気になるグッズを衝動買い |
第26回:ヘッドフォンの宿命、頭内定位がなくなる? ドルビーヘッドフォン搭載MD「シャープ MD-ST880」 |
AV製品はピンからキリまでいろいろありますが、いわゆるメインストリーム以外にはいろんなおもしろいアイテムがたくさんあります。ここでは思わず衝動買いしたくなるけど、冷静に考えるとどうかな~? と、気になる「モノ」に積極的なアタックを繰り広げていきます。 |
■ヘッドフォンといえば「頭内定位」
ポータブル環境のリスニングデバイスといえばヘッドフォン(含むイヤフォン)。スピーカー付きのラジカセなんかを肩に掛けながら歩いたり、背負っていたりする人も見かけたこともありますが(ビクターの「サウンドロケット」を背負っている人も早く見てみたいデス)、まあ、あまり一般的とは言えません。大多数の人はヘッドフォンなり、ステレオイヤフォンなりを使って耳元で音を聞いているはず。それに、深夜で大音量を出せないときにもヘッドフォンは便利。パーソナルな空間が確保できて、スピーカーとはまた違った感覚でリスニングできるのも良いです。
しかし、ヘッドフォンリスニングで問題になるのが「頭内定位」。耳から近い位置に音源があるため、右耳と左耳を結ぶ軸の中央に音像がつくられ、頭の内部や頭のまわりに生じる現象のことですな。
自分はあまり気にするほうではないのだけれども、長時間リスニング時には疲れを感じてしまうのも事実。長時間聞いていると、「頭の中で音が鳴っている」と意識しはじめて不自然さを感じるからねぇ。
この頭内定位を解消するブツには、なんぼか心当たりがありました。まずはヘッドフォンプロセッサ、SAEC「HP-2000」。「SRS HEADPHON」技術などで頭内定位を解消するというけれども、お値段は11万円。あらら、気楽には手を出せません。あとは、ソニーのバーチャルサラウンドヘッドフォンシステム「MDR-DS5100」を使うと解消すると聞いたことも。こちらのお値段は、ストリートプライスで35,000円程度と比較的手も出しやすいけど、ワイヤレスシステムなので高音域が歪みそうだし、なにより持ち運びできないしね。
それ以外では、ウルトラゾーネのヘッドフォン「HFI-2000」とか。こちらはユニット内のスピーカー固定軸角度を工夫して、音響ボード、緩衝ボードの採用などで頭内定位を低減しているというけれども、お値段48,000円。う~ん、11万に比べれば手を出しやすいけどさ。ともあれポータブルにはあまり適さない大型のヘッドフォンなのが考えどころ。
そういうことで、価格、サイズの制限もあり、「無理してでも頭内定位を解消しよう」という気力は起こらなかったのだけれども、かなり気になるブツが8月8日に発売されたのでありますよ。それが、ポータブルプレーヤーとしては「世界初!」のドルビーヘッドフォン搭載ポータブルMDプレーヤー、シャープ「MD-ST880」なのであります。
■5.1chだけでなく2chもシミュレート
この「MD-ST880」が発表された当初は、「ドルビーヘッドフォンって5.1chをヘッドフォンで再現するものでないの?」と思ったのだけれども、実はさにあらず。ドルビーのドルビーヘッドフォン紹介ページによると、「頭の中で音が鳴ってしまうヘッドフォン特有の性質を解明し、部屋に置かれたスピーカーを聞いているようにデジタル信号処理するもの。つまり、5本のサラウンドシステムでなくても、2本のステレオスピーカーのように音楽を聞くということも可能」なのだそうな。
なるほど、いわれてみればその通り。5chのシミュレーションを2chにダウングレードすればよいのだからね。で、どうしてシャープがポータブルドルビーヘッドフォン機器を世界初で発売するかというと、「シャープがドルビーヘッドフォン専用チップの開発に成功した」からだとか(レイク・テクノロジーと共同開発してドルビーラボラトリーズが認定したシステムです)。 しかも、それを最小クラスのポータブルMDプレーヤーに載せるのだ。コンパクト性が要求される機器にいきなり投入するとは自信の現われなのでしょうか? まあ、「シャープがMDに強い」という理由もあるのでしょうが。
個人的にはポータブルCDプレーヤーに組み込んで欲しい機能ではあったけど、シャープのポータブルオーディオ機器は現時点ではMDだけのようだし、仕方ないか。とにかく、ポータブル環境で頭内定位なしにリスニングできるという革新的な機器なんだから。あとは発売日を待つのみですよ!
と、待ちに待った8月8日。買ってきましたよ「MD-ST880」。午前中に買い物してから出社して、各社のサイトチェックなんぞをしていたら、なんと、当のシャープ様がポータブルMDプレーヤーの新製品を発表しているじゃないですか! どういうこと!?
まあ、よくよくリリースを読んでみると、発表された新機種「MD-ST770」はドルビーヘッドフォン機能を省いて「世界最小/最長再生時間」を狙った製品らしいのでひと安心。っていうか、デザイン同じじゃん? スペックの外形寸法を見てみると、厚さが2mm薄くなってるだけ。つまり、この2mmにドルビーヘッドフォンの機能がつまってるわけね(多分)。
MDプレーヤーのボリュームゾーンと言われる10代後半~20代前半の人で、「頭内定位」とか「頭の中で鳴っている感覚」といわれてピンとくる人は少ないだろうから、「最小/最長再生時間」の方がアピール度が高いんだろうな、と想像してみたり。しかし、発売日に新製品を発表することはないよなぁ。
■「ドルビーヘッドフォン」ロゴが外見上の唯一の違い
さて、気を取り直して内容物の確認するべ。小さいことを要求されるポータブルMDプレーヤーなだけに、パッケージもかなり小さめ。入っていたのは本体、リモコン、ステレオイヤフォン、充電池、充電池ケース、充電スタンド、ACアダプタ、乾電池ケース、キャリングケース(ポーチ)、という構成。フム、ポータブルMDプレーヤーを買うのは初めてだけれども、ポータブルプレーヤーとしてすぐに使える構成になっているといっていいでしょう。いたってフツーかと。
まず目立つのが、本体にステンシルされた「ドルビーヘッドフォン」ロゴ。今までは一部のAVアンプや、PC用のDVDプレーヤーソフトにしかこのロゴを見ることはなかったけれども、ポータブルプレーヤーに付いている点が画期的。本体デザインそのものは好みの分かれるところだと思うけど、まあ、普段はポケットやカバンの中に入れることになるのでさほど気にすることでもないかと。
しかし、「ドルビーヘッドフォン」ロゴ以外はいたってフツーのポータブルMDプレーヤー。店頭で見比べたところ、他のプレーヤーと見比べてもこのロゴ以外は特に違いは無いように感じました。つまり、それだけ小さくて軽い、ということ。外形寸法71.0×77.7×12.9mm(幅×奥行き×高さ)、重量約96g(充電池含む)と、ジーパンのポケットに入れられて、重さもほとんど感じないレベル。最小/最軽量ではないけれども、その違いはわずか。まったく気になりません。
次はやはり「ポータブルMDで初」の「2行表示リモコン」でしょうか。ポータブル機器のリモコンにしては少々サイズが大きめに感じますが、まあ、リモコンとして使うのに不便さを感じることのないサイズ。ヘッドフォン端子もちゃんとステレオミニジャックです。
リモコンの右側に再生(一時停止)/停止/早送り/巻き戻しのコントロールを行なうスティックを配置。上面にはボリューム、ディスプレイ表示/再生モード切り替え、グループモード切り替え、そしてドルビーヘッドフォン/BASS機能の選択ボタンを配した構成。サイズが大きめなこともあり、ディスプレイが大きく見やすい印象を受けます。
ディスプレイの表示情報は、上段はディスク名、下段には曲番号、再生時間/曲タイトルという構成。1行表示だとタイトルと再生時間をひと目で確認できないので、2行表示のメリットは大きいと感じます。弱点といえばカタカナ/アルファベット表示のみで漢字表示に対応していない点くらいかと。けど、PCとリンクする環境でもない限り、漢字の入力は大変面倒なので「これはこれでアリかな」とも思います。ウチの妹もMD持ってるけど、「漢字入力なんてやんない」って言ってたしな~。
最近のポータブルMDプレーヤーの必須アイテムとも言える置くだけで充電可能な「充電スタンド」も装備して、ユーザビリティもなかなか高そう。ただ、充電はこの「充電スタンド」からしか対応してないんだよね。本体にAC用の端子がないので、ACアダプタから直接、というのは不可能。ま、「充電スタンド」も本体に比して小さいので、置き場所に困ることも無いけれども、例えば旅行先で電池が切れたときは電池ボックスに頼ることになるかと。
細かい点で不満点もあるけど、ポータブルMDプレーヤーは各社が多彩な製品を繰り出すジャンル。歴史も比較的長くさすがに作り込んであるな、という印象を受けました。う~ん、MP3対応ポータブルCDプレーヤーなんて、MDに比べるとかなり使いにくいよなぁ。
同梱品一覧。いたってフツーのMDプレーヤーの構成 | 本体。手のひらに充分収まるコンパクトなサイズ | タバコ箱との薄さの比較。ジーパンのポケットに入れても目立ちません |
ディスクを排出したところ。イジェクトスイッチをスライドするだけでディスクが排出される | ディスク挿入部のアップ。挿入は一度ディスクを押し込んでからカバーを閉じる方式 |
■「ドルビーヘッドフォン」の効果はいかに?
ということで、ドルビーヘッドフォンの効果を試してみる。とりあえずSP/LP2/LP4に録音したMDをそれぞれ用意。
ドルビーヘッドフォン機能は、リモコンの「Dolby-H/BASS」ボタンか、本体前面の「Dolby-H」ボタンで切り替える。リモコンの「Dolby-H/BASS」ボタンは、ドルビーヘッドフォン機能とBASS機能の兼用ボタンで、1秒以上の長押しで「BASS」機能の設定モードに移行する。ドルビーヘッドフォン機能は、ボタンのクリックで切り替え。ま、こちらがメインということですな。
ドルビーヘッドフォンは、小さな部屋を想定した「STUDIO」、STUDIOより反響量を微増させた「LIVE」、STUDIOより大きなコンサート会場などを想定した「DOME」の3モード。「Dolby-H」ボタンをクリックすることで、設定解除状態の「NOMAL」→「STUDIO」→「LIVE」→「DOME」の順で切り替わる。
「NOMAL」状態でSPディスクをしばらくリスニングしてみたところ、音質は良好。ポータブルMDプレーヤー初体験だけれども、意外といい音なのね。付属のステレオイヤフォンも中音域をベースに聞きやすくクリアな音を鳴らしていて、かなりいいッスよ。では、「Dolby-H」ボタンをポチッとな。
「STUDIO」に切り替えた瞬間は、「う~む、違いがイマイチわからないな」という感触を受けたけれども、2~3分ほど聞き込むとその差が実感できた。ふむ、確かに頭内では定位せず、耳から離れた位置で鳴ってますな。「LIVE」に切り替えた時は、より効果を実感できて、ぐんと聞きやすい音になっていた。反響量を微増させた設定と言うけれども、その微増が屋内でのスピーカーの音を再現している感じ。耳の中で音が鳴っているのに、離れた所から音が感じられてなんとも不思議な感覚デス。「DOME」は「LIVE」のエコー量を単に増した感じで、少々解像感が薄れるのでちょっと好みには合わないけれども、もちろん頭内定位はなく、ちゃんとドルビーヘッドフォンが機能してます。
ふむ、なるほど。ちゃんと機能してるんですねぇ。なんだか今までのヘッドフォンの音場感が不自然に感じてしまいます。で、しばらく聞き込んでみると、おおまかには左右の音から一定量を逆のチャンネルに流しているような感覚を受けました。もちろん、他にもいろいろな処理はしているのでしょうが。
本体の「ドルビーヘッドフォン」シールとロゴのステンシル | リモコン。2行表示ディスプレイと操作スティックが目立つ |
■長時間使用時のユーザビリティは?
さて、ポータブル機器といえば長時間使用時のユーザービリティも重要。付属のステレオイヤフォンは、直径も小さめで耳に圧迫感を感じることもなく、2~3時間は入れっぱなしで大丈夫。実家に帰省する際、東京→名古屋間の新幹線車内で2時間ほどリスニングを続けたけれども、名古屋に着いても普通に聞き込めました。
ここでふと気づく。普段使っているヘッドフォン「K501」は、フィット感は良好で2時間つけていても装着自体に疲れを感じることは無いのだけれども、リスニングを続けると鼓膜に疲れを感じてしまうんだよね。DVDで映画を見てると、終わりごろには隙を見てヘッドフォンを外しながら見てますんで。
しかし、この「MD-ST880」はインナーイヤタイプなのに、疲れの度合いはこちらが少ない。もちろん、「全く疲れない」ということではないのだけれども、音がより自然な感じで聞きやすく、耳から外す必要性を感じなかったのです。どちらかというとステレオイヤフォンのフィット感に違和感を感じるのが先。
ふむ、ドルビーヘッドフォンは「自然な音場」を再現するべく搭載されているもの。その目的は充分に達成しているといっていいでしょう。ただ、一番聞きやすいのはやはり「LIVE」モードで、「STUDIO」は耳により近い位置で鳴っていて、「DOME」はエコーが効きすぎているために少々聞きづらくなっているように感じました。まあ。好みの問題もあるのでしょうが。
ドルビーヘッドフォン以外の機能も使いやすいです。少なくともこれまで使ってきたMP3対応ポータブルCDプレーヤーとは格段の差。リモコンの操作性は初めてのタイプだったので当初は戸惑いを感じたけれども、すぐに慣れました。不満点は操作スティックが出っ張っているため、カバンのベルトに引っ掛けたりしてたまに誤動作してしまうことくらい。
あとの不満は、ディスプレイの「2行表示」かな。2行の意味をあまり感じませんでした。というのも、上段にディスク名/グループ名を表示して、下段は曲タイトル/再生時間/残り再生時間を切り替え表示するのだけれども、上段は曲タイトル、下段は再生時間という構成ならばもっと機能的に使えると思います。例えばタイトルを見て、「サビの時間は覚えていて、お気に入りだけれどもイントロはイマイチ」、なんて曲をサビの時間まで早送りできるしね。しかし、ディスクを何枚も持ち歩くユースを考えればディスク名の表示も大切。ううむ、上段は「ディスク名と曲タイトルの切り替え」がよろしいのでは?
気になる電池持続時間も非常に実用的。充電池オンリーのSP時でもスペック上は約26時間の連続再生が可能。26時間といえば通勤/通学時に往復2時間使用するとして、約2週間の13日間使用できる。ただし、ドルビーヘッドフォン使用時は約1/2になるけれども、1週間ごとに充電しておけば、まあ、電池切れの心配ナシでしょう。2~3日の旅行なら移動中にずっと聞いていても問題ないかと。充電もスタンドに置くだけで非常に簡単。うっかり充電を忘れていても、電池ボックスが付属しているから、コンビニなどで電池も買って使えるしね。自分の場合、1週間ほどのユースで電池切れ、ということはありませんでした。
リモコンで「STUDIO」に設定したところ。約2秒で表示が切り替わる | 充電スタントへの設置。設置は本当に置くだけで、非常にイージー |
■ほかの機器への発展が楽しみ
さて、今回ポータブルMDプレーヤーを初めて使ったのですが、LP4時の解像感がぼやけているのが気になってしまいます。まあ、これは低ビットレートなので仕方ないし、SP/LP2ならば(多少の劣化は感じるものの)ポータブル環境でのリスニングには充分な解像感があるのでそっちで録音しておけはいい。だけれども「ある機能は使っちゃう」んだよねぇ。
自分の場合、ポータブルCDプレーヤーの使用がメイン。なのでうっかりLP4で録音してしまうと解像感に不満が出てしまう、なんて事態にもなりかねない。SP/LP2で録音しなおすのも面倒だし、タイトル編集やり直すのは想像もしたくないし。
それに、レンタル店でレンタルしていないマイナーな作品ばかり聞いているから、「聞きたいCDは買う」が基本。まあ、最近テクノでも「オウテカ」あたりまではレンタルしてますが、昔のクセでやはり買ってしまいます。なので、CDプレーヤーとしても使用できるMP3対応製品にハマったりしていたけれども、MDだとCD聞けないからねぇ、「買い物の帰りに早速聞く」という使い方ができない点もポータブルMDプレーヤーに手が出なかった理由のひとつ。
コンパクト性を犠牲にすることなく、ポータブルMDプレーヤーに「ドルビーヘッドフォン」を詰め込んだ技術は見事で、その効果も抜群。長時間のリスニングでもさほど疲れません。ただ、プラットフォームがMDというのが自分のユースには合わなかったカナ。いや、使いやすいですよ、製品としての「MD-ST880」は。MDについてのノウハウがふんだんに投入されている印象を受けます。ボディもコンパクトで、操作性も良好。なによりも再生時間が信じられないくらい長時間。しかし、自分はプラットフォームとしてのMDにはそれほど魅力を感じません。買ってきたCDを帰りに聞きたいんじゃよ~。
ということで、シャープさん、「ドルビーヘッドフォン搭載ポータブルCDプレーヤー」出していただけませんか? ついでに「MP3対応」とかなら最高なんですけど。省電力技術を駆使してロングプレイな製品お願いします。
□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□製品情報
http://www.sharp.co.jp/products/mdst880/index.html
□ドルビーのホームページ
http://www.dolby.co.jp/jp/
□ポータブル・ドルビーヘッドフォン解説ページ(ドルビー)
http://www.dolby.co.jp/jp/AV/DH/portable_dh.html
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【7月10日】シャープ、業界初のドルビーヘッドフォン搭載ポータブルMD
-世界最長の連続130時間再生を実現、2行表示リモコンも付属
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010710/sharp.htm
(2001年8月21日)
[fujiwa-y@impress.co.jp]
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp