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渡辺香津美が語る、新作「ギター・イズ・ビューティフル」96/24収録の舞台裏
(2016/4/15 14:39)
今年でギター生活45周年を迎えるギタリスト・渡辺香津美の2年ぶりとなる新作「ギター・イズ・ビューティフル KW45」。ハイレゾ音楽配信サービス「e-onkyo music」での配信開始を記念した試聴会&ミニライブイベントが、4月14日に東京・八重洲のGibson Brands Showroom Tokyoで行なわれた。
「ギター・イズ・ビューティフル KW45」には、渡辺氏を敬愛する世界トップのギタリストや、次代の若手ギタリストらが参加。デビュー後の'70年代からの盟友、リー・リトナー、マイク・スターンをはじめ、Char、押尾コータロー、SUGIZO、伊藤ゴロー、生形真一、三浦拓也、沖仁、高田漣、井上銘が名を連ねる。いずれの楽曲もギターアンサンブルの最小フォーマットであるデュオをテーマとし、ヴィンテージギターコレクションも使用されているのが特徴。収録はPCM 96kHz/24bitで行なわれ、マスタリングはソニー・ミュージックスタジオのレコーディング・エンジニア、鈴木浩二氏が手がけている。e-onkyo musicではFLAC 96kHz/24bitで配信され、価格は2,571円(税込)。
試聴に先立ち、渡辺香津美氏はアルバム制作のコンセプトを説明。「プライベートスタジオに呼んでギターデュオで録るのが最初のコンセプトで、基本的に録音は自分でやった。(ソニーの鈴木氏には)仕上げをきれいにやっていただいた。基本的に私のわがままでできている(笑)」。参加したアーティストについては「(選ぶときに)条件を決めました。おととし還暦を迎えて今年62だが、自分より年上は入れない、理由はないけど(笑)」。今年でギタリスト45周年という節目を迎えるが、ギターデビューのきっかけは「高校時代のライブハウス出演で初めてギャラというかたちでもらった茶封筒に目がくらんだ」と明かし、会場の笑いを誘った。
基本的な収録スタイルは「隣り合う距離感で生ギターを録っちゃうホームメードな感じ」だったという。「間違えたからといってそこだけ録り直しは出来ないのでいい緊張感があった。それでもいいよという人がやってくれた。この数年で出会った、世代、ジャンルを超えたミュージシャンと、この機会に新しい気持ちで作って行こうと考えていた」。
ハイレゾでの楽曲収録など、音へのこだわりについても「ミュージシャンとして、現場で鳴っているリアルな音を聴いてもらえたらと思っている。音楽のスタイルによっては必ずしも生音がいいわけではないこともあるが、アコースティック作品は楽器の音のきらびやかさとか演奏者の指のニュアンスとかが出るといいなと思っている。こわいですけどね(笑)」。
マスタリングを手がけた鈴木氏は、渡辺氏のイーストワークス時代の作品がリマスターしてハイレゾ配信されていることに触れ、「(渡辺氏の旧作である)ギター・ルネッサンスシリーズは、(オリジナルは)DSD方式で音の響きや空気感を良いシステムで録ったもので、当時はSACD用に作っていた。最近はユーザーのハイレゾを聴く環境が整って、ある意味気軽に聴いてもらえるようになってきた。SACDのためにやってきたことが日の目を見るようになって、多くの人に聴いてもらえるのはありがたい」と話した。
アルバムから7曲を試聴。収録時のエピソードなど披露
アルバムの中から7曲を試聴。「ザ・カーブ・オブ・ライフ」から「アイランド・ホップ」まで、各曲の収録時のエピソードや、デュオで使用した機材などを、渡辺氏と鈴木氏が解説した。
ザ・カーブ・オブ・ライフ
渡辺氏「生形真一くんが曲のコンセプト決めのときに、彼の中の渡辺香津美イメージで曲を作ってくれて、それをベーシックにやっていこうと。彼はギブソンのES-355の使い手なんだけれども、今回はアコギでやりたいということでギブソンのハミングバードを持ってきて、じゃあそれでやろうと。僕は70年代後半から使っていたOvation Super Adamasを持ち出しました」
鈴木氏「寄り添う距離感の定位の中で一体感のあるサウンド。会話のようでいてバトルのような(曲調に)波のある曲で、それにふさわしいサウンド調整を施した。伸びのあるリバーブをちょっと使って、生々しさを出している。(渡辺さんの)録音技術の腕が上がっているので僕の仕事が危うかったりもしますけど(笑)、いろいろマイクを購入されて使ったり、属性を熟知されてきていて。僕はそれをうまく整える感じですね」
フラメンコ・ブルー
渡辺氏「沖仁くんとはツアー行ったりコンサートもよくやってる。彼とやるにあたって全く違うテイストをということで、(渡辺氏のパートナーである)谷川公子さんが作曲してくれた。伝統的でオーセンティックなフラメンコのリズムで、彼はヤマハのフラメンコギター、僕はポール・リード・スミスのModern Eagleでフュージョンサウンドでコラボしている。沖くんは生ギターなんだけどこちらはエレキなので、スッピンの音をシミュレートで出して沖くんに聴いてもらいながら録りました。やってるふたりは緊張感あるんだけど、はたから見るとなんだこいつらという感じですね(笑)」
鈴木氏「音楽的なバランスは二人の中で出来ているので、エネルギーバランスをうまく合わせるところをやりました。音色と音量感をあわせる苦労を経て語り合うニュアンスを出している」
ラウンド・ミッドナイト
渡辺氏「生方くんの場合もそうなんだけど、ムックや雑誌の対談で彼らに指名されて。僕に注目しているということがきっかけでコミュニケートできるようになって参加してもらった。この曲はSUGIZOくんとやったもので、彼はジャズに詳しくてジャズギターも大好き。ふたりともエレキで、狭いスタジオにアンプを積み上げて爆音でやっていた。僕は70年代に使っていたALEMBICのエレキで、SUGIZOくんはシグネチャーのP-90ストラトタイプ。このときはスタジオがエフェクタで足の踏み場もなくなっていた。ただ爆音なだけでなく、ミステリアスな繊細感な空間も表現して、ありとあらゆるエレキの悪魔的要素がつまってる」
鈴木氏「いい意味で音の漏れ具合、溶け具合や一体感がちゃんとあって、分離しちゃうと気持ちが伝わらなくなるのが難しかった」
丘の上
渡辺氏「高田漣ちゃんは父の渡さんの形見、ヤマハのカスタムアコースティックギターを使っていた。12フレット以降はフレットが打ってない特別なものです。この曲は昔芝居のためにつくった曲で、彼に歌詞をつけてもらった。僕は昔ニューヨークで買ってきたレスポールスペシャル。ヘッドフォン越しは嫌で、香津美さんの生ギターで歌いながら弾きたい、ということで、アンプから生ギターのボリュームで出しながら録った」
鈴木氏「ボーカル曲が来るとは思ってなかったのでびっくり(笑)。マスタリング的には、アルバムには1曲めがどの曲で始まって、どれで終えるかという物語を考えていて、最近は通しの作品はなくなってきていて残念ですけども、2曲め3曲めでメリハリをつけるといったことを考える。今回のギターアルバムの中で1曲だけボーカルというのは、音量バランスをとるのが難しくて苦労した。(途中までギターメインで、この曲だけ)ギターの音が急に下がると違和感があるので、ボーカルの音は大きくないけど歌詞が伝わるように、ニュアンスを伝えることを大事に音量バランスを取っています」
ボレロ
渡辺氏「押尾コータローさんとのある地方のライブが終わった翌日に、鈴木さんに来てもらって録った。僕はMartinのギターで彼はGrevenのギターだったかな。(メロディが)妖しげな世界ですね(笑)。やればやるほど妖しい感じになって、そのなかで一番妖しいものを入れた」
鈴木氏「オフマイクを立てて録ったもの。これはほとんど苦労なくスムーズでした」
リップル・リング
渡辺氏「リー・リトナーが日本ツアーに来ていて、帰国する前につかまえて都内のソニーのスタジオで録った作品。鈴木さんの本拠地が関わってるので超安心(笑)」
鈴木氏「演奏はアコギ2台で、ナイロン弦とスチール弦の違いがある。掛け合いの部分などお互いの個性を出しながらミックスした。2大巨頭が並ぶということで、スタジオでは皆、内心緊張していた」
アイランド・ホップ
渡辺氏「(マイルス・デイビス・グループの一員でもあったパーカッショニストの)ミノ・シネルとのセッション素材をベーシックに、今回参加してくれたアーティスト全員に、16小節の短いソロを個別にもらった。それをギタージャンボリーのような感じでまとめた。鈴木さんの技があってこそだと思う」
来場者からの質問では、かつて渡辺氏がイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)のライブツアーでギタリストを務めたときの音源が、レコード会社との契約の都合でライブアルバムに収録されなかったというエピソードについて「30年もの間もんもんとしていたが本当なのだろうか」というファンならではの問いかけも。渡辺氏は「話せば長くなる」と笑いを誘ったあと、「当時はいろいろあったが、だいぶたってから担当の人とたまたま顔を合わせた時に『今度、フェイカー・ホリック('91年発売)に収録されて出るよ』と聞いた。その節はいろいろご迷惑をおかけしました」と話した。
イベントの終盤では、用意されたギターを手に、約15分ほどのミニライブを実施。来場者たちは、時に優しく、時に情熱的なリズムで弦をかき鳴らす渡辺氏の姿を間近で見ながら演奏を楽しんでいた。
e-onkyoで購入
渡辺香津美/ギター・イズ・ビューティフル