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第38回:仕切り直しての登場、NEC「SmartVision Pro HD40」
~ 周辺機器を越えた周辺機器はパソコンか? ~


■ パソコンとテレビの第4の関係?

 パソコンとテレビというのは、もうずいぶん昔から関係してきた。一番最初がどこか、と言われると筆者もちょいと自信がないが、コンシューマではDOSの時代からすでにテレビをパソコンの画面にオーバーレイするというカードがあったそうである。

 この「単にテレビが見られるだけ」という時点を第1世代とするならば、パソコンとテレビの関係はいくつかの段階を経てきた。MPEG1-で録画できるという段階が第2世代、そして最近起こったMPEG-2録画が第3世代である。この第3世代はMPEG-2を中心としたことで、DVDやデジタル放送といったほかのメディアも巻き込んで現在大きな流れになっているのはご存じのとおり。最近は水面下で第4世代かも? という動きがあるのをご存じだろうか。

 メーカー製デスクトップパソコンの、今年の冬モデルにその傾向が現われ始めているのだが、あまり積極的に宣伝されていないようだ。例えばNECのVALUESTAR Tシリーズには、テレビを楽しむ新機能として、ネットワークに繋がったほかのパソコンから放送中や録画済みの番組が見られるような仕組みを搭載した。またソニーのデスクトップ型VAIOでもGiga Pocketの新機能として同様の機能を搭載しているほか、旧来のユーザーにも同機能を有償でアップグレードするとしている。

 これらテレビ番組のネットワークシェアリングは有線はもちろん、無線LAN経由でも行なうことができる。ノートパソコンと無線LANで、完全ワイヤレステレビ/ビデオができあがるというのは、かなり魅力的な話ではないだろうか。今までは1台のパソコンに対してチューナユニット1つという1対1の関係であったわけだが、パソコンとテレビの関係の第4世代はこのような「1対多」の、映像のネットワークシェアリングなのかもしれない、という前兆を感じさせる。

 この根底にあるものは、やはりテレビ番組の変質ではないだろうか。テレビ番組はすでに「お茶の間でみんなが見るもの」という一般娯楽ものの生産を放棄し、よりコアな層に対して確実にヒットする、より趣味性の高いものの提供へと移っている。もちろんニーズがあるからそうなっていったわけだが、その結果家族の構成員それぞれが、見る番組が全然違うという現象を生み出してきている。そうなれば誰かが放送中の番組を見ている間にも、別の人は録画した番組が見たい、ということになる。そういったところに家庭内リソースシェアリングのニーズが転がっていると言えなくもない。

発売延期から3カ月、ようやく発売になった「SmartVision Pro HD40」

 おっと、前置きを書いているうちに話がどんどこ別の方向に行きそうなので、ゴーインに戻すことにする。今回取り上げるNECの「SmartVision Pro HD40」も、そのような映像のネットワークシェアリングを実現するための装置という見方をすることができる。元々この製品は、従来のUSB接続型チューナボックスにHDDを搭載した製品として、2001年8月末に発売される予定だったもの。そこから急激な仕様変更を行なって、ネットワーク対応とするために長らく発売延期となっていたのである。

 接続をUSBにしてしまうと、たとえ単体で録画できるとしても、その映像の取り出しには必ず決まったパソコンが1台必要になる。しかしネットワーク機器として独立して動くようになれば、複数のパソコンからアクセスすることができる。そういう仕様変更を行なっての再登場というわけだ。発売延期から約3カ月、大きく生まれ変わったSmartVision Pro HD40(以下HD40)をさっそくチェックしてみよう。


■ いきなりバラしかよ

 「えー買いました買いましたHD40! で今バラして写真撮ったりしてますんでえへえへ(ガチャ)」

 ちょっとまっ! もしもし? もしもし? おーい。Watch編集部にはどーも「買ったものは分解してよし、てか、しろ」みたいな伝統があるらしく、もう黙ってるとどんどこパラしちゃうのである。まぅー、バラす前に新品状態で使いたかったよう。

 AV Watch的にどーかとは思うが、まあせっかくバラしたってっいうんで中身でも覗いてみよう。本体を開けると、まずHDDと電源部が目に入る。HDDは珍しい、サムスン製の「SV4084H」。40GB、5,400rpm、一応低騒音モデルである。

