【バックナンバーインデックス】


“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第60回:あらゆる放送が録画可能なPanasonic NV-HVH1
~ VHSとHDDの二刀流ははたして便利なのか? ~


■ お買い得感のあるハイブリッド

 先日、仕事部屋で使っているVHSデッキが壊れてしまったので、新しいものを購入した。なんで今さらVHSを、と思われるかもしれないが、映像の仕事をしていると、ちょっとした映像資料や完成品の試写用としてVHSデッキは未だ必需品なのである。

 最近VHSデッキを新たに買ったという人は、そう多くはないかもしれない。こういう家電はなかなか壊れないものだ。筆者もかれこれ5年ぶりぐらいに新型VHSデッキを買ってみたのだが、これはこれなりにきちんと進化していて驚いた。CMカットはちゃんと動作するし、時短プレイやTBC、ノイズリダクションなど、HDDレコーダとはまた違った便利さを提供してくれる。これらの機能は、アナログのテープメディアであるというデメリットをカバーするものだ。

 そんな侮れないことになってきているVHSデッキだが、映像のデジタル化が家電業界に到来して以来密かに人気を集めているのが、このVHSと別のメディアが一体となった、いわゆるハイブリッド製品である。VHS+CD/DVDプレーヤー、VHS+HDDレコーダといったハイブリッド製品は、以前から度々紹介しているDVD-RAM+HDDのハイブリッド製品よりも、もっと身近な存在として市場に受け入れられている。

 この分野で積極的なのはビクターであり、早くからハイブリッド製品を手がけてきた。一方で、最近レコーダ分野でなかなか調子がいいパナソニックからも、40GBのHDDを内蔵したHi-Fi VHSレコーダ「NV-HVH1」が6月上旬に発売される。今回はその試作モデルをいち早くお借りすることができたので、さっそくその性能をチェックしてみよう。もちろんまだ試作モデルであるため、最終的な製品とは仕様が異なる可能性もあることをあらかじめご了承頂きたい。


■ コストダウンに徹した設計

フロントパネルは上と下で雰囲気が違う
 まずはハードウェア的な面から見てみよう。NV-HVH1のフロントパネルは、ボタン類の配置などから見て、すでに同社から発売になっているVHS+CD/DVDのハイブリッド機「NV-VHD1」と同一パーツを使用しているようだ。NV-VHD1のDVDドライブ部に、ブランクとしてアクリルのパネルがはめ込まれている以外は、大きな違いは見られない。下部は最近のパナソニック得意のミラー貼りとなっており高級感を演出しようとしているが、上部のシルバーの部材のせいで若干ちぐはぐな印象を受ける。

 もちろんNV-VHD1とは機能が全然違うので、背面の端子類はかなり違っている。NV-HVH1にはアナログBSチューナも搭載しているため、それ用アンテナ端子とデコーダへのループスルーなどがある。アナログBSチューナは、録画系を2つ持つというメリットを生かすため付けられたと考えられる。

NV-HVH1の背面端子。このほか前面にもライン入力が1系統ある
 アナログラインは入力2系統、出力2系統。ビデオはコンポジットのみでS端子はない。放送の入力としてはそのほかに、外部デジタルBSチューナからの映像も録れるよう、i.LINK端子を装備している。この場合、背面のアナログ入力は、デジタルBSチューナからのアナログ出力を受けるために使用される。

 動作音に関してだが、VHS部分は完全にメカなので、それ相応に音が出る。HDD自体の動作音はあまり気にならないが、一番大きいのは背面ファンのノイズだ。電源が入っているときは、デスクトップPCの電源部ぐらいの音はする。以前レポートした同社の「DMR-HS1」がほとんど無音で動作したことを思うと、やはり高級機と普及機の差を感じる。

 それにしてもビデオ入出力にS端子がないのは惜しい。VHSはS-VHSではないので、そちらの能力から考えればS出力の必然性はない。しかしHDD録画はS出力に耐えうるクオリティはあると思われる。やはりそのあたりも、コストダウンに伴う判断であろう。

Line1入力は、BSデジタルチューナとの組み合わせに関係する
 ここでちょっと入力について整理しておこう。入力ソースとしては内蔵の地上波、アナログBSと、アナログライン2つ、BSデジタル(i.LINK経由)の4種類がある。NV-HVH1では、録画系2つに対して別々の入力を割り当てることができる。例えばVHSで地上波を録って、HDDでアナログBSを録るといったことだ。また同じチャンネルをVHSとHDD両方に録画することもできる。しかしVHSで地上波の8ch、HDDで地上波の10chを録画と言うことはできない。これはチューナユニットからは1つのチャンネル出力しか得られないからだ。

 またBSデジタルチューナを接続した場合は、i.LINK経由でデジタル録画できるのはHDDだけ。この場合、NV-HVH1はデジタルチューナからD-VHSとして認識される。本体の設定でBSデジタルからの入力をアナログに変更すれば、単にライン入力と同じ扱いになるのでVHSでも録れるが、この方法はあまりメリットがあるとは言えない。


■ HDD録画の画質は上々

【記録時間とビットレート】
モードビットレート録画時間
HD(i.LINK)24Mbps約3時間
SD(i.LINK)12Mbps約6時間
XP12Mbps(CBR)約6時間
SP6Mbps(VBR)約13時間
LP4Mbps(VBR)約20時間
EP2Mbps(VBR)約40時間
 では実際にいろいろ録画してみよう。VHSの画質に関しては、特にここで言及する必要もないだろう。多くの関心はHDD記録のクオリティではないかと思われる。一応ビットレートなどを表にまとめておこう。

 あまり参考にはならないかもしれないが、本機ではMPEG記録したものをデジタル的に取り出す手段がないので、コンポジットビデオ出力からキャプチャした静止画を掲載しておく。

 TVチューナの性能評価を同時にするため、RF入力からの録画を行なった。

 素材にはカノープス株式会社の、プロ向け高画質動画素材集「CREATIVECAST Professional」をDVテープに書き出して使用した。

 そのDVテープをDVデッキ「ソニー WV-DR5」で再生し、内蔵のRFコンバータで2chのTV信号として出力。それを録画し、コンポジット映像端子経由でPCで静止画キャプチャした。

 下の各サムネイルは、上の画像の赤枠内を拡大したもの。各画像をクリックすると640×480ドット(JPEG)による全体表示を行なう。

【XPモード】
12Mbps
【SPモード】
6Mbps
【LPモード】
4Mbps
【EPモード】
2Mbps
【XPモード】
【SPモード】
【LPモード】
【EPモード】
【XPモード】
【SPモード】
【LPモード】
【EPモード】

 画質の印象としては、LPモードでも番組視聴にはそれほど差し支えないと感じた。というのも本機にはコンポジット出力しかないので、そんなに解像度の細かいところまでよくわかんないのである。もちろんSP、XPモードになるほど、映像の動きに対する追従性などはアップする。しかし今となっては少なく感じる40GBのHDDで、しかも簡単にHDDが増設できないクローズドな家電であることを考えれば、ユーザーはそこそこの画質で沢山録れるLPモードにメリットを感じることだろう。

設定メニューは機能別に整理されているため、それほど煩雑には感じない HDD録画済みのファイルは、「プログラムナビ」で選択する

 予約システムは、リモコンによるGコードと手動入力のみで、EPGの受信機能はない。BSデジタルでは、チューナ側にEPGによる録画予約機能があるが、この予約情報がNV-HVH1と連動できるかは、メーカー間の相性問題になる。このあたりはリモコンのプロトコルなどもそうだが、そろそろグローバルスタンダードな規格が必要だろう。


■ BSデジタル録画を試す

 続いてBSデジタル録画を試してみよう。この製品と合わせてBSデジタルチューナの導入を考えている方もいらっしゃると思うので、組み合わせなどについて簡単に説明しておこう。

 現在マンションなどの共同アンテナからアナログBS回線が来ているのであれば、そこにBSデジタルチューナを繋ぐだけでBSデジタルは受信できる。テレビへは、チューナから出ているD端子(コンポーネント、S映像、コンポジットでも可)を使って接続することになる。

 NV-HVH1とチューナは、i.LINK端子で接続する(モニタ用としてアナログ出力も結線しておく)。このi.LINKには、BSデジタルチューナで選局した番組のMPEG-2トランスポートストリーム(TS)が出力される。NV-HVH1のHDDは、それを単なるデータとして記録するだけだ。またi.LINKには、録画機の動作を制御するためのプロトコルも含まれている。つまりチューナのリモコンを使って、NV-HVH1の再生や早送りといったコントロールが可能になる。

録画時の信号の流れ。映像はデジタルチューナ出力をモニタする 再生時の信号の流れ。映像はデジタルチューナ経由でモニタする

 NV-HVH1には、このBSデジタルのストリームを映像信号に変換する機能はない。したがって再生時には、今度は録画機からチューナへi.LINKケーブルを通じてデータが送られ、チューナで映像がデコードされて、チューナの映像出力をテレビで見ることになる。現在HDTVが録画できる機器にはD-VHSとHDDレコーダの2種類があるが、基本的な結線方法はどれも同じだ。大変ややこしいが、デジタル録画の場合、レコーダはチューナの外部記録機器として動作すると考えればわかりやすいだろう。

 今回、東芝の「TT-D2000」というデジタルチューナと組み合わせてテストしているが、マニュアルでの録画はできるものの、チューナ側でのEPG予約との連動は動作しなかった。もっとも現状のNV-HVH1は試作機なので、製品版では修正されている可能性はある。

 しかし、こうしてHDTVが録画できるのはいいが、40GBのHDDでは3時間しか録れないのはちょっと物足りない。BSデジタルのメインコンテンツは、映画にしろスポーツにしろ、長尺のものが多い。これらのHDTV放送を録ろうと思ったら、1、2本しか録れないことになる。見たらすぐ消していくといった、マメな使い方をしていくことになるだろう。


■ 総論

 今の映像関連機器を一同に集めると、もう大変なことになる。まずテレビが中心にあり、そこにVHS、DVDプレーヤー、BSデジタルチューナがあればHDDレコーダやD-VHSも繋ぐだろうし、下手すればゲーム機などもぶら下がってくる。映像の結線だけでも大変だが、ここにAVアンプが入ってきてそれサラウンドだという話になってくると、結線は素で泣けてくるほど面倒だ。

 また見る場合も大変だ。テレビの入力はコレに切り換えてアンプはコレ、チューナはi.LINK入力にして、えーとプレーヤーのリモコンはどこいった、と言った具合に、もう結線した人以外誰も操作がわからないようなセットアップになってしまいがち。

 そんなAV家電を少しでもまとめてすっきりさせようという考え方は、方向性としては悪くない。例えば上記のような複雑怪奇なセットを前にして、じゃあ今すぐHDDからVHSにダビングお願いネ急いでるからヨロシク! などと言われたらもーその場で舌噛んで死んでやろうかと思いたくなる。しかしNV-HVH1なら、少なくともHDDとVHS間のダビングは本体だけでボタン一発で可能だ。もっともそんな用途が頻繁にあるかどうかは別だが。

付属のリモコン。機能は豊富だが、わかりやすいとは言えない
 このようにNV-HVH1はハイブリッド機ならではの良さもあるが、逆に1台になってるゆえの煩雑さも発生する。1台のリモコンでVHSとHDD、さらにはそれがスイッチの切り替えでテレビのリモコンにもなりBSデジタルチューナのリモコンにもなる。モード切り換えを忘れて全然別の動作になったり動作しなかったりと、正直言って今回のテストでは、そのあたりのリモコン操作にかなり振り回された。

 とりあえず1台でいろいろできるぞ、という性質がうまく使う人のツボにハマるのであれば、NV-HVH1は悪くない。ターゲット層としてはハイエンドユーザーではなく、ミドルレンジユーザーということになるだろう。デジタルBSを組み合わせないのであれば、操作も簡単なので、HDD録画入門機としてもいい。将来的なことを考えても、少なくとも完成された記録メディアであるVHSは、当分はお役ご免になることはない。メディアとしての行く先が不透明なDVD系で勝負するよりも、もう少し堅いところを狙っている人にとっては安心感がある組み合わせだろう。

 またNV-HVH1は、ケータイからのリモート操作を可能にするユニット、ITアダプタ「VW-NET1」にも対応する。まあITアダプタ自体の価格もこれってどーでしょうってな面もあるが、それでも製品のヒキとなるだろう。

 ちなみにNV-HVH1はオープン価格であるが、すでに価格.comあたりでは7万円台で予約を受け付けている店も出始めているようだ。デジタルBSと繋がるHDDレコーダとして見ても、なかなかこなれた値段である。過渡期とも言える既存放送のすべてが録画できる機器として、実に「今だから」な製品であると言えよう。


□松下電器のホームページ
http://www.matsushita.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.matsushita.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn020415-1/jn020415-1.html
□関連記事
【4月15日】松下、BSデジタルも録画できるHDD一体型VHSデッキ
―i.LINKを搭載、HDD/VHSへの2番組同時録画も可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020415/pana1.htm

(2002年5月22日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2002 impress corporation All rights reserved.