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第359回:RolandのDAWシステム「SONAR V-STUDIO 700」を試す
~ 操作性抜群なコンソールと多入出力オーディオI/F ~



 2月20日、ローランドから「SONAR V-STUDIO 700」が発売される。これはWindowsベースのDAWソフトであるSONARを中核に、オーディオインターフェイス、フィジカルコントローラ、ハードウェアシンセサイザなどをシステムとして組み合わせた、プロ用のシステム製品。SONARがDTMという枠から飛び出し、業務用システムのジャンルへ本格的に参入した第一弾のシステム製品ともいえそうだが、実際どのようなものか試してみた。



■ 統合音楽制作システム「SONAR V-STUDIO 700」

 今回発売されるSONAR V-STUDIO 700は、単体のソフトして発売されているDAW、「SONAR 8 PRODUCER」、18IN/24OUTの入出力を装備し、最高192kHzのサンプリングレートに対応したUSB接続のオーディオインターフェイス「SONAR V-STUDIO I/O(VS-700R)」、9本のタッチセンス付きモータードライブ・フェーダーと20基のロータリーエンコーダなどを備えるフィジカルコントローラ「V-STUDIO CONSOLE(VS-700C)」、ローランドの主力ハードウェアシンセサイザ「Fantom」をオンボード化した「FantomVS」、そしてCakewalk Insturmentsシリーズとしても展開しているソフトシンセ「Rapture」をセットとしたもの。オープン価格ではあるが、実売価格が46万円前後という設定となっている。

「V-STUDIO CONSOLE(VS-700C)」 「SONAR V-STUDIO I/O(VS-700R)」

 現在、業務用のDAWシステムといえば、DigidesignのProToolsが主流であり、レコーディングスタジオではほぼ100%といっていい圧倒的なシェアを持っている。これは基本的にMacベースのシステムで、規模や仕様にもよるが、200~400万円程度が一般的であるため、それと比較するとかなり安い設定のシステムとなっている。もちろん、現在はProToolsがある種、インフラのようになっているため、それを簡単に置き換えるべきものではないだろう。

 とはいえ、ビデオ制作系スタジオやゲームやマルチメディアコンテンツの制作スタジオなど、直接音楽CDの制作に絡まないところだと導入しやすいかもしれない。とくにローランドのビデオ制作システム「DV-7DL」シリーズと接続し、映像をダイレクトにコントロールすることが可能であることが大きなポイントとなっており、通常のMA作業はもちろん、サラウンド制作まで可能であるため、注目を集めている。

 一方で、それなりに余裕のある個人のDTMユーザーも、ターゲットには入りそうだ。今回はそんな個人ユーザーの観点から、ハイエンドDAWシステムとしてSONAR V-STUDO 700を見てみた。

 レビュー用ということで、SONAR V-STUDIO 700がローランドから送られてきたのだが、さすが業務用というだけあって、かなり大きい。とりあえず梱包を解いて、仕事机に置いてみたのが下の写真だ。横幅120cm、奥行き70cmというデスクにコンソールであるVS-700Cがちょうど収まった感じ。

 一方、オーディオインターフェイスのVS-700Rは、この机には置けなかったため、サイドの棚に設置することにした。これによって、まさにスタジオという感じの快適な環境が構築できたが、これを置くと、さすがにこの机でほかの作業をするのは困難なので、やはりV-STUDIO専用に大きなデスクが必要と考えたほうがよさそうだ。

コンソールは「かなり大きい」サイズ VS-700Rはサイドの棚に設置

 接続自体はいたって簡単。PCとVS-700RをUSBで接続し、VS-700RとVS-700CをビデオのD端子と同じ形状の付属ケーブル(結線が異なるため、D端子ケーブルは使用不可)で接続するだけだ。また、電源はVS-700R、VS-700Cそれぞれに必要となる。

AUX INのみがHi-Z入力にも対応

 このVS-700R自体は18IN/24OUTという仕様であるが、V-STUDIOとしては19IN/24OUTとなっている。またVS-700Rをもう1台追加することも可能で、この場合は37IN/48OUTとなる。というのは、VS-700CのフロントにAUX INをひとつ備えているからだ。このAUX INのみがHi-Z入力にも対応しているので、結構便利に使うことができる。

 また、その横には2つのヘッドフォン出力があり、モニター出力用として、それぞれ独立して使えるようになっている。

 そのVS-700R、18IN/24OUTと多くの入出力ポートを備えているだけに、リアを見ると端子がズラリと並んでいる。8系統のアナログ入力(XLR/TRS)、14系統のアナログ出力、デジタル入出力(AES/EBU、コアキシャル)、さらにADAT入出力にMIDI入出力、ワードクロック入出力がある。このアナログ入力部には8つの独立したマイクプリアンプが内蔵されており、これらはRoland V-Mixer M-400シリーズ譲りのものとのこと。

 さらに、それぞれの入力にコンプレッサもハードウェアとして搭載されている。これらマイクプリアンプやコンプレッサのパラメータ設定は、すべてSONAR上で起動する画面を用いて行なうようになっている。

 サンプリングレートは44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHz、192kHzのそれぞれに対応しており、VS-700Rフロントのスイッチで切り替える。切り替えた結果を有効にするためには、電源を入れなおしてVS-700Rを再起動する必要がある。

VS-700Rのリア。多くの端子を装備 マイクプリアンプなどの設定はSONAR上で行なう サンプリングレートの切替スイッチ



■ 操作性抜群なコンソール「VS-700C」

ASIOドライバを採用。19IN/24OUTあることが確認できる

 さて、ソフトウェア一式をインストールし、SONARを起動すると、各種ドライバ設定なども自動的に行なわれる。MIDIおよびコントローラの設定は必要だが、いたって簡単だ。ここでオーディオインターフェイスの設定を見てみると、確かに19IN/24OUTあることが確認できる。よく見てみると、使われているのはWDM/KSドライバではなくASIOドライバとなっている。

 設定が済んだら、もうV-STUDIOの世界。もちろん、単体のSONAR同様、マウスを使っての操作は可能ではあるが、ほとんどの操作はすべてVS-700Cでできるようになっている。

 VS-700Cのパネルは10種のセクションとLCDディスプレイ、タイムディスプレイに分類することができる。見てのとおり、メインになるのは中央のチャンネル・ストリップ・セクション。チャンネルごとに、フェーダー、MUTE、SOLO、ARM(録音待機)、SELボタンが用意されているほか、一番上にはローターリーエンコーダがあり、各種パラメータを調整することができるようになっている。このチャンネルストリップは、左隣にあるボタンで、トラック、バス、メインのいずれかに切り替えることができる。

 また、トラックの名称やチャンネルの設定状況などが、その上にあるLCDディスプレイに表示されるため、何を動かしているのか、間違いなく確認することができる。

中央のチャンネル・ストリップ・セクション トラックの名称などはLCDディスプレイに表示される

 左上にあるチャンネル・ストリップ・コントロール・セクションではチャンネルごとにEQやSENDなどの設定が行なえる。すべてノブで直接操作できるため、SONARをマウスだけで操作するのと比較して、圧倒的に音作りの操作性が向上する。

左上にあるチャンネル・ストリップ・コントロール・セクションではチャンネルごとにEQやSENDなどの設定が行なえる

 また、アクセス・パネル・セクションを利用することで、トラックビューやコンソールビュー、シンセラック・ビューといった画面の表示もVIEWボタンで一発。UTILITYボタンにはカット、コピー、ペーストといった編集機能やフェード、フリーズ、スプリットなどの機能も割り当てられているため、まさに専用機感覚での操作ができる。そして、これらのボタンはデフォルトの設定だけでなく、SONAR上で起動する画面を用いて自分で機能を割り当てて使うこともできるようになっている。

アクセス・パネル・セクションのVIEWボタン SONAR上で機能を割り当てて使うこともできる

 一方、トランスポート関連も、やはりハードウェアで直接操作できるのは、非常に使いやすい。ジョグ/シャトル/カーソル・セクションは、VS-700Cのために金型をおこして作ったというこだわりの部品を使っているだけに、使い勝手は抜群。中央は人差し指でクルクル回せるシャトル・ホイール、その外側はつまんで動かせるジョグ・ホイール、さらにその外側には十字に設置されたカーソル・ボタンという構造。その右下にSELECTボタン、左下にEDITボタンがあり、現在位置を動かしたり、拡大させたりといった操作が直感的にできるようになっている。

 また、コンソール右上にあるタイムディスプレイは赤いLED表示で、現在位置の時間を表示できる。この表示はTIME CODEボタンで「小節・拍・TICK」形式か、実時間形式かを切り替え可能だ。さらに録音/編集セクションのボタンを活用することでパンチレコーディングやループレコーディング、またマーカーの設定などが非常にしやすくなっているあたりも、さすがSONAR専用のシステムであることを実感する。

使い勝手は抜群なジョグ・ホイール タイムディスプレイは赤いLED表示

 多少使い方を覚える必要はあるが、VS-700Cの左下にあるSHIFT、CTRL、ALT、COMMANDというボタンがあり、これらを押しながら、各ボタンを押すことで、トラックを追加したり、プラグインエフェクトを設定したりと、LCDディスプレイでの表示と組み合わせて便利に使える。もっとも、慣れるまでは、マウスで操作したほうが分かりやすい部分もあるが、覚えてしまえば、ソフトを扱っているというよりも、専用ハードウェアのレコーディング機材を使っているという感覚で利用できる。

 ちなみに、右上にあって目立つのがTバー・セクション。映像編集機器によくあるもので、レコーディング機材ではあまり見かけない操作子だが、これも結構便利に使うことができる。下にあるボタンを使うことで4つのモードで利用法することができるのだが、1つめはX-RAYモード。これはソフトシンセやエフェクトなど1つのウィンドウを選択した状態で押し上げると、そのウィンドウが徐々に消えていき、戻すと元に戻るという使い方だ。

 またACTモードでは、アクティブになっているエフェクトやソフトシンセのもっとも重要なパラメータをTバーで操作可能となる。さらにFR-BALモードでは、サラウンド・サウンドを利用している際、選択したチャンネルのサラウンドパンを前後のバランスをとることが可能となり、VIDEO CTRLモードでは、EDIROL DV-7DLなどと接続した際のコントロールが可能となる。

 ちなみにACTはSONAR独自の非常に優れた便利な機能だが、これはTバーだけでなく、前述のチャンネル・ストリップ・コントロール・セクションにおいてもACTボタンを押すと、各パラメータをACT用として割り振り、ソフトシンセやエフェクトなどをコントロール可能となる。またACTの割り当てはSONAR上のユーティリティ画面で設定可能となっている。

Tバー・セクション ACTの割り当てはSONAR上のユーティリティ画面で設定可能

ハードウェアシンセの「Fantom VS」

 ところで、SONAR V-STUDIO 700にはFantom VSというハードウェアシンセサイザが搭載されているが、これはどのように利用するのだろうか? Fantom VS自体はVS-700R内に実装されているのだが、SONARからはプラグインのソフトシンセのように見えるようになっている。実際、シンセラックを起動し、ソフトシンセの一覧を見ると、ここにFantom VSが入っている。

 そしてこれを選択すれば、一般のソフトシンセと同様の操作で音を出すことができるのだ。パラメータの設定画面はいろいろ用意されているので、音作りは自由自在。そして、何より嬉しいのはFantom VSがハードウェアの音源であるため、どれだけ負荷をかけた使い方をしても、PCのCPUパワーは消費されないため、軽快な動作環境が保証されるということ。もちろんレイテンシーを気にする必要がないことは言うまでもない。

パラメータの設定画面はいろいろ用意されているので、音作りは自由自在

ソフトシンセの「Rapture」も搭載

 面白いのはSONAR V-STUDIO 700にはFantom VSと同時に、ソフトシンセのRaptureも搭載されていること。これはFantom VSとは大きく異なる音源で、非常に自由度が高いシンセサイザ。かなりマニアックな音作りも可能なので、自分だけのオリジナル音色を作りたいという要望には存分に応えてくる。もちろん、Fantom VSと同時に使用することもできるので、用途に合わせて選んで使ってみるといいだろう。

 今回実際にV-STUDIOを使って、自分でレコーディングしてみたが、VS-700Cの操作性は抜群で、非常に気持ちよく使うことができた。これに慣れてしまうと、元のマウス操作が面倒に感じてしまいそうで、怖いほどだ。

 一方で、VS-700Rのほうは、やはり個人のDTMユーザーにはオーバースペック。部屋にバンドメンバーを呼んで、それぞれパラで接続して同時レコーディングをするというのであればともかく、通常はこれほど多くの入出力を使うことはなさそうだ。とはいえ、2Uのラックマウントに収まってしまい、使い勝手的には非常にいいし、使った感じでの音質も抜群だから、必要なポートだけを利用していればいいのかもしれない。確かに、個人用の機材としては大きいが、業務用と考えれば結構コンパクトといえるかもしれない。

 冒頭でも紹介したとおり、接続は非常に簡単だから、スタジオやライブ会場などに持って行ってセッティングするのも楽そうだ。画面を見なくても、ほとんどの操作ができてしまうだけに、それこそ、そこそこのパワーを持ったノートPCとの組み合わせでのモバイル使用というのにも向いているかもしれない。


■ VS-700Rのアナログ性能をチェック

 最後に、オーディオインターフェイスであるVS-700Rのアナログ性能チェックを、いつものようにRMAA Proを用いて行なってみた。

 今回は、アナログ入出力のそれぞれ1chと2chをバランス接続で直結した上で、ASIOドライバを用いてテストを行なった。サンプリングデプスを24bitとした上で、各サンプリングレートで試してみたが、なぜかRMAA ProでASIOの192kHzをうまく認識することができなかったため、44.1kHz~96kHzまでの4つのモードでテストした。


【RMAA Proの測定結果】
44.1kHz 48kHz 88kHz 96kHz

 結果を見ても分かるとおり、抜群の成績といえるだろう。マイク・プリアンプの性能もとてもいいのでこれを利用することをお勧めするが、普段使用しているマイク・プリアンプを使いたいというのであれば、内蔵のものをオフにして使ってもいいだろう。いずれにしても、機材としての性能は間違いない。業務用としてもいろいろな使い方ができそうだが、どんな広がり方をするのか注目していきたい。



□ローランドのホームページ
http://www.roland.co.jp/
□Cakewalkのホームページ
http://www.cakewalk.jp/
□製品情報
http://www.cakewalk.jp/Products/VSTUDIO700/
□関連記事
【2008年12月15日】【DAL】オーディオエンジンを改良したCakewalkのDAW「SONAR 8」
~ 動作が軽く、使い勝手も向上。プラグインも充実 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20081215/dal352.htm
【2008年10月6日】【DAL】戦略価格のDAW、Roland「SONAR V-STUDIO 700」
~ 「ProToolsからのリプレイスを狙う」意欲作 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20081006/dal344.htm


(2009年2月16日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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