本体を開けたところ。非常に堅牢な作りだ 国内ではあまり見かけない、サムスン製40GB HDD

 その下にはマザーボードがある。メモリースロット1、PCIバス1、それから32MBのコンパクトフラッシュが目を引く。メモリーは64MB DIMM(SDRAM)、PC133 CL=3とある。CPUはナショナル セミコンダクターのGeode GX1 300Bという、x86ベースの情報端末組み込み用のものである。詳細には触れないが、詳しく知りたい人はココとか見てみると楽しいかもしれない。

マザーボード全景。右肩にNEC Made in Japanの文字が見える CPUはナショナル セミコンダクターのGeode GX1 300B

 肝心のチューナーカードだが、チューナーユニットはALPS製。MPEGエンコーダは、GlobeSpan製「iTVC12」を採用している。おそらくSmartVision Pro 2 for USBの中身と同じものだろう。

チューナーカード全景。ライザカードを使ってマザーと平行に設置される MPEGエンコーダは、GlobeSpan製「iTVC12」

 こうしてみるとわかるとおり、HD40の実体はもう完全にパソコンである。OSはWindows NT Embedded 4.0と資料にあるが、それはおそらくマザーのコンパクトフラッシュ内に格納されているのであろう。NT Embeddedとは聴き慣れないバージョンかもしれないが、これは組み込み製品向けの特殊なNTだ。

■■ 注意 ■■

・分解/改造を行なった場合、メーカーの保証は受けられなくなります。
・この記事を読んで行なった行為(分解など)によって、生じた損害はAV Watch編集部および、メーカー、購入したショップもその責を負いません。
・内部構造などに関する記述は編集部が使用した個体に関してのものであり、すべての製品について共通であるとは限りません
・AV Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。


■ この製品のメリットとは

 この、スタンドアローンとして動くコンパクトな本体にネットワーク接続して、テレビの視聴を行なうというのが、HD40の基本構成である。テレビを複数台で見られるというメリットは、独身者にはあまり魅力的に映らないかもしれないが、妻帯者にとっては便利に思える機能だ。しかもHD40には、他にないいくつかのメリットを見いだすことができる。

 まず前出のVALUESTARやVAIOのようなシステムでは、チューナカードが載ったデスクトップパソコンそのものがサーバーとなり、他のパソコンがそこにアクセスする。ということは、そのサーバー機の電源が落ちている場合は、ただテレビを見たいだけであってもまったく役に立たないことになる。ところがHD40の場合はそれ自体がサーバー機能を持っているので、視聴するパソコンだけがあればいい。

 別のメリットとして、録画するHDDが選べるという点も見逃せない。番組予約する際に録画するHDDを、予約を行なったパソコンのローカルディスクにするか、HD40のHDDにするかを選択できる。

予約の際にも録画HDDを選択できる

 まあそれは当たり前として、面白いのは録画サポート機能だ。例えば予約時にはパソコンのローカルディスクに録画する設定をしていたが、録画時間になったときにそのパソコンの電源が切れていた、あるいはノートパソコンであれば持ち歩いていた、ということはあり得る話。このようなときには普通、録画予約はおじゃんになってしまうものだが、HD40ではネットワーク上に存在しないパソコンに代わって、HD40内のHDDに録画しておいてくれる。

 これらの機能をフルに活用すれば、もはやテレビ番組が何曜日の何時の放送であろうと、まったくそれに囚われることがなくなるだろう。

 しかしメリットもある代わりに、若干の制限もある。HD40にアクセスできるパソコンは2台まで。また現在放送中の番組は、どちらか1台でしか見られない。そのときもう1台では、録画された番組のみを見ることができる。また録画クオリティは、パソコンのHDDに録る際にはMPEG-2であれば3Mbps~8Mbpsまで段階的に設定できるのだが、HD40に録画する際には8Mbps固定になる。

 とまあこのような制限があるわけだが、パソコンのローカルHDDに録画した番組はそのパソコン単体で見ることができるわけだし、運用の仕方で十分カバーできるだろう。


■ 実際に運用してみる

 運用の中心となるのは、EPG予約用の「SmartVision-EPG」、視聴・録画管理用の「SmartVision-TV」。番組予約システムとしては、SmartVisionでは古くからEPGに対応していたが、このシステムの難点は、番組表がダウンロードできるのがだいたい2時間に一度しかない、というところだった。そこを逃すとまた2時間、番組予約がお預けなのである。しかし最近NECでは、そのEPG情報をインターネットから取得できる「SmartVision EPGローダー」(ADAMS-EPG+)を配布している。このおかげでソニーのiEPGと遜色ない予約システムとなり、使い勝手が非常によくなった。

iEPGと違い、画面1枚に1日の番組を表示するEPGのファンは多い EPGローダーを使えば、いつでもEPGデータをダウンロードできる

番組視聴の中心はやはり「SmartVision-TV」

 「SmartVision-TV」は、番組視聴と録画番組管理を行なうための総合アプリケーションである。SmartVision-TVでのテレビ視聴は、単に放送中の番組を見るだけでもタイムシフトモードがデフォルトである。そのためモードの切り替えにはタイムラグが発生する。

 例えばチャンネルの切り替えは約2秒、テレビから録画番組管理のバインダーモードに移行するのに約11秒かかる。そして、最も時間がかかるのが、バインダーモードからテレビに切り替えるときで、約24秒もかかる。モードを切り替えるのはなかなか勇気がいる話になってしまっているのは残念だ。

親指だけでほとんどの操作を可能にするリモコン

 レスポンスはこのような感じだが、付属のリモコンが全体の操作性を助けている。アプリケーションの起動や終了、レバーを使ってタイムシフト操作ができるため、なかなか快適。またマウスの操作もリモコンでできるため、寝っ転がってそこそこの操作もできる。ものぐさな人には便利だ。

 そのほか独自ツールとして、HD40のネットワーク設定用の「HD40設定ツール」、HD40内の映像にアクセスするための「SmartVision HD-バインダー」がある。HD40は工場出荷時のIPアドレスが「192.168.0.100」に設定されているが、このあたりのローカルアドレスの運用は、人によって違う場合もあるだろう。

 これを変更するためのツールが「HD40設定ツール」だ。ただ、HD40のIPアドレスの変更は、一時的にパソコンのIPを「192.168.0.xxx」に設定してからアクセスしなければならない。またどうせ2台繋ぐのであれば、このときいっぺんに設定してしまった方がややこしくないだろう。

HD40内の番組にアクセスする「SmartVision HD-バインダー」

 もう1つのツール「SmartVision HD-バインダー」は、HD40内のHDDに録画された番組の管理や視聴する際に使用するもの。そう、HD40内に録画された番組の視聴は「SmartVision-TV」からではなく、別ツールになっているのである。

 本来ならばHD40の内容も「SmartVision-TV」のバインダーに一本化されるべきではないかと思うのだが、まあこれは他のシリーズとの兼ね合いもあってなかなか難しいのかもしれない。

 さらに実際に運用してみて、気が付いたことをいくつかあげてみよう。まず2台でテレビが見られるようにしてみようと、妻の「VAIO QR1E/BP」(OSはWindows Me)にソフトウェアをインストールしてみたのだが、なぜか肝心のSmartVision-TVを起動することができなかった。まさかソニーのパソコンでは起動しないようになっているわけではあるまいが(苦笑)、VAIOにもAV関係のツールが山のようにインストールされており、とてもプレーンなPCとは言い難い状態なので、もう少しいろいろ格闘してみないといけないようだ。

 なお後日、思い切ってVAIO QR1E/BPのOSをWindows XP Home Editionにアップグレードしてみたところ、無事SmartVisionTVも起動できるようになり、テレビの録画や視聴が可能になった。マシンのパフォーマンス(モバイルCeleron 600MHz)としては、HD40に録画した8Mbpsのデコードにはやや無理があるものの、ノートで自在にテレビ視聴が可能になる意義は大きい。  またすべてのパソコンをOFFにしてHD40だけにしてみたところ、こいつ、実は結構うるさいことがわかった。HDDのシーク音もそんなに静かとは言えないし、何よりもファンの風切り音がうるさい。さらにHD40にはスタンバイモードなどがないので、ずーっと起動したままであり、したがってこの音はずーっと続くわけである。これだったら、筆者が電源ファンを静音タイプに交換したTV録画用マシンのスタンバイ状態の方が、まだ静かかもしれない。

フロントのボタン類は、予約と録画情報を確認するだけのもの

 正面パネルのコントローラは、表示と合わせて必要最小限のことができる程度で、実際にはほとんど使わない。本体にこれらを装備した理由は、パソコンを起動しなくてもある程度のことがわかるというところだと思うが、本当にそれは「わかる」だけで、「できる」わけではない。つまりこれだけの数のボタンを用意しながら、予約のちょっとした修正や消去などは全然できない。

 また正面にあるタイマーボタン、この存在意義がよくわからない。これを点灯しないとHD40での予約録画が働かないのだが、果たして予約をしておきながら、わざわざ録画を実行しないという動作が必要になるのだろうか。一応付属のペーパーに注意があるのだが、デフォルトではOFFになっているので、製品を買った人はまずここにハマルと思う。


■ 総論

 製品の内容としては、新機軸の製品にもかからわず基本機能がしっかりしているのは評価できる。やはりそのあたりはSmartVisionシリーズの開発を積み重ねてきた結果であろう。画質的にはfor USBと変わらないと思うが、せっかく編集部ががんばってキャプチャしてくれたので、参考にして欲しい。

 編集部で、TVチューナの画質評価も同時にするためRF入力からの録画を行なった。

 素材にはカノープス株式会社の、プロ向け高画質動画素材集「CREATIVECAST Professional」をDVテープに書き出して使用。なお、サンプル版なので、画面右端にロゴが焼きこまれている。

 そのDVテープを、DVデッキ「ソニー WV-DR5」で再生し内蔵のRFコンバータで2chのTV信号として出力。それをDMR-HS1のRF入力経由でキャプチャした。

 下の各サムネイルは、左の画像の赤枠内を拡大したもの。各モードの画像をクリックすると再生が始まる。
 なお、サムネイルは「PowerDVD XP」で再生し静止画キャプチャを行ない作成した。

(c)CREATIVECAST Professional

【MPEG-2形式】
8Mbps(720×480ドット)

hd40_8m.mpg(10.2MB)
【MPEG-2形式】
6Mbps(720×480ドット)

hd40_6m.mpg(8.28MB)
【MPEG-2形式】
3Mbps(352×480ドット)

hd40_3m.mpg(3.72MB)

MPEG-2の再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載したMPEG-2画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 また文字放送やデータ放送、EPGなど、現在の地上波でできることに数多く対応しているのも魅力。欲を言えば、PCであるという特徴がもう少し欲しかった。やっぱりスタンバイ機能は欲しいところだし、録画完了をメールで知らせてくれる機能とかあっても面白いと思う。

 一方本体の外観面では、さほど小さくもないというのが正直なところ。シリーズとしてSmartVision Pro2 for USBのデザインを踏襲するというのはわかるが、正直言ってそのイメージがあるが故に、逆にこのサイズはでっけえと感じてしまう。最近の自作キットでは小型キューブでかっこいいデザインのPCも販売されており、そういうものに比べてデザイン性や将来的なメンテナンス性がどうかというのも、ちょっと考えさせられる。

 もっともNECの資産は、やはりよくできたソフトウェア群だと思うので、デザイン面はともかく、同製品のフォロワーが出てきても機能的にはちょっとやそっとじゃ追いつけないだろう。

 ハードウェアとしては、ベースがPCであることもなんとなく安心できる。編集部でHDDを乗っけ変えてみたところ、起動時にエラーを出して自動的にフォーマットするところまでは行ったらしいので、乗せ替えもまんざら無理な話でもなさそうだ。うるさいファンも自分で低速回転のものに変えるとかといった対応も可能だろう。もちろんそんなことをしたらメーカー保証はないのだが、ハードウェアに強い人ならいじりがいのあるマシンであるとも言える。

 デザイン的にはイマイチだが、キューブ型PCと比べると作る手間は省けるし、内部的な作りもしっかりしている。またソフトウェアもこなれているのも魅力だ。トータルの価値を考えると、これで実売8万円台ならまずまず納得の価格と言えるのではないだろうか。

□NECのホームページ
http://www.nec.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.nec.co.jp/press/ja/0107/0901.html
□関連記事
【8月28日】NEC、HDD内蔵「SmartVision Pro HD40」の発売を延期
―Ethernetを内蔵するなど仕様を変更、11月末に発売
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010828/nec.htm
【7月9日】NEC、単体での録画も可能な「SmartVision Pro HD40」
―40GBのHDDを内蔵し、USB経由でPCから録画予約
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010709/nec1.htm

(2001年12月5日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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