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本田雅一のAVTrends

HDMI接続で音質が変わる理由と対策
HDMIの映像/音声の品位を決めるものは?


 HDMIに対応したテレビ、プロジェクタ、レコーダ、プレーヤーなど各種機材が揃ってきたが、高品位な映像や音を得るための使いこなしには様々な誤解が多い。

 幾つもの情報や経験則から生まれるHDMIの使いこなしが推測を生み、その推測がまた別の経験則と結びつけられ、何が原因でどのような事が機器の中で起きているのか、さっぱり判らなくなっているユーザーが増えているのが、読者から届くメールやAVファンのブログなどから見えてくる。

 しかし、実はHDMIの特徴を把握していれば、HDMIの使いこなしはさほど難しいことではなく、カンのいい方ならばいろいろな対策を思いつくだろう。今回はHDMIの使いこなしについて、その基本的な考え方を紹介しよう。


■ HDMIの映像/音声の品位を決めるものは?

 HDMIが一般的なデジタル音声インターフェイス(S/PDIFなど)や、アナログ音声/映像と異なる点は、ケーブルを通じて“信号”を直接送る仕組みではなく、データ通信を通じて信号を送信しているという点だ。両者はよく似ているが、実際には異なる意味がある。

 S/PDIFでやり取りされる信号は、信号のタイミングから波形までが品質と密接な関係がある。GND(グランド)にノイズが混入したり、波形に乱れが出れば、最終的なD/A変換時にジッタとなって出力波形を歪ませるし、振動による電気伝導度の影響も受ける。一般にTOS-Linkによる光と同軸ケーブルによる電気的な伝導では、前者の方が一桁程度、ジッタが多くなるなど、メディア変換による影響が少なくない。

 このため、S/PDIFを用いたデジタル接続は、ケーブルや端子そのもの質、光の場合は光メディアインターフェイス自身の質や光ファイバー、同軸の場合はケーブルの動的なインピーダンス特性、シールド、インピーダンス特性などが、直接音質に影響する。よって、オーディオ経験の長い方ならば、比較的、どのような振る舞いが起きるのかは推測しやすい。

 しかし、HDMIは違う。HDMIはGbpsオーダーの高速通信を行うシリアル通信インターフェイスを束ねる形で実装されており、データフレーム(パケットのようなもの)に映像や音声、制御信号などをひとまとめに収めてを送信する。送信するのは、あくまでもデータであって、それがそのまま映像や音声の信号として扱われるわけではない。また、多くの場合は暗号化もされている。

 HDMIの送信機(トランスミッタ)をTX、受信機(レシーバ)をRXと言うが、RXはTXから送られてきたデータフレームの暗号化を解き、その中のデータを映像や音声などに振り分け、データフレームに書かれた内容に応じてデジタルの映像信号や音声信号をRX内部で“生成”している。つまり、映像や音声の信号を作り出しているのは送り出し側(プレーヤーやレコーダ)ではなく、受信側(AVアンプやディスプレイ)のRXだ。

 単純に考えれば、送り出し側の機器が何であっても、受信する側の品位によって映像や音声の品質は変わらないように思える。しかし、実際にはプレーヤーを変えても、ケーブルを変えても、振る舞いは変化する。映像の変化は判りにくいが、音質の変化は比較的大きく感じられる。なぜだろうか?

 シリアル通信で受け取ったデータを種類別に分け、各信号として組み立て直す、つまり内蔵のPLLにロックさせてデジタル信号を出力するのはRXの仕事だ。各信号の品位に問題があるとすれば、それはRXの動作が理想通りではないということになる。つまり、HDMI接続において、受信した映像や音声の信号品位を決めるのはRXだ。言い換えると、RXを“健やかに”、つまり可能な限り設計通りの性能で動作させることが、画質や音質を向上させるために重要になってくる。この出発点を間違わなければ、後のロジックはさほど難しくない。


■ AVアンプのHDMI入力は、すべてが同じ音質ではない

SC-LX90
 例えば、機種によって程度の違いはあるが、HDMI端子の音質はすべてが同じではない。CD再生が可能なHDMI対応のプレーヤーなどで音楽を再生させながら聞き比べると、善し悪しはともかく、入力端子によって音が異なることに気付くだろう。中には各端子の音質がほとんど変わらないようチューニングされたパイオニアSC-LX90(88万円)などの製品もあるが、多くの場合は音が変化する。

 「う〜ん、細かな違いはよく分からない」という方も、HDMI出力端子のスグ横に並んだHDMI入力端子を使うと、音の情報量が減り、音場も狭くなり音の密度が薄くなるのを感じることができるだろう。

SC-LX90のHDMI端子部
 これら入力端子による音の違いは、端子とRXを結ぶプリント基板上の引き回し距離やパターンによって変化する。たとえば、小さなTX 1個に3つのHDMI端子を繋げれば、遠い場所と近い場所ができてしまうのは仕方がない。が、その小さな違いがGbpsオーダーの高速通信では大きい。ケーブル内、シリアル通信を行なうペアは個々にツイストされてノイズを打ち消し、また多重シールドがかけられているが、基板上ではシールドされておらず、信号線をツイストペアにすることもできない。

 また、HDMIの出力端子にディスプレイが繋がり、かつ何か映像が出力されている状況では、TXが忙しく動いている。メーカーによると動作中のTXはそれ自身が電源ラインに影響を及ぼすだけでなく、やや大きめの輻射ノイズも発するそうで、これが近傍にあるRXに影響を与えることは想像に難くない。HDMI出力近傍にHDMI入力端子があると、電源ラインと輻射ノイズの混入という2つのダメージがRXに降りかかるので、他の端子に比べて音質が落ちてしまう。

 ではプレーヤー(あるいはレコーダ)を変えると、音が変わるのはなぜだろうか? 音質がRXで決まるのなら、TXが何であっても同じ音がするはずだ。

 しかし、HDMIケーブルで物理的にプレーヤとAVアンプが接続されればGNDが接続され、そこからノイズが回り込む可能性がある。またTXまわりの電源環境が悪ければ、信号そのものがノイズで汚れていたり、そもそも出力されるシリアル信号のジッタが大きく、RXの動作タイミングがギリギリとなることもあるだろう。

 同じ事はケーブルにも言える。HDMIケーブルの場合、シールドも重要だが、複数のツイストペアが近傍に固まっているので、互いの輻射が影響し合って信号の品質が下がり、RXに到着した時には信号が乱れる。また多芯構成のコネクタにも関わらずコンパクトな端子形状であるため、コネクタ部分でインピーダンス特性が乱れやすく、信号の反射が起きやすい。これらはすべてRX側に電気的に影響を与えるため、RX自身が作り出す映像や音声の信号が変化してしまう。


■ 映像モードと音質の関係

 さて、ここまで来ると、HDMIに関してよく言われているノウハウの理由が見えてくるという読者もいるだろう。これらは、この連載やAV誌などで、数年前から筆者の記事の中で何度か伝えていることだが、今回のロジックと照らし合わせながら話を進めよう。

 ・解像度が低くなると音質が良くなる

 これは実際には、TX-RX間リンク速度が遅くなると音質が良くなるというものだ。HDMIの規格では1080/60pのリンク速度は1080/60i、1080/24p、720/60pの2倍となる。それだけ高速動作が必要になり、RX内部のデータパスも2倍のクロックで動作する。

 ちなみにTX内の映像信号は1080pの場合で150MHzで、信号線の数は30本。それが個別に異なる値を取り続けるので、電源とGNDはピクセルクロックの速い1080/60pの方が激しく揺さぶられる。同じ電源とGNDを共有している音声信号の出力用PLLもその影響を受けてしまう。

 なお、さらにリンク速度を下げて480p/480i (両者とも速度は同じ)にすると、音楽CDなどの2チャンネル音声はさらに良くなるが、残念ながらこのモードではマルチチャンネルのリニアPCMはリンク速度が遅すぎて送れない。もっとも、ここまで下げるとハイビジョンが本来の画質で楽しめないことは言うまでもない。CD再生専用のノウハウだ。

 HDMI 1.3から導入されているDeepColorでは、色深度の増加に合わせてリンク速度が上昇(たとえば12bitの場合、8bit時の1.5倍)するので、やはり音質に影響を与えてしまう。ちなみに1080/60i、1080/24p、720/60pは同じリンク速度で繋がるが、それぞれ音質は異なり、1080/24p時がもっともS/Nの良い滑らかな音調になる。こちらの理由は上記とは異なり、映像フレームレートに音声を同期させる際のパラメータが、24p時により都合の良い値を設定できるからだ。毎秒60枚のフレームレートではfs=48kHzの音声信号と完全に同期できないが、毎秒24枚ならば可能なためだと思われる。

 ・映像と音声は別に分けて伝送した方が音は良い

パイオニア「BDP-LX91」
 前述したようにRXの電源とGNDを一番汚しているのは、実は映像信号だ。RX内で組み立て直している映像信号の値が激しく変化するときに、特にRXへの負荷が大きくなる。前述したように30本もの信号が3.3Vで激しくランダムに動けば、小さなLSIの中はとても“健やかに”とはいかない。

