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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第39回:充実のコストパフォーマンス「PIX-MPTV/P1W」
~ 新エンコーダチップ搭載の実力は? ~


■ PIXELAというメーカー

 PIXELAという会社が一般的に知られるところとなったのは、まだDVキャプチャが出始めの頃であろう。当時まだOHCIなんかなく、DVキャプチャ/ビデオ編集製品全体が7万だの10万だのと高いこと吹っかけてた中で、1社だけ非常にリーズナブルな価格、かつハードウェアも編集ソフトウェア全部オリジナル開発という製品を発表し、注目された。

 その後もボックスタイプのキャプチャ製品やDVD-RAMドライブなど、ビデオ系に詳しいユーザーなら見逃せない製品を次々とリリースしている。また同社の特徴として、WindowsとMacintosh両対応の製品を均等に開発しているという点も珍しい。

 ただ筆者がPIXELA製品と今ひとつ縁がなかったのは、割とリリースのタイミングがブームの先頭からちょっとズレて安定期に入ってから、というパターンが多いからである。ハードもソフトもまじめに自社開発なので、出来合いのものを集めていいタイミングでパパッと製品化しちゃう商社系ベンダーに対して、どうしても遅れを取りがちなのであろう。したがって先物買いユーザーである筆者の購入タイミングと合わないのだ。しかしリリースを見たりして、ああ地道にいいもの作ってるなぁ、という「気になるメーカー」の1つではあった。

 そんなPIXELAから、またちょっと気になる製品としてハードウェアエンコーダ搭載のTVキャプチャカード「PIX-MPTV/P1W」(実売26,000円程度)が発売された。そしてこれまたいつものようにちょっとだけブームに遅れての登場という感もある。独自色の強いPIX-MPTV/P1W(以下P1W)、その実力を早速確かめてみよう。


■ 映像は独特のタッチ

カード自体は部品数の少ない、すっきりした設計

 まずカードだが、ハードウェアエンコーダ搭載の割には全体的に部品数が少なく、すっきりした作り。ハードウェアエンコーダはファンに隠れて見えないが、GlobeSpanの新チップ「iTVC15」である。このチップを使ったキャプチャカードはまだ珍しく、以前Askから発売になった「NAVIS2」がどうもソレらしい、という話があったものの、結局正式な発表はないままになっている。実質きちんとした形で発表した製品は、このP1Wが最初ということになる。

 ハードウェアスペックとしてはココのリリースを見てもらうとして、実際の使い勝手などを見てみよう。

 ソフトウェアの構成としては、テレビ視聴用として「PixeStationTV Ver2.0」、予約管理・実行の「TVスケジューラ」、録画したものを見るための「録画ファイルブラウザ Ver2.0」、映像編集用として「PixeDV EX Ver3.20」から成っている。

TV視聴のメインとなるPixeStationTV

 まずテレビ視聴用のPixeStationTVから見てみよう。テレビ視聴用とはいっても、外部入力からの録画ソフトと兼用の作りである。チャンネル設定は、日本全国のプリセットが入っており、それを選択するだけでチューニングが完了する。CATVなど独自チャンネルが入っている場合は、マニュアルで設定できる。

 録画モードは、MPEG-1とMPEG-2から選択する、やはり注目はMPEG-2の設定だろう。画質として「最高画質(8Mbps)」「高画質(6Mbps)」「標準(4Mbps)」の3種類と、「カスタム設定」が可能だ。

シンプルながらツボを押さえたパラメータ

 カスタム設定では、1Mbpsから12Mbpsまでの間でCBRを使用することもできるほか、VBRも使用できる。VBRは何Mbpsという数値を設定するのではなく、スライダーで圧縮率を%で決めるという方法がユニークだ。1%で12Mbpsぐらい、50%で6Mbpsぐらいということらしい。

 特徴的なのは音声の扱いで、プリセット値にはデフォルト値が一応あるものの、これは記憶されておらず、「カスタム設定」での設定値をそのまま使用するようになっている。MPEG-2ファイルをDVD系に流用するためにはオーディオの設定がキモになってくるわけだが、同時にいままで他の製品で問題になっているところである。さすがにこのあたりは後発の強みを活かして、よく考えている。

 このソフトの特徴は、単にテレビを見る場合でも常時タイムシフトモードになる、というところである。他のテレビ視聴製品、例えばNECのSmartVisionTVなどもデフォルトでそういうモードで起動するが、PixeStationTVの場合はそれ以外にできない。つまりダイレクトにテレビの映像を見るだけ、というモードがない。PixeStationTVを起動してから「再生」ボタンを押して、ようやくテレビを見ることができる。さすがにこれはまどろっこしい。

