【バックナンバーインデックス】


“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第61回:周りはともかく中身は本物!
~ ストリーミング配信もできる業務用DVカメラ「GY-DV300」 ~


■ 「ビデオはビクター」の伝説再び

 今までElectric Zooma!では数々のAV機器メーカーの製品を扱ってきたわけだが、もう60回も超えたというのに、今まで一度もビクターの製品というのは扱っていない。いや別に筆者がビクター嫌いというわけではなく、いつも候補には上がるのだが単にタイミングの問題でそのチャンスがなかっただけなのである。

 ビデオ機器の話になると、いまだに「ビデオはビクター」という10ウン年前のキャッチフレーズを思い浮かべる人も少なくあるまい。だが、プロ機ではビクター製品というのはほとんど存在しないので、筆者はあんまりビクターの製品は使ったことがない。しかし業務用機ではVHS時代からカメラや編集機でかなり深く業界に食い込んでおり、ブライダル関係者の間ではビクター信仰は非常に根強いんだとか。

 今回は、3月27日発売となっているものの、普通の量販店ではまず見かけない業務ユースのDVカメラ「GY-DV300」を取り上げる。実はこのカメラ、昨年のInterBEEで参考出品された時に、一度モックを見ている。同社の業務用DVカメラの中ではコンパクトで、SONYでいえば「PD-150」相当の製品であるため、業務用でありながら一部のマニア層では購入対象として注目されているモデルだ。

 今回はさらに、カメラに装着してMPEG-4のリアルタイムエンコードが可能な、専用のネットワークパック「KA-DV300」も同時にお借りしてテストしてみた。


■ ボディはちょっとどーでしょうか

 まず円筒形が印象的なボディラインだが、ほとんどの広報写真が前面からのもので、スマートに見える。しかし背面から見ると、前面からの印象とは違ってかなりもっこりしている。というのも、前方から続く円筒形のデザインが後方まで踏襲されているため、後ろに行くほど円筒が太くなるのだ。このふくらみ部分はまあ無駄と言えば無駄なのであるが、角張っていないため、ちょっと変わったハンドリングの時にも持ちやすい、というぐあいに考えられなくもない。

正面からのアングルではスマートな印象だが 後ろから見るとかなりモッコリしている

全体的に樹脂製ボディだが、意外に重くバッテリなしで1.4kg

 ボディ全体の質感は、かなりプラスチッキーな印象。事実上のライバル機、SONY PD-150がマグネシウムダイカストボディで全体が金属質なのに対し、GY-DV300は外装に樹脂製パーツを多用している。正直言ってこれでメーカー希望小売価格398,000円とか言うのはどの口か! これかこの口が悪いのか!えいっえいっ!と問いつめたい感じがする。まあ冗談はともかく、業務用機として耐久性は大丈夫かとちょっと不安を感じる。

 加えてボタン類の耐久性も気になるところ。今回の貸出機固有のものだと思うが、いくつかボタンがへたっていた。もちろん、製品ではそんなことはないだろうが、業務用カメラであれば頻繁に輸送があって当然だし、ある程度ハードな使い方も想定されてしかるべきであると思う。

 カメラ底部に取り付けるネットワークパック「KA-DV300」の方も、ボディは完全に樹脂製である。もちろん堅牢性は十分テストの上なのであろうが、三脚の船を付けるねじ穴に至るまで一体形成。去年のInterBEEでモックを見たときは、「ああこれモックだからこんなプラスチックなのか」と思っていたのだが、まさか本当にそのまんま製品になってくるとは思ってなかったので、ちょっとびっくりである。

ネットワークパック「KA-DV300」のカメラ装着側 装着すると、ほぼカメラと一体となる

 バッテリパックは、推奨が「BN-V428」というもの。これは同社の民生機でも使用しているもので、GY-DV300で使用すると連続動作時間は約120分、KA-DV300使用時は約80分。現状の動作時間では、やはり不便を感じる。同社にはもっと大きなバッテリパックもあるのだが、それが使用できるのか現時点ではマニュアルやカタログにも明記されておらず、よくわからない。


■ でも撮るとスゴイんです!

 まあそんなボディばっかり心配していてもしょうがないので、実際に撮影に出てみる。

 被写体にカメラを向けてみると、まず撮れる絵の表現力に驚いた。いくつかのサンプルを静止画でご覧いただくが、これらはそれほど難しい設定をしたわけではない。単純にアイリスとシャッタースピードの組み合わせだけである。しかしそれだけで、見たいところのディテールが綺麗に出せる。通常、雲のような明るい被写体に対して階調を出すにはいろいろと小技が必要なものであるが、大した苦労もなく望んだ階調が得られる。

AUTOだとあっさりした色合いだが、ビビッドな発色にも調整できる 絞りのボケ足もなかなか綺麗だ
雲間の光線のディテールも良く出ている 時間は6時過ぎで、実際の現場はかなり暗い

 カメラ設定は細かいところまで指定可能で、KneeやBlackのCompress/Strechといったパラメータがあるが、すべてNormalのままでもなかなかの絵が撮れる。細かいところまで追い込んでいったらもっと的確な表現が可能だろう。これはもっと撮影専門の人が持ったらすごいカメラだ。

オートフォーカスの追従性もなかなか賢い
 またフォーカスリングが大きく、フォーカス送りがやりやすい。レンズ制御は機械式ではなくモーター式だが、ありがちなリングの「滑り」がほとんどなく、何度フォーカス送りをやっても同じ角度で決まる。このぐらいの精度があれば、モーター式も悪くないという印象を持った。

 次にズームだが、光学14倍ズームは、機能としてはいい。ただこのカメラの表現力からすると、もう少しWide端が欲しい感じだ。もちろんそれ以上を望むのであればワイコンを使うという手もあるが、GY-DV300用とされているワイコン「GL-V0752」は、民生機のGR-DV2000用として売られているものである。

 民生用16,000円のレンズがはたしてこのカメラのクオリティに付いてこれるのか、一抹の不安を覚える。いやもちろん使ってみたわけではないのでほんとにこの値段ですばらしいレンズなのかもしれないが、今まで生きてきてそんな夢のようなウマい話にはお目にかかったことがないので、そのあたりはオトナとしていろいろ判断していきたい。

Wide端での撮影。もう少し引いてほしいところだ そのままズームしてTele端

 マニュアルで使うのが前提のカメラではあるが、意外に表面に実装されているボタン類は少ない。IRIS、FOCUS、GAIN、SHUTTERという撮影ゴールデン4点セットともいうべき機能にはすぐにアクセスできるものの、液晶モニタの輝度やイヤホンレベルといったモニタ系にはメニュー経由でないとすぐにアクセスできない。しかしいったんメニューに入ればモニタ関係だけで2ページにものぼるパラメータがあり、徹底的にカスタマイズできるのはすごい。ただし、何が可能で今どうなっているか、状態をしっかり頭にたたき込んでおく必要があるだろう。

 そのほか編集用の機能としては、DVフォーマットでありながらテープスタート時のタイムコードが指定できるのはいい。意外にこんなことができない機器が多いのだ。このあたりは、DVCAMでもDVCProでもなく、純粋にDVフォーマットで業務用機を推進してきたビクターならではのこだわりと言えるだろう。


■ 簡単で面白いMPEG-4ストリーム

 では次にネットワークパック「KA-DV300」を試してみよう。カメラ下部に付けるユニット内には、MPEG-4のリアルタイムエンコーダが内蔵されている。後部にPCカードスロットがあり、ここにネットワークカードやCFカードをアダプタ経由で差し込んで、エンコードしたデータをLANで送信するなり、記録するなりする。

 MPEG-4エンコードは、DVテープへの録画とシンクロしてスタートストップすることもできるし、無関係に出力することもできる。カメラの生映像だけでなく、DVテープに記録した映像も出力することができる。このあたりはカメラとテープ、考え得るすべての組み合わせで出力が可能だ。

 パッケージにはソフトウェアも含まれており、ストリーミングを実現するスタンドアロンのソフトウェア「StreamProducer」のほか、ブラウザからカメラの各種機能をコントロールする各種ツール類がある。ソフトウェア群は動作環境がWindows 2000となっており、XPへの正式対応はまだのようだ。

 GY-DV300本体にユニットを装着すると、メニュー内から本機の名前やIPアドレスなどが設定できるようになる。LAN内にルータなどDHCPサーバーがある場合には、DHCPから取得するようにも設定できる。ただし、ストリームを受けるPC上では、カメラのIPアドレスを指定しなければならい。

4ストリームを自由にスイッチングして出力できるStreamProducer
 とりあえず筆者の家庭内LANに繋いでみた。StreamProducerを起動すると、ウインドウには同時に4つの入力ソース画面が表示される。そのうちの1つをカメラに接続してみると、IPアドレスを入力しただけで簡単に接続できた。「開始ボタン」を押すとストリームデータの入力が始まり、「配信ボタン」を押すとその画面がStreamProducerの出力として流れる。構造的には4つのソースをスイッチングして、ストリーミングを行なうことができるというわけである。4つのソースはカメラでもいいし、事前に取り込んだASFファイルでもいい。

 4ストリームでの推奨環境は、Pentium 4 2.2GHz以上、メモリ512MB以上だそうであるが、Pentium III 850MHz Dual、メモリ1GBといういささか変則的なマシンで、カメラ1つとASFファイル3つを同時に動かしてストリーミングしてみたところ、CPU負荷は50%程度で収まっていた。まあ家庭内だけでやってみただけなので、実際にネットに出すのとは状況が違うであろう。

 カメラからのストリーミングは、一応リアルタイムではあるものの、ディレイは相当ある。まずカメラ出力とStreamProducerの入力まででだいたい18秒ぐらい、StreamProducerの入力と出力の間で6秒ぐらいディレイする。トータルで24秒、しかもこのタイムラグは状況によってまちまちだ。時報ちょうどに始めるといった放送ライクなことは、手動でも難しいだろう。

 ストリーミング品質は、いろいろな組み合わせで可能だ。表でまとめてみた。また品質に関しては、最高・最低画質と思われる組み合わせで2つサンプルを作ってみたので、参考にして頂きたい。

【品質設定値】
画像サイズ 352×288、176×144Pixel
ビデオ転送レート 384/256/128/64/32kbps
オーディオ転送レート OFF、16/32kbps
フレームレート 4/7/15/30fps
(画面サイズ352×288Pixelの際は30fpsは不可)

【MPEG-4サンプル動画ダウンロード】
 
最高画質
最低画質
ビットレート ビデオ 384kbps 32kbps
オーディオ 32kbps
フレームレート 15fps 30fps
サンプル動画
解像度
352×288ドット
176×288ドット
ファイル容量
約2.8MB
約790KB

MPEG-4の再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載したMPEG-4画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

WEBによるカメラコントロールの一部。面白い機能だ
 もう1つのソフトウェア群、WEBブラウザによるカメラコントロールは、最近ビクター製品としても監視カメラなどの分野で応用されている技術。今年4月のNABでは、雲台部分がモーターで回転する定点カメラをブラウザで制御するというデモンストレーションを行なっていた。

 GY-DV300に対しては、VTR部のデッキコントロール、MPEG-4エンコード設定、アイリスやズームといったベーシックなカメラ制御が行なえる。DV経由のコントロールと違ってLAN経由なので、リニアなレスポンスが得られるわけではないが、長距離の遠隔操作には有効だろう。

 さらにワイヤレスLANとノートパソコンを使用すれば、屋外での設置も飛躍的に簡単になる。カメラのネットワーク制御は、これから伸びるであろうと期待される分野だ。またこちらのソフトウェアだけでも、MPEG-4画像の表示や録画は可能。


■ 総論

 製品というのは、やはり実物を手にしてみなければわからないことが沢山ある。見ると聞くとは大違いというが、GY-DV300は写真やカタログスペックで見るのと、実際に使ってみるとでは大違い。いい意味を含めて、いろいろな意味で問題作といってもいいカメラだろう。

 まず最初にも書いたように、業務用カメラとしてはボディの作りは頼りなく、ハードな使い方をするのはちょっと怖い。また高級感も大して感じない。おそらく店先でディスプレイしても、その値段とサイズから手に取る人はいるだろうが、ボディをポコポコ叩いて「なんじゃこりゃ」で終わってしまうかもしれない。

 ところが実際に撮ってみると、中身はすげえいいのである。撮れる絵のキレや階調表現は申し分ない。また徹底的に設定をカスタマイズして、じっくり被写体に挑むことができる。民生機で業務/プロでも使えるというカメラはいくつかあるが、さすがに最初から業務用をうたっているだけあって、実にいじりがいのあるカメラである。ただこのカメラの潜在能力を引き出すには、CCUが使えて、パラメータによる変更結果を波形として頭の中で描けるぐらいの知識はいるのではないだろうか。

 ネットワークパック「KA-DV300」は、これでこれは機能としては面白いが、現状ではストリーミングは未だビジネスモデルとして成立できずにいる。また、ほとんどのコンテンツは編集したものがベースであり、リアルタイム性が重視されるイベントの中継などでは、商業ベースの事業としては問題が多い。

 しかし逆に考えてみれば、市販のIPカメラみたいなものは、商業ベースで語るにはお粗末なレベルのものがほとんど。そういう意味ではこのGY-DV300のセットは、お金を取ってストリームしておかしくないレベルの製品であるという見方もできる。課題があるとすれば、StreamProducerのブラッシュアップであろう。現状では素材を切り換えてもすぐには変わらないし、間に1秒ほどのブランクが空く。

 そんな意味でネットワークパックも含め、GY-DV300はやはり業界における問題作ということになる。あるいはこれをたたき台にして、売り上げが頭打ちと言われるDVカメラに対する新たな議論が沸騰したり、金にならんと言われるストリーミングの考え方がリセットされるのであれば、ビクターのもくろみは成功したと言えるのかもしれない。

□ビクターのホームページ
http://www.jvc-victor.co.jp/
□製品情報
http://www.jvc-victor.co.jp/pro/dv300/index.html
□関連記事
【3月22日】ビクター、MPEG-4エンコードや無線送信が可能な業務用DVカメラ
―CFカードへの保存やインターネットへの再配信が可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020322/victor.htm

 

(2002年5月29日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2002 impress corporation All rights reserved.