先週のTwinVQのチェックを終えて、主だったところのオーディオ圧縮フォーマットは一通り終わった気分でいたが、もう1つ忘れてはいけないものがあった。そう「RealAudio」だ。RealAudioは、ストリーム放送として利用されることがほとんどで、単独のファイルとして扱うことは少ないような印象があるが、RealJukeboxというソフトを用いることで、単独ファイル用としてエンコードすることが可能。そこで、今回はRealJukeboxを用いて、RealAudioの実力を見てみた。
■ ATRAC3にも対応していたRealAudio
RealAudioとはずいぶん長い付き合いではあるが、個人的には音楽用のオーディオ圧縮フォーマットであるという認識があまりなく、ラジオのような音質のものというように考えていた。そのため、当初このシリーズで取り上げるということは、あまり頭にも浮かんでこなかった。しかし、先日のATRAC3の記事を掲載後、読者の方から指摘をいただいた。
内容は、「どうしてReal Jukeboxを取り上げないんですか? MP3のときにも思いましたが、Real Jukeboxはそれなりにメジャーなソフトだと思います。ATRAC3の記事では64kbps、105kbps、132kbpsの3種類のみだとされていますが、私の使っているReal Jukebox PlusではATRAC3のそれ以外のビットレートも利用できますよ」とのこと。
RealJukebox Plus |
その後、私と編集担当者で打ち合わせをし、とりあえずATRAC3は一度やったので、Real Jukebox Plusの件は、シリーズの最後の方でやろうということになった。ただ、その時点でも私の頭には、RealAudioそのものを扱うつもりはあまりなかった。しかし、先週のTwinVQを終えた時点で「そうか、RealJukeboxで、RealAudioとATRAC3の両方をチェックすればいいんだ!」と思いついた。
ご存知のように、RealNetworksのRealJukeboxにはフリーソフトの「RealJukebox」と、29,99ドルの「RealJukebox Plus」という2つのソフトがある。先日の読者のメールではRealJukebox Plusを使っているとのことだったので、迷わずそれをオンラインで購入し、さっそく起動してみた。
■ RealAudio 8 with ATRAC3?!
起動後、即チェックしたのは、フォーマットの設定部分。ツールメニューの[環境設定]を開いて、[オーディオクォリティー]というタブを選択した。
設定画面 |
すると、個人的にはちょっと驚くべき内容を見つけてしまった。Real Jukeboxを利用している方からすれば、当然の話で、「藤本は何を今更言っているんだ!」と怒ってしまうかもしれないが、エンコードフォーマットとしてMP3、WAVと並んで
「RealAudio 8 with ATRAC3」
という項目があったのだ。「RealAudio 8 with ATRAC3って何だよ!? そもそも、このwithって何?」と驚いてしまったわけである。以前Real Jukeboxを用いてMP3にエンコードしたことはあるので、MP3が扱えることは知っていた。しかし、読者の方からのメールを読んで、RealAudioとMP3のほかにATRAC3もサポートしているのだと思い込んでいた。どういうことだかよくわからないが、とにかくチェックしてみることにした。
設定画面を見るとわかるように、「RealAudio 8 with ATRAC3」には、ずいぶんさまざまなビットレートが用意されている。以前ATRAC3の記事で扱った64kbps、105kbps、132kbpsに加え、上は176kbps、264kbps、352kbps、下は44kbps、32kbpsまでサポートされている。
ここで私が予想したのは、現在のRealAudioのフォーマットは完全にATRAC3そのものとなっており、132kbps、64kbpsの結果は先日のATRAC3と同じ結果になるであろうということ。また、この前のATARAC3では132kbpsで非常にいい音質で、波形上もオリジナルとほとんど区別することができなかった。そのため、それ以上ビットレートを上げたところで、ほとんど差は出てこないだろうというものだ。
また、「これは使えそう!」と思ったのは、プロテクトに関すること。先日のOpenMG Jukeboxでエンコードした結果は強力なプロテクトが施されており、MP3ファイルのようにファイル単体をコピーしたりすることはできなかった。それに対し、RealJukebox Plusなら、もう少しフレキシブルに活用できるだろうと思ったのである。なお、この設定画面の一番下にある「セキュアファイル」という項目がプロテクトのオン・オフを設定するもので、これをオフにしておけば、自由にコピーして利用できるファイル形式となる。
そこで、まず最初に検証したのが、先日取り上げたATRAC3のソフトであるソニーのOpenMG Jukeboxとの互換性だ。もし、RealJukebox PlusでエンコードしたファイルがOpenMG Jukeboxで利用できるとなれば、Net MDなどで活用することも考えられ、ますます便利なものとなる。
しかし、結論からいえば、両者には互換性はなかった。エンコード自体にはATRAC3が用いられているものの、プロテクトという面ではやはりまったく別モノのようであった。ちなみに、セキュアファイルのチェックボックスをオフにしておくと拡張子.rmjというファイルが、オンにしておくと拡張子.rmxというファイルが生成されるが、いずれもOpenMG Jukeboxで読み込むことはできなかった。
■ RealAudio 8 with ATRAC3の実力
気を取り直して、いつもと同様の分析を行なった。方法は、これまでと同様TINGARAというユニットの曲「夜間飛行」の中から45秒間を用いてエンコードし、それをWaveSpectraというソフトで周波数分析をかけるというもの。
今回用いたRealJukebox Plusの場合、WAVファイルから直接エンコードするという方法が用意されていなかった。そのため、OpenMG Jukeboxを用いた際に作ったサンプル曲をCD-RにオーディオCDとして焼いたものを素材として使うことにした。
今回チェックしたのは、ATRAC3としては標準でありMDLP2に相当すると思われる132kbps、その半分のビットレートでMDLP4に相当する64kbps、そして最高の音質となる352kbpsの3通り。ATRAC3の場合はオリジナルと132kbpsの差もなかなか見分けにくかったので352kbpsとの違いがわかるのだろうかと思いつつ、実験した結果が以下にに示すグラフである。また参考までに先日のATRAC3の回で行なった、132kbpsの結果も載せておこう。
【オリジナルデータ】 |
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【352kbps】 約2MB(real352k.rmj) |
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【132kbps】 約816KB(real132k.rmj) |
OpenMG Jukebox (参考) 【132kbps】 |
【64kbps】 約434KB(real64k.rmj) |
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このグラフを見れば、一目瞭然だが、当初の予想は完全にはずれた。技術的にはATRAC3を用いているのだろうが、本家ATRAC3とはまったく違う結果になった。64kbpsの場合、16kHz以上が完全に欠けているし、132kbpsでも17kHz以上で妙な波形となっている。分析中のグラフ状態を見ていても、17kHz以上はほとんど音が出ていない状況。352kbpsとなるとようやくオリジナルとほぼ一致するようになるが、ここまでビットレートが高ければ、当たり前といえるだろう。
本家ATRAC3と違うことを確認してから気づいたのが、64kbpsというビットレートの数値。ATRAC3のMDLP4対応のフォーマットの66kbpsと微妙に異なっている。
実際にサウンドを聞き比べても、64kbps、132kbpsでの音質の劣化ははっきりとわかる。まあ、MP3などと比較してそれほど劣るわけではないし、MP3の64kbpsとRealAudioの64kbpsを比べればRealAudioのほうがいいように思うのだが、期待していたATRAC3のあのサウンドでは明らかになかった。
(C)TINGARA
「夜間飛行」(作詞:名嘉睦稔 作曲:名嘉睦稔、TINGARA)
□TINGARAのホームページ
http://www.tingara.com/
■ 高域が出ていない
ここまでの結果でも十分のように思えるが、念のためいつものように、20Hzから22.5kHzのスイープ信号および、1kHzのサイン波をエンコードした結果をグラフに表示してみた。結果は以下のとおり。
【352kbps】 | 【132kbps】 | 【64kbps】 |
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【352kbps】 | 【132kbps】 | 【64kbps】 |
---|---|---|
スイープ信号を見ても、64kbps、132kbpsではローパスフィルタがかかっていることは明らかであり、高域が出ていない。ただ1kHzのサイン波の結果を見ると、こちらはまずまずのものとなっている。さすがに64kbpsではちょっと汚い周波数分布となっているが、132kbps、352kbpsではきれいに1kHzのところのみにピークが来ている。また、S/Nを見ても132kbpsと352kbpsでは約76dBとまずまずの数値を示していることがわかる。
とはいえ、やはりトータルで見ると、そうたいしたものではないことがわかった。もちろん、MP3程度もしくはそれ以上のものであることは確かだ。ただし、RealAudioを利用できるポータブルプレーヤーが存在していないことを考えると、やはりRealAudioはストリーム放送用であるという理解が正しいのかもしれない。
なお、すべてのテストを終えた後、フリーのRealJukeboxをダウンロードして試してみたところ、RealAudio 8 with ATARC3のフォーマットはPlusとまったく同様で32kbps~352kbpsまでがサポートされており、今回の実験と同じことができた。興味のある方は、MP3との違いを見るためにも自分の手で試してみてはいかがだろうか?
□リアルネットワークスのホームページ
http://www.jp.realnetworks.com/
□「RealJukebox」の製品情報
http://www.real.com/jukeboxplus/index.html?src=homeintl_jp&lang=jp&hts=yes
□関連記事
【2000年10月23日】米RealNetworks、ソニーのATRAC3に対応した「RealSystem 8」を発表(INTERNET Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/1023/ra8at3.htm
(2002年3月4日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp