大河原克行のデジタル家電 -最前線-
パナソニックのブルーレイディスク製造拠点津山工場を見る
生産技術をブラックボックス化し、多層構造で先行
(2014/9/1 00:00)
パナソニックで、ブルーレイディスクやDVDディスクの製造を行なっているのが、AVCネットワークス社ストレージ事業部 津山工場だ。1979年にVHSビデオテープの生産拠点としてスタート。その後、メディアの変遷とともに、DVCカセットテープ、DVDディスクの生産を開始。2006年にはブルーレイディスクの生産を開始し、2013年からは、新たに3層のアーカイブ用途向けのブルーレイディスクの生産も開始している。このほど、パナソニックの津山工場を取材する機会を得た。ブルーレイディスクの生産工程を追ってみる。
JR岡山駅から津山線の快速ことぶきに乗って約1時間20分。終着駅となる津山駅を降りて、そこから車で約20分間。草加部工業団地のなかに、パナソニック AVCネットワークス社ストレージ事業部津山工場がある。
敷地面積は13万6146平方メートル。建屋延床面積は6万2852平方メートル。約380人が勤務する。
操業は1979年。当初はVHSビデオテープの生産でスタート。その後、一貫してメディア生産を行なう拠点としての役割を担っている。
創業者である松下幸之助氏も足を運び、その際の記念植樹がいまでも残されている。現社長の津賀一宏氏も、R&D部門を担当していたときに津山工場を訪れ、ブルーレイディスクの生産開始直前に、量産化に向けたアドバイスを行なった経緯がある。津賀社長は、近々、社長に就任して初めて津山工場を訪れる予定だという。
また、1995年からはDVCカセットテープの生産を開始。「テープの製造においては、工程上、長い生産設備が必要。そのため、生産棟も長い構造になっているのが特徴。見学の際にもたくさんの距離を歩いていただくことになる」と、津山工場・茂木章弘工場長は笑顔を見せながら説明する。
生産ノウハウはブラックボックス化。BDからアーカイバルディスクへ
2001年からはDVD-RAMカートリッジの生産を開始。さらに、同年にはDVD-RAMディスクの生産を開始し、2002年にはDVD-RディスクやDVD-ROMディスク、データテープの生産を開始。2004年からはブルーレイディスクの生産を開始している。
ブルーレイディスク(Blu-ray Disc)の生産においては、基幹設備は自社開発および内製とし、生産ノウハウはすべてブラックボックス化。蓄積した知見が流出しない体制を取っているのが特徴だ。
「DVDディスクの生産の際には、取引があった設備メーカーを通じて生産ノウハウが流出。結果として、設備メーカーから設備を購入した海外メディアメーカーがこれを導入するといった結果につながった。ブルーレイでは同じことを繰り返さないように、社内にノウハウを蓄積した」と茂木工場長は語る。
実は、津山工場の特徴は、地方工場にも関わらず、製造部門だけでなく、製品開発を行なう開発部門、工法や設備開発などを行なう生産技術部門の機能を、工場内部に有している点にある。
茂木工場長は、「これにより、商品開発、工法開発、設備開発、製造を一拠点で完結し、新規商品開発を効率的に推進でき、さらに自前で生産設備を組み上げることができる」と胸を張る。
さらに、システムLSIや光ピックアップ技術などを担当するハードウェア部門との連携により、新たなフォーマットを開発し続け、これらの新たな技術のいち早い採用が、この分野において、世界ナンバーワンの評価を獲得することにもつながっている。たとえば、2006年から生産している大容量片面2層の50GB記録型ブルーレイディスクの開発と量産化において、平成21年度の大河内記念生産賞を受賞している。
自前技術による取り組みが、生産ノウハウの流出防止にもつながっている。
津山工場が記録層を2層とした50GBのブルーレイディスクの生産を開始したのが2006年。海外メーカーが2層ディスクを発売したのが2013年のことであり、生産技術の優位性がこれだけの差につながっているというわけだ。
さらに、津山工場では、2007年には、4倍速の追記型ブルーレイディスクの生産を開始。2008年には6倍速の追記型ブルーレイディスクの生産をスタート。さらに2009年にはブルーレイROMディスクの生産を開始するなど、生産ラインアップを拡大。2010年には、100GBを実現するために記録層を3層としたブルーレイディスクの生産を開始している。
パナソニックでは、記録層が1層の25GB版では12%のシェアに留まるが、2層となる50GB版では41%という高いシェアを誇っている。
こうした付加価値製品領域で高いシェアを維持するのが、パナソニックのメディア事業の特徴だといえる。
現在、津山工場では、記録用ブルーレイディスクで年間4,000万枚を生産。DVCビデオテープも、年間3,600万巻を生産している。ブルーレイディスクは5秒に1枚、DVCテープは1.5秒に1巻が出来上がる。
「パナソニックブランドのブルーレイディスクは、現在、全量を津山工場で生産している。DVCビデオテープも海外で根強い需要があり、2ライン体制で生産を行なっている」(茂木工場長)という。
津山工場におけるメディアの累計生産数は、2014年3月時点で、VHS関連商品で14億6,600万枚、DVC-Sカセットで7億1,100万枚、DVD-RAMディスクで2億3,600万枚、ブルーレイディスクで1億5,800万枚となっている。2001年から製造を開始しているDVD-ROMは、2009年には累計3億枚の生産を達成している。
現在、生産を行なっているのは、DVCテープ、データテープ、DVD-RAM、DVD-R、DVE-RW、BD-R、BD-RE、そして、映画用に利用されるBD-ROM、DVD-ROMである。
「津山工場のコア技術は、膜形成技術に尽きる。真空を活用した反応性蒸着、CVD、スパッタリングといった薄膜形成技術と、ロール・トゥ・ロールのフィルム塗工技術や、高い平面率を実現するスピンコートなどの厚膜形成技術を有している点は、他社には追随できないもの。また、すべての工程を自動化しており、その点でもどこにも負けないと自負している。これらの技術と自動化により、海外生産よりも低コストで、品質が高い、最先端の製品を提供することができる」と、茂木工場長は語る。
とくに、ディスクの多層化技術は、パナソニックが明らかに市場をリードしているといえよう。
津山工場のブルーレイディスクの生産ラインでは、すべてを自動化。3つのラインを2人で管理する体制としている。設備内はクラス100のクリーンルームとし、設備間はクリーントンネルで接続して、自動搬送。これにより、約8分で1枚のディスクを生産。5秒間に1枚ずつ新たな多層ディスクが生産されているという。
DVDの生産ラインは1ライン。これに対して、ブルーレイディスクの生産ラインは8ライン。そのうち、1ラインを3層ディスクの生産が可能なラインとしている。
パナソニックでは、今後、3層のブルーレイディスクをデータセンターや医療機関などが利用する「データアーカイバー」の用途において、提案活動を広げていく考えであり、BtoC分野からBtoB用途へと、ブルーレイ事業の展開を加速することになる。
3層のブルーレイディスクでは、現在100GBのBD-XLを製品化。今年3月からは、パナソニックとソニーが持つ技術を活用して、データセンター向けのアーカイブディスクの量産化を開始。2015年以降には300GB、2018年度以降には500GBのアーカイブディスクの量産を開始する考えであり、2020年以降には1TBのアーカイブディスクの量産に着手するという長期的な戦略を描いている。
大容量化については、両面ディスク技術、片面3層という基本仕様は変えずに、クロストークキャンセル技術を活用した狭トラックピッチの採用のほか、符号間干渉除去技術や多値記録再生技術による高線密度化などの信号処理技術によって、これを実現する考えだ。
BDフォーマットではトラックのGroove部分だけを使用していたが、アーカイバルディスクのフォーマットでは、Land部分も使用。隣接トラックからのクロストークを除去し、両方のトラックを明確に切り分けて読み込むことができるようにする「クロストークキャンセル」機能が重要な役割を果たす。そのためには、光ピックアップ技術やシステムLSI技術の設計でも大幅な改善が必要になってくる。
「300GBのアーカイブディスクは、1層あたり50GBという大容量化を実現し、これを表に3層、裏に3層の記録層を設けることで実現する。また、500GBでは、1層あたり83.3GBの容量とし、それを3層ずつ表裏に用意する。民生用設備を転用して生産は可能だが、量産化に向けた歩留まりの改善が今後の課題になる」と、パナソニック AVCネットワークス社開発グループメディア開発チームの宮川直康チームリーダーは語る。
今後、津山工場では、より高密度なアーカイバルディスクの量産化に向けた挑戦が始まることになる。これと同時に、今後は、民生用ブルーレイディスクは、徐々に海外生産が増加することになりそうだという。