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第37回:曇りない歌声が胸に響く
「THE TOUR OF MISIA 2002」

 怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


「THE TOUR OF MISIA 2002」

(c)Rhythmedia/AVEX
価格:5,800円
発売日:2002年3月27日
品番:RXBD-21003
仕様:片面2層
収録時間:107分+14分(映像特典)
画面サイズ:16:9(スクイーズ)
音声:1.PCMステレオ
    2.ドルビーデジタル 5.1ch
映像特典:1.CNM WORLD NEWS REPORT!?
      2.「果てなく続くストーリー」PV
発売元:Rmt

  まず驚いたのは、これは本当にあのマイクで拾った歌声なのか、ということだった。オープニング曲は、DremsComeTrueとのコラボレーションで話題となった「I miss you ~時を越えて~」の特別バージョン。ステージ中央のせり台から現われたMISIAの第一声が、完璧過ぎるほどリニアに立ち上がってくる。録音バランスも素晴らしく、切れのある低音や空を突き抜けるほどの鮮明な高音域に度肝を抜かれ、思わず音声設定をPCMに切り替えた。そして、愛用のリファレンスヘッドフォン「MDR-CD900ST」を接続し、じっくり鑑賞することにした。

 今更MISIAについて、その歌唱力や表現力に惜しみない評価をしてみても仕方がないことはわかっている。技術だけでなく、ハートで表現できるシンガーだということも言い尽くされてきた。'98年にデビューし、R&Bというジャンルを日本に根付かせた立役者でもある。そういえば私も1枚だけMISIAのCDを持っている。1stアルバム「Mother Father Brother Sister」だ。当時の印象は、本格的なボイストレーニングを受けたハーフの天才少女が、周到に準備されてデビューしたんだな、という感じだった。メディアの露出が少なかったこともあり、本当は純日本育ちで、デビューのきっかけがオーディションということを知ったのは、それからだいぶ後のことである。

 このDVDには、2001年12月23、24日に行なわれた、さいたまスーパーアリーナでのコンサート模様が収められている。ライブ映像全16曲に加え、特典映像としてニュースパロディ「CNM WORLD NEWS REPORT!?」と「果てなく続くストーリー」のPVも収録。デビューから約4年という歳月を経たMISIA。いったいどんなステージを見せてくれるのだろうか。


■ 期待を遥かに上回るパフォーマンス

 オープニングからダンサブルなオリジナルメドレーが始まる。「I miss you ~時を越えて~」に続き、少し懐かしめの「sweetness」や「忘れない日々」を、Remixを想起させるアレンジで間髪入れずに披露。すごい迫力で、まるでダンスフロアのような活気に包まれる。エッジの効いたバスドラなどもあり、一気にテンションが高まる。ただ完成度を追求してか、この部分の演奏は完パケを使っていたようだ。

 その後会場はブラックアウトし、さっきまでの余韻をクールダウンするように、幻想的なブルーの世界に包まれる。時空間を移動するかのようなアトラクション的演出だ。そして、生演奏のパーカッションが心地よく響くメロウなR&Bに乗って、ASIANな衣装にチェンジしたMISIAが再登場。広大なアリーナのステージが琥珀色にライトアップされ、とてもリラックスした雰囲気の中で第2幕が始まる。やはりライブのいいところは、ミュージシャンと歌手が同じ時間軸で演奏できる点にあるだろう。バックバンドのノリと歌のノリがピッタリ嵌まっていて、とても気持ちいい。

 それにしてもMISIAのライブパフォーマンスは通念を打ち破るものがある。どんな実力者でも、ライブでは音程がブレたり声量が不安定になることがあり、その部分が癖となって繰り返し聴くと気になってしまうものである。しかしMISIAの場合、昔のアルバムやシングルCDを聴くより、むしろこのDVDで聴いた方がいい曲に聴こえてくるのである。それだけ更なる表現力を身に付けたということなのだろう。'99年のシングル「Believe」は、情感豊かで特に印象深かった。また、声質による部分も大きいが、歌詞が非常に聴き取りやすいのも特筆すべき点だろう。最近は、曲はいいけど何を言っているのかわからない歌手も多いだけに、MISIAの歌詞を大切にする姿勢には好感が持てる。

 一方、ステージは後半に差し掛かり、再度衣装チェンジしたMISIAが現われる。グッとシリアスなナンバーを歌い上げ、引き寄せられるように歌の世界に入り込んだまま、次から次へと曲が流れていく。実際、MCはメンバー紹介ぐらいしか収録されていないため、コンサートならではの対話感は薄めだ。それでも、集中して歌を聴くにはいいかもしれない。

 そしていよいよ名曲「Everything」の美しいリードが流れてくる。実は私がこのDVDを買ったきっかけは、この曲を生で聴いてみたいという単純な欲求からであった。DVDのクオリティならきっとそれに近い体験ができると思ったのである。やはり思ったとおり、その素晴らしさは疑う余地もなかった。バラードでありながら、非常にエモーショナルなボーカルが溢れんばかりの優しさでつつみ込んでくれる。しかし、クライマックスはそれだけではなかった。


■ DVDでもう一度聴いて欲しい「果てなく続くストーリー」

 この曲は2002年冬季ソルトレークシティー五輪で、NHKのテーマソングになり、多くの人が耳にしたことだろう。「Everything」から約1年ぶりの本格的バラードである。私の第一印象を率直に述べるなら、まず歌の冒頭「夜の露を払って 花は咲いていくもの」という表現の美しさにハッとした。しかし、タイトルや曲調がどこか五輪の全てを美化しているように思え、少し好きになれなかったのも事実である。実際この大会では審判員に不正疑惑が持ち上がったり、日本勢が奮わなかったりと、盛り上がりに欠ける面があったことも否めない。情景豊かな「Everything」に比べると、少し漠然とした感もあり、私のようにBGMとして通り過ぎてしまった人も意外に多いのではないだろうか。

 だが、改めてこのDVDで聴いたとき、その印象が全くの決め付けでしかないことに気付いた。あまりにも映像の印象が強かったりすると、曲を目や頭で聴いてしまうため、創造力が欠如するのだ。この曲は五輪を美化するために作られた曲などではなく、MISIA自身の五輪への想い、あるいはそれを超越した命の営みのようなものをシンプルに綴った作品だったのだ。これは私の勝手な解釈に過ぎないのかもしれない。しかし、歌う彼女を見ながら静かに聴き入ったとき、言葉では言い表せない力のようなものを感じ取ることができたのだ。

 最高潮に盛り上がった曲の後半、ピンと張った糸が音も無く切れるように涙が溢れてきた。本当に突然のことで、自分自身何がどうしたのかわからず戸惑ってしまったほどだ。普通に歌を聴いて感極まることなど滅多にないだけに、今回はちょっとショックを受けてしまった。それっぽい分析をさせて頂くなら、何かが言葉を超えた瞬間、だったのかもしれない。


■ 努力することの偉大さを実感

 それでもDVDは進行し、まだ心の整理もつかないままあたふたする私を尻目に、ダンストラック「Rhythm Reflection」へと突入する。バックダンサーを従えたMISIAが登場し、会場の熱気が再びピークに達する。音が爽快に弾け、躍動感に満ちたダンスを披露しながら「Change for good」を、ハイトーンなボーカルが胸を透くように貫いていく「INTO THE LIGHT」へとたたみかける。さすがに踊りながら歌うのは疲れると見えて、ほんの少しだけ息が辛そうな部分を見つけると、MISIAも人の子なんだなと安心する。そしてラストはある意味彼女の原点だと思う「THE GLORY DAY」を熱唱。大きな興奮と小さなショックを残して、我が家でのプライベートコンサートは幕を下ろした。

 このDVDでは、自信と余裕を身に付けて、デビュー当時より一回り大きくなったMISIAを見ることができる。また、どんなに絶賛されても更に上を目指して努力する姿に感銘を受けた。私などは、小学校で辞めたピアノのレッスンを続けていれば、今頃あのバックバンドでミラクルな鍵盤裁きを披露していたかもしれないなと、飛躍した妄想に慰めてもらうばかりだ。せめてこのDVDを勧めることで、少しでも多くの人がMISIAの歌の素晴らしさに触れることを願う。感じる心を失いかけている人、近頃の若者は……と嘆いているご年配諸氏、歌手を目指す子供たちなどにもお勧めである。

 1つ言い忘れたが、このDVDにはステージ衣装の一部をシュリンクしたというプレミアムカードが、500枚限定で入っているそうだ。発売から2ヵ月も経っているのに今更、と思いながらも、棚に置いてあった2本を前に3分悩んだことは黙っておこうか。

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(2002年6月7日)

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