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第45回:圧縮音楽フォーマットを比較する
~ その4:NTTの「TwinVQ」 ~



 第42回からMP3、ATRAC3、WMA、AACと代表的な圧縮オーディオの特性について、チェックしてきたわけだが、もうひとつ忘れてはいけないフォーマットがある。NTT開発の国産「TwinVQ」だ。調べてみると、採用しているソフトはいろいろあるのだが、いま1つメジャーになりきれていない気がするTwinVQを検証する。


■今ひとつパッとしない国産エンコーダ「Twin VQ」

 私が個人的に、一番最初に出会った圧縮オーディオというのがTwinVQである。手元のメモを調べてみたら'96年夏ごろなので、もう6年も前のことになる。当時のNTTヒューマンインターフェイス研究所(現:NTTサイバースペース研究所)に話を聞きにいったりもしたが、28.8kbps程度のモデムでもオーディオがそれなりの音で流れるのを聞いて、驚いたものだ。

 TwinVQは、MP3のようにオーディオファイルとしても扱える一方で、ストリーム放送にも対応していた。このTwinVQ登場の前後には「RealAudio」も登場していたが、音質的には、誰の耳にもTwinVQのほうが圧倒的によかった。そのため、ちょっと進んだミュージシャンなどは積極的にTwinVQを使って、サンプル曲などを公開していた。また、その当時はTwinVQ技術を用いた「AudioLink Acoustic Player」というビデオと組み合わせたNetscapeのプラグインも登場し、AVEXなどがサンプル曲を流していた。ちなみに、今ではこの規格、プレーヤーとともに消えてしまっているようだ。

 その一方で、TwinVQは少しずつ進歩し、音質が向上したり、エンコードスピードも上がっていった。そして'98年にはNTTが神戸製鋼と提携し、Solid Audioというプロジェクトを立ち上げた。これは、TwinVQを用いてセキュアな音楽配信をし、それをポータブルプレーヤーでも再生できるようにするというもの。ハギワラシスコム、日立マクセル、富士フィルムAXIAなどがプレーヤーを発売した。

 さらにTwinVQは'99年に成立したISO/IECのマルチメディア符号化国際標準規格であるMPEG-4にも採用されるなど、規格面では確実な進歩を遂げていったのだ。

 しかし、MP3の勢いがあまりにもすごかったため、国産の圧縮オーディオ規格であるTwinVQはあまり陽の目を見ていないように感じる。また、MP3が著作権保護機能などなしのフリーな規格として、ややアングラ的なイメージを持ちつつ広まっていったのに対し、TwinVQというかSolid Audioがいち早くセキュアな仕組みを導入。ID付きスマートメディアを採用したため、マニアックなユーザーからは敬遠されてしまったのかもしれない。

 また、ATRAC3やAACなどはしっかりしたレコード会社と提携して音楽配信サービスを行なっているのに対し、TwinVQを用いたSolid AudioはNTTソフトウェアが主体となったBaySideというサイトで音楽配信を試みた。しかし、2001年10月にTwinVQへの対応を打ち切ってしまったようである(現在はWMAとATRAC3を中心に展開している)。

 今後、TwinVQがどうなっていくのか、よくわからないが、やはり国産の規格として、ぜひがんばってもらいたいとは思っている。ただ、がんばれるかどうかの条件に音質というものもあるだろう。これはどうなっているのだろうか?


■思いのほか多い「Twin VQ」対応ソフト

 さっそく、いつものように波形を見ながら、調べてみようと思い、対応ソフトを集めた。調べてみると思いのほか多くのソフトが対応しており、以前MP3の記事で取り扱ったランドポートの「Audio TOYBOX」や、アンリアルの「THE LEGEND of MP3」、メガソフトの「ミュージックCDデザイナー3」もサポートしている。

 なんとBHAのB's Recorder GOLDも最新版がTwinVQに対応しているではないか(もっとも、これはTwinVQのデータをCDに焼けるというだけで、エンコードエンジンを積んでいるわけではないが)。また、もちろん本家NTTはTwinVQのホームページで、以下の3つのソフトを無償で公開している。

 結局、最終的に用意したエンコーダは以下の4種類になる。

TwinVQ Player TwinVQ Encoder 簡易型 Encoder/Player

ヤマハ SoundVQ Encoder ランドポート Audio TOYBOX メガソフト ミュージックCDデザイナー3


■音質を検証

 これらのソフトを使ってみると、44.1kHzのオーディオの場合、エンコードのビットレートは各チャンネル40kbpsか、48kbpsの2通りということがわかった。つまりステレオ2chの通常のオーディオの場合80kbpsか96kbpsということになる。

 設定画面の違いはあるものの、いずれのソフトもこれについては同じ。ほとんどのソフトでは、それ以外にパラメータはないのだが、ヤマハのSoundVQ Encoderのみが、音質設定に「High」、「Normal」、「Low」の3種類が用意されている。

 まずは、音楽ソースを用いてのチェック。曲はTINGARAの夜間飛行の45秒間だ。これをエンコードした結果、ヤマハの3つのモードは別として、いずれも同様の結果となった。ファイルサイズなどをみると微妙に異なるのだが、それは音の出だしや最後の部分の処理の違いによるものと思われる。グラフが、ほぼピッタリ一致したので、ヤマハのSoundVQ Encoderのみを使って検証することにした。

 96kbpsのビットレートで3つの音質でエンコードし、グラフ化したものが、以下のものだ。いずれもオリジナルの波形と非常に近い。またパッと見では、音質の設定であまり違いを感じないが、重ねて見比べると、微妙に違う。しかし、音を聞いてみても、3つの間では、ほとんど差は感じられなかった。

 違いは、それぞれでのエンコード時間。Pentium 4 1.5GHzのマシンで試したところ、Normalモードでは24秒、Highモードで35秒、Lowモードでは18秒。内部的にどこかのパラメータを変えているのだろうが、これが音の差としてはほとんど出てこないようだ。

【96kbpsでのエンコード結果】
【オリジナル】

【Highモード】
【Normalモード】
【Lowモード】

 気になるのは実際の出音。以前、ATRAC3の132kbpsで試した結果は波形グラフもオリジナルに近く、出音も非常に近かった。一方、TwinVQはというと、音質的にはちょっと劣る。波形的には高域が切れているというわけではないが、細かなニュアンスも違ってきている。普通に聞いた感じではどこがオリジナルと違うかわからないかもしれないが、その点ではMP3の128kbpsと同程度といった印象だ。

 一方、Normalモードでビットレートを80kbpsとすると、やはり波形も少し違ってくる。さらに音についても、96kbpsに比べるとだいぶ音がにごってくる。たいした容量差もないので、96kbpsか80kbpsかと聞かれたら、迷わず96kbpsを選びたい。また、SoundVQで使っている限り、「High」、「Normal」、「Low」の設定はあまり意味を持たないように思う。

【80kbpsでのエンコード結果】
【オリジナル】
【Normalモード】

(C)TINGARA
「夜間飛行」(作詞:名嘉睦稔 作曲:名嘉睦稔、TINGARA)
□TINGARAのホームページ
http://www.tingara.com/


■音質を検証

 音質が劣化していると感じる要因はどこにあるのだろうか? またいつものようにスウィープ信号と1kHzのサイン波を用いて、96kbpsと80kbpsで試してみることにした。結果は以下のとおり。

 スウィープ信号を再生している途中の画面を見ると、音質が悪くなっている要因の一部が見えた。再生途中の画面キャプチャを見るとわかるが、本来出ていないはずの周波数の音がずいぶんたくさん出ているのだ。また、スウィープ信号の最高レベルの軌跡をみても、ずいぶんギザギザしているのがわかる。

【スウィープ信号】
【96kbps/Normalモード】
【80kbps/Normalモード】

【サイン波】
【96kbps/Normalモード】
【80kbps/Normalモード】

 同様のことは、1kHzのサイン波の結果からも見てとれる。実際、S/Nの値を見てもかなり悪く、本来と異なる周波数成分がかなり多いことがわかる。これは80kbpsになると、さらに悪化している。

 こうしたことが結果として、音をにごらせているのだろう。さきほどの周波数成分の平均値やピーク値を見る限りでは、オリジナルと非常に近いようだったが、このあたりの問題と相殺され、結果として、そこそこの音質ということになっているのではないだろうか。

 これまでのところ、96kbps以上のフォーマットは存在していないが、TwinVQではそれ以上に設定しても、あまり音質は向上しないのかもしれない。

 今後、TwinVQが圧縮オーディオの世界で地位を築けるかどうかは、さらなる音質の向上が求められるだろう。規格では海外にやられっぱなしのインターネットの世界で、ぜひ国産のTwinVQにもがんばってもらいたいところである。

□NTTのホームページ
http://www.ntt.co.jp/
□「TwinVQ」のページ
http://www.twinvq.org/
□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□「SoundVQ」のページ
http://www.yamaha.co.jp/xg/download/soundvq/
□ランドポートのホームページ
http://www.landport.co.jp/
□「Audio TOYBOX」の製品情報
http://www.landport.co.jp/product/toybox/atb/
□メガソフトのホームページ
http://www.megasoft.co.jp/
□「ミュージックCDデザイナー3」の製品情報
http://www.megasoft.co.jp/music/

(2002年2月25日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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