11月14日~16日の3日間、千葉県の幕張メッセにて「2001 国際放送機器展(InterBEE 2001:International Broadcast Equipment Exhibition 2001)」が開催された。これに関する速報は14日に掲載されているが、ここではInter BEE 2001のプロオーディオ部門のデジタル・レコーディング機器に絞って、最新動向を追ってみる。
元々、1カ月前に楽器フェアが開催されたばかりなので、あまり新しい製品も出ないだろうと期待していなかった。そのためもあって、あまり開催日や開場時間など把握せずに、会場へ行ったというのが正直なところ。まあ土日もやっているのだろうという程度の考えで金曜日の15時半過ぎに幕張メッセに到着した。
さっそくプレス受付を済ませ、会場へ入ったのだが、その日が最終日であったことに気づいたのは、17時に「ホタルの光」が流れ、終了した後のこと。確か17時半まではやっているはずと思っていたのだが、最終日のため30分早く締め出された。
そのため、プロオーディオ機器についても完全には回ることができなかったが、短い時間の間で主だったところはチェックすることができた。
■ Digidesign、WAVESのノイズリダクションソフトを発表
会場に入ってまず最初に目に止まったのがDigidesignのブース。Digidisignはいわずと知れた、DAWシステム「Pro Tools」のメーカーである。現在ノンリニアビデオ編集機器のメーカーであるAvid technologyのオーディオ部門という位置付けとなっているが、そのAvidとは別に大きなブースを構えていた。
このブースでは、「Pro Tools 5.1.3」をデモストレーション。大々的なアップデートとはいえないが、Pro Toolsが5.1.1から5.1.3へアップデートされていたのだ。
Digidesignブース | Pro Tools 5.1.3のデモ風景 |
このアップデートにおける最大のポイントは、「DigiTranslator 2.0」と組み合わせて使用することで統合的OMFインポートおよびエキスポート、またAvid Unity MediaManagerサポートといった機能が実現できるようになったこと。つまり、Avidワークステーションとファイルやセッションの交換を行なうユーザー、現在DigiTranslatorを使っているユーザー、Unity MediaNetストレッジ・ソリューションまたは、Pro Tools 5.1Uを使っているユーザーなどに、大きなメリットをもたらすアップデートとなっている。逆に、単にPro Tools単体でレコーディングを行なっている人にとっては、まったく無用のアップデートともいえる。
しかし、このDigidesignブースは単にDidigesign製品だけが置かれているわけではなかった。ここにはDigidesignブース内ミニブースという形でメディアインテグレーション、タックシステムほか数社が出展しており、中でも目立っていたのがメディアインテグレーション。
同社はプラグインエフェクトのメーカーとして有名なイスラエルのWAVESのソフトの代理店となったのだが(CPUで動作させるネイティブ版のみ、Pro ToolsのDSPを用いるTDM版はDigidesignが代理店を行なっている)、ここが新たなソフトをリリースする。それが「New RESTORATION」というノイズリダクションソフトだ。
「X-Noise」、「X-Click」、「X-Crackle」、「X-Hum」という4つのソフトのセットとなっており、かなり強力な性能であるという。このDigital Audio Laboratoryにおいても以前ノイズリダクションに関する実験をいろいろと行なったが、プロ志向のプラグインソフトメーカーであるWAVESの製品がどれだけのものなのか、ぜひ試してみたいところ。
X-noise | X-Click |
X-Crackle | X-Hum |
価格は決まっていないとのことだが、発売は12月上旬の予定。動作環境はWindows、MacintoshのハイブリッドでWindowsはDirectXとRTAS、MacintoshはVST、RTAS、AudioSuite、MASで動作する。
THE SAC-2K |
さらにメディアインテグレーションは、「THE SAC-2K」というフィジカルコントローラーもリリースする。
SACは、Software Assigned Controllerの略であるとのことだが、さまざまなシーケンサに対応したプロ用のシステム。9本のタッチセンシティブ・ムービング・フェーダーを装備しており、見た目にもなかなかカッコイイ。
MIDI(USBポートも備えているので将来的にはUSBでのダイレクト接続にも対応)で接続するため、Pro Toolsで利用できるのはもちろんのことCubase VST、Digital Performer、NUENDO、Samplitudeなどなどでも利用可能。12月末から来年にかけての発売で価格は30万円前後になるそうだ。
■ SteinbergはNUENDO用ドルビーデジタルエンコーダを出展
さてさらに会場を歩いていると、楽器フェアには参加していなかった企業もいろいろと出ていることに気が付いた。Steinbergなどがその例だ。
ちょうどCubaseVST5.1をリリースしたばかりなので、気になっていたのだが、Inter BEEということで主役は「CubaseVST」ではなく、「NUENDO」。
日本法人の社長自らNUENDOのセミナーを開催していたのだが、NUENDO用のプラグインとして強力なソフト「Dolby Digital Encoder」が発表された。これまで、PCのCPUだけで行なうDolby Digitalへのエンコーダはあまりなかったが、今回SteinbergからWindows、Macintosh用それぞれがリリースされる。
NUENDOが中心のSteinberg | Dolby Digital Encorder |
エンコード・レードは56~640kbps。チャンネル設定もモノラルから5.1chといろいろなモードを持っている。最大6つまでのシングル・ファイルをエクスポート・ダイアログで使用可能なほか、NUENDOのプロジェクトをそのまま選択してエンコードできるようになっている。
価格は未定だが来年1月から2月にリリースされる。なお、DTSのエンコーダについてはまだリリースの予定は決まっていないものの、現在開発中とのことだ。
さらにSteinbergではハードウェアについてもいくつかリリースが予定されている。1つはフィジカルコントローラの「Houston」。MIDIおよびUSB(当初の対応はWindowsのみ。Macintoshは今後対応の予定)に対応したコントローラで、9本のタッチ・センシティブ・フェーダ(100mm仕様)を備えている。ロータリー・エンコーダー、ジョグ/スクラブ・ダイアルも装備しておりNUENDOおよびCubaseVSTに対応している。発売時期は11月末で20万円弱で発売される模様だ。
Houston | NUENDO Audiolink 96 Digiset |
またADAT、S/PDIF、MIDIを装備した最大26chの同時入出力24bit/96kHz対応のコンパクトなインターフェイス「NUENDO Audiolink 96 Digiset」も登場。実はこれRMEのOEM製品であり、メガフュージョンがRMEブランドで販売している「Digiface」(標準価格8万円)と中身的にはまったく同じもの。そのため、これと同じ8万円でまもなく発売する予定という。
■ Ethernet接続のサラウンド向けスピーカー
業界関係者向けのイベントなので、やはり会場には知人がいっぱい。色々と情報交換していると、その中の1人から「TCエレクトロニックがいろいろ面白いものを展示しているよ」とのアドバイスをくれた。さっそく行ってみたところ、いくつかの新製品を置いてあった。なかでもユニークだったのが「SHAPING THE INVISIBLE」という5.1chのサラウンド対応のモニタスピーカー。
何がユニークかというと、背面を見るとわかるように10Base-TのEthernetを使って接続するスピーカーというところ。もちろん、ここを流れるのはTCP/IPなどではなく、独自のプロトコロルなのだが……。
「SHAPING THE INVISIBLE」。背面にはEthernetコネクタが見える | 声質を変化させるVoicePrism |
センター、右前、左前の各スピーカーを兼ねるマスターユニットはアナログおよびAES/EBUの入力端子があり、これをEthernetを用いて、各サテライトスピーカーへ転送する。デジタルで転送されるため音質もよく、配線もしやすいというのがメリットになる。発売時期は年末で、価格はまだ未定とのことだ。
TCエレクトロニックでもう1つ面白かったのが、ボイスに対してリアルタイムにピッチやフォルマントを変えるプロセッサ「VoicePrism」だ。これはボーカルの音程を変更したり、フォルマントを変更して声質を男性から女性へ、まったく別の声へとさまざまに変換してしまう製品。発売は12月初旬で、価格は24~25万円程度となる見込み。
■ mLANを訴求したヤマハブース
ほかにも、いくつかのブースを見て回ったが、どれもすでに発表済みの知っている製品ばかり。そして、17時に「ホタルの光」の音楽とともにたどり着いたのが会場一番奥のヤマハブースだった。
ここは中央に先日発表したばかりのデジタル・ミキサーコンソール「DM2000」をセットしデモしていたが、ブース内に入ってみると、一番奥にはmLAN関連が展示されていた。
なかなか普及しないmLANだが、徐々に製品は増えてきているようで、今回新たに登場したのが、デジタルミキサー用のインターフェイスカード。すでに「CD8-mLAN」という製品が出ているが、今回登場するのはカードサイズを半分にしたものであり、AW4416やAW2816、DM2000などでも利用できるというもの。これらの製品の登場によりLANが、どこまで普及していくのか気になるところだ。
ヤマハの「DM2000」 | ハーフサイズのmLANインターフェイス | mLAN用ディストリビューション・ユニット |
また、その隣にはOTARIの「ND-20」という製品が展示されていた。これもmLAN関連で、IEEE 1394を用いてオーディオのネットワークを構築するためのディストリビューション・ユニット。
まだmLANでの実績はないとのことだが、対応は可能であり、これ単体でAD/DAコンバータ、サンプリングコンバータとして使用できる上、1台で32chの容量を持っている(96kHzサンプリングでは16ch)。価格的には100万円前後ということで、一般のエンドユーザーが購入するものではないが、スタジオでのmLANの普及には一役買うことになりそうだ。
というわけで、駆け足でInter BEE 2001で見つけた気になる製品を紹介してみたがいかがだっただろうか? 今後こうした製品のなかから、面白いものについては、実際に使ってレポートしていくことを予定している。
□Inter BEE 2001のホームページ
http://bee.jesa.or.jp/
□関連記事
【11月14日】業務用放送・オーディオ機器展「Inter BEE 2001」が開幕
―ビクターがリアルタイムMPEG-4出力DVカメラを参考出品
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011114/interbee.htm
【11月12日】ヤマハ、96kHz/24bit対応のデジタルコンソール
―サラウンド音声制作向けの機能も搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011112/yamaha.htm
(2001年11月19日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp