屋の暗さに近い黒から始まり、それでいて最暗部付近にもちゃんと色味が残っている。そして暗部から明部へのつながりは非常にアナログ的で液晶らしいリニアリティがある。この部分もLCOS機に迫る性能を身につけてしまったといえる。 今回の視聴はレンズシフト左右±0%、上下±0%のオンシェルフ設置にて行なったこともあってか、投射映像のフォーカス感は及第点。画面中央で合わせると外周もそれなりに合う。ただ、外周に行くと色収差がやや強くなり半ドット程度の色ズレを生じる。 また、何らかの光学系パーツが熱膨張する関係からなのか、本体は冷め切った状態でフォーカスを合わせても、本体が暖まるとフォーカスがずれてしまう。逆に暖めてからフォーカスを合わせておくと、翌日、電源を入れたときにフォーカスが合っていない映像が現れてしまう。安定したフォーカスが蘇るまで本体起動後20分くらいはかかるので、これは改善を望みたい。個体差なのかもしれないが、古い車みたいに暖機が必要なプロジェクタ、ではちょっと悲しい。
さて、EH-TW4000のもう一つのホットトピックは映像エンジンとしてビデオプロセッサ「HQV Reon-VX」を搭載した点だ。HQV Reon-VXによって提供される目玉機能は二つ。1つは残像低減機能の一環である「フレーム補間」技術だ。これは最近の多くの液晶テレビに採用されている「倍速駆動技術」に相当する機能になる。二つ目は「4-4プルダウン」機能で、これは毎秒24コマの映画やアニメなどを3-2プルダウンで毎秒60コマにするのではなく、各コマを4回ずつ表示して毎秒96コマで表示する機能だ。 フレーム補間はオフ、弱-標準(デフォルト)-強の設定が行なえる。実際に有効にして様々な映像を視聴してみたところ、カクカク感が取れた現実の視界に近い映像になることが確認できた。非常に効果が高いのだが、標準設定、強設定では、動体に対して背景映像の周波数が高いときに、強くモザイク状のノイズが出てしまう。これは予測フレームの生成にエラーが多いという証拠だ。 この倍速駆動技術、フレーム補間技術のエラー度を測るのに、考案した方法があるのでここでも紹介しておこう。1ドット単位で黒と白のラインを交互に垂直、あるいは水平にひいたストライプ画像を用意する。これをPC等でドットバイドットモードで全画面表示して、この上でマウスカーソルを動かしたり、ウィンドウを動かしてみよう。エラー度が高いフレームが差し込まれている機種ほど動体周辺に強いノイズ(アーティファクト)が出るようになる。EH-TW4000はこのテストを行なうと、垂直ストライプ映像で激しいノイズを出す。 最近のこうしたフレーム補間技術採用機種としてはかなり強いノイズを出す特性があり、補間フレームの品質があまり高くないことを伺わせる。弱設定にすると幾分ノイズが低減されるので、もし活用したいというのであれば弱設定での使用を奨励する。筆者的にはあまり活用はしたくない感じだ。
一方、4-4プルダウンは、24fps映像特有のカクカク感が残るが、フレーム補間を用いたときのようなアーティファクトは出ず、なおかつ2-3プルダウンして60fps化したときよりもスムーズな映像になる。こちらは常用OKだ。ちなみに4-4プルダウンは24fps映像表示時にしか有効にならない。 なお、マニュアルに解説がなかったのでここで記しておくが、デフォルトでフレーム補間は標準、4-4プルダウンはオン設定になっているが、両者は排他的にしか利用できない。つまりデフォルトで両方有効化されているのにもかかわらず、どちらか一方しか利用できない。また、24fps映像を認識したときには、4-4プルダウンが優先される。だから、PS3のゲーム画面ではフレーム補間が効くのに、BDビデオを再生するとフレーム補間が効かなくなる……といった事態が起こる。フレーム補間を優先的に活用したい場合には、4-4プルダウンの設定をオフにしておかなければならない。両者が排他仕様にもかかわらず、メニューの別ページに表示される設定オプションのために、とてもわかりにくい。ユーザーは留意したいEH-TW4000の振る舞いだといえる。
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