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第44回:圧縮音楽フォーマットを比較する
~ その3:MPEG-2の音声フォーマット「AAC」 ~



 先週は月曜日が祝日だったため、1週間あいたが、今回もひきつづきオーディオ圧縮フォーマットの特性の解析をしてみたい。「ATRAC3」、「Windows Media Audio」に続いて、3回目に取り上げるフォーマットは「AAC」。

 ご存知のようにAACはMPEG-2で規格されている音声圧縮技術であり、BSデジタル放送などでも5.1chサラウンドデータにAACが利用されている。その一方で、松下や東芝、三洋、アイ・オー・データ機器などの各社が、対応したシリコンオーディオプレーヤーを発売しており、音楽用のフォーマットとしても普及してきている。


■ MPEG-2の音声フォーマットとして規格化された「AAC」

 AACは「Advanced Audio Coding」の略で、MPEG-2で規格化されているフォーマット。MP3がMPEG-1のAudio Layer 3であり、対してMPEG-2のそれがAACであるという理解で、おおよそ間違いがないだろう。まあ、AACの場合は単にステレオ2chだけでなく5.1chサラウンドに対応するなど、広い規格になっているし、実用上MP3とMPEG-1映像との関係よりも、AACとMPEG-2映像の方が、より緊密な関係になっている。

 とはいえ、AACもそれ単独で音楽用としても用いられており、日本の各家電機器メーカーなどがシリコンオーディオプレーヤーを発売したり、AACをサポートしたソフトウェアなどが、いくつか登場している。

 AACは、フリーの規格ではなく開発した企業がライセンスする形になっている。AACの場合、その企業は1社ではなく、MP3のライセンス元でもあるFraunhofer IISや、AT&Tおよび、Dolby Laboratoriesなどが名前を連ねている。さらに、調べていて、ちょっと驚いたが、ソニーも入っている。音楽用のフォーマットとしては、ソニーのATRAC3とAACは対抗する関係にあるが、AACの開発にもソニーが絡んでるようだ。


■ 互換性がない!? AACのフォーマット

 私自身、これまで何度かAACに対応したポータブルプレーヤーを触ったり、その添付ソフトでエンコードした経験がある。その時に、非常に気になっていたのが互換性の問題。MP3の場合、多くのプレーヤーメーカーがあり、さらに多くのエンコーダソフトやユーティリティソフトが存在する。しかし、それらの間で互換性が問題になることは、あまりない。もちろん、特定のビットレートにしか対応していないプレーヤーや、CBRにしか対応していないものなどもあるが、基本的にはどれもある程度同じように扱うことができる。

 それに対しAACは、どうも各最終製品間での互換性がない。というのも、MP3と異なりAACの場合、オーディオ圧縮だけでなく著作権管理情報などコピープロテクトのための機能がセットとなっているケースが多い。そのため、実際のファイルレベルでは互換性がなくなっているものと考えられる。

 今回は、松下電器から単体で発売されている「SD-Jukebox」(実売約7,000円)、NECの「SmartJukeBox Ver2.0」(標準価格4,800円)、liquid audioのサイトから、無料でダウンロードできる「Liquid Player Six」の3つのソフトで、特性をチェックした。

 まず先だって、この3本で互換性を試したが、やはり思ったとおり、いずれも互換性はなかった。あくまでもエンコードしたソフトでないと再生することができなず、相互にAACファイルをやり取りするということはできなかった。


■ あまり使えなかったフリーの「Liquid Player Six」

 まず最初に試したのは、Liquid Audioのサイトからダウンロードしてきた「Liquid Player Promotional Ver6.1」というもの。このLiquid AudioはAVEXほか各社音楽配信サイトで用いられていたり、三洋電機のポータブルプレーヤーでも採用されているなど、幅広く利用されている。拡張子がlqtのファイルが、AACフォーマットになる。

 ただ、今回試した無料版はCDからリッピングし、AACへのエンコードが可能になっているものの、ビットレートが48kbps、64kbps、78kbpsの3種類しかサポートされていない。さらに、16ビット・ステレオ・44.1kHzとして利用できるのは78kbpsのみで、64kbpsだと22.05kHzとなってしまった。

Liquid Player Promotional Ver6.1 サポートするビットレートは48kbps、64kbps、78kbpsの3種類

 そのため、サンプリング周波数が44.1kHzとなる、78kbpsのみチェックした。方法はいつもと同様で、まずTingaraの夜間飛行という曲の45秒をエンコードし、プレーヤーで再生させる。それをTotal Recoderというソフトを用いてキャプチャし、WAVファイルで保存した。その後、このWAVファイルをWaveSpectraというソフトを用いて、分析するとともに、耳で音を確認した。

 結果は、オリジナルと比較して波形を見る限り、かなり異なっているのがわかる。14kHzあたりから急に下がり、16kHz以上はほとんど音が出ていないといっていいだろう。実際聞いた感じでは、それほど悪くはないのだが、やはりひずんで聞こえる音があり、MP3の128kbpsと同等かやや劣る感じである。これが78kbpsというビットレートであることを考えれば、まずまずではあるのだが……。

【Liquid Player Promotional Ver6.1のエンコード結果】
【オリジナルデータ】 【78kbps】

(C)TINGARA
「夜間飛行」(作詞:名嘉睦稔 作曲:名嘉睦稔、TINGARA)
□TINGARAのホームページ
http://www.tingara.com/


■ AACもサポートするNECの「SmartJukeBox Ver2.0」

SmartJukeBox Ver2.0

 次に試してみたのが、NECの「SmartJukeBox Ver2.0」というソフト。以前MP3の記事で取り上げたので覚えている方もいるかもしれない。このソフトは数あるMP3のパッケージソフトの中では珍しくWMAとともにAACをサポートしている。2001年2月にリリースされているので、ちょうど1年前のソフトとなるわけだが、その後、新バージョンは出ていない。またアップデータはあるものの、エンコーディング関連のところは何も変わっていないようである。

 パッケージの裏側の説明を読むと「AACならMP3と同等な音質でMP3の約1.3倍の曲を録音することができるため、HDDの容量を節約できます。(AAC:ビットレート96kbpsは、MP3:ビットレート128kbpsと同等の音質を実現[当社比])」とある。では、実際のところどうなのだろうか?

エンコードのビットレートは128kbps、96kbps、64kbpsの3種類

 さっそく試してみたところ、まずエンコードのビットレートは128/96/64kbpsの3種類が用意されている。このうち64kbpsは先ほどのLiquid Audioと同様に22.05kHzになってしまうため、128kbpsと96kbpsの2種類でエンコードを行なった。

 結果は以下のとおりだ。これを見てもわかるとおり、16kHz以上はほとんど切れてしまっている。また波形は異なるが、聞いた感じではSmartJukeBoxの96kbpsと、先ほどのLiquid Playerの78kbpsのサウンドは似ている印象を受けた。

 一方、128kHzはもう少し音がいいように感じられたが、それでも一部の音がかすれている。

【SmartJukeBox Ver2.0のエンコード結果】
【オリジナルデータ】 【128kbps】 【96kbps】


■ 松下の「SD-Jukebox」

SD-Jukebox Ver2.3

 そして、今回最後に取り上げるのは、松下電器の「SD-Jukebox Ver2.3」だ。使い勝手や完成度の面では、今回使ったソフトの中で一番いいのだが、ATRAC3と同様にデータにコピープロテクトが強力にかかっており、ファイル単独では利用することができない。

 Smart JukeBoxと同じように128kbps、96kbps、64kbpsの3つのモードがあったが、やはり44.1kHzに対応している128kbpsと96kbpsでエンコードした。結果は以下の通りだ。

【SD-Jukebox Ver2.3のエンコード結果】
【オリジナルデータ】 【128kbps】 【96kbps】

 これを見ると、128kbpsでは16kHz強で、96kbpsでは16kHzでバッサリとローパスフィルタが入っており、高音が削られている。試しに音を聞いてみると、音色にかすれを感じる部分があり、NECのソフトと比較すると明らかに悪い。


■ スイープ信号と1kHzのサイン波でも確認

 3つのソフトを見てきたが、もちろんビットレートで音質が変わるが、エンコードエンジンによってもかなり音質が違うことがわかった。

 そこで、いつものようにスイープ信号を入れた結果と、1kHzのサイン波を入れた場合でどう違うのかを、それぞれ比較してみた。その結果が以下のグラフになる。

【スイープ信号】
【Liquid Player Promotional Ver6.1】
  【78kbps】
【Smart JukeBox Ver2.0】
【128kbps】 【96kbps】
【SD-Jukebox Ver2.3】
【128kbps】 【96kbps】

【サイン波】
【Liquid Player Promotional Ver6.1】
  【78kbps】
【Smart JukeBox Ver2.0】
【128kbps】 【96kbps】
【SD-Jukebox Ver2.3】
【128kbps】 【96kbps】

 ここからもわかることは、ソフトによってかなり特性が異なるということ。スイープ信号の結果ではSD-Jukeboxがかなりいい結果を出しているのに対して、残り2つのソフトはだいぶひどい。また、1kHzのサイン波を用いた調査ではSmart JukeBoxが128kbps、96kbpsともにいい結果が得られている。

 以上3種類のソフトでAACについて調べてみたがいかがだっただろうか? MPEG-1のMP3から、MPEG-2のAACになって、さぞかし音質がいいのではと期待していたが、「それほどでもない」というのが、この3つのソフトからわかる特徴だろう。

 もちろん、今回紹介した3本のソフトがフォーマットとしてのAACの限界を示しているとも思えないので、今後もっと音質のいいエンコーダが登場してくることを期待したい。また今度機会があれば、ほかのハードウェアに添付されているAACツールを用いるなどして、比較してみたいと思う。

□Liquid Audioのホームページ(英文)
http://www.liquidaudio.com/
□NECのホームページ
http://www.nec.co.jp/
□「SmartJukeBox Ver2.0」の製品情報
http://121ware.com/software/jukebox/
□松下電器のホームページ
http://www.panasonic.co.jp
□「SD-Jukebox」の製品情報
http://www.panasonic.co.jp/customer/cn/sdj/pages/products.html
□関連記事
【キーワード】AAC(Advanced Audio Coding)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000310/key111.htm#AAC

(2002年2月18日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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