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第28回:ようやく登場 DVD+RWドライブ「リコー MP5120A」
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■ DVD+RWは変化球だが、ストライク?
DVDというメディアは、そもそも映像作品や、大容量データ・プログラムを販売するために開発が始まった。しかしパソコン上で書き込みができるようになったことを考えれば、DVD規格を映像メディアとしてではなく、パソコンストレージとして捉える人もいて当然だ。現状でバックアップや保存用途としてのメディアを考えると、OSがあるドライブ、またはパーテーションまるごとどこかに保存したくても、もはやCD-R/RWでは役に立たない量になってしまっているのだから。
そこで記録媒体としてDVDファミリーの存在がクローズアップされてくるわけであるが、DVD-Rは現在1枚1,000円前後の攻防を続けており、しかも再利用不可ということで、コスト面では割に合わない。
ではDVD-RWはというと、書き換えはできるものの、今のところ追記できないため全消去してフル書き込みでは、バックアップメディアとしてはまことに不便きわまりない。しかも最初のフォーマットに1時間半、さらに標準速書き込みでフルに記録すると2時間というのでは、「バックアップ取るためにオレは生きている」ような状態にもなりかねない。パソコンストレージとしては、使用中のメディアに追記できるという部分はどうしても落とせない。
そんなことを考えていくと、フォーマットいらずで追記可能なDVD-RAMは、もっと好意的に受け入れられてもいいはずなのに、DVD-RAM単体ドライブは今ひとつ受けが悪い。それはやはり、DVD-Videoの規格としては特殊な位置にあるのが原因であるような気がする。つまりせっかくDVDファミリーであるのに、イマイチ対応ドライブが少ないのだ。
ま、そこをうまく商売に結びつけたのがPanasonicのDVD-RAM/Rコンボドライブというわけで、DVD-Videoにも色気を見せつつバックアップも可能というのは、ユーザーの心理を突いたうまい作戦であったといえる。しかしこれは、全く別物のディスクを使用するわけで、しかもDVD-Video側にはライトワンスのRしか使えず、DVD-RAMにDVD-Video形式で書き込むにはソフトボートの「インスタントCD+DVD」(12,800円)が必要になるのは、ちょっとひっかかる。
ところが、だ。メディア1タイプで、DVD-Videoとしての互換性が高く、データストレージとしても追記可能という夢のような話があるとしたらどうだろう。DVD+RWは、まさにそういったDVDフォーラム策定規格の隙を突いたフォーマットであり、識者の間では早くから注目され、また期待も寄せられていたのである。
DVDもプラスだのマイナスだのと言われるとワケわからなくなりそうなので、ここで簡単にDVD+RWの背景についておさらいしておこう。
書き換え可能なDVDフォーマットのほとんど、つまりDVD-R、DVD-RW、DVD-RAMは、「DVDフォーラム」という世界規模の組織によって規格の制定が行なわれている。DVDフォーラムは、世界中の電器機器メーカー、ソフトメーカー、メディアメーカーなどから構成されている任意団体だ。DVDフォーラムは文字通り、国内外の有名メーカーはほとんど参加していると言ってよい。
DVD+RWはそのDVDフォーラムとは別の、「DVD Alliance」という組織によって策定されたフォーマットだ。今はまだモノがないが、DVD+RWと同様の性格を持つものでライトワンスのDVD+Rというものもある。このDVD+R、DVD+RWは、CDにおけるCD-R、CD-RWの関係をそのままDVDクラスに拡大したような関係を目指して開発されている。つまり再生に関してはDVD-ROMに対して互換性を保ちつつ、書き込み方式はDVDフォーラムが採用していないような、DVD Alliance独自方式というわけだ。
DVDフォーラムの規模に比較すれば、DVD Allianceはプライベートな組織に見えてしまう。が、HP、三菱化学、フィリップス、リコー、ソニー、トムソンマルチメディア、DELL、ヤマハという参加メンバーを見れば、光メディアに関して相当の実力のある組織であることがわかる。
そしてそのDVD+RWが、いよいよ9月28日にリコーから発売される。ドライブ名「MP5120A」がそれだ。先週のWORLD PC EXPO 2001でも展示されていたので、実物をごらんになった方も多いことだろう。では、早速その使い心地を試してみよう。
■ 使いやすいパケットライト
リコー製DVD+RWのメディア |
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DVD+RWドライブといっても、ドライブとしてはなにも特別なものではない。普通のATAPI接続のドライブだ。書き込みには、もちろんDVD+RW専用メディアが必要となる。
