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第43回:圧縮音楽フォーマットを比較する
~ その2:マイクロソフトの「Windows Media Audio」 ~



 Windows上におけるオーディオ圧縮の代表選手ともいえるのが「Windows Media Audio」。最近では対応するポータブルプレーヤーも増えてきているし、MP3関連ユーティリティの多くがサポートし始めている。しかし、ひとことでWindows Media Audioといっても実はいろいろなバージョンが存在し、わかりにくい面も多い。

 そこで、今回もいつもと同じようにWindows Media Audioの特性をチェックするとともに、その違いについても見てみることにしよう。


■ NetShowから進化してきたWindows Media Audio

 気がつくと「Windows Media Audio = WMA」というファイル形式も一般的なものになり、広く使われるようになってきた。Windowsに標準で添付されるWindows Media Playerに搭載していることもあり、知らないうちに使っていたというケースも少なくないだろう。

 しかし、このWinows Media Audioも歴史を振り返ると、さまざまな変遷を経て現在に至っている。そもそも、この技術が登場したときは「NetShow」という名称だった。もう覚えている人も少ないだろうが、Microsoftのビデオ会議用のフォーマットとして出てきたのがNetShow。しかし、このNetShowはほとんど誰も使わないうちに、Microsoftが方針転換し、ストリームデータ配信用のものに用途変更。そこでWindows Media Audioという名称が登場してきた。ただ当初は拡張子が「ASF」というものであり、Windows Media Audioという名前とは一致せず、イメージ的にもインパクトは弱かったように思う。ちなみに、このときのWindows Media Audioのバージョンは4.1だった。

 さらにその後Windows Media Player 7.0のリリースとともに、WMAという拡張子になり、Windows Media Audioのバージョンは一気に飛んで7に。おそらくWindows Media Playerとのバージョンをあわせたのだろう。ちょうどそのころポータブルプレーヤーも続々と登場し始め、対応ソフトもいろいろと出てくるなどWMAの地位を確立していった。

 そして2001年5月、Windows Media Plyer 7.1の登場とともに、またコーデックエンジンがWMA7からWMA8へと進化した。せっかくバージョン番号がそろったのに、今度はコーデック側が追い越した格好である。もっとも、ユーザーインターフェイスはWindows Media Player 7.0も7.1も変わらないので、これを8.0とするのには無理があったのかもしれないが……。

 Microsoft側は、このWindows Media Audio 8となったことで、音質が飛躍的に向上したとアナウンスしている。そういえば、以前WMAを64kbps程度でエンコードすると、高音がキュルキュルした音になったり、シンバル音などが妙に金属音っぽくなったりした記憶があるが、これが直ったということなのだろうか?

 そこで、今回はWindows Media Audio 8を中心に過去のバージョンとも比較しながら、Windos Media Audioの実力に迫ってみたいと思う。


■ エンコーダには、Windows Media Player 7.1を使用する

 MP3の場合、さまざまなメーカーがエンコーダを開発しているが、Windows Media Audioの場合、エンコーダを開発しているのはMicrosoftのみだ。MP3ツールなどでWindows Media Audioをサポートしているものもあるが、これらもエンジン部分はMicrosoftからの提供を受けており、各社はそれを搭載しているだけである。

Windows Media Player 7.1

 となると、とりあえずMicrosoft製品でエンコードしてしまうのが便利そうだ。エンコーダを備えたもっともポピュラーな製品はWindows Media Playerだろう。Windows XPであればWindows Media Player for Windows XPというものが搭載されているが、中身的にはWindows Meや98で動作するWindows Media Player 7.1と同じもののようだ。

 また、Microsoftでは、これのほかに、より細かな設定ができる「Windows Media エンコーダ 7.1」と、「Windows Media 8 Encording Utility」(操作はコマンドラインで行なう)というものも存在する。ただ、エンコーディングエンジンはいずれも同じものを使っているから、同じビットレートに設定した場合は結果は同じなるはず。もちろん、これらを用いれば、Windows Media Playerよりも細かな設定は可能だが、代表的なエンコード結果を比較をするということで、今回はWindows Media Playerを用いた。

Windows Media エンコーダ 7.1

 しかし、ここで1つ問題が起こった。手持ちのオリジナルデータはいずれもWAVファイルであるのに対し、Windows Media PlayerではWAVからWMAへの変換はサポートされていない。もちろん、Windows Media Encoder 7.1や、Windows Media 8 Encording UtilityでならWAVから変換できるが、Windows Media PlayerではCDからのエンコードのみ。

設定できるのはビットレートのみ

 結局、手元のオーディオファイルをWinCDR 7.0を使ってCD-DAで焼いて、Windows Media Player 7.1を用いてエンコードした。また、設定はエンコード時のビットレートを変えただけで、設定できる値は64kbps、96kbps、128kbps、160kbpsの4段階。

 ここから先の方法は、前回のATRAC3のときと同様に、Total Recorderというソフトを用いて、WMAファイルをWAVファイルに変換し、それをWaveSpectraで読みこませるというものである。

 まず、音楽素材(Tingaraの夜間飛行)を用いての結果が、以下のグラフである。

【WMA8のエンコード結果】
【オリジナルデータ】

【64kbps】
約362KB(wma8_64.wma)
【96kbps】
約541KB(wma8_96.wma)
【128kbps】
約719KB(wma8_128.wma)
【160kbps】
約898KB(wma8_160.wma)

 以上のグラフを見ると、いずれのビットレートでも高音域がなくなっていることに気づくだろう。ただ実際に聞いてみると、グラフから感じられるほど音は悪くない。MP3でこれくらいバッサリ高音が落とされると、かなり変わっていることが聞いてわかるのだが、それほど感じない。ただし、64kbpsまで落とすとだいぶ違いが感じられるようになる。とはいえ、MP3の64kbpsと比較すると、圧倒的にいい音と感じる。

(C)TINGARA
「夜間飛行」(作詞:名嘉睦稔 作曲:名嘉睦稔、TINGARA)
□TINGARAのホームページ
http://www.tingara.com/


■ スイープ信号を通すと、明らかにローパスフィルタが入っている

 さて次に、20Hzから22.5kHzのスイープ信号および、1kHzのサイン波をエンコードした結果をグラフに表示してみた。結果は以下のとおりである。

【スイープ信号】
【64kbps】 【96kbps】
【128kbps】 【160kbps】

【サイン波】
【64kbps】 【96kbps】
【128kbps】 【160kbps】

 まず、スイープ信号の結果を見る限り、これは明らかにローパスフィルタが入った形で、高域がカットされている。64kbpsの場合は18kHzで、160kbpsでも20kHzでカットされてしまっているようだ。それが結果として先ほどの曲の場合にも現れてきたのだろう。Microsoftでは、「低ビットレートでも非常に高音質」という表現をしているが、これは64kbps以下をさしているのだろうか? 逆に高ビットレートにおいては、MP3にも負ける可能性がありそうだ。

 一方の1kHzの信号に対するスペクトラムの分散度合いはというと、これもグラフ上はあまりいい結果とは思えない。一般的なMP3エンコーダの結果と比較しても、1kHz以外の信号の度合いが非常に多く、結果としてS/Nは75dB程度になっている。なお、ビットレートの差はほとんどないようで、いずれのビットレートの結果もほぼ一致する。


■ WMA7もWMA4もそれほど違わない!?

 さて、ここでもう1つ比較をしておきたいものがある。それは、Windows Media Audioの古いバージョンとの比較だ。

 冒頭でも触れたように、Windows Media Audioのバージョンは4.1、7、8という順に上がってきている。さきほど取り上げたのはもちろん、最新のWMA8なのだが、それまでのWMA7、さらにはもっと昔のWMA4.1と比べてみることにしよう。

 WMA7はWinows Media Playerの前のバージョンである7.0が動作しているマシンで用いられている。たとえばWindows MeなどはOSとしてはじめからWindows Medai Player 7.0が搭載されており、これのCD録音機能を用いればWMA7でのエンコードができる。

 しかし、さらにその前のバージョンになると、Windows Media Playerに録音機能が装備されていないため、エンコードすることができない。そのため別途エンコーダのアプリケーションが必要になるわけだが、当時Microsoftが無償配布していたWindows Media Encorderというものが手元にあったので、これを使用した。

Windows Media Encorder

 それぞれのエンコーダでの音楽素材をエンコードした結果が以下のグラフだ。見た目上はWMA7もWMA8もほとんど変わらず、WMAの4.1はだいぶ違った特性になっている。波形的にオリジナルからは遠くなるが、4.1の方がローパスフィルタがない分、高域まで音が出ている。

【WMA7のエンコード結果】
【オリジナルデータ】

【64kbps】
約362KB(wma7_64.wma)
【96kbps】
約541KB(wma7_96.wma)
【128kbps】
約719KB(wma7_128.wma)
【160kbps】
約898KB(wma7_160.wma)

【WMA4.1のエンコード結果】
【オリジナルデータ】

【64kbps】
約361KB(wma4_64.asf)
【96kbps】
約537KB(wma4_96.asf)
【128kbps】
約713KB(wma4_128.asf)
【160kbps】
約890KB(wma4_160.asf)

 実際に音を聞いてみても、WMA7とWMA8の差はあまり感じられなかった。またキュルキュルした音も消えていない。たしかにWMA4.1と比較するとオリジナルに近い感じではあるのだが……。

 もしかしたら、32kbpsとか16kbpsさらにはそれ以下のサウンドでWMA8の効果が発揮されているのかもしれない。しかし、そこまでビットレートを下げると、いくらほかの圧縮技術と比較して音がよくても、音楽用というものではないように思う。

 ただ、最後に補足しておけば、グラフの見た目上の悪さに比べれば、聴感上の音質は結構いい。たぶん曲にもよるのだろうが、今回取り上げているTingaraの夜間飛行に限っていえば、96kbpsあたりでもMP3のほとんどのものよりも聴感上の音質がいい(オリジナルに近い雰囲気)ように思えた。ぜひ、みなさんも、自分の耳で試してみてほしい。

□マクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
□Windows Media Playerのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/windows/windowsmedia/download/default.asp

(2002年2月4日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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