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本田雅一のAVTrends

まだ中盤戦の中国における“フォーマット戦争”
Blu-rayと独自規格CBHDの争い


 日本を含め、ほとんどの地域では2月に青紫レーザーダイオードを用いる高密度光ディスクの規格がBlu-ray Discに事実上統一され、ワールドワイドでのビジネスが本格スタートしたが、一カ国だけまだ統一されていない地域がある。中国だ。

Blu-ray Discを販売中の中国の店舗

 中国においても、Blu-ray Discプレーヤーは高価ながら販売されており、対応BDソフトも40タイトルほどが輸入されているが、プレーヤー価格は日本円で5~6万円、BDソフトも輸入盤しかないこともあり実売で3,800円ほどと、中国の所得レベルからすれば、まだ本格的にビジネスが始まる段階ではない。加えてHD DVDの中国規格として策定されたCH-DVD(現在はCBHD : China Blue High Definitionと名前を変えている)についての技術検討や情報交換を目的としたChina HD Association(CHDA)も存在しており、今月中にもプレーヤーが発売されるとの噂があった(現時点で発売を確認できていないが、すでに出荷されているかもしれない)。

 22日、上海において中国におけるBlu-ray Disc事業の推進を行なうための業界団体「中国藍光光盤国際産業合作組織(China Blu-ray Disc International Industrial Organization : CBIIO)」が正式に発足した。組織にはBlu-ray Disc Association(BDA)の主要メンバーでもあるディズニー、パナソニック、フィリップス、パイオニア、サムスン、ソニーの6社が外国企業として参加し、中国企業として中国華録集団(Hualu Group)、中国映画集団(China Film Group)、長虹、BBD、Desayといった中国企業8社と合わせ、14社がCBIIOの理事会を運営するが、今後、この数はそれぞれ10社ずつ、計20社に増加する可能性があるという。さらに一般会員として、他4社の中国企業が参加することが決まっているほか、今後、参加企業が増えていく見込みだ。

 CBIIOは中国中央政府・国務院の情報産業部が各産業の管理監督を行なうために設立している団体のひとつだ。前述したCHDA(CBHDの推進団体)を設置している中国電子映像産業協会も、そうした団体のひとつ。一方、CBIIOは中国電子音響産業協会が設置しており、同じ国務院情報産業部の元で、ふたつの光ディスク規格についての規格検討が進められていることになる。

 日本から見ていると、実によく判らない状況に見えるだろうが、中国中央政府としては、なんとか自国の実情に合ったものにするため、海外からの様々な提案を受け、検討しながら国家として光ディスクの規格を決めていきたいということだろう。すでにCHDAが設立していることからも判るとおり、HD DVDを過去に推進していたグループは、将来、製造拠点および消費の中心地となるだろう中国をターゲットに、従前に準備を整えて話を進めていた。

 しかし、中央政府の意向にも大きく左右されるとは言え、北京で取材した中国の工業系新聞社・中国電子報の記者・范蓉氏によると、中国マスコミの間ではBlu-ray Discが事実上の標準として、すでに認知が広がっているという。「まだ圧倒的に値段は高いが、価格が下がればソフトを買って見たいという中国人もたくさんいる。1.5倍ぐらいのソフト価格なら、BDソフトを買うだろう」と話した。一方のCBHDに関しては「情勢不利と見たのか、中国国内で開発されたNVDの規格を取り込むようだ」と話した。

 このように、未だ中国ではCBHDとBDの規格争いが燻っているが、CBIIOの設立をきっかけに中国でもBDが主流となるべく勢いを増すという意見が多い。いずれも「価格から言って、まだ普及は先のこと」という意見で一致はしているが、一方でBDプレーヤーの製造ビジネスを始めたいと考える中国企業が増えているからだ。

 CBIIOは理事会の下に産業部会、技術部会、広報部会があり、それぞれに活動をしていくが、それぞれの具体的な議題や活動内容はまだ決まっていない。中国企業と国外の企業では、当然、思惑も変わってくる。

 中国華録集団は中国国務院の国有資産監督管理委員会が出資する国営企業で、中央政府系企業としては唯一、AV機器や関連事業を扱う会社だ。グループ内にはBlu-ray Discのオーサリングを行なう会社も新たに設置されており、中国映画集団のレッドクリフ(赤壁)のオーサリングは華録集団の設備で行なわれた。それだけではない。BDの複製(製造)会社まで持っている。華録集団としては、中国向けタイトルのオーサリングを行ない、さらに複製事業まで提供することで、中国でも買ってもらえる値段を数年後には実現しようと考えているようだ。

中国華録・松下電子信息有限公司 張堅志 副総経理

 その華録集団がパナソニックと合弁で設立している中国華録・松下電子信息有限公司の副総経理の張堅志氏は「中国にはBDプレーヤーを作りたいと考えている企業がたくさんある。健全なビジネスを育てるために、CBIIOに大きな期待を寄せている」と話す。同社は華録集団の中でAV製品の製造などの事業を行なっており、CBIIOの運営にも大きく関わっている。

「DVDにおいては大変に悲惨な状況に中国企業は陥ってしまった。特許管理などの仕組みがきちんと行なわれない混沌とした中で、ライセンスを受けない会社が法外に安い価格でプレーヤーを販売し、ライセンスを受けて事業を行なう真っ当な会社の製品が売れなくなってしまった。同じような状況はBDでは作りたくない」

「加えて中国国内にもあるオーディオやビデオの特許に関して、正当な手段で評価してもらい、BD規格の中に盛り込んでもらいたいという意志もある。情報交換の中で特許を強化し、できれば特許料徴収などについてもCBIIOの枠組みで行ないたいと考えている。光ディスク事業におけるアンフェアな状況を解決し、フェアな環境で中国なりのBDビジネスを作りたいということです(張氏)」

 中国でBD機器が売れるようになれば、ドライブや基幹LSIなどのコストも、さらに大きく下げていくことが可能になる。また、特許管理も含めた中国でのビジネスの枠組みをフェアな環境で構築できれば、DVDの時のように全く特許が意味を成さなくなるという状況もある程度は回避できるだろう。

 一見、対岸の出来事のように見えるが、中国のBDビジネスの行方は、実は日本のユーザーとも全く無関係ではない。もし、中国とそれ以外の国で光ディスク規格が割れるようなことがあれば、産業全体の効率は落ちてしまう。まだ中盤戦といった風情の中国におけるフォーマット戦争。今後の行方に注目したい。


□関連記事
【7月8日】中国独自の音声圧縮「DRA」がBlu-rayの技術評価に合格
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080708/bda.htm

(2008年12月24日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]


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