特徴的なのは、付属ソフトウェアで、ざっと紹介すると下表のとおりだ。その他には、リージョン変更やデータ転送モード変更を行なうユーティリティも付属する。
付属ソフト | 内容 |
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「WinDVD」 | ソフトウェアDVDプレーヤー |
「MyDVD」 | DVDオーサリング、ライティングソフト |
「B's Recorder GOLD」 | ライティングソフト |
「B's CLiP」 | UDFパケットライトソフト |
「MotionDV Studio」 | DVビデオ編集ソフト |
「DIGICLIP」 | 画像管理用ソフト |
「Earjam」 | ミュージックプレーヤー |
これらのソフトウェア群のうち、「B's CLiP」はUDFのパケットライトソフトウェアなので、タスクトレイに常駐する。したがってこのアプリケーションがDVD+RWディスクの挿入を察知して、フォーマットを行なってくれる。メディアのフォーマットは、DVD-RWと違い、最初に延々とフォーマットの終了待ちになるということはない。最初の1分間ほどフォーマットを行なったら、あとは制御をユーザーに開放してくれる。
常駐するB's CLiPがメディアの挿入を察知して適切な処理を行なう |
フォーマットは引き続きバックグラウンド処理で続行されるが、ユーザーにはフォーマットが終わった、と見えるわけだ。ドライブのアクセスランプを見ると引き続きオレンジに点灯しており、フォーマット続行中であるのがわかる。
このB's CLiPによるUDFのパケットライト動作は、CD-RWのそれと似ている。パケットライト中のDVD+RWディスクをマウントしている間は、ドライブのイジェクトボタンを押しても反応せず、タスクトレイに常駐しているB's CLiPアイコンから「取り出し」を選択するといったソフトウェア操作を行なうことで、取り出すことができる。
試しに2GBのデータをパケットライトで書き込んでみた。DVD+RWは書き込み速度2.4倍速と、DVDファミリーでは最速であるため、2GBの書き込みにかかった時間はわずか10分33秒であった。ちなみに他メディアの書き込み速度も表にしておく。
■DVDファミリーの現時点での書き込み最大速度
フォーマット | 速度 |
---|---|
DVD-R | 2倍速 |
DVD-RW | 等倍 |
DVD-RAM | 2倍速(同時にベリファイするため、事実上等倍) |
DVD+RW | 2.4倍速 |
パケットライトという動作は「フロッピーディスクと同じような感覚で」というのが建前であるが、実際に使ってみるとまさにそのような感じだ。ドラッグ&ドロップでいつでも追記できるし、余計なデータをディスクから部分的に削除するのも自由自在。ただし、B's CLiPでパケットライトを行なったディスクは、B's CLiPがインストールされていないマシンでは読み出すことができないところが、フロッピーなど汎用ディスクとは違うところ。
またCD-RやCD-RWのパケットライトでは、ディスクを取り出す際にセッションを閉じるなどの処理をすることで、互換性のあるディスクとすることができたが、DVD+RWにはそのような取り出し時のオプションはない。
ライティングのベースとなるB's Recorder GOLD |
互換性の高いデータ用DVD+RWディスクを作成しようと思ったら、パケットライトではなく「B's Recorder GOLD」を使って、従来のCD-RWのようなつもりで書き込めばいい。
DVD-R/RWと違って、少ないデータでも延々リードアウト書き待ちということにならず、純粋にデータ量に応じた書き込み時間になる。
ただし現状では、後述するようにパソコン用DVD-ROMドライブでDVD+RWディスクが読めるかどうかは五分五分といったところであり、突っこんで読めたらラッキー! ぐらいに考えておく必要がありそうだ。
■ なかなかいい「MyDVD」
Panasonic製のMotionDV Studioが付属する | 必要かどうかは別として、こういう機能は珍しい |
ではビデオからDVD-Videoを作成する段取りもざっと見ていこう。DVカメラからのキャプチャおよびビデオ編集用としては、「MotionDV Studio」が付属する。
DVDフォーラムの中心企業であるPanasonicのMotionDV Studioが、DVD Alliance陣営のDVD+RWドライブにバンドルされているところがなんとも面白い。
もっとも我々が勝手に外側から思うほど、両陣営はかつての「β vs VHS」のような反目状態ではないのかもしれないが……。
MotionDV Studioは汎用IEEE 1394カードさえあれば、DVテープのインデックス制作、バッチキャプチャを行なうことができる。操作系は割と素直で、ファミリーユースの編集ソフトとしては面白い機能を沢山持っている。基本的にはキャプチャしたクリップのサムネイルを、タイムラインにドラッグ&ドロップして繋いでいくというスタイルだが、エフェクトには3Dのキャラクターを挿入できるなど、できることの個性が強い。
編集した作品は、DV形式のAVIもしくはテープへの出力が可能なのはもちろん、MPEG-1やMPEG-2に出力することもできる。MPEG-2の設定を見ると、パラメータの設定は全くなく、単純に「高画質」、「標準」、「高圧縮」の3つが選べるだけだ。
MyDVDはよりファミリーユースにシフトしたDVD作成ツール |
しかし、本当の意味でDVD-Videoの作成の中心は、映像キャプチャからオーサリング、ディスク書き込みまでを全部サポートした「MyDVD」が担う。MyDVDは、オーサリングツールとして有名なDVDit!を開発しているソニック・ソリューションズの製品である。同社の位置づけとしては、DVDit!よりもさらにファミリーユースということで、日本国内では今まで販売されてこなかった。
キャプチャからディスク書き込みまで、ノンストップ |
MyDVDには、簡単にDVD-Videoを作成するための、「Direct to DVD」という機能がある。MyDVDでDVカメラの映像を取り込み、それをとりあえずDVD+RWに書く、というモードである。
これは既に編集してあるテープなどから一気にDVD+RWに書き込む時に使用すると便利だろう。そう書くと一見DVD-RAMのようにDVDビデオレコーディングフォーマットで書き込むように思われるかもしれない。
実際には、DVD+RWディスクへ向かって直接キャプチャするのではなく、いったんHDDに映像をキャプチャしたのちに、DVD+RWに書き込む。
操作は簡単で、プロジェクト名を決めてメディアを入れておけば、あとは画面の指示に従ってVTRをスタートさせ、いいところでレコーディングボタンを押す。それだけで映像のキャプチャが開始される。
映像品質は、ディスクに収録できる時間数を目安に選択する。「最高品質」で1時間、「より優れた品質」で2時間、「良好な品質」で3時間となっている。キャプチャしながらチャプター分けしたいところでスペースバーを押すと、そこでチャプターを付けることができる。ただしこのDirect to DVDモードでは、最初から最後まで一気にレコーディングしてしまわなければならない。キャプチャを停止すると、あれよあれよと思う間にビデオのビルドからオーサリング、書き込みまでノンストップで行なってしまうからだ。
停止ボタンを押してしまうと、ユーザーはもうなにもできないのである。テープ同士のダビングにも似た感覚で、まあ楽と言えば楽だが、こういうのは何度でもやり直しが可能な+RWで活きてくる機能だろう。
このDirect to DVD機能を使わなければ、DVDit!のように手動でオーサリングを行なっていくスタイルとなる。これは画面デザインの選択まではウイザード形式になっており、感じとしては以前Zooma!でもご紹介した、Appleの「iDVD」に近い感じ。デザインテンプレートもDVDit!のようになんじゃこりゃ的な濃さがなく、シンプルで綺麗にまとまっている。
メニューのテンプレートを決めたら、ビデオクリップを登録する。先ほどのMotionDV StudioでMPEG-2出力したクリップもドラッグ&ドロップで登録することも可能だし、MyDVDでもキャプチャを行なうこともできる。
MyDVDによるキャプチャは、Direct to DVDモードでのキャプチャとほとんど同じだ。違うのは、キャプチャを停止したときに勝手にディスクまで焼かずに、メニューにサムネイルを追加したところで終わるというところである。またサムネイルをダブルクリックすることで、クリップの使いどころをトリミングすることもできる。これはDVDit! LEあたりではできない機能だ。またキャプチャ中にスペースバーを押すことでチャプターを付けることができるが、このチャプターの位置は後で修正することができない。
オーサリングを手動で行なうこともできる | クリップのトリミングも可能。DVDit! LEあたりではできない機能 |
ソニック・ソリューションズとしては、DVDit!があれば別にMyDVDはいらないんじゃないか、という判断のもと国内販売されていなかったわけだが、実際に使用してみるとDVDit!ではできないことが結構あり、機能云々ではなく完全にベクトルの違った製品であるように思う。これはこれでまた必要な人がいるだろう。
■ 総論
さすがにCD-R・CD-RWと同じ関係を目指しているだけに、DVD+RWは従来のパソコンユーザーがCD-R/RWと同じ感覚で使うことができるデバイスということができる。フォーマットも、バックグラウンドで処理するのはうまい考え方だ。
データ保存も追記や削除も可能ということで、使い勝手もいい。DVD-Videoの作成も、難しい操作はなく、細かいことを言わずにとりあえずビデオをDVDに焼いて見る分には何の苦労もない。むしろDVDit!の下位エディションがいろんな縛りのために、何ができて何ができないんだかわけわかんない状態であるのに比べると、MyDVDはできることの範囲が明確であるため、「なんだ、これでいいんじゃん」という感じなのである。個人的には、DVDit!よりも良いソフトウェアだと思う。
総合的に考えると、DVD+RWはパソコンユーザーにとってかなり使いでのある規格であるといえる。DVD AllianceのメンバーのほとんどがDVDフォーラムのメンバーでもあるため、当然DVDフォーラムの策定規格を研究し尽くしていると考えられる。そのためDVD+RWは、DVD-RWとDVD-RAMのイヤなところをうまく避けて作ってあるという印象を受ける。また小さい団体のほうが動きが軽く、技術投入がしやすいという面もあるだろう。またこのリコーのパッケージに関して言えば、アプリケーションのチョイスもなかなか気が利いている。
唯一懸念されるのは、やはりDVDフォーラム外の規格ということで、既存DVDドライブとの互換性であろう。筆者を含め、編集部の環境でMyDVDで作成したDVD+RWの互換性をチェックしてみたところ、次のような結果となった。ロットやファームウェアによっても違ってくる可能性はあるが、何らかの目安にはなるだろう。
■DVD+RWの互換性テスト
メーカー | 型番 | 動作検証 |
---|---|---|
専用プレーヤー | ||
サムスン | DVD-618J | × |
ソニー | DVP-CX860 | ○ |
東芝 | SD-1500 | × |
RD-2000 | × | |
日本マランツ | DV7000 | × |
パイオニア | DV-535 | ○ |
DV-525 | ○ | |
DVL-919 | ○ | |
松下 | DVD-RV70 | × |
ビクター | XV-D721 | ○ |
ROMドライブ | ||
AOpen | DVD-9632 | ○ |
DVD-1240/ASH | × | |
東芝 | SD-M1502 | ○ |
ノバック | DV 730 | × |
パイオニア | DVR-103(DVD-R/RW) | ○ |
DVD-103R | × | |
日立 | GD-7500 | × |
松下 | LF-D321JD(DVD-RAM/R) | × |
ロジテック | LDV-A16040F | ○ |
プレイステーション 2 | ||
SCEI | SCPH-10000 + DVD プレーヤー Ver2.01 | × |
SCPH-30000 + DVD プレーヤー Ver2.00 | × |
傾向として、パイオニアのドライブは成績がいいようだ。特にDVD-R/RWドライブの「DVR-103(DVR-A03Jと同等品)」でも+RWが読めてしまうのはすごい。しかし全体的にDVD-ROMドライブで成績が悪いのはちょっと気になるところ。ROMドライブでダメということは、DVD-Videoだけでなくデータディスクとしても読めないと思われる。しかし、ようやく+RWというモノが世に出たばかりであり、これから新製品やファームウェアのアップデートなどで徐々に環境が整備されていくことは十分に考えられる。
一応このDVD+RWの発売で、書き換え可能なDVDフォーマットが一通り出そろった形になる。映像記録メディアとしてのアプローチであるDVD-RW、ストレージ的特性の強いDVD-RAM、そしてそのちょうど中間に位置するのがDVD+RWということになるだろうか。それぞれに一長一短があるわけだが、同じような書き換えメディア規格が3つもあって、それぞれがそれなりに生き残るとも思えない。
ユーザーのほうも、「要するにドレなのよ」という気持ちではないだろうか。こうなってくるともうドライブや規格の能力云々よりも、先に思い切ってメディアの値段を下げたものが勝ち、ということになりそうな気がする。
□リコーのホームページ
http://www.ricoh.co.jp/
□MP5120Aの製品情報
http://www.ricoh.co.jp/dvd/drive/mp5120a/index.html
□関連記事
【8月23日】リコー、DVD+RW/CD-RWドライブ「スーパーコンボ」
-DVD+RWは従来のDVDプレーヤーの70%で再生可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010823/ricoh.htm
(2001年9月26日)
= 小寺信良 = | 無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。 |
[Reported by 小寺信良]
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp