小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。金曜ランチビッフェの購読はこちら(協力:夜間飛行)

ピコ太郎で考えた「シェアの理解が世代のわかれ目」説

今日ソーシャルメディアの上で、こんな記事が話題になっていた。

・ピコ太郎 関連動画で潤う

この記事が説明しているのは、動画ビジネスにおける「コンテンツID」の活用の現状だ。著作物を認定し、誰がアップロードしたものであろうとも、そのコンテンツの正当な権利者へと価値(この場合には広告から生じる収益の還元)を戻そう、という仕組みであり、2007年にこの仕組みが生まれて以降、動画(特に音楽)のビジネスは大きく変わった。「シェアされること=コンテンツが広まることではあるが、盗まれたコンテンツも同時に広がること」であったものが、「シェアされること=若干ではあってもコンテンツに収益が回ること」に変わっていったからだ。今でもプロモーションが軸であることには変わりないのだが、YouTubeのような場所にコンテンツを出すことが、「販売ではないコンテンツビジネスの形」という認識になり、それに合わせたコンテンツの作り方・出し方が広がってきている。

その辺の変化はまた改めてしっかり解説しようと思うのだが、このような現象から、以下のようなことも考えたのだ。

「ネットでシェアされることで収益が上がる」モデルは、別に「パッケージ化されたものを売って収益を得る」ことの下部構造ではない。だが、「シェアで広がる経済活動」がピンとこない人々もいるようなのだ。

そういう人々は、自分でソーシャルメディアを使っていても、見るだけでシェアすることはほとんどない。シェアすることで認知を広げ、収益につなげるよりも、従来型の広告モデルの方が信頼できて、周知しやすい、と考える。というよりも、シェアによる認知が「コスト(労力と置き換えてもいい)をかけるに値する効果のあるもの」ということがピンとこないようなのである。

ここに世代の断絶がある。

21世紀になって15年が過ぎ、ネットワークのない生活など考えられなくなった。だが、人が暮らす上で重要なことは意外なほど変わっていない。食べるにも何かの欲を満たすにも「流通させて手元に届く」形にしないといけない。いわゆる「商売」だ。コンテンツがオンライン化したといっても、物理的な「モノ」が無価値になっているかというと、そうではない。人の体が変わらない以上、全てがネットの上で完結するようにはならないわけで、「意外と人の生活は変わっていない」という言い方もできるだろう。

だが、自分が興味をもったり、手に入れたいと思う元になる「情報の流通」は大きく変わった。店舗やマスメディア的な広告が主軸かというと、そうでもなくなっているのは、皆さんもよくおわかりかと思う。その過程における「シェア」の価値は非常に高い。

シェアは広告に役立つ「回転の早い口コミ」だった時代を経て、ビジネスのサイクルの中に組み込まれ始めている。冒頭で出てきた「コンテンツID」の話は、その一例だ。ビジネスを考えるにも、何かを自分で楽しむにも、「シェアすることはポジティブな効果がある」「シェアすることがポジティブな効果を生むようにビジネス設計をする」ことが重要になっている。

でも、それがわからない人もいる。これは別に年齢で別れる話ではない。たしかに、若い人ほど肌感覚でそのへんをわかっているが、歳だからわからないとか、若いからわかっている、ということでもないようだ。「デジタルネイティブ」「ネットネイティブ」という言われ方もあるが、どこか自分の中では、「シェアを理解しているか否か」、なんとなくだが、スマートフォン・ソーシャルメディア以降に加速した「シェア型エコノミー」を受け入れられているかそうでないかに、分水嶺があるのではないか、と思うのだ。

いわゆる「オールドメディア」は批判されることが多いが、その根っこにあるのは「シェアに対する理解の不足」なのではないか、と考える。要はピコ太郎を見て、ネタが面白いかどうかと同じように「ああ、そんなにシェアされたんだ」ということの価値を理解できるかどうか、という話だ。「CD売上1位」と「YouTubeでの視聴が4億回突破」ではどちらが上か、をスッと理解できれば、「こちら側」という話でもある。

そういう意味では、シェア回数を指針に入れるビルボードはとてもよく「わかっている」ところで、そうでないオリコンは「まだわかってない」ということなのだろう。

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。

コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

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2016年11月11日 Vol.104 <ポッキーの日記念平常運転号> 目次
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01 論壇【小寺】
 【永久保存版】ちょこっと昼寝したいときに使えるワザ5選
02 余談【西田】
 ピコ太郎で考えた「シェアの理解が世代のわかれ目」説
03 対談【西田】
 クエリーアイ・水野CEOに聞く「人工知能が本を書く時代」(6)
04 過去記事【小寺】
 本気なの? 総務省がぶち上げるSIMロックフリー化
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41