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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第49回:マニア垂涎のMPEGエンコーダ「CinemaCraft Encoder SP」
~激速&超高画質の秘密を聞きに行く~


■ これからはエンコーダだ!!

 突然ではあるが、Electric Zooma! では今週から2週にわたり、MPEGエンコーダ特集をお送りする。

 TVキャプチャやDVDビデオ作成といった分野で、俄然パソコンユーザーの注目を集める形となったMPEG-2。自作派はもちろんのこと、メーカー製デスクトップ機でも、上位機種ではほとんど何らかのテレビ録画機能があり、DVD-Rドライブを搭載している。MPEG-2のお世話になる機会もそれだけ増えているわけだ。

 ハードもソフトもDVDビデオ関係が今や花盛りだが、最初のうちこそ「できたできた」で喜んでいても、そのうち「待てよ」と思い始める。ただDVDを見るだけだった時代はその品質がとやかく言われることは少なかったが、実際に自分でMPEG-2圧縮するという立場に立ってみると、思いのほかうまくいかないことに気づく。書き込みにこそ失敗しないが、市販DVDソフトはあんなに綺麗な画質なのに、どうして自分でやるとイケてないものしかできないのか、不思議に思う人も増えてくるであろう。

 そこでまたみんな気づくわけである。「これはもしかしたらエンコーダがイケてないのか?」と。

 現在市販されているエンコーダソフト数々あれど、このような経緯を辿ってエンコーダに覚醒した日本全国6,000万人(そんなにいませんウソつきました)MPEG-2エンコ野郎垂涎の的となっているのが、カスタムテクノロジーの「CinemaCraft Encoder(以下CCE)」である。

 ラインナップの頂点、完全プロ仕様の「CCE-Pro」は、ソフトウェアエンコーダながらもハードウェア込みのシステムになっており、現在多くのDVD制作会社で実際に使用されている。その下にはソフトウェアのみのパッケージで、「CCE-SP」および「CCE-Lite」といったラインナップがある。簡単にソフトウェアエンコーダといっても、以前はCCE-SPが398,000円、CCE-Liteが24,800円となかなか高価だ。それ故にあこがれもまたひとしお、というわけである。ところがこれ、最近のバージョンアップでそれぞれ198,000円と19,800円に値下げされた。

 Liteはまあ5,000円の値下げだが、SPに至ってはほとんど半額である。このあたりは戦略的に何かあるのか? もしかしたらオレに買えと? という疑問から端を発して、いったいどんな会社が開発してるのか、それだったら直接話を聞きに行きますか行ってしまいますか、アポとっといてね担当、今度は遅刻すんなよ、というところまでどんどこ話が進んでいったのである。


■ 業務用開発からスタート

お話を伺ったカスタムテクノロジーの竹内俊一さん(左)と田口裕史さん(右)

 そんなわけでやっぱり遅刻してきた担当とともに筆者は今、新横浜にあるカスタムテクノロジーにお邪魔している。お話を伺ったのは、技術サイドからは開発メンバーの一人である"マルチメディア事業部応用システム部シニア技術マネジャー"の竹内俊一さん、そして営業サイドからは"マルチメディア事業部営業部課長"の田口裕史さんのお二人である(以下敬称略)。

―お忙しいところありがとうございます。さっそく本題に入りたいんですが、そもそも御社とMPEGエンコーダ事業というのはどの辺からスタートしたんでしょう。

竹内:元々カスタムテクノロジーという会社は、名前の通り業務用の専用システムをカスタムで作るというのがメインなんです。例えば以前から新聞関係のデータベースとして紙面を圧縮保存するものとかそういうものを受託で作っていましたので、画像圧縮技術というのは蓄積されたものがありましたね。それを使ってなにか新しいことができないかということになりまして、Sunなどを使ってMPEGを始めたのがだいたい'95年頃でした。

―当時はもちろんハードウェアで?

竹内:業務用としてははじめからリアルタイムエンコードでないとダメだということがわかっていましたので、ハードウェアエンコーダでした。

―現在は業務用では珍しいソフトウェアベースのエンコーダですが?

竹内:当時ソフトウェアで、業務用で使える画質を出しつつリアルタイムエンコード、というものは誰も作ったことがありませんでした。CPUのパフォーマンスを最大限引き出すチャレンジがおもしろくて始めたような感じですね。

田口:'97年にCCEの初期バージョンができたんですが、昔は動き検索の部分がどうしてもソフトウェアだけでは(リアルタイムで)できなかったので、そこだけハードウェアというシステムでした。それからPentium IIIが出てきたんで、Dual CPUのマシンでようやくソフトウェアでリアルタイムエンコードができるようになりました。これが現在のCCE-Proになります。

 ちなみに、現在のCCE-Proはハードウェア込みのシステム販売だが、このハードウェアというのは専用ビデオキャプチャカードやデコーダカードである。プロユースではビデオ入力に対して直接リアルタイムエンコードを行ない、その結果をまたリアルタイムでモニタする、という構成になるのだ。

―現在の開発は何人で?

竹内:検証などのスタッフも含めて4人です。

―基本的にCCEのラインナップは、上位から始まった?

竹内:そうですね、まずCCE-Proがありました。ただエンコーダのエンジンは、どの製品も全く同じです。違いはどの機能が使えるか、というだけですね。

―CCE-SPやLiteはずいぶん値下げしましたよね。このあたりの狙いは?

田口:CCE-SPはこちらとしては完全業務向けだと思っていたんですが、一部マニアの方もお買いになりたいという話が出てきまして。そうなるとさすがに40万円は高いだろうと。社内でいろいろ検討した結果、現在の価格に落ち着いたというところですね。

―製品ごとのユーザー層というのはどのような?

田口:Proはもちろん業務ですが、SPはそれより一歩下がったコーポレートユースが中心です。ゲームメーカーさんとか、オーサリング会社さんでも本編ではなくメニュー部分に使うとかいった感じですね。Liteはやはり個人ユーザーさんが中心、「mpEGG」もそうですね。

 おそらく市場に出回っている国内制作のDVDソフトのうち、エンコーダのシェア率で考えると、3割以上はCinemaCraft Encoder Proで作られていると思っていい。元々プロ用エンコーダというのはそれほど種類があるわけではないが、その中でもCCEProはスタンダード的なポジションを築いている。

―mpEGGがカスタムテクノロジー製だということがあまり周知されていないのでは?

田口:それはあえて狙いでやってるところはありますね。CCEという看板を外して、エンコーダというのは安くすれば売れるものなのか、といったトライアル的な意味合いも含んでいます。


■ 高画質の秘密は

―LiteもmpEGGもCBRのみですが、やはりエンコードのキモはVBRであると?

竹内:いや、実はCBRもかなり凝ったことをやってるんです。社内的には「1人時間差CBR」とか呼んでるんですけど(一同笑)、常にGOP2つ分ぐらい先読みしながらエンコードしてるんです。シーンチェンジ近辺は一般的に汚くなりがちなんですけど、そこを先に仮エンコードしてみてビットレートに収まるかどうかチェックしたのち、もう一度エンコードしたりしています。

 実はプロの現場でもCBRの需要はある。DVDビデオの規格上マルチアングル部分は、各アングルともまったく同じビットレートでのCBRでエンコードしなければならないのである。このプロで鍛え抜かれたエンジンをLiteやmpEGGでも使えるというのは、かなりお買い得度は高い。

―CCEがここまで信頼される理由とは?

田口:我々は小回りがきく会社だからいいのかもしれませんが、プロからのフィードバックに対してこまめに改良してきました。例えば2時間の映画の中で、この2フレームだけエラーするんだけど、みたいなところも徹底的に潰してきたわけです。

竹内:例えばアニメなんかは、もう1枚1枚が全然違う絵から成り立っているというようなシーンもあり得るわけです。このような複雑な部分のエンコードに関しては徹底して作り込んだので、他社のエンコーダではエラーするところもCCEなら通る、といったことも多いと聞いています。

田口:以前はプロの現場では、素材に対して複数のエンコーダを一通り試してみてから、どれを使うか判断していたんです。それが最近では、まずCCEを試してみて問題があればほかを試してみる、という流れに変わって来ているようです。

―もっとも得意なビットレートはどのあたり?

竹内:やはり最初からDVD制作というところがメインですから、最もよく使われる6Mbps付近でしょうか。低ビットレートでは綺麗じゃない、とは言いませんが、やはり4M~8Mbpsぐらいが一番綺麗になるように作られています。


■ CinemaCraft Encoder SPの実際

 すごいすごいとうわさには聞くCCE-SPだが、実際にどういうものか見たことがないという人も多いと思うので、ここで少し紹介しよう。

CCE-SPのメイン画面。ここにファイルをドラッグ&ドロップで登録 登録されたファイルをダブルクリックすると、詳細設定が出てくる 予想ビットレートを表示するグラフから、最終的な画質の予測も可能

 まず左端の画面がメイン画面である。ハイエンドなエンコーダの割には、拍子抜けするほどそっけない。この画面にエンコードしたいファイルをドラッグ&ドロップで登録する。ファイルをダブルクリックすると、エンコード設定が出てくる。

 各所は業務用ならではの作りになっている。例えばマルチパスVBRを行なうには、エレメンタリストリームでの出力が前提となる。また登録できるファイルはAVIおよびQuickTimeで、MPEGの再エンコードはサポートしない。コンシューマの視点から見ると不便な感じだが、プロユースではこれが王道の仕様なのである。

 一度エンコードしたあとは、VBR設定としてシーン全体のビットレートを表わすグラフが表示される。それを参考にしてシーンごとにビットレートを変更したり、といった細かい修正作業を行なうことができる。このあたりが業務用ならではの機能である。変更したパラメータはすぐにグラフに反映されるので、そのパラメータがどのように影響したのか、一目でわかる。慣れてくると、グラフを見ただけでだいたいの画質は想像できるようになるということだ。こうして設定を行なったのち、本番のエンコードを行なう。

 CCE-SPがどのぐらいの実力を持つのか、設定に関するアドバイスをいただきながら、用意したサンプル画像をエンコードしてみた。

エンコード方式平均ビットレート設定範囲パス数量子化行列設定サンプル動画
Multipass VBR2Mbps0Mbps~8Mbps5超低ビットレート
【MPEG-2形式】
720×480ドット

mpass2m.mpg
(約14.2MB)
Multipass VBR4Mbps0Mbps~8Mbps3標準設定
【MPEG-2形式】
720×480ドット

mpass4m.mpg
(約28.5MB)
Multipass VBR5Mbps0Mbps~8Mbps3標準設定
【MPEG-2形式】
720×480ドット

mpass5m.mpg
(約35.7MB)

 参考までにCBRでのエンコード結果も掲載する。エンジンは同じということなので、CCE-Liteでのエンコード結果と同等と考えて差し支えないであろう。

エンコード方式ビットレート量子化行列設定サンプル動画
CBR4Mbps超低ビットレート
【MPEG-2形式】
720×480ドット

cbr4m.mpg
(約28.6MB)
CBR5Mbps標準設定
【MPEG-2形式】
720×480ドット

cbr5m.mpg
(約35.7MB)
CBR6Mbps標準設定
【MPEG-2形式】
720×480ドット

cbr6m.mpg
(約42.9MB)

MPEG-2の再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載したMPEG-2画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


■ 今後CCEはこう変わる

―今後の方向性としては、CCEはどうなっていくんでしょう?

竹内:まずSPなんですが、Proで使えるパラメータは全部設定できるようにしようと考えています。Liteはパラメータを使いやすくするという意味で、ある程度プリセットを付けようかと思っています。それから、SPの次のバージョンでは、コマンドプロンプトからパラメータを設定できるようにもなります(Liteでは2.64から搭載)。

―となると、ユーザーが自分でフロントエンドを作って使うということも?

竹内:考えられますね。

―営業的な面ではどうでしょう?

田口:海外からの問い合わせも徐々に増えているので、そこをなんとかしたいなぁと。今後は自社のサイトから買えるようにする販路も含めてそれに対応できるような体制を作っていこうと考えています。

―例えば今後、HDTVのエンコーダというのは?

竹内:ソフトウェアエンコーダとしては、まだ非現実的でしょう。マシンの性能が8倍ぐらい必要になりますから。だいたい開発環境を揃えるのが高いですよね(笑)。モニタやVTRも買わなきゃならないし、素材がなければカメラも必要になりますし……。


■ 総論

 コンシューマの現状は、MPEG-2エンコードのようなわかりにくい部分はなるべく自動化していくという考えから、ハードウェアならキャプチャカードに、ソフトウェアならオーサリングまたはライティングソフトに、それとはわからないような形で組み込まれていく傾向にある。その流れから離れたところでエンコーダ単体として存在するからには、それだけの能力がなければ支持されないということになる。

 厳しいプロの現場でたたき上げられたエンジンを搭載しているCCE-SPは、入力される素材の品質が良ければ、市販DVDと同じクオリティを得ることができる。198,000円という価格は、プロが使うには安すぎるぐらいだが、個人で買うにはなかなか手が出せないところだ。ではパーソナルユース市場としてはCCE-LiteやmpEGGを、ということになると、当然そこには「あのソフト」が待ち構えている。

―「TMPGEnc」と比較されることはありますか?

竹内:TMPGEncさんと比較されることは本意ではないんですが、CCEが映像の複雑な部分に対して徹底的にカスタマイズされている反面、平坦な絵柄で低ビットレートの場合はTMPGEncの方が良かった、という話は聞いたことがあります。

田口:とりあえず業務ユーザーでも、皆さん一応TMPGEncは持っていて、テストされているらしいですね。

 次週のElectric Zooma!は、「あのTMPGEnc」の開発者である堀浩行さんのインタビューをお送りする。

□カスタム・テクノロジーのホームページ
http://www.ctech.co.jp/
□「Cinema Craft Encoder」のページ
http://www.cinemacraft.com/jpn/home.html
□関連記事
【2月1日】カスタム・テクノロジー、CCE-Lite Ver.2.64を2月4日から販売
―ビデオCDやPremiere 6.0に対応、価格も5,000円値下げ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020201/ctech.htm

(2002年2月27日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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