 まあ仮にそこをよしとしても、このシステムの難点として画質調整が絵を見ながら行なえないというところはイタい。一応「輝度」「コントラスト」などの画質調整、またこのグレードの製品には珍しい「ノイズリダクション」の設定など細かくできるのだが、いかんせんテレビ視聴のための「再生」を停止してからでないと設定モードに入れないので、いったいどーせいっちゅーねん! といったジレンマに陥るのである。

ノイズリダクションなど、表示にはかなり細かい設定ができるのだが……

 チャンネルの切り替えには、タイムシフトの関係もあって、約2秒ほどかかる。しかしなかなかうまいのは、切り替えてから割とすぐに切り替え先チャンネルの映像を静止画で先に出してしまうところ。そこから約1秒後に映像が動き出すという感じ。そのため、体感ではもっと切り替えが速いような印象を受ける。

 気になる画質の方だが、かなり独特のタッチである。デジタルっぽい角の立ったノイズはほとんど見られないが、全体的にアナログっぽいソフトタッチの映像になる。このあたりは好みが分かれるところだろう。画質評価はいつものように編集部がサンプルを作ってくれたので、参考にして欲しい。

 編集部で、TVチューナの画質評価も同時にするためRF入力からの録画を行なった。

 素材にはカノープス株式会社の、プロ向け高画質動画素材集「CREATIVECAST Professional」をDVテープに書き出して使用。なお、サンプル版なので、画面右端にロゴが焼きこまれている。

 そのDVテープをDVデッキ「ソニー WV-DR5」で再生し、内蔵のRFコンバータで2chのTV信号として出力。それをキャプチャした(すべてCBR、DNR ON)。

 下の各サムネイルは、左の画像の赤枠内を拡大したもの。各モードの画像をクリックすると再生が始まる。サムネイルは「PowerDVD XP」で再生し静止画キャプチャを行ない作成した。

(c)CREATIVECAST Professional

【MPEG-2形式】
カスタム設定(12Mbps)
(720×480ドット)

pix_12m.mpg(14.4MB)
【MPEG-2形式】
最高画質(8Mbps)
(720×480ドット)

pix_best.mpg(9.87MB)
【MPEG-2形式】
高画質(6Mbps)
(720×480ドット)

pix_hi.mpg(7.24MB)
【MPEG-2形式】
標準画質(4Mbps)
(720×480ドット)

pix_std.mpg(4.87MB)

MPEG-2の再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載したMPEG-2画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 表示結果は、縮小表示では若干物足りなさを感じるが、フルスクリーン表示にして2メートルぐらい離れればまずまずの品質に見える。ノイズリダクションはかなり効いているようで、確かにこれをOFFにしていると多少映像のキレが上がるものの、そのかわりザラツキも目立ってくる。ノイズリダクションの設定を細かく追い込んでやればもうちょっとバランスの取れた画質が得られることと思うが、止めては設定、設定しては再生、などということは実際にはあほらしくてやってられないわけで、このあたりの使い勝手はもう少し改善されるべきであろう。せっかくの機能がもったいない。


■ 予約システムはまずまず

iEPGと違い、画面1枚に1日の番組を表示するEPGのファンは多い

 番組の予約は、常駐するTVスケジューラから行なう。やはり今どきの標準機能として、iEPGに対応しており、デフォルトでは「On TV Japan」へ飛ぶようになっている。ここのようなiEPG対応のWEBから情報をダウンロードすると、予約設定画面が起動する。カレンダー表示などおなじみのスタイルだが、ちょっとわかりにくいのが「毎週録画」の設定かもしれない。チェックを付けるといきなり月曜日から金曜日の設定になるが、毎週決まった曜日の録画設定は、例えば水曜日ならば「水曜日~水曜日」のように設定する。一度覚えてしまえばなんということもないが、自動的にカレンダーの曜日を読みとって設定するといったことをやってくれてもいいように思う。

予約の時間割スタイルは、リストよりも感覚的にわかりやすい

 また画質部分では、新しい予約を設定するたびにいつもMPEG-2の「高画質」が録画のデフォルトとなっている。このあたりは自分の定番を作ってそれでいつも運用するという人も多いことと思うので、できれば最後に設定した値を引き継ぐような機能が欲しいところだ。予約状況の確認は、リスト状のもののほかに時間割表示にもすることができるため、予約時間の把握がやりやすい。

 予約録画がスタートすると、自動的にPixeStationTVが起動して番組の録画を行なう。このときも当然タイムシフト再生なので、予約録画中でありながらもすぐにタイムシフト再生に移れるところはいい。このあたりは、予約録画の実行を別ソフトとして作ってしまったメーカーが苦戦しているところである。番組が始まったころに家に帰ってきたときなどには、便利だろう。

