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パナソニック、下期にシニア向けプレミアム家電投入。株主総会で売上10兆円への施策説明

株主総会の会場の様子

 パナソニックは、2014年6月26日午前10時から、大阪市中央区の大阪城ホールにおいて第107回定時株主総会を開催した。

 会場には5,161人と、前年の4,508人を上回る株主が出席。併せて東京、名古屋の株主のためにハイビジョンブロードバンド中継も行ない、東京では621人(前年459人)が、名古屋では640人(前年580人)が出席した。

株主総会が開催された大阪城ホール
会場には5,161人の株主が訪れた

下期にシニア向けプレミアム家電を投入。'18年度は売上高10兆円規模へ

議長を務めたパナソニックの津賀一宏社長

 議長を務めたパナソニックの津賀一宏社長は開会宣言のあと、ビデオを通じて、2013年度の業績について説明。住宅関連事業や車載関連事業が好調であったことで増収。赤字事業の収益改善や、全社をあげた固定費削減および材料合理化の取り組みなどが寄与し、当期純利益は8,747億円改善して1,204億円の黒字となり、2期連続の大幅な最終赤字から、黒字転換したことなどを示した。

 セグメント別の業績説明では、テレビ事業に関しては、米国、中国における商品の絞り込みなど利益優先の施策を実施した結果、売上高が減少。PC事業は欧州や国内で法人向けノートPCの売り上げが伸張。円安効果もプラスに働いたとした。だが、テレビ事業を含むAVCネットワークスセグメント全体ではプラズマパネルおよびプラズマテレビ事業の撤退、コンシューマ向けスマートフォンの撤退もあり、減収となった。また、アプライアンス事業は、海外でのエアコンが苦戦する一方で、国内では消費増税前の駆け込み需要が発生したほか、円安の効果もあり、全体では増収になったことを説明した。

連結売上高
営業利益
当期純利益
AVCネットワークス
テレビ事業の取り組み

 対処すべき課題および今後の取り組みについては、津賀社長が直接説明した。

 「2013年度は、2年連続の大幅な赤字から黒字転換し、復配を実現できた」と前置きし、「2014年度は、中期経営計画であるCross-Value Innovation 2015(CV2015)の2年目として、CV2015達成への基盤を固める年であり、事業部基軸の経営により、事業構造改革を完遂すると同時に、各事業部の営業利益率5%以上の達成に向けた変革を加速し、中期経営計画達成の道筋をつける。そして、2018年度には、お客様ひとりひとりに『a Better life,a Better World』を実現する新しいパナソニックに向けた成長戦略を仕込む年と位置づけ、これまでの取り組みをさらに進化させる」とした。

新中期経営計画
2018年度に目指す売上構成

 また、「2013年度は、主要な赤字事業の撲滅に取り組んだが、2014年度は強い事業体の実現に取り組む。私は30を超える事業部を訪問し、社員と直接対話するなかで、社員に活力が出てきたと感じている。事業は変化し、進化し続けなくてはならない。そのなかで、ひとつひとつの事業の将来性を見極めていく必要があり、2014年度は43事業部でスタートした。事業部は、成長性についても強く意識して取り組んでいくことになり、2018年度は10兆円規模の売上高を目指すことになる」と述べた。

 家電事業については「当社のDNAの事業であるが、ここ数年売上高が減少してきた。そこで、AVC社の家電事業を統合し、アプライアンス社が持つ生活研究による現地生活への適応力と、AVC社のグローバル推進力を生かすことで、感動や驚きを提供する商品を提供するとともに、さらに今年度下期にはシニア向けのプレミアム家電商品を投入する」と語った。

アプライアンス
家電事業を一元化

 住宅関連事業は「国内のリフォーム市場拡大に向けて、国内61カ所のショールームをリフォーム対応とし、顧客接点を強化。8年ぶりに一新した建材商品のVERITISの投入を行なった。また、車載ではクルマの電子化、電動化に取り組み、BtoBソリューションでは、アビオニクス事業のような開発、製造、販売が一体となってお客様に向き合う事業を、新たに2、3個つくる。コールドチェーンによる食品、流通業界向けなどがその取り組みのひとつになってくる。さらに、BtoBソリューションでは、オリンピックおよびパラリンピックへの貢献も含まれる。新たに東京オリンピック推進本部を設置し、企業として国家事業に貢献していく。デバイスでは、小型化、集積化、モジュール化、システム化が求められる産業分野を重点的に攻略する」と述べた。

エコソリューションズ

 さらに、「2018年度の売上高10兆円規模の実現に向けて、新たな地域軸からの逆算といった視点を加え、家電事業、住宅関連事業、車載事業、BtoBソリューション事業、デバイス事業という5つの事業軸に、日本、中南米を含めた欧米、アジア・中国・中東・アフリカからなる海外戦略地域の3つの地域軸を掛け合わせ、どの領域に経営資源を集中していくのかを明確にした上で成長戦略を描く。とくに海外戦略地域では脱・日本依存を行ない、インドのデリーに副社長を駐在させる。この地域での攻略なくして、将来のパナソニックの成長はないという気持ちで取り組む。さらに、2015年4月を目標にAPアジアを設置する。ここには開発、生産、販売の機能を持たせ、事業の迅速化、地域に最適化した取り組みを行なう」と説明した。

2014年度の位置付け
2014年度経営目標
事業構造改革の完遂へ

安定成長を目指し「悔しい思いを繰り返さない」

 午前10時45分過ぎから、株主の質問を受け付けた。

 シ二ア向けのプレミアムブランド製品の詳細については、高見和徳専務取締役が回答。「すでにプチサイクロン掃除機という小型製品を投入。操作パネルを後ろに持って行き、前を大きく広げた縦型洗濯機も5月に発売した。シニア向けのプレミアムブランドの商品は、2年前から準備をしているものであり、パナソニックOBの声も聞き、白物家電を中心に開発している。今年10月以降に、冷蔵庫から発売を考えている。来年に向けて、多くのシニアにも使ってもらえる商品を投入する」と述べた。

 パナソニックが掲げるCross-Valueのメリットがわからないという点については、「事業部制に戻る上で、事業部間の連携が進まないという懸念や、BtoBを強化する上で、事業部を超え、地域を超え、さらには社内を超えた社外パートナーと連携することが重要である。その姿勢を表に出せば、大きな成長やお役立ちができると考えている。パナホームとエコソリューションズとの連携で新たな家が提案できたり、AVCネットワークスとオートモーティブとの連携により、自動車関連事業の受注が増えてきたといった点では、手応えを感じているが、単年度業績としては見えにくい。長い目で見てほしい」と説明した。

オートモーティブインダストリアルシステムズ

 また、リストラによってパナソニックには優秀な社員が残っていないのではないかという質問に対しては、津賀社長が回答。「多くの優秀な社員が残っている。チームワークよく、方向性をみて、顧客視点で取り組めば、成長できると考えている」とした。

 特許の出願が利益に還元されていないとの指摘については、吉田守常務取締役が回答し、「知財は重要な戦略であり、出願件数では、業界でも有数の立場にある。知財が強みにつながるように取り組んでおり、Cross-Valueとして、社内に蓄積した技術を、部門を超えてお互いに活用することで差別化につなげる」とした。

 海外戦略に関しては、山田喜彦副社長が回答。「海外戦略地域の多くは、1960年代~70年代前半の日本の所得水準であり、今後大きく飛躍する可能性がある。ローカルに根づいた商品企画を行ない、事業を立ち上げていく」と回答。「手遅れであるとか、遅すぎるといったことは感じていない」と津賀社長が補足した。

 中国市場の成長戦略に対するリスクについては、「様々な中国リスクがあることは認識しているが、消費市場として考えると、購買力は持続的に向上しており、規模と成長性において極めて重要な市場である。パナソニックは、中国での事業開始以来、今年は35年目に当たる。製造拠点の統合を図り、リスクを踏まえた事業展開を行なう」と佐藤基嗣役員が回答した。

5つの事業領域と3つの地域
海外戦略地域で目指す姿
APアジアを設立

 また、大阪税務局からの税務申告漏れについては、河井英明専務取締役が回答。「海外取引における税務調査を受けて海外子会社に対する100億円の取引について否認を受けた。当局との意見の相違があったが、指摘に応じて対応した。今後このようなことが発生しないように関係部門に周知徹底し、4月にグローバルな税務戦略室を設置した」とした。

 公募増資の可能性については、河井専務取締役が「1株あたりの価値をあげることが優先であり、成長戦略に資すること、株主が納得する場合に行なう」として否定。津賀社長も「公募増資の件は一部で報道されたが、ガセといえばガセ」と語った。

東京オリンピック推進本部を設置

 オリンピックの最上位パートナー契約が業績には貢献していないのではないかとの指摘については、竹安聡役員が、「グローバルにおいて五輪マークを活用したPR活動を行なえ、最大のPR効果があると考えている。見栄や意地でやっているわけではない。1988年からTOPスポンサーとして、放送機器や映像装置の性能および技術力のアピールを行なってきた。そうした効果も狙っている。契約金額については、IOCとの取り決めで開示できない」と回答した。

 女性役員がいないという女性株主からの質問に対しては、石井純常務役員が回答し、「女性の能力を重要な戦力と考えている。女性の感性が生きる白物家電のマーケティング、商品開発で活用したり、海外戦略地域の事業においても、社内公募によって、複数の女性社員がインドで新たなチャレンジに取り組んでいる。いま女性の管理職は350人いる。また、主事の女性比率は7.8%となっている。今後、女性の力をパナソニックの成長の起爆剤にしたい」としたほか、津賀社長が、「女性役員は積極的に登用したいと考えているが、時間がかかる部分もある。日本の社会では、まだ女性役員候補が続々と出てくる環境ではないと認識している。ただ、パナソニックの海外拠点においては、多くの女性幹部が活躍している。社外取締役である大田弘子氏に、意見を伺い、様々な知恵を集めて、議論を進めている」と回答した。

 パナソニックの説明には横文字が多すぎるという質問については、津賀社長が、「お客様視点は大事にしなくてはならない。お客様にとってわかりやすい言葉を使っていくことが大切である。日本、欧米、戦略地域の状況をみて、どの言葉を使うのが適切なのかを考えながら、その国の言葉に置き換えていくこともやっている。日本のお客様に向けてもわかりにくさがないようにしていくが、グローバルに事業を展開するなかで、事業の名称も、日本語でいいのか、それとも海外の方々にもわかりやすい方がいいのかを考えながら使っていく。しかし、お客様にわかってもらえないのでは本末転倒。意見を参考にして、お客様に納得してもらえるようにしたい」と述べた。

津賀社長

 さらに、2年連続の大幅赤字のような状況に再度陥る懸念や、ガバナンスを効かせるために取締役会の半分以上を社外取締役にするという提案、赤字とした大坪文雄前会長の給与の返還を求める株主の提案については、津賀社長が回答。「2年連続の大幅に赤字となったことで、我々は悔しい思いをした。これを繰り返さないということに向けて、一致団結して取り組んできた。意思決定や議論の仕方を変え、社長が独走できないようにし、衆知を集めた形で経営を行なっている。とはいえ、かつての経営も、社長ひとりが暴走したのではない。しかし、大きな赤字になった事実は消しようがない。その事実を捉え、なぜこうしたことに陥ったのかを紐解くことが必要であり、事業を絶えず新たな形に直していくこと、深いところだけに陥らずに、安定的な成長、安定的な収益性を目指すように取り組んでいく。心配いただかなくても成長していくことができる。また、取締役会の半分以上を社外取締役にするという点、大坪文雄前会長の給与の返還は、必要だとは思っていない」と回答した。

 なお、第1号議案の取締役17名選任の件、第2号議案の監査役2名選任の件、第3号議案の取締役の報酬額改定の件はいずれも可決され、12時7分に閉会した。株主総会の時間は、昨年および一昨年の121分を上回り、127分と過去最長になった。

(大河原 克行)