Windows上におけるオーディオ圧縮の代表選手ともいえるのが「Windows Media Audio」。最近では対応するポータブルプレーヤーも増えてきているし、MP3関連ユーティリティの多くがサポートし始めている。しかし、ひとことでWindows Media Audioといっても実はいろいろなバージョンが存在し、わかりにくい面も多い。
そこで、今回もいつもと同じようにWindows Media Audioの特性をチェックするとともに、その違いについても見てみることにしよう。
■ NetShowから進化してきたWindows Media Audio
気がつくと「Windows Media Audio = WMA」というファイル形式も一般的なものになり、広く使われるようになってきた。Windowsに標準で添付されるWindows Media Playerに搭載していることもあり、知らないうちに使っていたというケースも少なくないだろう。
しかし、このWinows Media Audioも歴史を振り返ると、さまざまな変遷を経て現在に至っている。そもそも、この技術が登場したときは「NetShow」という名称だった。もう覚えている人も少ないだろうが、Microsoftのビデオ会議用のフォーマットとして出てきたのがNetShow。しかし、このNetShowはほとんど誰も使わないうちに、Microsoftが方針転換し、ストリームデータ配信用のものに用途変更。そこでWindows Media Audioという名称が登場してきた。ただ当初は拡張子が「ASF」というものであり、Windows Media Audioという名前とは一致せず、イメージ的にもインパクトは弱かったように思う。ちなみに、このときのWindows Media Audioのバージョンは4.1だった。
さらにその後Windows Media Player 7.0のリリースとともに、WMAという拡張子になり、Windows Media Audioのバージョンは一気に飛んで7に。おそらくWindows Media Playerとのバージョンをあわせたのだろう。ちょうどそのころポータブルプレーヤーも続々と登場し始め、対応ソフトもいろいろと出てくるなどWMAの地位を確立していった。
そして2001年5月、Windows Media Plyer 7.1の登場とともに、またコーデックエンジンがWMA7からWMA8へと進化した。せっかくバージョン番号がそろったのに、今度はコーデック側が追い越した格好である。もっとも、ユーザーインターフェイスはWindows Media Player 7.0も7.1も変わらないので、これを8.0とするのには無理があったのかもしれないが……。
Microsoft側は、このWindows Media Audio 8となったことで、音質が飛躍的に向上したとアナウンスしている。そういえば、以前WMAを64kbps程度でエンコードすると、高音がキュルキュルした音になったり、シンバル音などが妙に金属音っぽくなったりした記憶があるが、これが直ったということなのだろうか?
そこで、今回はWindows Media Audio 8を中心に過去のバージョンとも比較しながら、Windos Media Audioの実力に迫ってみたいと思う。
■ エンコーダには、Windows Media Player 7.1を使用する
MP3の場合、さまざまなメーカーがエンコーダを開発しているが、Windows Media Audioの場合、エンコーダを開発しているのはMicrosoftのみだ。MP3ツールなどでWindows Media Audioをサポートしているものもあるが、これらもエンジン部分はMicrosoftからの提供を受けており、各社はそれを搭載しているだけである。
Windows Media Player 7.1 |
となると、とりあえずMicrosoft製品でエンコードしてしまうのが便利そうだ。エンコーダを備えたもっともポピュラーな製品はWindows Media Playerだろう。Windows XPであればWindows Media Player for Windows XPというものが搭載されているが、中身的にはWindows Meや98で動作するWindows Media Player 7.1と同じもののようだ。
また、Microsoftでは、これのほかに、より細かな設定ができる「Windows Media エンコーダ 7.1」と、「Windows Media 8 Encording Utility」(操作はコマンドラインで行なう)というものも存在する。ただ、エンコーディングエンジンはいずれも同じものを使っているから、同じビットレートに設定した場合は結果は同じなるはず。もちろん、これらを用いれば、Windows Media Playerよりも細かな設定は可能だが、代表的なエンコード結果を比較をするということで、今回はWindows Media Playerを用いた。
Windows Media エンコーダ 7.1 |
しかし、ここで1つ問題が起こった。手持ちのオリジナルデータはいずれもWAVファイルであるのに対し、Windows Media PlayerではWAVからWMAへの変換はサポートされていない。もちろん、Windows Media Encoder 7.1や、Windows Media 8 Encording UtilityでならWAVから変換できるが、Windows Media PlayerではCDからのエンコードのみ。
設定できるのはビットレートのみ |
結局、手元のオーディオファイルをWinCDR 7.0を使ってCD-DAで焼いて、Windows Media Player 7.1を用いてエンコードした。また、設定はエンコード時のビットレートを変えただけで、設定できる値は64kbps、96kbps、128kbps、160kbpsの4段階。
ここから先の方法は、前回のATRAC3のときと同様に、Total Recorderというソフトを用いて、WMAファイルをWAVファイルに変換し、それをWaveSpectraで読みこませるというものである。
