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“マッハ36”ヘッドフォンを聴いてみた。マクセル10年ぶりの新作「MXH-MD5000」

 “マッハ36”という高い音伝導性を誇る、ベリリウムコート振動板を採用した日立マクセルのハイレゾ対応ヘッドフォン「MXH-MD5000」が6月10日に発売される。価格はオープンプライス、店頭予想価格は39,800円前後。その発売を前に、マスコミ向けの試聴会が開催。実際に“マッハ36サウンド”を体験した。

ハイレゾ対応ヘッドフォン「MXH-MD5000」

世界初のベリリウムコート振動板採用のヘッドフォン

 詳細は既報の通りだが、密閉ダイナミック型のヘッドフォンで、45mmドライバを搭載している。

 ユニットの振動板において、高域を伸ばすためには音の伝搬速度向上させる必要がある。同時に、振動する際に変形すると分割振動が発生、音が濁るため、そうならないための“硬さ”も求められる。

 また、振動板を素早く動かすための“軽さ”、振動板固有の音が少ない、色付けの無い音を出すための“高い内部損失”といった要素も求められる。日立マクセルでは、こうした条件を満たす振動板として、ベリリウムコート振動板を採用した。

 ライフソリューション事業部 マーケティング事業部の河原健介副主幹は、ベリリウムの物性を、チタンやアルミ、ダイヤモンドといった他の素材と“速さ”、“硬さ”、“比重”で比較。そのいずれでも、優れた数値を示している事を紹介。

ライフソリューション事業部 マーケティング事業部の河原健介副主幹

 特に音伝導性は毎秒12,302mと、音速(340m/s)の約36倍、つまりマッハ36を誇る。この振動板の特性を活かすために、軽量なCCAWボイスコイルと組みあわせることで、レスポンスの良い、繊細な表現や、深みのある低域再生を可能にしたという。

ベリリウムの音伝導性は毎秒12,302mと、音速(340m/s)の約36倍
振動板にベリリウムコートを施している

 ベリリウムはJBLやTADといった数百万円するハイエンドスピーカーや、一部のイヤフォンに使われた事があるが、ヘッドフォンでの採用は「我々が調べる限り、世界初」だという。

 なお、ベリリウムには毒性もあるが、ヘッドフォンへの採用にあたっては、「(そうした問題に対応するため)密閉性を高めるなどの工夫を行なっている」という。

内部構造

実はバランス駆動にも対応

 ハウジングにも特徴があり、マクセル独自のデュアルチャンバー構造を採用。2つの空気層を持っており、音場再生能力を高めている。再生周波数帯域は20Hz~40kHzでハイレゾに対応。音圧感度は96dB/mW、インピーダンスは32Ω。最大入力は1,600mWだ。

スピン仕上げのハウジング
内部にはデュアルチャンバー構造を採用

 河原副主幹は、マクセルがイヤフォンで長年デュアルチャンバーに取り組んできた事を紹介。「我々が得意とする技術で、カナル型イヤフォンで培ったノウハウを活かす事ができた」という。

 ケーブルは着脱可能で、片出しタイプ。1.2mと3m、2本のケーブルが付属する。ヘッドフォン側の接続端子は3.5mm。ねじ込み式となっている。

 なお、河原氏によれば、付属のケーブルはどちらもアンバランス接続タイプだが、ヘッドフォン側に3.5mm 4極のケーブルを接続すれば、バランス駆動が可能だという。日立マクセルが、対応するバランス駆動用ケーブルを発売するかどうかは「現在検討中」とのことだ。

ケーブルは着脱可能で、バランス駆動にも対応できる

音を聴いてみる

 落ち着いたブラックカラーで、見た目からは“重そう”な印象を受けるのだが、実際に手にすると約260g(ケーブル除く)と非常に軽い。

 イヤーパッドは耳を包み込むタイプで、低反発素材を採用。立体縫製になっており、しっかりと耳のまわりを覆ってくれる。側圧は強すぎず、弱すぎず。本体が軽いので、長時間利用での負担は少ないだろう。パッドやハウジングは比較的薄いので、装着した感覚はモニターヘッドフォンに似ている。

 ハイレゾプレーヤーの「AK380 Copper」と接続。「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」(96kHz/24bit)を再生してみる。

 “ベリリウム”や“金属コート”と言われると、キンキンした硬い音を想像するが、実際に聴いてみると、金属質な響きはさほどなく、クリアな音だ。

 ハイスピードさはトランジェントに現れており、冒頭のギターの弦の動きの立ち上がり、立ち下がりが極めて明瞭。細かな音が微細に描写され、かつ、音と音の間の空間もわかるほど分解能が高い。それでいてエッジを無理に強調させたようなキツさはない。個々の音がハイスピードであるため、結果的に細かな音が明瞭に聴こえるという印象だ。

 高域が細かい音だと、全体の音がキツイ描写になりがちだ。だが、MXH-MD5000の場合は中低域が肉厚で、ゆったりとした重心の低さも兼ね備えているので、腰高な印象は無い。

 この芳醇な中低域は、デュアルチャンバーによるものだろう。「イーグルス/ホテルカリフォルニア」冒頭の音圧も豊かで、ベースの迫力もしっかりと出ている。

 肉厚で芳醇な低音+ハイスピードな高音という面で、ダイナミック型ユニットとバランスドアーマチュアユニットを組み合わせた、ハイブリッドイヤフォンの音を連想すると、近いものがある。ただ、低域も肉厚に膨らむだけでなく、ベリリウムコート振動板ならではの描写の細かさが低域にも貫かれている。決してモタモタした低音ではなく、ハイスピードさもある。

 全体として、ハイレゾの情報量を聴き取りやすい、よく出来たヘッドフォンだ。分解能の高さは約4万円の密閉型ヘッドフォンとは思えず、10万円を超えるハイエンド製品と戦えるクオリティだ。

 個人的な好みとしては、高域がやや硬いと感じる。女性ヴォーカルなどが、むき出しに細かく描写され過ぎで、もう少し穏やかさというか、質感も感じさせて欲しいと感じる。確認したところ、試聴機はほとんどエージングしていないとのことなので、鳴らしこんでいけば、このあたりは変化していきそうだ。

 まるでズバッと切り込むような、切れ味鋭い描写が“マッハ36”ヘッドフォンの持ち味と言えそうだ。

今後はヘッドフォンラインナップ拡充も

 同社は近年イヤフォンに注力しており、ヘッドフォンとしてはMXH-MD5000が10年ぶりの新製品となる。マーケティング事業部の沢辺祐二課長は、ヘッドフォンを再び手がけた理由として、「やはり音響ブランドとして市場での認知や価値を高めるためには、ヘッドフォンのラインナップは必要だと考えた。同時に、良い音で聴く、その感動を伝えたいという思いで作ったモデル」だという。

マーケティング事業部の沢辺祐二課長

 前述のとおり、振動板にベリリウムコーティングを施したのが最大の特徴だが、MXH-MD5000という型番の“MD”には「メタルダイヤフラム」という意味が込められているとのこと。河原氏は、「今後も、メタルダイヤフラムの商品ラインナップを拡充していきたい」と、ヘッドフォンのラインナップ拡充にも意欲を見せた。

6月11日には、e☆イヤホン 秋葉原店で店頭試聴会も行なわれる