 しかし、映像が何も含まれず、黒のままならば話は変わってくる。前述した30本の信号線がおとなしくなり、ゼロのままで動かなくなり、RX内部の電源を揺らさない。たとえばPLAYSTATION 3の場合、映像出力をHDMI以外にすると、PS3は1つのデバイスにしか映像を同時出力しないので、HDMIからは音声のみが出力され、映像部分には代わりに黒が入る。HDMIは映像を送る規格なので、音声のみを伝えることはできないためだ。PS3の初期モデルでSACD再生する際、映像出力をアナログにすると音が良くなったのはこのためだ。

デノン「DVD-A1UD」
 このことを利用して音質を向上させるため、2つのHDMI出力のうち片方を音声出力専用にできるBDプレーヤーがある。パイオニアの「BDP-LX91」(43万円)がそのうちの1台。来年発売予定のデノン「DVD-A1UD」(54万6,000円)も、同じく2つのHDMI端子に映像と音声を振り分けることが可能だ。

 この機能は思いの外、大きな影響がある。先日、横浜にある販売店のイベントで複数のBDプレーヤのデモと講演を行なったが、ここでHDMI出力の音声と映像をミックスした場合と分離した場合で聞き比べをしてもらったところ、一様にあまりに変化するのを驚いていた。が、基本的なノウハウはPS3発売直後から知られていたものだ。

 ・AVアンプに繋いでいるHDMI接続のディスプレイをオフにすると音が良くなる

 これはあるAV系ベンダーの方に体験談として伺ったものだが、実際にやってみると、確かに比較的大きな変化(改善)がある。理由は簡単で、ノイズ源であるTXがリンク相手を失い、HDMI信号の送信を行わなくなるからだ。それにより電源が汚れず、また輻射も減るため、RXがより健やかに動作する。

□関連記事
【8月27日】パイオニア、16bit拡張処理で高画質化するBDプレーヤー
−HDMI 2系統で映像/音声分離出力。エントリー機も
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080827/pioneer.htm
【12月3日】デノン、世界初のBlu-ray対応ユニバーサルプレーヤー
−DENON LINKでジッタ低減。2系統HDMIで音と絵を個別伝送
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20081203/denon.htm


■ 使いこなしの具体例

 ここまで読み進めて、“ちょっと引っかかることがある”という人もいるのではないだろうか。お気づきの方もいると思うが、より高画質なモードでHDMIがリンクしている時ほど、音質は悪くなるのだ。より高画質、つまりより多くの情報を通信する必要がある時、RXの動作タイミングや電源環境は悪化し、結果として音が悪くなってしまう。

 映像に関しては顕著な傾向は出ないものの、たとえばリンク可能なケーブル長が短くなったり、インピーダンス特性の悪いコネクタを持つHDMIケーブルでリンクが不安定になる、あるいは最悪の場合はノイズが混入するといった不具合が出る場合がある。

 映像の伝達が不安定になるというのは極端な例だが、音質に関しては回避策もあるにはある。ひとつはDeepColorを使わないこと。放送波やDVD、BDソフトなどには8bitの階調でしか映像は入っていないので、DeepColorをオフにしても大きな影響はない。階調を増やしてから映像処理を行なうソニーやパイオニアのプレーヤー/レコーダでは階調数の低下が起きるが、そこは自分で見比べて音と絵のバランスを取るといい。

パイオニア「BDP-LX91」付属リモコンの解像度切り替えボタン
 また、1080/24p入力に対応したディスプレイを使っているなら、映画の時は24p、ビデオ素材の場合は60iで出力するようプレーヤー(レコーダ)を設定することもできる。PS3やソニー製レコーダ、パナソニック製レコーダ(今年秋のモデル以降)なら、HDMI解像度を1080iに設定し、24p出力を「入」にすると、ビデオ素材は60i、映画は24pで出力するよう自動的に切り替わる。ただし、ビデオ素材のI/P変換はディスプレイ側で行なうことになる。

 パイオニアやデノンのBDプレーヤーは、リモコン上に解像度切り替えスイッチが配置されているので、これを必要に応じて切り替えるというのも、ひとつの使いこなしテクニックとなるだろう。

 とはいえ、やはり面倒くさいという人は多いはずだ。最終的にはHDMI端子を音声と映像で分けてくれるのが一番なのだが、現時点では最高級機しか対応していない。ソニーBDZ-X100はHDMI端子が2つあるが、切り替えで片方づつしか利用できないのが残念だ。問題はメーカーも把握している話なので、コスト面で許容できる範囲内で、音声と映像のデュアル出力端子化が進むことを願いたい。


□関連記事
【3月6日】【AVT】Deep Color対応とHDMI接続の互換性
−便利なHDMI接続に潜む“落とし穴”
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080306/avt021.htm

(2008年12月16日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]


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AV Watch編集部

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