録画したものを再生するだけのシンプルなファイルブラウザ

 録画した番組は、録画ファイルブラウザを使って再生する。これは非常にシンプルなソフトで、録画した番組のサムネイルをダブルクリックして再生するだけだ。


■ 充実した映像管理機能

強力な入出力機能を持つPixeDV EX

 P1Wが他のTVキャプチャ製品と比べて特徴的なところに、映像管理機能の充実という点があげられる。付属のPixeDV EXは、なかなか強力なアプリケーションだ。

 一般的には映像編集ソフトという認識で間違いないと思うが、それよりもさまざまなフォーマットに対応する柔軟な入出力機能が面白い。P1Wで録画したテレビ番組や、アナログ入力から録画したMPEG-1/2映像が取り込めるのは当たり前だとして、DVの入力もサポートしている。つまり6,500円ぐらいのIEEE 1394カードを買ってくれば、DVカメラからの映像取り込みもできる。そしてもったいぶって最後に書くが、VR(ビデオレコーディング)フォーマットで録画したDVD-RAMからの映像も持ち込めるのだ。

単純なMPEG編集機能ながら、使いやすいインターフェース

 元々は日立からリリースされているDVDカムの映像編集を想定しているのだと思うが、たまたま先日レビューしたPanasonicのDMR-HS1でVR録画したメディアが手元にあったので試しにつっこんでみたところ、問題なくインポートできた。

 録画した番組などのMPEG-2ファイルは、独自の「MPEGエディタ」で再エンコードなしに編集できる。編集といってもここではいらないところをカットする程度のものだが、番組からCMをカットするという用途では十分。厳密には編集点付近のGOPをほんの少しだけ展開してGOPを再構築するわけだが、番組全体をMPEG-2で再圧縮するわけではないので、基本的に画質はキープされると考えていい。

 面白いのは前後の3コマがサムネイルで表示され、使うところはそのサムネイルを「スタート」と「エンド」のところにドラッグ&ドロップするというインターフェースになっているところ。MPEG-2での編集の場合、あまりぎりぎりのところでカットしようとすると、いらないコマが1フレーム残ってしまったりすることがあるのだが、これならカット替わりを探して3コマ後から使う、といった設定が一発でできる。

カノープスがリリースした「CMカッター」トライアル版

 このような再圧縮なしのCMカット機能は、先日カノープスがMTV1000用の「CMカッター」トライアル版をリリースするなどの動きもあり、TVキャプチャ製品で再圧縮なしCMカット用の編集ツールを付けるというのは今後のトレンドとなるのでは、というか、なって欲しいと思う。

DVD-RAMへもVRフォーマットで書き出すことができる

 その編集した番組はPixeDV EXの出力機能を使って、今度はDVD-RAMにVRフォーマットで書き出せる。試しにPanasonicの「LF-D321JD」で書き出してみたところ、最初からVRフォーマットで記録されていないMPEG-2ファイルは変換に若干の時間がかかるものの、問題なく書き出せる。また追記もOKだ。

 この機能を使えば、毎週録画している番組を整理してDVD-RAMにライブラリ化、という流れがスムーズに行なえる。またPanasonicのDreamのようなDVD-RAMしか記録メディアがないレコーダーで、2枚に分かれてしまった続きの番組を1枚にまとめるといったこともできる。DVD-RAMをメインに据えるなら、このソフトはなかなか使いでがある。


■ 総論

 PIXELA PIX-MPTV/P1Wは「今頃TVキャプチャカードかよ」と見られがちだが、実際にさわってみると、MPEG-2ハードウェアエンコーダカードに新しくチューナを載せました、といったほうが正しい認識かもしれない。いや決してTVチューナがオマケということではなく、アプリケーションの比重を考えると映像管理機能がこれだけ強力でありながら「TVキャプチャカードです」っていうのもちょっと違う気がするのである。

 特にパソコン上からDVD-RAMにVRフォーマットで書き込めるソフトは今までPanasonicのDVD-Movie Albumぐらいしか知られていなかったので(ってみんな知ってたのかな、筆者が知らなかっただけ?)、テレビ録画機能と組み合わせていろいろ面白いことができそうである。

 またPIXELAでは、来年早々にTVチューナ搭載のビデオ出力対応MPEG-1/2キャプチャボックス「PIX-MPTV/U1W」のリリースも控えている。こちらはUSB接続なだけにビットレートには上限があるが、機能的にはほぼP1Wと同等ということで、なかなか期待できそうだ。

□ピクセラのホームページ
http://www.pixela.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.pixela.co.jp/news/2001/1030.htm
□関連記事
【10月30日】ピクセラ、ハードウェアエンコーダ/TVチューナ搭載カード
―iEPG対応、DVD-RAMへのVR書き出しも可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011030/pixela.htm

(2001年12月12日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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