まず、音楽素材(Tingaraの夜間飛行)を用いての結果が、以下のグラフである。
【オリジナルデータ】 |
【64kbps】 約362KB(wma8_64.wma) |
【96kbps】 約541KB(wma8_96.wma) |
【128kbps】 約719KB(wma8_128.wma) |
【160kbps】 約898KB(wma8_160.wma) |
以上のグラフを見ると、いずれのビットレートでも高音域がなくなっていることに気づくだろう。ただ実際に聞いてみると、グラフから感じられるほど音は悪くない。MP3でこれくらいバッサリ高音が落とされると、かなり変わっていることが聞いてわかるのだが、それほど感じない。ただし、64kbpsまで落とすとだいぶ違いが感じられるようになる。とはいえ、MP3の64kbpsと比較すると、圧倒的にいい音と感じる。
(C)TINGARA
「夜間飛行」(作詞:名嘉睦稔 作曲:名嘉睦稔、TINGARA)
□TINGARAのホームページ
http://www.tingara.com/
■ スイープ信号を通すと、明らかにローパスフィルタが入っている
さて次に、20Hzから22.5kHzのスイープ信号および、1kHzのサイン波をエンコードした結果をグラフに表示してみた。結果は以下のとおりである。
【64kbps】 | 【96kbps】 |
【128kbps】 | 【160kbps】 |
【64kbps】 | 【96kbps】 |
【128kbps】 | 【160kbps】 |
まず、スイープ信号の結果を見る限り、これは明らかにローパスフィルタが入った形で、高域がカットされている。64kbpsの場合は18kHzで、160kbpsでも20kHzでカットされてしまっているようだ。それが結果として先ほどの曲の場合にも現れてきたのだろう。Microsoftでは、「低ビットレートでも非常に高音質」という表現をしているが、これは64kbps以下をさしているのだろうか? 逆に高ビットレートにおいては、MP3にも負ける可能性がありそうだ。
一方の1kHzの信号に対するスペクトラムの分散度合いはというと、これもグラフ上はあまりいい結果とは思えない。一般的なMP3エンコーダの結果と比較しても、1kHz以外の信号の度合いが非常に多く、結果としてS/Nは75dB程度になっている。なお、ビットレートの差はほとんどないようで、いずれのビットレートの結果もほぼ一致する。
■ WMA7もWMA4もそれほど違わない!?
さて、ここでもう1つ比較をしておきたいものがある。それは、Windows Media Audioの古いバージョンとの比較だ。
冒頭でも触れたように、Windows Media Audioのバージョンは4.1、7、8という順に上がってきている。さきほど取り上げたのはもちろん、最新のWMA8なのだが、それまでのWMA7、さらにはもっと昔のWMA4.1と比べてみることにしよう。
WMA7はWinows Media Playerの前のバージョンである7.0が動作しているマシンで用いられている。たとえばWindows MeなどはOSとしてはじめからWindows Medai Player 7.0が搭載されており、これのCD録音機能を用いればWMA7でのエンコードができる。
しかし、さらにその前のバージョンになると、Windows Media Playerに録音機能が装備されていないため、エンコードすることができない。そのため別途エンコーダのアプリケーションが必要になるわけだが、当時Microsoftが無償配布していたWindows Media Encorderというものが手元にあったので、これを使用した。
Windows Media Encorder |
それぞれのエンコーダでの音楽素材をエンコードした結果が以下のグラフだ。見た目上はWMA7もWMA8もほとんど変わらず、WMAの4.1はだいぶ違った特性になっている。波形的にオリジナルからは遠くなるが、4.1の方がローパスフィルタがない分、高域まで音が出ている。
【オリジナルデータ】 |
【64kbps】 約362KB(wma7_64.wma) |
【96kbps】 約541KB(wma7_96.wma) |
【128kbps】 約719KB(wma7_128.wma) |
【160kbps】 約898KB(wma7_160.wma) |
【オリジナルデータ】 |
【64kbps】 約361KB(wma4_64.asf) |
【96kbps】 約537KB(wma4_96.asf) |
【128kbps】 約713KB(wma4_128.asf) |
【160kbps】 約890KB(wma4_160.asf) |
実際に音を聞いてみても、WMA7とWMA8の差はあまり感じられなかった。またキュルキュルした音も消えていない。たしかにWMA4.1と比較するとオリジナルに近い感じではあるのだが……。
もしかしたら、32kbpsとか16kbpsさらにはそれ以下のサウンドでWMA8の効果が発揮されているのかもしれない。しかし、そこまでビットレートを下げると、いくらほかの圧縮技術と比較して音がよくても、音楽用というものではないように思う。
ただ、最後に補足しておけば、グラフの見た目上の悪さに比べれば、聴感上の音質は結構いい。たぶん曲にもよるのだろうが、今回取り上げているTingaraの夜間飛行に限っていえば、96kbpsあたりでもMP3のほとんどのものよりも聴感上の音質がいい(オリジナルに近い雰囲気)ように思えた。ぜひ、みなさんも、自分の耳で試してみてほしい。
□マクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
□Windows Media Playerのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/windows/windowsmedia/download/default.asp
(2002年2月4日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp