昨日、コピーコントロールCDについて、エイベックスのインタビュー記事を掲載した。では、コピーコントロールCDとは、実際どんなものなのか? 非常に興味のあるところ。
本当にコピーができないようなプロテクトがかかっているのか、一般のCDプレーヤーで再生して問題がないのか、音質的に気になることはないのか、PCで再生される圧縮オーディオの音はどんなものなのか……。早速、BoAのEvery Heartを購入して検証を行なった。
13日に発売された、BoAのマキシシングル「Every Heart -ミンナノキモチ-」にはコピーコントロール機能が盛り込まれている。これはMIDBAR Techの「CDS200」という技術を元に制作されており、エイベックスによれば「一般のCDプレーヤーであれば何ら問題なく再生することができるが、PCでは再生できないようになっている」という。
すでにこうしたコピーコントロールが施されたCDは海外において発売されており、ネット上でも話題になっている。「再生可能なドライブとそうでないものがある」、「プレイステーション 2では再生できないらしい」、「リッピングはできたけど、その結果が毎回異なる」などなど……。
AV Watchとしては、こうしたプロテクトを外すつもりも、その行為を推奨するつもりもない。当然のことながら、著作権は守らなくてはならないと考えている。とはいえ、今回のコピーコントロール機能付きCDが、実際に普通のCDとどう違うのかには非常に興味があるところだ。
そこで、このディスクを使っていくつかの実験を試みた。
まずは、手始めに再生できるかどうかのチェックから。手元にあるミニコンポ、ONKYOの「CR-185」で再生させたところ、まったく問題なく普通のCDとして再生できた。また、CDプレーヤー機能付きラジカセや、ポータブルCDプレーヤーでも問題は起こらなかった。まあ、ここまでは当然の結果といえる。
専用プレーヤー |
次にこれをWindowsマシンにセットしてみた。すると、すぐにインストール画面が起動し、自動的にソフトのインストールをはじめる。このCDはエクストラCDとなっており、CD-ROM部分が自動的に起動するとともに、インストーラが実行される。インストール作業自体は1分もかからず終了し、すぐにプレーヤーが起動。演奏がスタートする。非常にコンパクトなプレーヤーではあるが、ボタンを押すと、プレイリストやトラックインフォメーションなども表示される。
しかし、聞いてみると明らかに音質がひどい。なんとなくカセットテープを聞いているような感じでホワイトノイズがまざっているように思える。まあ、普通のパソコンに付属のおまけスピーカーで聞いていれば、あまりわからないかもしれないが、多少なりともお金を出して買ったスピーカーであれば、誰でもはっきりとわかりるほど悪い音質である。
プレーヤー上の表示を見てみると44.1kHzと表示されているが、その左には47kbpsとある。これまでDigital Audio Laboratoryで紹介してきた各種オーディオ圧縮技術でも、47kbpsともなれば音質が落ちるのは当然ともいえるだろう。
また、CD-ROM部分のファイル構成を見てみると、まずルートディレクトリにはPLAYER.EXEなるものが存在しており、これがプレーヤーソフトのようだ。次にPLAYERというフォルダがあり、その下の階層にはいくつかのファイルが存在する。この中のAUDIO.EXEを実行してみたところ、インストール画面が表示されるが、これを見るとWindows Media Format 7.1 Audio file Setupとある。
このことから推測するに、圧縮されたオーディオはWMAを使っているようだ。ただ、このフォルダ内にもオーディオファイルそのものらしきものは見当たらなかったので、どこかに隠されているのかもしれない。
PLAYERフォルダの内容 | インストール画面に表示される「Windows Media Format 7.1 Audio file Setup」 |
検証のため、この再生した結果をDigital Audio Laboratoryでいつも利用しているToltal Recoderというソフトを用いてキャプチャしてみた。すると、この時点で面白いことがわかった。実は、プレーヤーの表示上は44.1kHzとかかれているものの、実際には22.05kHzでしかも8bitという形で再生されていた。なるほど音質も悪いはず。やはり安いカセットテープレベルの音質であったわけだ。
次に試してみたのが、このプレーヤーでではなく、Windows Media Playerを用いてCDとして再生することができるかということ。先日のエイベックスへの取材内容によれば、Windows Media Playerなどでは再生できないということだったが……。
CD-ROMドライブにこのCDが挿入されたままの状態で、Windows Media Playerを起動し、「CDオーディオ」を選択してみた。すると、何のことはない、普通にCDとして認識しているではないか。自動的に曲名などもインターネットから取得してきており、4トラックともに普通に表示されている。演奏させてみても、普通に演奏できている。
4トラックとも普通に表示されている |
ドライブによって、動作状況はマチマチということであったが、ちょっと拍子抜けした感じだ。ちなみに、そのドライブはA社のSCSI接続のCD-R/RWドライブ。自作マシンに組み込んだドライブだ。またこのマシンにはB社のATAPI接続CD-R/RWドライブも接続されていたので、こちらでも試してみたが結果は同じであった。
続いて、このWindows Media Playerで演奏できるかという実験をほかにいくつかのマシンで試してみた。隣に置いてある同じく自作マシンにはA社の別のSCSI接続CD-RドライブとC社のATAPI接続のDVD-ROMドライブがある。これらで試してみてもあまり状況は変わらなかったが、C社のドライブでWindows Media Playerを起動させるとどうもトラックの表示状況が妙だ。
4曲目は表示されていないし、3曲目もトラック時間が0:00となっており、再生させようと思ってもうまくいかなかった。さらに、もう1台あるD社製のデスクトップマシンのCD-ROMドライブにセットしてみたところ、こちらはオーディオCDとして認識しないらしく、Windows Media Playerではまったく再生させることができなかった。
4曲目が表示されていない。また、3曲目もトラック時間が0:00になっている |
Macintoshではエラーが表示される |
ついでに、掲示板などで話題になっているMacintoshでも試してみた。ジャケットに貼られたシールには大きな字で「Macintoshではオーディオトラック・エクストラトラックともに再生できません」と表示されているのに、うまくできてしまうマシンがあるという。
手元にあるMacintoshはグレーのPowerMac G4 400MHzであるのだが、このDVD-ROMドライブにCDをセットしてみたところ、まずエラーが表示された。どうもCD-ROMとしてしっかり認識していないようだ。一旦「取り出し」をクリックしてみると、ドライブは開かず、デスクトップ上にオーディオCDのアイコンが表示されている。これをさらにダブルクリックすると、4つのトラックが表示されており、普通に各トラックを演奏することができてしまった。
ただし、各トラックとも頭から数秒経過したところで音飛びが生じた。それ以外の場所では生じなかったのだが、これがコピーコントロール機能による影響なのだろう。
ライティングソフトのバックアップ機能は正常に動作しない |
次に試してみたのが、CD-Rへのコピーだ。これがあっさりできてしまうと、あまり効果がないように思うのだが、試してみたのは「WinCDR」と「B's Recoder GOLD」のCDのバックアップ機能。すべてのドライブで試してみたわけではないが、単純にコピーすることはできなかった。データを読み込んでいる最中に、ハングアップしてしまったり、イメージデータの作成に妙に長い時間がかかるなど、普通のCDとは明らかに異なる動作をする。こうした点を見る限り、コピーコントロール機能も少しは本来の役に立っているようだ。
ここで気になったのが、Windows Media Playerで再生できたということは、リッピングができてしまうのではないかということ。結論からいえば、その予想は的中。Windows Media Playerでオーディオ再生できたドライブではリッピングは可能であった。
しかし、掲示板などでは、CDS200ではリッピング結果が毎回異なるという情報があった、そこで、efu氏のフリーウェアで、オーディオファイルを比較するためのツール「Wave Compare」を用いて比較してみたところ、何回やってもピッタリ合致した。しかし、試しに別のドライブでリッピングしたものと比較してみると、微妙に異なるのだ。やはり、コピーコントロール機能が影響しているのだろう。
リッピング結果を比較 |
別ドライブのりッピング結果と比較 |
では、ミニコンポで演奏した場合はどうなのだろうか? 先ほどの「CR-185」にはS/PDIFのオプティカル出力があるので、RMEのオーディオインターフェイス「Digi32」を用いてPCに吸い上げた。これも2回ほど同じ作業を繰り返したが、2回とも結果はまったく同じで1ビットの狂いもない。
そこで、これをドライブからリッピングしたデータと比較してみると、やはり微妙な違いが出てきた。どれが、制作者の意図する本来のデータなのかはわからないが、こうした結果を見る限り、ドライブによって多少の違いが出てくるようである。
最後にこうして取り込んだオーディオデータと、前述のWindows専用のプレーヤーで演奏した結果でどれだけ音質に違いがあるのか参考までにグラフで表示させてみた。当然の結果ではあるが、Windows専用プレーヤーでの演奏では22kHz以上の高音はカットされているし、8ビットという分解能であるため、音も荒くなる。やはり、あくまでもオマケの機能といったところ。
【オリジナル】 | 【専用プレーヤー】 |
---|---|
以上の実験から感じるのは、コピーコントロール機能を搭載したことは無意味ではないし、ジャケットに「このCDはコピーコントロールCDです。」と表示するなど、啓蒙効果というのはあるだろう。ただ、せっかくこうした機能を搭載したのであれば、もう少しプロテクトがきつくてもいいのではないかという印象を持った。
もちろん、あまりにもプロテクトが強くて、不便さがでてきては困るので、レコード会社としてもその駆け引きは難しいところなのかもしれない。今後、エイベックスに続くレコード会社が出てくるのか。またどの規格を採用するのか。しばらくその動向から目が離せない。
□エイベックスのホームページ
http://www.avex.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.avex.co.jp/ir/j_site/press/press020228.html
□コピーコントロールCDのQ&A
http://www.avexnet.or.jp/cccd/
□Midbar Techのホームページ(英文)
http://www.midbartech.com/
□Cactus Data Shieldの製品情報(英文)
http://www.midbartech.com/cactus.html
□関連記事
【3月18日】DAL【特別編】AVEXにコピーコントロールCDについて聞く
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020318/dal_a1.htm
【3月12日】AVEX、パソコンでリッピングできない音楽CDを国内で発売
―パソコンでの再生はエクストラトラックで対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020312/avex.htm
【2月28日】AVEXのリッピングできない音楽CDが販売開始
―RioVoltや、MP3対応CDウォークマンでは再生不可
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020228/avex.htm
(2002年3月19日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp